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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
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10-42 試練の時9

「バローセンセ、ニゲテ、ニゲテ!!!」


「お、落ち着けアルト、片言になってんぞ!!」


肩の上で必死にバローの頭を揺さぶるアルトをバローは宥めたが、アルトはよほど恐怖を感じたのかバローの頭を抱え込んで離さなかった。多分、身の毛のよだつような想像をしているのだろう。


だが、そんなアルトにデメトリウスは顔の前で手を振ってみせる。


「ハハハ、心配しなくても大丈夫だよ。私は単に美しい物が好きなのさ。変な実験に君を使ったりしないよ? ただ、ずっーーーーーーーーーーっと、死ぬまで側に居てくれればそれでいいからさ!」


「いいい嫌です!!!」


「まあ、アルトクンの意見なんて関係無いんだけどね。先の見えない放浪生活も君と二人なら楽しめそうだ」


「まあ、お爺様ったら熱烈ですわ」


何故か地面にしゃがみ込んでいるクリスティーナが微笑ましそうに笑うのを見て、話を聞かないのはどうやら始祖譲りらしいとハリハリは戦慄した。ザルバドールも厄介な血筋を残してくれたものである。


「ハリハリ、あの魔物の知識はあるか?」


「ユウ殿は動じませんね……」


そんな中でも平常運転の悠も大概だとハリハリは呆れたが、混乱した思考が落ち着いたのはありがたい事だ。


「ワタクシが知るのはエルダーリッチまでですが、その上位種と考えればこちらも打撃や斬撃は一切無効、火と光以外の全属性無効を持っていると推測されます。弱点である火や光も効くかどうか……」


「そんな所だろうな。『火竜ノ槍クリムゾンスピア』も通るか分からん。が、弟子のアルトが奮戦したというのに師である俺が尻込みは出来まい。後は戦いながら探るとしよう」


今の悠は大幅に能力を制限された状態である。『竜騎士』化はもちろん、レイラの協力無しでは殆どの竜気を用いる能力も使う事は出来ない。エルダーリッチより上という事は、デメトリウスの魔物としてのランクはⅨ(ナインス)以上は確実で、悠であっても必勝を約束出来る相手では無いはずだ。


負ければ死、加えてアルトは慰み物、世界は救えず帰還も叶わなくなる。悠が背負うものを考えればそのプレッシャーは事情を知っているハリハリですら想像を絶する巨大なものである。


そのはずなのに……。


「……ユウ殿は動じませんね……」


先ほどとは異なるニュアンスでハリハリが呟く。


「ユウ殿が物怖じしないのは理解しています。が、相手はとんでもない未知の怪物なんです、殺されるかもしれませんよ!?」


「そうだな、殺されるかもしれんな」


ハリハリの心配を、悠はあっさりと肯定した。肯定してなお、その顔に感情が浮かぶ事は無かった。


「ハリハリ、戦闘者では無いお前には分からんかもしれんが、相手が強いか弱いかなど関係無い事だ。相手がゴブリンだから戦う、ドラゴンだから戦わないという思考は合理的に見えてその実、既に相手を舐めている。人間を殺すのにドラゴンのブレスなんぞ要らん、錆びて腐った刃でも、それを埋め込まれただけで人は死ぬのだからな。確実に勝てる相手だけを選んでいると、その内誰とも戦えなくなるぞ」


極限の戦場に身を置いてきた悠には相手を舐めるという発想が微塵も存在しない。挑発で見下した発言をする事はあるが、それは相手の心理を単純化し掌握する為であって舐めている訳ではない。


だから悠はどんな相手と戦う時でも油断はしない。一見弱く見えても、逆に強く見えても、等しく自分を殺せる刃を持つ者として扱うのである。


「ワタクシには分かりませんよ……」


「お前は参謀だ、無闇にその手の思考に染まる必要は無い。だが、ああいう手合いは交渉で追い詰めると厄介だ。定められた枠の中で納得させた方がいい」


相手が魔物である点を問題視して有耶無耶にする事は出来るかもしれないが、そうなると禍根を残すと悠は考えていた。民衆の中にもまだまだ悠達を認められない者達は大勢居るだろう。しかし、ここで誰も見た事も無いほどの強敵と渡り合い勝ちを収めれば表立って悠達に絡んでくる者はぐっと減るはずである。


「成功した時の効果は認めます。エルダーリッチですら『六将』を凌駕するであろう難敵ですから。ですが、天秤の片方には世界の命運が乗っているのです。賭けるには大き過ぎませんか?」


「俺に賭けるのは不安か?」


悠の問いにハリハリの眉が下がる。


「そういう聞き方はズルいですよ……」


「済まん。だが、俺も負ける気は無いぞ。ここは一つ、いつものように信じてくれんかな?」


「ワタクシがユウ殿を信じなかった事などありませんよ。…………ハァ、分かりました、デメトリウス殿の相手は任せます。一応国家の功臣ですから殺さない方がいいかもしれませんが」


「状況によるが留意する」


結局、ハリハリに悠の頼みを断る事は出来なかった。未知の敵に過敏になっていても、悠への信頼はそれを上回るのだ。


「ユウ殿、一つアドバイスを。相手はかなりの腕力自慢のようですが、主戦力は間違い無く魔法です。撃ち合いはお勧めしません」


「心得ている」


ハリハリに頷き、悠はミルヒに向き直って足元の袋から自分の装備を取り出した。


「お前達もここから離れろ。巻き添えを食うし、デメトリウスは命乞いに耳を貸さんだろう」


「か、勝てると思っているのか!? エルダーリッチより上など、伝説級の怪物だぞ!!!」


「約束があるからな」


「約束?」


ミルヒの隣に居たロメロは苛立たしげに悠に食ってかかったが、悠はロメロを差して答えた。


「勝って、お前の家で飯を食う約束だ。忘れたのか?」


「め、飯ぃ!?」


何を言っているのか分からないという表情のロメロだったが、悠が冗談を言っているのでは無いと分かると頭を抱えた。


「お前はどういう思考をしているのだ……」


「兄さん、こういう時にどうすればいいのか私は知っていますよ」


理解不能な悠のあり方に苦しむロメロの隣でミルヒは悠に笑いかけた。


「ご武運をお祈りしております。是非とも無事にお戻り下さい」


戦場に赴く者は笑顔で送り出す。それはミルヒがバローに聞いた作法であった。


「痛み入る。絶対にここに近寄るなよ」


「はい、存分に」


「……ミルヒが人族の奇習に染まってしまった……」


呆然と呻くロメロを引っ張りミルヒが立ち去ると、バロー達も悠の下に集った。


「ユウ、俺はお前の心配なんてムダでマヌケな事はしねぇぜ。サッサと勝って来いや」


「髭と同意見なのは遺憾なれど、拙者もそう信じております。師を舐める輩には鉄槌をくれてやるべきかと」


「中々血沸き肉躍る場面じゃないか。そういう所で出番が回って来るのはユウの宿命かもしれないな。鼓動を止めたこの身だが、熱い戦いを期待しているよ」


悠の言葉を投げかけて去っていくバロー達に悠は頷き、まだバローの肩車の上に居たアルトは首だけで振り返って悠に叫んだ。


「ユウ先生、僕は勝ちました!! だからユウ先生も……!」


「安心しろアルト、俺は……」


アルトの言葉を受け、悠がデメトリウスに視線を合わせて言い放つ。


「誰にも負けん」


「私の真の姿を見てその言葉を吐ける胆力だけは認めるよ。しかし、それが遺言ならちょっと笑えるがね」


両者が互いに歩み寄り、至近距離まで近付いて睨み合うとデメトリウスが再び口を開く。




「殺してあげよう、ユウ。私に手加減などは期待しないでくれたまえ」


「殺さないように気を付けてやろう、デメトリウス。加減するから死ぬなよ」




威圧するデメトリウスと挑発する悠の間でぶつかり合う殺気の渦が練兵場を席巻する。軍と軍が対峙した時よりも濃密なそれは練兵場を本物の戦場へと塗り替えた。


《……コホン、本来であれば少し時間を置いてから始めるはずでしたが、どうやらお2人とも準備は出来ていらっしゃるようですので始めさせて頂きたいと思います。結果がどうあれ、これはエルフィンシードの歴史に長く刻み込まれる事になるでしょう。それでは……戦闘開始!》


クリスティーナの宣言の直後、練兵場に鈍い音が響き渡った。

クリスティーナがコソコソ何をやっていたかというと、『千変万化』の生きている部分の回収です。全体に均一に電流を流せた訳では無いので継戦能力は失ってますが多少生き残っているのです。


と、書いておかないとクリスティーナが罠でも仕掛けてるんじゃないかと思われそうだったので、一応の補足です。

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