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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
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10-8 立ち込める暗雲3

「それで、目的地へはどうやって赴く?」


「はい、そこはぶっつけ本番になってしまって申し訳ないのですが、ファル殿とアカネ殿のお力を借りようかと」


ハリハリは移動方法を尋ねられるとファルキュラスと朱音を手招きした。


「なんやの?」


「お手伝いですか?」


「ええ、半年前、ファル殿がここに来た時の魔法『水鏡越界ウォーターゲート』ですが、それを多少アレンジしてみました。あれは単体転移魔法でしたが、こちらはしばらくゲートを維持し、数人を送還出来るようにしてみたんです。私の使える転移魔法ではどうしても距離が足りませんのでね。こんな魔法陣です」


ハリハリが紙に書いた魔法陣を見せると、ファルキュラスは感心して頷いた。


「なるほど……ウチと水魔法が得意なアカネの力を合わせて門の強度を維持しよう言うんやな。ハリやん、あんたやっぱり天才やわ。……で、どのタイミングで服が破れるん?」


「やーぶーれーまーせーんーっ!!!」


「ジョーダンやジョーダン」


やれやれと肩を竦めるファルキュラスは朱音にもその魔法陣を見せると役割分担を始めた。ハリハリが珍しく張り詰めた表情をしていたので息抜きのつもりだったのだろう。


「この魔法はムチャクチャ魔力食いよるで。ウチ一人の『水鏡越界』ですらいざという時の奥の手やけど、他人を、しかも6人も飛ばすんは普通なら無理や。この改良型にしても、この状態のウチじゃ半分も送られんやろ。だからアカネとウチで『連弾デュエット』するんや。ウチの海気マリーンと同等の出力を出せるんはアンタしかおらんさかいな。やれるか?」


「愚問ね。でも、頼りにされるのは悪くないわ!」


「おーおー、元気で結構なこっちゃ、女はそのくらい勝ち気やないとアカンわ……ハリやん、座標を寄越してや。常に一定量の水がある場所やないと送れんで?」


「はい、ここに送って下さい。まだ枯れているという事は無いはずです」


ハリハリの指が地図の上を滑り、エルフ領の大きな湖を差した。


「主戦場に近過ぎると魔法が阻害されている可能性が高いですから。このマルドゥラ湖は水量も豊富で前線と付かず離れずの距離がありますので、転移先としてはうってつけです」


「了解や……くれぐれもムチャすなや。こっちからは送れても、あっちからは帰っては来れんのや。そうで無くても一回使えば今日はもう打ち止めなんやから」


「それで十分ですよ。お願いします」


そう言ってハリハリが『水幕ウォータースクリーン』を使って促すと、ファルキュラスは朱音と互いに頷き合った。


ファルキュラスが魔法陣を構築するのに合わせ、朱音は『天使の種アンヘルセーメ』を両手で祈るように包み込み、魔力マナの出力を上げていく。


(っ!! す、凄い勢いで魔力が吸われる!? こんなの30秒が限界!!)


明に限界能力を引き上げて貰っておくべきだったかと後悔した朱音だったが、既に魔力を注ぎ始めている以上、止める訳にはいかなかった。ここで悠長に魔力を回復している時間は残されていないのだ。


「…………っ、見つけたでえ!! 門を開く!!」


目を閉じて転移先を探っていたファルキュラスの言葉に従い、『水幕』が別の風景を映し出した。


「樹里亜、ここの指揮はお前に任せる。定時連絡は入れるゆえ、頼んだぞ」


「はい!!」


悠が樹里亜に言い置いてまず最初に『水幕』に飛び込み、続いてバロー、シュルツ、ギルザード、アルトが飛び込み、最後にハリハリが振り返って軽く会釈すると『水幕』の中に姿を消した。


術者が居なくなって維持出来なくなった魔法が崩れ、同時にファルキュラスが膝をつき、朱音がその場にへたり込む。


「はぁぁぁぁぁ……キッツいわコレ……」


「ふ、ふん……まだまだ余裕よ……」


「意地っ張りだね~朱音ちゃんは~」


そう言いながら朱音にコップを差し出す神楽は床の水たまりを見て呟いた。


「どうか~、みんな無事に帰ってきますように~……」


いつも通りののんびりとした口調でありながら、どこか真摯な響きを持つ祈りに、誰ともなく水たまりを見つめ同じように祈る一同であった。




「…………ぶはあっ!! ゲホッゲホッ!!」


突然水の中に放り込まれたバローは若干パニックになりつつも、足が着く事が分かり口内の水を吐き出した。


「も、もうちょっとマトモな場所は無かったのかよ!?」


「贅沢を言うな、水の中を通って転移するのだから予想して然るべきだろうに」


「……ちゃんと目的地に着いたようですね。見覚えのある風景です」


浅瀬から陸に上がった一行を『乾燥ドライ』の魔法で乾かし、ハリハリが古い記憶と照合して断定した。ファルキュラスと朱音は見事に指定通りの場所に繋げてくれたようだ。


「アガレス平原はどっちの方角ですか?」


「えーと、確か北の方角ですから……」


「ならばあっちだな」


あっさりと方位を特定した悠にアルトが質問した。


「何故お分かりに?」


「土地が変わっても星が示す位置は変わらん。古来旅人や船乗りはそれを頼りに世界を渡り歩いたのだ。俺も軍人の端くれとしてそれを知るだけだ」


「へぇぇ……」


「ならば先を急ぎましょう、どうやらナルハ殿は水路を取って戦場を目指したようです」


湖岸にある大量の煮炊きの跡からそれを察したハリハリが追跡を促すと一行は頷いて行動を開始した。


夜の森に踏み込むのは危険だが、このメンバーが遅れを取るような魔物モンスターが居るはずも無く、問題は身体能力に劣るハリハリをどうするかという事だったが、それはハリハリが自分で解決した。


「今回は出し惜しみ無しと言いましたからね、ご心配には及びません」


そう言うとハリハリは精神を集中し鎧に力を込めた。すると背部に透き通る羽が伸び、ハリハリの足が地を離れる。


「『妖精浮遊フェアリーフェザー』です。この鎧でしか使えませんが、念願の飛翔魔法ですよ。ユウ殿ほどの飛翔速度は出せませんけど、その分小回りは利きます」


「おいおい、今日は妙に頼りになるじゃねぇか!」


「ヤッハッハー、それほどでも……っと、今はそういうおふざけは無しです。行きますよ!」


ハリハリの移動問題が解消し、悠達はマルドゥラ湖から北に伸びる川に沿ってアガレス平原を目指した。順調に行けばここから2時間ほどの距離だ。


しかし、1時間ほど走った所でハリハリに異常が生じた。


「っ!? ちょっと待って下さい!」


「どうしたハリハリ?」


「『妖精浮遊』の調子が……まさか!?」


急に速度を落とした魔法にハリハリは『光源ライト』の魔法を行使したが、現れたのは普段の半分ほどの光量の『光源』であった。


「魔法の阻害が始まっています! 皆さんは周囲を警戒して下さい!」


その言葉に警戒し耳を澄ますと、森のあちこちから風とは無関係のざわめきが微かに感じ取られ、全員が素早く背中合わせに円を作って死角を消した。


「何だ、何が居やがる……?」


「微かに金属音がする……兵士か?」


「だとしたらドワーフかもな……」


場の緊張感が高まる中、徐々に大きくなっていく音の方向に視線が集まり、茂みが揺れたタイミングでバロー達は剣を引き抜いた。


「……止まりなさい、それ以上近付くと攻撃しますよ」


ハリハリがドワーフの言語を用いて呼び掛けたが音は止まらず、やがて茂みの中からそれは姿を現した。


「……子供の、兵士?」


そこから現れたのは身長120センチあるかどうかという、全身を金属の鎧に包んだ人物だった。悠達が兵士と判断したのはその人物の手に短い剣が握られていたからだ。


だが、悠達はそれが通常の生命体と異なる事にすぐに気が付いた。


「ユウ、コイツ……」


「ああ。……こんなに近くに居るというのに全く生気を感じん。気配も殆ど無い。ただの兵士では無いぞ」


「――武装確認、攻撃開始」


一瞬後、それは迷いなく悠達に襲いかかった。

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