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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
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10-31 麗しのシルフィード10

ベームリュー・クエイクは優れた「魔法使い」である。ハリハリの片腕として幾多の魔法開発に携わり、現存する魔法の全てをその脳内に納めていると噂されたが、彼が天才と称された事は無かった。


その噂はベームリュー本人も否定しない。何故なら彼は「魔法開発者」に最も必要な閃きを持たなかったからだ。出来上がった魔法の動作確認や作動不良の原因を突き止める事は出来ても、どういう魔法を開発したら良いかという事が分からないのだ。彼は秀才ではあったが天才では無いのだと自覚していた。


だから彼はハリハリ亡き後、最も適性のあった土属性魔法を磨く事で最高位である『土将』まで上り詰めた。彼にしか使えない、ハリハリと共に開発した土属性魔法もその栄達を助けた事は言うまでも無い。


そういう経緯があって彼はハリハリを心から尊敬していたのである。


なのだが――


「ばあ!!」


「ギャーーーーーーー!!!」


王宮に踏み入った瞬間に物陰から突然顔を出したハリハリを見て腰を抜かした。


「は、はひ、はり、ハリー様!? ででででで出たあああああああっ!!! ハリー様が、ハリー様が……!!!」


「ヤーッハッハッハ!!! 流石ベム君、いいリアクションをしますね!!! ほぅら、愛しのハリー様ですゾォ~」


「ひいっ、ひいいいっ、た、た、退魔、『退魔ターンアンデッド』!!!」


無茶苦茶に腕を振り回しながら光属性魔法の対不死者魔法『退魔』を発動させた所は秀才の面目躍如と言うべきだったかもしれないが、生者に『退魔』は何の効果も無い魔法である。精々少し眩しい程度だ。


「グワーッ!! ……なんちゃって!!」


「き、効かないいいいいっ!?」


尻を擦りながら涙目になるベームリューに大いに満足したハリハリはむはーっと満足げに息を吐くと、しゃがみ込んでベームリューと視線を合わせた。


「……コホン、お遊びはこのくらいにしておきますか。それにしても、久しぶりに会った元上司の話も聞かずにいきなり『退魔』とは何事ですか。もっとこう、話を聞いて安らかに昇天させるとかあるでしょ? ベム君は頭はいいのに突発的な事態に弱いのが玉に瑕ですよ?」


杖の先でコンコンと頭を突かれ、ベームリューはようやく目の前のハリハリが幻覚や幽体では無く、実体を伴った存在であると認識した。


「まさか……ほ、本物の、ハリー様です、か?」


「そうですよベム君。今の偉くなった君を略称で呼ぶエルフなんてワタクシ以外に居ないでしょう? ヤハハ、まさか『土将』にまでなっているとは思いませんでしたが、君はコツコツ努力するのは得意でしたしね。また会えて嬉しいです」


からかいの成分を排除した笑顔でベームリューの肩に手を乗せたハリハリの温もりに、先ほどとは違う感慨がベームリューの目から零れた。


「ハリー様……ハリー様!!!」


中腰になっていたハリハリに抱きついて押し倒し、王宮の廊下である事にも構わずベームリューは声を上げて泣いた。とっくに人前で泣くような純粋さは失われていたと思っていたが、それは後から後から湧き出して止まらなかった。


「200年もどこに行っていたのですか!!! ボクは、ボカァ……!」


「あーもー男の子が泣いちゃいけませんよ。ほら、『土将』の権威とか台無しじゃないですか」


愛弟子にも等しいベームリューの頭をハリハリは優しく撫でた。こういう素直さはエルフには貴重なものだ。200年の歳月はベームリューの肩書きを変えたが、その心根を侵食する事は叶わなかったらしい。ハリハリにはそれが嬉しかった。


感動の再会を存分に味わうハリハリだったが、その頭上が不意に陰りを帯びた。物理的に温度が下がったかのような気配にハリハリは身の危険を感じたが、今のハリハリはベームリューを上に乗せていて身動きは叶わない。




「……よくもまぁ、おめおめと顔を出せたなぁハリー先生?」




掛けられた言葉から漏れ出す暴虐の気配にベームリューを抱いたハリハリがピシリと固まり、恐る恐る上を仰ぎ見れば、素晴らしい脚線美と輝かんばかりの白い布が見えた。


「この足と下着は……セレス殿!」


「当たりだよこのエロ賢者!!!」


持ち上げられた足がハリハリの顔面に振り下ろされ、ハリハリは辛くも首を捻ってかわしたが、セレスティの踏みつけスタンプは止まらなかった。


「ひええええっ!?」


「オラオラオラ!!!」


ガンガンと連続する攻撃をベームリュー(男)を抱き締めグルグル回転して避けるハリハリはとても大賢者などと呼ばれている者には見えない醜態であったが、そんな肩書きは何の役にも立たないのだから仕方がない。……彼女、セレスティは普段は上品に振る舞っているが、一度怒ると非常にガラが悪くなるのである。


「べ、ベム君、放しなさぁい!!」


「ハリーざま゛あ゛ぁぁぁ!!!」


「君はそろそろ正気に戻りなさいよ!?」


「殿下から話を聞いて驚いたぜ……よくも200年もの間アタシを騙してくれたな!!!」


「ひいいい、セレス殿もお変わりないようでーーーっ!!!」


「けぷっ!?」


右に左に避けながら、ハリハリは巴投げでベームリューを無理矢理引き剥がしセレスティを制止した。


「ま、待って下さい、この後ワタクシは試練を控えているのでご勘弁を!!!」


「じゃあ一発殴らせろ!!!」


「致命傷になりそうだから嫌です!!!」


芯を打ち抜くような右ストレートを回避しつつハリハリは血の気が引く思いであった。アリーシアにしてもそうだが、どうしてエルフの女性は怒ると物理攻撃力が上がるのだろうか? こんな物を食らえばしばらくは失神必至である。


伊達に剣の達人達に囲まれていたハリハリでは無く、元々体力の無いセレスティはやがて肩で息をし始めた。額には汗が浮かび輪郭に沿って流れるが、それは汗ばかりではなかった。


「ハァ、ハァ、ハァ……よくも、私達を騙したな!! 皆どれだけハリー先生の死を悼んだか先生は知っているか!? 流した涙の量を知っているか!? 力になれなかった不甲斐無い自分達に絶望したか知っているのか!?」


「セレス殿……」


「今更死が偽装だと言われてはいそうでしたかなどと頷けるか!!! 頷けるもんか……!」


私はベームリューほど素直にはなれないと呟き、滲む視界のままセレスの拳が放たれるが、今度はハリハリも避けなかった。


ゴッと鈍い衝撃がセレスティの手に伝わり、ハリハリは頬で受け止めた拳にそっと手を添えた。


「いっつぅ~……ふ、不義理の代償に殴られるのは男の甲斐性とユウ殿は仰いますが、ワタクシでは一発で精一杯です……。申し訳ありませんが今はこれで勘弁して下さい」


当たると確信した瞬間に勢いを弱めたセレスティは痛いのか申し訳ないのかよく分からないハリハリの顔を見て、手の力が抜けていった。ぶつけたかったのは拳では無く思いである。


「……ならば、もう二度とあんな真似はしないで下さい。大切な方を失う悲しみは一度で十分です……」


「もうしませんよ。ワタクシも大切な方々を失わない為に帰って来たのですから……」


そのままハリハリの肩に顔を埋めて泣き顔を隠すセレスティをハリハリは泣き止むまで慰めたのだった。


……ちなみにベームリューは受け身を取れずに失神していたが、それは余談である。




「全く、ハリーティア様を殴るとは何事だ! 素直にお喜び申し上げればよいではないか!」


「まぁまぁナルハ殿」


「だ、だって悔しいじゃない! あの時はナルハと2人であんなに泣いたのに、当の本人はベームリューとじゃれ合ってるし、それを見たらつい手が……」


「淑女の慎みが足りんと言っているのだ! そう思われませんかナターリア様?」


「えっ!? あ、ど、どうだろう……」


「いやぁ、姫もワタクシを見た時は思いっ切り平手打ちを……」


「ハリーおじ様!!」


「いいじゃないですか、生きていらっしゃったんですから」


応接室に集められたのはハリハリの旧知の者達だ。王女ナターリア、『水将』ナルハ、『光将』セレスティ、『土将』ベームリューは久々に、本当に久々に顔を合わせたハリハリと旧交を温めたが、いつまでもほのぼのと話している場合ではなかった。


「ですが、こうして身を隠していたハリー様がそれを放棄してまでもエルフィンシードにやって来たという事は……」


「ええ、危急存亡の秋と判断したからです。本当はすぐにでも対策を打ちたいのですが、ティナ殿にどうにか大人しくして頂かなくてはそれもままなりませんのでね」


ハリハリの言葉に、一同は三者三様の表情で黙り込んだのだった。

静のナルハに動のセレスティ、そして童顔のベームリュー。

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