表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
953/1111

10-22 麗しのシルフィード1

王都シルフィードは重い悲壮感に包まれていた。


捜索に向かった『水将』軍からもたらされた情報によれば、ドワーフは魔法を広域に渡って阻害する兵器を生み出し、あっという間に『水将』軍を半壊に陥れたとなればそれも当然で、主戦場であるアガレス平原にある三軍が崩壊しアリーシアも生死不明と、ここまで凶報が重なって楽観的な意見を抱ける者は多くなかった。


しかし、そこに予想だにしない名が現れ、エルフ達を驚愕させた。


「ハリーティア・ハリベルが……生きていただと!?」


「馬鹿な……偽者だろう!?」


「いえ、少なくともナルハ様はそう信じました。元教え子でもあるナルハ様が見間違えるとは思えませんし、身に着けていた『魔法鎧マジックアーマー』は我々の物より高性能に感じられました。あのような物は製作者であるハリーティア様ご本人以外には作れないかと」


ミルヒの報告にざわめく謁見の間にナターリアの声が響いた。


「静まれ! ……ハリーティア様がご存命であらせられた事は私も知っている。今回は陛下の窮地をお救いする為に私が無理を言って助力願ったのだ。もっとも知ったのはつい最近だがな」


「な……姫、何故すぐに呼び戻さなかったのですか!? かの者の知恵があればエルフはもっと強大な力を――」


「情けない事を堂々と口にするな!!!」


ピシャリと言い放つナターリアに謁見の間は静まり返り、ナターリアは語り出した。


「本当は私はこんな理由でハリーティア様を呼び戻したくは無かったぞ……ハリーティア様の遺産で今日のエルフがあるというのに、まだ我らはハリーティア様のお力を当てにしなければ国を保てんとは情けない以外に評しようがあるか!? 本来ならば平和になった国の姿を見に来て頂きたかったのに……! 私はこの上無く恥ずかしい!!」


王座の肘掛けを叩き怒りを露わにするナターリアに謁見の間に集った者達は言葉に詰まり顔を伏せた。エルフの魔法技術はハリハリが居た頃から大きな成果を上げておらず、ハリハリの生み出した技術が根幹を支えているのは事実であり、遺産で食いつないでいると言われても反論は出来なかった。


「し、しかし、かの者が勝手に国を飛び出したのも事実です。今更戻ってきて何のお咎めも無いというのは……」


「……おい、貴様、この状況を理解していて言っているんだろうな?」


官吏の一人が発した言葉に、ナターリアは冷たい視線を向けて問い掛けた。


「……は?」


「愚鈍が……国が滅ぶかどうかという時に個人の、しかも大した罪でもない事を問うて誰が得をするのかと言っている!!! 咎める? エルフの大恩人たるハリーティア様を? 馬鹿か貴様は!!! そんな事をしている間にエルフィンシードは消滅するわ!!!」


ナターリアの、アリーシアを彷彿とさせる迫力に、意見を述べた官吏は震え上がって口を閉ざした。


「……私は政治に明るくないが、今ハリーティア様を責めても何の利もない事くらいは分かる。むしろ逆だ、ハリーティア様を賓客としてお迎えし、この国を救う知恵を授けて頂けるようにお願いするのだ。それ以外にエルフがこの状況を打破する道はない」


普段であれば通らない暴論だが、ナターリアは悠に救援を願った時からこの論を通そうと決めていた。亡国の危機であればこそ、せめて動きやすいように状況を整えておかねば満足にドワーフと戦う事も出来ないからだ。


が――。




「それは些か早計ですわね」




それに待ったをかけた人物にナターリアは内心で舌打ちしたが、表面上は不機嫌の仮面だけを被り問い掛けた。


「何か不満か、ティアリング公爵?」


「クリスティーナで結構ですわ、姫。それと不満という訳では御座いませんが、こんな時だからこそ規律という物を無視は出来ないと思いますの。ハリーティア様がエルフの大恩人である事は確かですが、いくら素晴らしい技術をお持ちでもそれだけで戦況をひっくり返せる訳ではありません。それに、勝手に人族を引き連れて国境を侵した事は看過されて良い軽い事態ではありませんわ」


クリスティーナはハリハリの、過去ではなく現在の罪を突いて来た。人間とエルフは未だ国交は無く、人間がエルフ領に立ち入る事は認められていない。もしそれを手引きした者が居たとしたら、それは紛う事無く犯罪である。


怒りで誤魔化すくらいしか手段が思いつかなかったナターリアは何とか意見を却下出来ないかと考えたが、ここで強弁しても正論であるクリスティーナの言葉を覆すのは難しいと感じ、先を促す事にした。このクリスティーナは公爵という家柄に加え、アリーシアとタメを張る政治力の持ち主であり、迂闊に敵対する事は避けたい相手だ。


「……ではどうするのが適当だと? まさか聡明なティアリング公爵ともあろう者がただハリーティア様を捕らえろなどとは言うまい?」


「そうですわね……」


童女のような仕草で頬に指を当てて考え込むフリをするクリスティーナは、やがていい事を思いついたとでもいう風に手を合わせて口を開いた。


「ああ、ではこういう風にしてはどうでしょう? ハリーティア様と連れて来た人族には私の家臣達と手合わせをして貰い、それに勝てば滞在を認めるのです! とてもいい考えだと思われません?」


「大恩あるハリーティア様に非礼が過ぎるぞ!!!」


立ち上がって床を蹴りつけるナターリアを見てもクリスティーナに動揺は見られず、むしろ艶然と微笑んだ。


「逆ですわ、姫。もしハリーティア様がエルフを救うほどの力をお持ちなら、この程度の試練は鼻歌混じりにこなして下さるはず。それで罪が雪がれるならばハリーティア様は喜んで試練をお受けになります。……まぁ、人族はどうなるか分かりませんが、些細な問題ですわ」


「っ!」


ギリッと歯を軋らせるナターリアだったが、反論の余地は残されていなかった。それでもクリスティーナに言いたい放題されるのは腹に据えかね、嫌がらせとばかりに言い返した。


「……ハリーティア様のお力を計ろうというのなら『六将』に任せればよい!!」


「駄目ですわ。『火将』や『闇将』が居ればそれも良いかもしれませんが、今国に残っている『六将』は皆ハリーティア様の薫陶を受けていますもの。衆人環視の中であからさまな手加減をされては余計に疑念を招きます」


殺気立つナターリアと余裕を崩さないクリスティーナの睨み合いはしばらくの間続いたが、やがてナターリアは怒りを押し殺してクリスティーナに背を向け、絞り出すように答えた。


「……もしハリーティア様が敗れたら?」


「私の家臣に敗れる程度ならエルフに必要ありませんわ。賢者の名を騙り国を騒がせた罪を問い、首でも晒してやれば宜しいかと。民の不満を逸らす意味でもそれが適当ですわね」


ナターリアの怒気が目に見える殺気として膨れ上がり、側に居たミルヒは思わずナターリアの顔を見上げたが、その表情を見て慌てて顔を伏せた。


「……迎えるに当たり非礼は許さん。勝敗が確定するまでハリーティア様が比類無き功労者である事には変わりないのだからな」


「勿論ですわ。主だった者達でお出迎え致しましょう! もし陛下を連れて帰って来られるようなら、そのお出迎えもしなければなりませんし……私は早速準備させて頂きますわ! ああ、無駄にならなければ宜しいのですけれど!」


ナターリアを折れさせる形となったクリスティーナは上機嫌で優雅に頭を下げ、退室していった。ナターリアの怒気渦巻く謁見の間は居心地の悪い沈黙で充満していたが、ナターリアは振り返らぬまま官吏に問い掛けた。


「……セレスティとベームリューはまだ来んか?」


「も、もう間もなくかと……」


「もし間に合えば出迎えに参加するように言え。私も準備に戻る。ハリーティア様は必ず陛下を連れて帰って来られる」


それだけ言うとナターリアは部屋に戻っていき、謁見の間に残っていた者達も慌ただしく準備を始めた。


「……」


「ミルヒ、我らも戻るぞ。陛下とナルハ様……それに、万が一彼らが戻ってくるかもしれん」


「っ、はい……」


取り残されたミルヒはロメロに促され立ち上がり、一度だけナターリアが去った方向を振り返った。


おそらく、ナターリアは知っているのだ。ハリハリと行動を共にしている人間達がただの人間では無い事を。


でなければ……


「あんな風にお笑いになるはずが無いわ……」


「何か言ったか?」


「いえ、何でもありません、参りましょう」


魔法のように剣を振るう者達を思い浮かべ、ミルヒは身を清めるべくロメロと一緒にその場を立ち去ったのだった。

まだまだ障害は多そうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ