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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
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10-24 麗しのシルフィード3

グロを連想させる描写ありです。

「しかしハリーティア様、いくらあなたでも人族をこの地に引き入れた事については申し開きが必要かと思われます」


「……確かに、国法では他種族を国内に引き入れるのは重罪でしたね。しかし、彼らの力無くしてはこの救出劇は叶わなかったのですよ」


そう言って船の方を指差すと、悠を先頭にバロー、シュルツ、アルトが続き、最後にギルザードとサクハが歩み寄ってきた。当然、それを見たエルフ達は騒然となる。


「侵入者!?」


「人族が王都に至るなど前代未聞だぞ!?」


あっという間に囲まれる悠達だったが、悠は感情を宿さない瞳でハリハリを見た。


「おやめなさい。魔法が封じられている場でエルフが満足に戦えないのなら人間の手を借りるのが一番です。彼らはいずれ劣らぬ人族の勇者達、陛下の救出が叶ったのは彼らのお陰であると言えます。その功績に免じて問答無用に捕らえるような事は謹んで頂きたい」


ハリハリが制止するとエルフ達は辛うじて踏みとどまったが、その目はまるで友好的とは言えず、何かちょっとしたきっかけがあれば即座に暴発してしまいそうな緊張感を孕んでいた。


「ちぇ、俺達は一応女王サマの命の恩人だぜ? 美味い酒と美味い飯、それにキレーなねーちゃんくれぇあてがってもいいと思うんだがなぁ」


「ハリハリはともかく我らが友好的に迎え入れられるはずがないという事は分かっていたはずだ。魔法や矢が飛んで来ないだけマシだろう」


「いざとなったら強行突破くらいは可能だよ。『点火イグニッション』で敵中に突っ込めば……」


「エルフの挽肉を大量生産したって喜ぶのはドワーフくれーだろ」


「恩には恩を、怨には怨を返すのみ」


適度な緊張以外に気負いの無い面々にサクハは内心で呆れた。エルフが本気になれば、数人ばかりの人族など一瞬で蹂躙されて骨も残らないはずである。……で、あるはずなのに、サクハには不思議と彼らが敗北して屍を晒す姿が想像出来なかった。


「……とりあえずサクハは下がりなさい。あなたもご苦労様でした」


「はっ……」


ナターリアに促されてサクハはその一団から歩み出し、振り返って悠の顔を盗み見たが、当の悠はこの程度で動じる必要は無いとばかりに無表情に事の成り行きを見守っていた。


(……恐ろしくは無いのか、この男は? 死ぬかもしれんというのに……)


胸中にせり上がる焦りにも似た感情と埒も無い思考をサクハは頭を振って追い出した。別に人族がどうなろうとサクハの関知する所ではないはずだ。


一行からサクハが抜け、いよいよ緊張が危険な水域に届こうとしている中でナターリアが口を開いた。


「……なるほど、陛下をお救いする為の助力であったというなら私も無碍には出来ん。本来ならば国境を侵した人族をこの場で処断しても我々に落ち度は無いが、エルフが忘恩の輩と謗られては面白くない。ならば、その卓越した力で己が生を掴み取って貰おうか」


「姫、それは如何にしてでしょうか?」


「それは私が説明致しましょう」


ナターリアがクリスティーナに場を譲り、クリスティーナはハリハリに艶然と微笑みかけた。


「うふふ……やはりハリーティア様は生きていらしたのですね。後を追って手首など切らずにいて良かったですわ」


「……お久しぶりです、クリスティーナ様」


「まあ! 私の事はティナと呼んで下さいとあれほど・・・・申しましたのに!!」


悲しそうに振舞うクリスティーナに、ハリハリは「あれほど」の内容を思い出し、苦虫を噛み潰した表情になるのを何とか抑え訂正した。


「……失礼しました、ティナ殿」


「うぅん、まだまだ他人行儀ですけれど、200年振りですから許して差し上げますわ」


(こいつ……私にはクリスティーナと呼べと言ったくせに、ハリーおじ様は愛称とはどういうつもりだ?)


そんなナターリアの葛藤を余所に、ハリハリとクリスティーナの話は進んでいった。


「それはありがとうございます。しかし、ワタクシの生存は王族しか知らぬ事だと思っていましたが……」


「ああ……それは後で、ね?」


童女のような仕草で片目を閉じ、クリスティーナが本題を切り出す。


「やって頂きたいのは簡単な事ですわ。ハリーティア様やそこの人族には私の部下と戦って頂きたいと思うんですの。ハリーティア様が私の部下に負けるはずがありませんから、大賢者ここにありと威光を示して頂ければそれで結構です」


「言外に彼らはそうではないと聞こえますが?」


「彼らは……負ければ死んで頂くしかありませんわね。そんな程度の力しか持たない人族が陛下をお救いしたなどと言い張っても民は誰も信じません。きっとハリーティア様の優しさに付け込んでエルフの偵察に来た悪人に違いありませんわ。我らの信を得たければ、それ相応の力を示して頂かなくては」


この場で荒事にしない代わりにエルフ達の前で実力を見せろという事だろうと判断したハリハリはナターリアが頷いたのを見て腹を決めた。


「……一つ条件があります。ワタクシは構いませんが、彼ら全員がやるのは時間の浪費、代表者2名という事で了承して頂きたい」


「それで負けても他の者は見逃せと?」


「まさか、そんな条件は飲んではくれないでしょう?」


ハリハリの問いにクリスティーナは無言の笑顔で答えた。つまり、負ければ全員殺すという事だ。


「ユウ殿、負ければ全滅ですが受けますか?」


「構わん」


一言で済ませた悠にバローが頭を掻いた。


「そういうのは一度俺達に聞けよ……」


「どうせ断っても何も変わらんよ。この場で乱戦になるよりは場が整っている方がやりやすかろう」


「まぁ、そうだけどな」


悠一人ならどちらでも構わないが、バローやシュルツでもこの場を無傷で切り抜けるのは難しいだろう。一番確実に逃亡する手段としてはナターリアやクリスティーナを人質に取る事だが、それをやればエルフとの亀裂が決定的な物になるのは想像に難くない。


「そういう条件なら此方も条件を。もし代表者2名が敗れてもハリーティア様にはこの国に留まる事をお約束下さい。そちらの人族が居なくなっても私は構いませんが、ハリーティア様がまた居なくなるのは困りますから」


「分かりました。しかし、彼らが勝てば滞在をお許し願いますよ? ドワーフの新兵器に対抗するには彼らの力が必要なのです」


「女に二言はありませんわ。ね、ナターリア様?」


「ああ、力を示せば彼らは陛下の恩人だと証明される。その時は特例としてこの国の滞在を許そう」


ナターリアの言質を取り、ハリハリは大まかな流れを掴んだ。おそらくクリスティーナが単純な受け入れに難色を示し条件をつけ、ナターリアがそれを了承したのだろう。目に見える形で悠達の安全を買うには致し方ないという事か。


だが、クリスティーナの目的はハリハリに違いない。悠達を排除し、ハリハリが逃げられない状況を作り出しエルフィンシードに縛り付ける為にこんな事を言い出したのだろう。人族如きは魔法さえ使えれば簡単に勝てると踏んでいるからこその提案であった。


(その余裕が大間違いだと教えて差し上げますよ)


「ありがとう御座います、姫」


「これ以上立ち話もなんだ、後は王宮に移ってからにしよう。湯浴みや着替えも必要だろう」


戦闘後に幾らか体を清めたとはいえ、泥土の中を歩き回った後では清潔とは言い難く、ナターリアの言葉をハリハリはありがたく受け取った。


「そちらの人族もだ。監視付きではあるが、部屋は貸してやろう」


「ご厚意感謝致します」


そうして一行は場を王宮へと移したのだが、ハリハリはクリスティーナに呼ばれ、一人個室に誘われた。ナターリアも少しだけと請われれば公爵であるクリスティーナの要求を拒めなかったのだ。


「……で、ワタクシ一人を呼び出して何を? もしかしてこの隙に連れを害するなんて三流悪人みたいな真似はしませんよね?」


「いやですわ、私はハリーティア様が聞きたいと思っていた事を教えて差し上げようと思っただけです」


「それは……是非後学の為に聞いておきたいですね。あの偽装工作にはそれなりに自信があったというのに、あなただけはワタクシが死んでいないと確信していたようです。何故でしょう?」


ハリハリの問いにクリスティーナはこれまでとは異なる、左右非対称の狂的な笑顔を浮かべた。――これこそがクリスティーナの本性だ。




「だって、ハリーティア様があんなに不味いはずがありませんもの」




ちろりと赤い舌を唇に這わせるクリスティーナにハリハリは不快感で総毛立った。つまりクリスティーナはこう言ったのだ。「ハリハリの物と思われる焼死体を食った」と。


「愛しい方は天上の美味に違いありませんわ。ハリーティア様も私を美味しいって仰って下さいましたもの!」


うっとりと顔を歪めるクリスティーナが手を掲げると、その左手の小指は第一関節までが欠けていた。その時の興奮を思い出したのか、クリスティーナの顔は紅潮しその身を淫らにくねらせた。


ハリハリの喉の奥に再び嫌な酸味が上って来る。それはハリハリが忘れたいと願い、実際に忘れていた記憶であった。


「私の小指入りのパイを美味しいと言って食べて下さったハリーティア様!! ……残念ながらそれを告白したらその場で全て吐かれてしまいましたけれど、あの時私とハリーティア様は一つに溶け合っていましたわ!! これこそ究極の愛の形ではありませんこと?」


「……200年の歳月もあなたを変える事は出来なかったようですね……」


この事が漏れれば一生幽閉の身になっても当然だったクリスティーナを彼の父親に密かに事情を話して穏便に済ませたのが良くなかったようだ。クリスティーナは歪んだまま、何一つ反省していなかった。


「ええ、私は変わりません。……ハリーティア様、あの人族共を始末したらハリーティア様は私のお屋敷で暮らして頂きます。そしてずっと2人で食べあっこ・・・・・するんですの。エルフは滅びるかもしれませんが、それまでの間、二人で幸せに暮らしましょうね?」


穢れなど一切感じさせない笑顔で微笑み、クリスティーナがドアを閉めた瞬間、ハリハリは窓に駆け寄ってもう一度胃液を吐き出した。


「……本物の変態じゃないですか……! あんなの受け止められるのはユウ殿くらいですよ!!」


物理的に食われ食わされる嫌悪感にハリハリは泣きたい気分だったが、これを乗り越えなければエルフの信頼は得られないのだと覚悟を決めてドアを開き……


「わっ」


「ギャーーーーーッ!!!」


希薄レアファイ』で気配を消して待ち構えていたクリスティーナに悲鳴を上げた。


「うふふふふ、やっぱりハリーティア様が一番いい反応をして下さいますわ。さ、参りましょう?」


クリスティーナの指を毒虫の触手のように感じつつも、ハリハリにそれを振り払う気力は残されていなかった。

肉食系(意味深)エルフ女子クリスティーナ。


作中随一のヤンデレちゃん。彼女一人のせいで規約を逸脱するのではないかと私も気が気ではありません。


ちなみに、ハリハリが居なくなってからは誰にも食べさせたりはしていません。誰にでも許す軽い女じゃないのです。


一途!!(無理矢理)

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