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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
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10-14 立ち込める暗雲9

「っ、見えた!」


両手に『機械人形マシンドール』を鷲掴みにし、それ自体を鉈として振り回し藪を払った悠が視線の先に岩壁に空く穴を発見した。背後に続く者達が洞窟に入る時間を稼ぐべく、両手の『機械人形』を接近する『機械人形』に投げつけてスペースを作る。


「バロー、先に入って安全確保、ギルザードとナルハは続けて入れ! 他の者達は入り口に近付けるな!」


「「「了解!」」」


悠の指示に従って飛び込んだ者達を守るように残りの者達は洞窟を背に『機械人形』と対峙した。


「大丈夫だ、中には居ねえ!!」


「ならば順次中に入って休憩を取れ。しばらくは俺が塞いでおく」


「いえ、拙者がやります。師はお休み下さい」


「ユウもシュルツも休んでいるといい、こういうのは疲労しない私が適任だよ」


ギルザードが大剣を抜いて言うと、悠は小さく頷いた。不死者アンデッドであるギルザードは睡眠・飲食・疲労のどれもが不要であり、歩哨にはうってつけである。


「ならばシュルツは休め。俺は数を減らす為に遊撃に回る。どうせここで全ての『機械人形』を倒せる訳でも無いからな」


「しかし……いえ、畏まりました」


自分も手伝うと言いかけたシュルツだったが、これが全体の一部でしか無いなら体力の温存は重要だ。その時に働けないのでは話にならず、悠のタフネスは自分の及ぶ所では無い。冷静な判断を下せない人間は悠の足手纏いでしかないと自制出来るほどにはシュルツも成長していた。


「ギルザード、討ち漏らしを仕留めてくれ。いつまでも襲撃が止まないようなら別ルートも視野に入れねばならん」


「それはハリハリとナルハに考えて貰うよ。入り口は確保しておくから安心してくれ」


そう頷き合うと、悠は遊撃、ギルザードは洞窟の入り口を塞ぎ本格的な戦闘に移行していったのだった。




「予想以上の戦力ですね。もしエルフが最初から全軍を動かしていても敗戦は確定的だったでしょう」


「ミザリィの奴を放っておきゃあ何かエルフにもくれたんだろうがな」


「どうせロクでもない物に決まってます。その後始末を思えばまだマシと考えましょう」


「でも、このままではいつまで足止めをされるか分かりません。何とか突破口を探さないと……」


「師一人に苦労はさせられん。何か知恵はないのかハリハリ?」


シュルツの問いに『治癒薬ポーション』を配りながらハリハリは唸った。


「うぅん……思い切った手を取るには情報が足りませんね。今はユウ殿も『竜騎士』になれませんし、ワタクシも空から索敵が出来ません。当然魔法探査も不可能ですし、隠密行動が一切封じられてしまっています。となると持久戦か強攻策しか取り得無いのですが……」


「持久戦はナシだろ。時間がねぇからたった6人で来たんだしよ」


アリーシア救出の為にわざわさ危険を冒してまで救援に来て持久戦を展開しても無意味だ。ここは危険であっても迅速に行動に移さねばならない。


「そうするとこの森を突っ切って行くしか……」


「わたしが見て来てあげよっか?」


「ヤハハ、それが出来れば苦労は……ってプリム殿ォ!?」


フワリと肩に舞い降りたプリムにハリハリが大声を上げた。


「ハリハリうるさいよー」


「いえいえいえ、何で飛べるんですか!? じゃない、どうやって付いて来たんですか!?」


「アルトの荷物の中に入って来たんだよ。途中でちゃっと寝ちゃったけど。ふああ……」


気配の薄いプリムはアルトが洗面所に向かった隙にこっそり鞄の中に入っていたのである。これが『冒険鞄エクスパンションバック』なら生物は入れなかったのだが、小物を入れておく普通の鞄だったのでこうして侵入出来たのだった。相変わらずとんでもない度胸と行動力である。


「良かった、どこかにぶつけたりしなくて……」


「それはそれで分かりましたが……プリム殿の飛行はワタクシの魔法のように外に影響して効果を発しているのでは無く、プリム殿自身に作用しているという事でしょうか……? そうでなければ説明がつきません」


「いいじゃねぇかハリハリ、どんな理屈だろうと今は飛べるって事が重要だろ。このチビ助なら見つからずにアガレス平原を見て来て貰えるんじゃねぇの?」


「チビ助ってゆーな!!」


「おっと、悪ぃ悪ぃ」


「ここからならそんなに遠くないはずです。でも、一人で行って貰うのは危険ですが……」


「アルトはユウに似て心配性ね、わたしはドラゴンのねぐらにだって侵入した事があるのよ? ちょっと飛んで見てくるくらいヘーキヘーキ」


むんと薄い胸を張るプリムを頼もしいと思えるほどハリハリは自分が焦っていた事に気が付いた。冷静ぶっていても、この場の誰よりもハリハリはアリーシアを救い出したいと思っていたのだからそれも当然だが、これではナルハに賢しらな事は言えないなとハリハリは苦笑し、姿勢を正した。


「……プリム殿、斥候をお願いします。上手く行きましたら、ワタクシからケイ殿に頼み込んで最高のお菓子を作って貰いますから」


「ホント!? やるやる!! ひゃっほーい!!」


ハリハリの肩の上で小躍りするプリムにナルハは疑心暗鬼に駆られ、ハリハリに問い掛けた。


「ハリーティア様、妖精族ファアリーなどにそんな大任を任せて大丈夫なのですか?」


「むー、なによー!!」


「これ、プリム殿を馬鹿にしてはいけません。プリム殿はかの悪名高いドラゴンズクレイドルにすら侵入を果たした超一流の密偵スカウトですよ」


「は……? ど、ドラゴンズクレイドル!? まさか、こんな妖精族が……」


ナルハが衝撃を受けている間にプリムはアルトの鞄に戻り、中なら自分の荷物を引っ張り出した。


「こんな事もあろうかと、カロンが鎧と武器を作ってくれたんだもんね~」


それは悠が作った間に合わせの装備とはクオリティが段違いのミニチュアスケールの神鋼鉄オリハルコン装備である。使われている材料は少ないが、妖精族用の装備としては世界最高峰である事は間違い無い。……ちなみに作らされたカロンはあまりに精密さを要求される作業に「これは既に私の領分を超えているような……」と首を捻ったのは余談である。


更に余談だが、この鎧があるからといって悠が作ってくれた鎧は不要品になった訳ではなく、今でもプリムの宝物として大事に飾られている。


鎧を取り出したプリムは閉じるだけでフィットする鎧を手慣れた様子でカチカチと着込み、こちらも恵に作って貰った鞄を首に通した。


「いつでもいいよ!」


「それではですね……」


ハリハリが燃料式のランタンに火を灯し、地図を取り出して床に広げた。


「ナルハ殿、現在位置はどの辺りでしょう? それと方位も教えて下さい」


「はい。この地図ですと……」


ナルハが地図を動かし、方位を合わせて一点を指した。


「簡略的な地図ですが、概ねこれで合っています。洞窟を出て真っ直ぐ左に向かえばアガレス平原ですね。あと5キロほどかと」


「プリム殿、どのくらいで到達出来ますか?」


「頑張って飛べば15分くらいで行けるよ。練習したもん!」


「流石です、でしたら……」


ハリハリはプリムに見て来て欲しい事を纏め、プリムはふんふんと頷きながらそれをメモに取った。まるで個人授業を受ける生徒のような和やかな様子にナルハは不安を覚えたが、これがプリムのいつものスタイルである。


(ハリーティア様は一体どこで何をなさっていたというのだ? 妖精族に人族、それにドラゴンズクレイドルの話まで……)


ハリハリへの信頼感から口を挟まず行動を共にしていたナルハだったが、この集団は異常に過ぎた。自分達の軍があっさりと壊滅しかけた『機械人形』をまるでゴブリン(小鬼)と同じように斬り捨ててしまう戦闘能力だけを取り上げてもナルハの知る人族とはあまりにもかけ離れている。こんな者達が普通に居るのでは、エルフが攻められれば抗しようも無く陥落してしまうという危惧すら頭を過った。


だが、彼らが『水将』軍を救ってくれたのは疑いようが無く、更にこうしてアリーシア救出の為に危険を冒してまでアガレス平原に向かっている理由がナルハには理解出来なかった。当初は慈悲深く大らかな(ナルハ視点)ハリハリに対し彼らが多大な恩を抱いているか大金で雇われているかしているのだろうと些か偏った見方をしていたナルハだったが、見る限りではこの集団のリーダーは悠という人族であり、ハリハリはその参謀を務めているように感じられた。そしてメンバーに上下は無く、強いて言うなら一番年下らしい憎きフェルゼニアスの孫が皆にそれとなく守られている印象であった。そんな者に気を遣われている自分がこの一行の中で最弱なのは間違い無い。誰もハリハリに隔意があるように見えず、髭面の男などはむしろ長年の友人のようですらある。


手を振って飛び去るプリムにナルハの疑問は増えるばかりであった。

今日中に上手く纏まれば2話目を載せます。ドワーフ初登場回になる予定。

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