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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
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10-11 立ち込める暗雲6

「それが、ハリーティア様がエルフの下を去った理由だったのですね……」


ナルハに詰られる事を覚悟していたハリハリだったが、ナルハは予想外にすっきりとした顔で口を開いた。


「……今のお話で腑に落ちました。お優しいハリーティア様が殺す為だけに魔法を作り続けるのはさぞ苦しい日々だったのでしょう……。私達は血に酔い、そんな事を考えた事もありませんでした……」


ナルハの頬を後悔が伝った。


「私には何も言う資格がありません。ですが、今はただハリーティア様が生きていらしたという事を喜びたいと思います」


「……ありがとうございます、ナルハ殿」


「ですが、よくお姉様に知られて穏便に済みましたね? お姉様は……その、恐ろ……もとい、少々烈しい性格をしてらっしゃいますし……」


婉曲な表現を用いるナルハだったが、ハリハリはその時の事を思い出して思わず自分の顔を撫でた。


「……馬乗りでボッコボッコに殴られましたよ……いつの間にか接近戦までこなすようになっちゃって、もうワタクシには手に負えません……」


「まぁ……」


野蛮な絵面にナルハが口元を押さえたが、世間話はそこまでだった。


「ハリハリ、左右の森からまだ出て来そうだ。アルトと一緒に右舷は任せた」


ギルザードの報告にハリハリは頷き返した。


「了解です。アルト殿、『機械人形マシンドール』の性能は普通の人間よりも大分高いですが、剣術は性能任せの大雑把な物ですから落ち着いて対処すれば問題はありません。3体以上現れない限りは『覚醒アウェイクン』は温存して下さい」


「分かりました!」


「ハリーティア様、この人族達は一体……?」


「先ほども言いましたが、話せば長くなってしまいます。今は撃退に専念しましょう……来ましたよ!」


森から姿を現した『機械人形』とハリハリ達の拠点防衛戦が幕を開けた。




その頃、悠は最も『機械人形』の数が多い船団の先頭で戦っていた。


「シッ!」


悠の拳が斬り掛かる『機械人形』の頭部を粉砕し、内部の阻害装置を叩き割る。背後からの強襲もあっさりと避け、床に剣を埋め込んだ『機械人形』を視線すら向けずに後ろ蹴りで頭を吹き飛ばした。


《我らにとっては大した相手でも無いが、エルフにはそうもいかんようだな》


「魔法がエルフの生命線だ、得意な弓で倒すには『機械人形』は堅過ぎる。武器の質でもドワーフが上なら、重い武器を扱えないエルフでは接近戦は抗せまい」


《エルフ殺しという事か……》


船上で屍を晒すエルフ達に、スフィーロは忌々しげに吐き捨てた。一方的な虐殺は見ていて気分の良い物では無い。


だが悠はそれを見ても安易な同情はしなかった。戦争とは詰まる所、相手を効率良く殺す事であり、そこに通常の倫理感を持ち込むのは間違いだ。この場合はむしろドワーフの戦術が誉められるべきであった。


「どちらが良い悪いもあるまい。エルフが優勢だった頃はエルフがドワーフを一方的に虐殺したのだろうからな。それが我が身に降りかかったからと恨むのは傲慢というものだ」


《ならば何故エルフを助ける? ハリハリがお前の仲間だからか?》


「俺はハリハリとエルフという種を同一視してはいない。それは人間やドラゴンの時と変わらんよ。今エルフを助けるのは、このままでは対話をする相手すら居なくなってしまいそうだからだ。それに、この殺戮がミザリィの計画の内なら邪魔する意味はきっとある」


悠の中で今エルフを助ける事と無条件にエルフに肩入れする事は繋がってはいなかった。アリーシアとナターリアには縁があるが、それは個人であってエルフ全体を意味しないのだ。


「全てはこの侵攻を止めアリーシア達を救出し、ドワーフを知ってからだ。それまで俺がどちらかに肩入れする事は無い」


あくまで公正な立場を保つ悠はその間にも激しく手足を動かし続けて『機械人形』を叩き潰した。エルフには非常に有用な『機械人形』だが、耐久力以上の猛攻に晒される事は想定外だったようだ。


「……ぅ……」


その時聞こえた微かな呻き声に反応し、悠は声の方向に目を向けた。


死体の狭間で蠢くエルフに素早く駆け寄ると、悠は折り重なる死体を脇にどけ、そのエルフを引きずり出した。『魔法鎧マジックアーマー』を帯びているという事はこの船の責任者かそれに相当する指揮官級のエルフだろう。傷の具合は決して軽くはないが、男性であり『魔法鎧』を着用していた事も幸いし、治療を施せば死ぬ事は無さそうだ。


「……じん、ぞく? き、貴様、ら……ドワーフと、手を……くっ、組んだのか……?」


「そうであれば貴様は既に生きておらんよ。魔法で回復は出来ん、これを飲め」


邪推を切り捨て、悠は『高位治癒薬ハイポーション』を口に近付けたが、男は顔を背けた。


「え、得体の知れぬ、物を……ぐぅっ……飲めるか!」


「……まだそんな元気があるなら自分で嚥下出来るな?」


「なに……モゴッ!?」


顎を掴み強引に口を開けさせた悠は『治癒薬』の蓋を取ると無理矢理口の中に突っ込んだ。それでも嚥下を拒む男だったが、悠が鳩尾に拳を叩き込むと、目を白黒させながらも飲み干していった。


「ガハッ!!」


「今更貴様一人を毒殺するような手間を掛けるはずが無かろう。行くぞ、旗艦でナルハが待っている」


「な、ナルハ様は、ご無事なのか!?」


自分の傷も忘れて悠を問い詰める男は急に動いた拍子で痛みがぶり返し、その場にうずくまった。


「~~~っっ!!!」


「無事だ。大半はやられたようだが、後方の船団にはまだ生存者も居るだろう。肩に掴まれ」


「じ、人族の肩など……!」


「無駄なプライドで命を捨てるなら貴様は指揮官失格だ、ここでくたばれ。その方が兵も助かる」


「ぐっ!?」


悠の物言いに怒りを覚えた男だったが、魔法が使えない現状と、何よりナルハの存在を天秤に掛け、葛藤の末に無言で腕を広げた。


(人族の手を借りるなど恥辱この上ないが、今はナルハ様の安全が最優先だ。ここは耐えるしか……!)


「行くぞ」


男の腕を自分の首に回し、悠は生存者の居ない船から後方に戻っていった。




一方でバローは後方の船団を目指していた。理由は明快で、比較的生存者が期待出来る後方の船団のエルフに対し、口下手のシュルツを向かわせる訳にはいかなかったからだ。トラブルが起こると分かっていてそれを放置するのは愚かだった。


「おっと、やっぱり居やがるな」


まだ生きているエルフ兵が決死の形相で『機械人形』と対峙しているのを見たバローは、使い慣れない槍で、更に10人がかりで何とか『機械人形』を押し留めている兵士達の目の前で、『機械人形』を正中線に沿って左右に分割した。


「あ、新手か!?」


「敵ならもう斬ってるよ。手短に言うがナルハは無事だぜ。『機械人形』の駆除は請け負うから、アンタらは生存者を連れて旗艦に集まれとよ」


「貴様は何者だ!!!」


助けたはずのエルフ兵の槍の穂先が今度は自分に突き付けられるのを見てバローは溜息を吐いた。


「そんな事してる場合じゃねぇだろうが。まだ『機械人形』はわんさと居るんだぜ? 後ろの方の奴ら、そろそろ殺られっぞ?」


「た、隊長、助けて下さい!!!」


『機械人形』に槍を斬り飛ばされ包囲網を崩された兵士の叫びがバローへの包囲を綻ばせた。その合間をすり抜け、バローはエルフ兵の頭に剣を振り下ろそうとしていた『機械人形』の前に飛び込み、その剣を受け止めつつエルフ兵を蹴り飛ばす。


「ぐえっ!?」


「ボーッとしてんじゃねえ!!! お前らの筋力じゃコイツは壊せねぇのはもう分かっただろうが!!!」


『機械人形』を弾き、バローは切っ先を旗艦に向けて怒鳴った。


「まだ大将が生きてんだから、死にたくなけりゃそっちに行って命令に従えってんだよ!!! 魔法を使えないだけでエルフってのはバカになんのか!?」


「何を!!」


「控えろ!!」


「隊長!?」


殺気立つエルフ兵達を手で制し、隊長と呼ばれたエルフは兜の中からバローを睨んだ。『魔法鎧』を装備している所から見てこの船の責任者で間違いないだろう。


「……お前達は旗艦に向かえ。私はコイツが妙な真似をしないか見張っておく」


「危険です!! こんな、野蛮な人族などに……!」


「へぇぇ……助けられておいて礼も言えねぇってのが本当の野蛮人じゃないのかねえ?」


「ぐ、愚弄するか!!」


「控えろと言っている!!」


逸る部下を一喝し、隊長は兜を取って素顔を見せた。


「……失礼した、私はミルヒ・シュトーレンだ。『水将』軍第三部隊の隊長に任じられている。貴殿の助力に感謝する」


そこから現れたのは一部隊の隊長と言うには可憐に過ぎる、細面の麗人であった。エルフの男女全般に言える事だが誰も彼も造作が整っていて、さぞ自分は不細工に見えるだろうとバローは軽く溜息を吐いた。


が、相手が礼儀に叶うならバローも相応に対応するだけだ。


「……私は冒険者のバローと申します。ゆっくりと御挨拶出来ぬのは心苦しく思いますが、戦場ゆえご容赦下さい。今は――」


突然始まった流暢な口上にミルヒは面食らったが、その途中で側舷に張り付いて隠れていたであろう『機械人形』が左右からバローに跳躍して襲い掛かった。それに合わせて弾かれた『機械人形』も正面から迫り、バローの逃げ道は後方にしか存在しなかった。


だが、バローは腰を落とし、剣を一旦鞘に納め……


「こいつらを追っ払わなけりゃならないんでね!」


ミルヒは一瞬たりともバローから目を離さなかったはずだが、言い終えたバローは気が付けば剣を抜いていた。


それだけではない。


バローに殺到した『機械人形』が瞬時に崩壊、激しい金属音を立てて床に散らばり稼働を停止していた。状況から察するにバローが斬ったのだとミルヒは理解したが、一体何度斬りつけたのか、その場の誰にも分からなかった。


まるで、剣で魔法をかけたようだとミルヒには思えた。


「へっ、『夢幻絶影』のキレも絶好調だぜ。今夜の俺は無敵かもな?」


振り返ってパチリと片目を閉じるバローに、ミルヒの薄い胸がトクンと一つ、高鳴ったような気がした。

死体と敵ばかりの場所に行く悠と後ろでドヤ顔しているバロー。助けた相手も男と女で対照的です。シュルツ? ひたすら敵の殲滅だけに精を出していますよ。

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