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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
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10-38 試練の時5

「完全服従の魔法生物だと!? 一体どうやって……!」


「さぁ……私は作るお手伝いをしただけですから。それにまだ完成した訳じゃないんですの」


ナターリアの質問に可愛らしく顎に指を添えてクリスティーナは答えたが、これはその程度で流されていい状況では有り得なかった。


魔法生物や人造生命の研究においてエルフは他の種族の追随を許さないが、そのエルフにしても未だ小動物程度の生命を使役するのが精一杯であるというのが一般に流布する常識である。知能も力も低く、実用化にはまだまだ長い年月がかかるだろうと推測されていた。


ギルザードの説明に苦慮する点はまさにそこに尽きるが、ハリハリが召喚したという事で誤魔化しているだけだ。現代エルフを遥かに凌駕するという思い込みを利用しているに過ぎないのである。


では『千変万化シェイプシフター』はどうか?


サイズが規格外なのは言うまでもないが、あの巨体でありながら攻撃速度は鈍重では無く、対象だけに攻撃を集中する服従性は現代の最先端技術でも説明がつかない。こんな物が一般的に出回っていれば、エルフが窮地に陥るどころかドワーフの本国に攻め入る事すら出来たであろう。


ナターリアは入り口の壁にもたれかかっている人物を鋭く睨み付けた。


「……あの男が『千変万化』を創ったのか?」


「はい。運と偶然が絡み合った結果だと仰っていましたけど……」


「何者だ?」


「……」


腹の探り合いなどするつもりもないナターリアの問いであったが、クリスティーナは少し眉を困らせただけで微笑み、小首を傾げた。


「エルフですわ、殿下。それ以上に何か必要ですの?」


「得体のしれない人物が公爵家に入り込んでいるとなれば問題だと思うが?」


「私が過去にこの国の為にならない事をした事は御座いませんわ。公爵家として許されている裁量の範疇で研究は進められ、あの方の身元は私が責任を負っておりますし、何かあれば罪は私に帰せられます。それだけ分かっていればこれ以上申し上げる必要は無いと思いますの」


言葉は柔らかいが、クリスティーナは頑としてナターリアの要求を撥ね退けた。王権の強いエルフィンシードであっても公爵家の家格は飾りでは無く、未だ力を示していない国王代理のナターリアでは建国以来の名家の当主であるクリスティーナを頭ごなしに追及する事は叶わないのだ。


「そんな事よりも殿下、試練の見物に集中致しましょう? 『千変万化』が人族2人をどう排除するのか、これだけの見世物はそうは御座いません」


クリスティーナの余裕にナターリアは怒鳴りつけたい気分であったが、隣のナルハが目で訴えるのを見て怒りを腹に飲み込んだ。どうやらクリスティーナはアルトだけでは無く悠もこの『千変万化』で葬れると確信しているらしい。


それは明確な驕りだ。


(怪物め……だが、貴様の思う通りになど決してならんぞ! まだ幼くともアルトはユウが鍛えた立派な戦士、でなければユウがここまで連れて来るはずがない!!)


だが、ナターリアにも不安はあった。悠であれば必ずや『千変万化』を打ち破ると言い切れるだけの信頼はあるが、アルトの人格はともかく、その戦闘能力にはナターリアも十全の信頼を置けないのだ。アルト自身が言ったように、一行の中で最も弱いという自己評価に謙遜も偽りも無いだろう。


(アルト、頼むぞ……何とかユウに繋いでくれ……!)


必死に剣を振るうアルトにナターリアは心の中で強く祈った。




「ハリハリの言う通りになりやがった!」


ガンと壁を殴り、バローは忌々しげに吐き捨てた。斬れる相手であれば今のアルトに倒せない相手はそう多くないはずだが、ああいう単純な物理攻撃が効かない相手は剣士にとって天敵である。ハリハリに意見を聞きたい所だが、ハリハリは既にナターリア達の所に戻ってしまっていた。


「落ち着け。アルトは今相手の事を具に観察しているはずだ。まだ何も手が無い訳では無い」


映像から目を離さず、悠も『千変万化』の観察を続けながらバローを宥めるが、バローのイライラは頂点に達していた。


「こんなトコじゃ声も届かねえ! 俺は練兵場に行くぜ!!」


「バロー殿、戦えるのは事前に選ばれた者だけです」


「戦う邪魔はしねぇよ!」


「ですが……」


バローが今にもアルトを助けに向かおうとしているようでミルヒは許可を与える事が出来なかったが、その時バローの肩を悠が掴んだ。


「待て」


「止めるなよユウ! 応援くらい構わねぇだろうが!」


「勘違いするな。……ミルヒ、誰にも手を出させんから許可をくれ、近くで見るだけだし武器も持たん。……相手方にも傍観者は居るのだから俺達が見て悪いという事もあるまい?」


予想外の悠の言葉にバローは焦燥も忘れて悠の顔を見返したが、そこにはやはり何の表情も窺い知る事は出来なかった。


「ユウ……?」


「なに、アルトの晴れ舞台だ、出来れば生の目で見ておきたいのでな」


悠の言葉にバローはふと考えた。まるで感情を表に出さない悠だが、もしかしてこの男にもあるのではないか? 居ても立ってもいられない焦燥という感情が……。


「出来ればそうして貰えると嬉しいな。武器なら渡すよ」


「師がそう仰るのなら拙者も異論はありません」


ギルザードとシュルツが先んじてそれぞれの剣を鞘ごとミルヒに突き出すと、ミルヒは無言でバローの方を見た。


「……チッ、しゃーねえ、わーったよ!」


この際、近くで見られるならとバローも自分の剣を外してミルヒに手渡した。それを確認し、悠も布袋を取り出して自分の小手を入れてミルヒに差し出す。


「この袋に纏めて入れておいてくれればいい。……行ってもいいか?」


無理矢理押し通る事も出来るだろうに、あくまで筋を通す悠達にミルヒはそっと息を吐き、折れた。


「……分かりました、ご案内致します」


そうして一行は控え室から練兵場へと向かったのだった。




一方、練兵場のアルトは一つの結論を得ていた。


「やっぱりただ剣で斬るだけじゃ倒せない、か……」


ヒットアンドアウェイの繰り返しで何度か『千変万化』を斬ってみたが、その動きに変化は見られなかった。そもそも表情という物が存在しないので、相手にダメージがあるかどうかの判断がし難いのだ。だが、動きが鈍っていないという事はダメージが無いと判断するのが妥当だ。


ならば、別の攻撃を試してみるべきだった。


「核らしい物は見つからないけど、一応スライムに対する定石を試してみようかな」


そう言ってアルトは『炎の矢ファイヤーアロー』の魔法を構築し、『千変万化』に向けて解き放った。アルトの無詠唱魔法はエルフから見ても滑らかに発動し、『千変万化』に突き刺さる。


種類にもよるが、スライム系の魔物モンスターは大部分が火に弱い性質を持つ者が多く、最初に試すにはアルトの選択は間違ってはいなかった。


……それがスライムであれば。


ボジュっという火種を水に落とした音が鳴り、『炎の矢』が命中した部分が一瞬沸騰したように爆ぜると、命中箇所が『千変万化』から飛び散り、周囲に散らばり白煙を吹き上げる。


「やった? ……うっ、ゲホゲホッ!?」


遂にダメージを与えたかとアルトが判断し掛けた時、充満する白煙を吸ったアルトが目と喉に痛みを感じて下がった。ボロボロと涙が零れるが、アルトは何が起こったのかを痛みの中で察した。


(この煙、凄い刺激だ! 酸性か毒性かは分からないけど、まともに浴びたら動けなくなる!)


もしかしたら多少は効いたのかもしれないが、それよりも自分が浴びるダメージの方がずっと大きくなるとアルトは炎を断念した。ここは周囲を囲まれた練兵場であり、大量の白煙に囲まれては逃げ場がないのだ。


涙で白煙の刺激を洗い流したアルトは十分な距離を維持すると、次なる属性を試すべく魔法陣を構築するのだった。

『千変万化』にはモチーフが存在します。メ○ーナじゃないよ。

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