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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
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10-2 愛と呼ぶには未だ遠く……2

自在奈落ムービングアビス』から、そしてヒストリアに受け継がれた女の面影から、ミロはその事実を認めているようだった。それはまた悠の推論でもあったのだ。


レイラが感知した結果、『自在奈落』と『影刃シャドーエッジ』は非常に近しい性質を帯びている事が既に分かっていたが、才能ギフト能力スキルに疎い悠にはそれが意味する所は分からなかった。ミロが感じる面影もミロ自身では無くその女性の物であるなら悠が気付けるはずもない。ただ漠然とした直感が悠の中でミロとヒストリアを細く結び付けていたに過ぎない。


調べる方法は存在したが、ミロが確信しているなら今更であろう。問題はそれから先である。


「……それで、お前はどうする?」


「どうもせぬ」


色々な意味を含んだ悠の質問に、ミロは即答を返した。


「別に家族の情を感じている訳でもない。祖父が悪名高い暗殺者ではあやつも生きにくかろう。我は名乗り出る気は無いし、何かしようとも思わん。手合わせしても燃える物も感じんからな……」


戦う事が生きる事となっていたミロがヒストリアとの戦闘にはある種の忌避感を抱いていた。それがどのような感情に由来するのかを知る者は当人を含めても存在しない。


「……長々と下らぬ戯れ言を聞かせたな、忘れろ」


長い独白を終えたとばかりにミロはその場から歩み去った。悠に話したからといって答えを求めていた訳では無いのだろう。ヒストリアとの戦闘に気が乗らないのも、女の遺言で赤子を託された事の延長であろうとミロは結論付けていた。


《……屈折した人生を送っているわね》


「それでもミロもまた人間なのだ。戦う事でしか人と関われないと思っているが、ヒストリアに対し何も思わぬ木石では無い。……ただ、それを家族の情や愛と呼ぶには未だ遠いようだがな……」


ミロは宣言通り、その後もヒストリアと関わろうとはしなかった。ヒストリアの方もミロの態度は癇に障るらしく、2人の冷戦が解ける事は無かったのである。




午前中で半年のおさらいを済ませ、悠は午後を会議に当てた。


「今後の活動予定だが……」


主だった面々が揃う中、悠は壁に貼られた世界地図を示した。


「大まかな行動の候補は2つ、エルフの所へ行くか、ドワーフの所へ行くかのどちらかになる。どちらも訪れる事にはなるだろうが、皆の意見を聞いておきたい」


「そりゃドワーフだろ」


他の誰かが口を開く前に、開口一番バローが断定するように提案した。


「俺達は多少なりともエルフの事は知ってるがよ、ドワーフなんざ見た事あんのはハリハリしか居ねぇんだ。伝聞以外、どんな種族かも知らねぇだろ? だったら会ってみるしかねーよ。ハリハリには悪いがな」


「いえ、この件に関してはワタクシは中立を守れませんから皆さんの意見に従いますよ」


ハリハリは自分の立場を弁え、軽く肩を竦めた。エルフであるハリハリの意見はどうしてもエルフ寄りにならざるを得ず、余計な先入観を与える事になるからだ。


「過去の文献にも大した情報はありませんね。この中ではハリハリ先生が一番詳しいでしょうけど、フィルターの掛かった情報になってしまいます。保有技術も進化しているでしょうから、ここはまずドワーフを良く知っている現代のエルフにドワーフの技術や戦闘能力だけでも情報を得ておくのが最善だと思います。出来ればエルフの情報も欲しいですが、立場が立場だけにあまり聞けないかもしれません」


樹里亜の提案は行動を起こす前に情報を集めるという真っ当なものだった。どちらに行くとしても、危険を回避する情報があればそれに越した事は無いし、エルフの名は省いているが、それがナターリアである事は明白だ。


「それは前提条件として含めるべきだな。たとえエルフの方を先にするにしても、アリーシアに呼ばれたなど言った所で門前払いを食っても不思議では無い」


「まあ……仮に下知があって入国出来ても暗殺くらいは覚悟して然るべきでしょう。アリーシアには「招いた人族が密かに暗殺計画を立てていたので処分した」とでも言えばいいと考えるでしょうし」


「一応伝手があってそれかよ……」


げんなりとバローが愚痴るが、エルフを統べるアリーシアもその心まで縛る事は不可能だ。人族と手を結ぶなどおぞましいと考えるエルフは山ほど存在するし、直接的な行動に出る者は必ず現れるとハリハリは踏んでいた。


「そもそも今の段階ではエルフと接触する大義名分が無いのですよ。それでこの半年、ワタクシは暇を見ては考えたのですが、メイ殿とアルト殿、それに各国のお力を借りてそれを作ろうと思うのです」


「僕とメイちゃんですか?」


この場に呼ばれていたアルトは急に出て来た自分の名に反応した。


「はい。もう我々の感覚では半年前ですが、ユキヒト殿の言葉通りなら『星震スターシェイカー』で被害を被ったのは人間だけでは無いはずです。そこで、ルーファウス殿やローラン殿、カザエル殿にバーナード殿の連名でエルフへの慰問使節団としてエルフ領に派遣して貰うのですよ。年中戦争ばかりやっているエルフやドワーフに食糧の余剰が豊富にあるとは思えませんし、エルフィンシードはともかく各地は困窮し始めていると予測されます。そこでメイ殿に食糧を作って貰い、アルト殿を使節団の頭としてエルフ領に赴く訳です。ローラン殿の実子であるアルト殿なら十分に名代として務まるでしょうし、自分の身を守れる武力もあります。それに、アルト殿の容姿ならエルフに引けを取りませんしね。威厳の方はユウ殿が側に居れば大丈夫です」


それはハリハリが考えたエルフ領入国作戦である。女王アリーシアと王女ナターリアは、特に後者は悠の行動に一定の理解を示している。だとすると逆に奇襲するかのように迫るよりは、和平というお題目を掲げつつ堂々と乗り込むのが得策だとハリハリは判断したのだった。慰問と復興協力、それに『星震』の情報を携えて行けば、多少なりとも交渉の余地は生まれるかもしれない。場合によっては『天使の種アンヘルセーメ』や神鋼鉄オリハルコンなどの物証を提示してみるのも手だ。


「そんな七面倒な事よりも簡単な交渉方法はあるぜェ?」


「……それは何でしょうか、サイコ殿。言っておきますが暗殺とか言わないで下さいよ?」


「それもいい手なんだがなァ。何しろ、ここには金もあるし世界一の暗殺者だって居るんだからよォ……おっと、怒るなよ優男、ニヤケ面が崩れてんぜェ?」


サイコの発言に悪意を感じ取ったハリハリは普段の余裕を置いて来たようで、サイコを鋭く睨んでいた。同胞に辟易して国を飛び出したハリハリだが、それでもハリハリもエルフである。あちらから手を出されれば反撃も否は無いが、率先して暗殺などは許容出来なかった。


しかし、ハリハリはまだサイコを甘く見ていた。サイコの案はもっと血みどろで生臭いものだったのだ。


「……ドワーフはよォ、ミザリィから貰ったナニカを持ってんだろ? だったら使いたいなァ、使ってみたいよなァ……きっと、使うとしたら長年殺し合いして来たエルフかなァ……?」


「……何が言いたいのですか?」


サイコが何を言おうとしているのかを悟りながらもハリハリはサイコに問うた。




「簡単だァ……エルフとかしばらくほっとこうぜ? ドワーフにボッコボコのグッチャグチャにされるのを待って、惨めったらしく小便と鼻水漏らしながら誰でもいいから助けてェっていう状況になるまで待つんだよ。そこで悠が救世主よろしく手を差し伸べりゃエルフは制圧完了、ドワーフはその後に疲弊してる所をブッ潰せばこりゃ楽チンだァ、ヒャハハハハハハハ!!」




ドン!!




ハリハリの怒りが頂点に達しようとした瞬間、悠が機先を制して壁を叩いて気を逸らした。悠が止めなければ、ハリハリは魔法の一つもサイコに行使していたかもしれない。


「……落ち着けハリハリ、俺がそんな手に乗ると思ったか?」


「っ……いえ、すいませんでした」


「サイコも怒ると分かっている事を言って無駄に挑発するな。時間は有限だ」


「へーへー、スイマセンデシタァ~」


立ち上がり掛けたハリハリが腰を下ろし、サイコが恐れ入ったとでも言いたげに顔を背けると緊張感が緩んで誰ともなく溜息が漏れた。


(でも、戦略としては有効な手段であるのは確かだわ。サイコさんは悪意で言っているけど、雪人さんもこれくらいは言いそうだし……)


策を成すのに情を排する事も多々ある雪人なら確かにこれくらいは言うだろう。そう思えばここで心の準備が出来たのは良かったかもしれない。頭の中でサイコと雪人が喜々として鬼畜な作戦を練る光景が浮かび、樹里亜は軽く頭を押さえた。


サイコのアーヴェルカイン嫌いはまだまだ根が深い。今の発言も自分の経験が吐かせたものだった。


サイコが泣いて助けを求めた時、誰がサイコを助けたか? 答えは誰も、である。ならば助けて貰えるだけマシだろうというのがサイコの偽らざる心境であった。殺し合う事でしか接触出来ないのなら滅びるまで殺し合え、だ。


「基本的な案はハリハリの物で良かろう。ドワーフについては情報を得てから改めて協議し、最終的にどちらに先に赴くのかを決めようと思う。レイラもしばらくは動けんからな」


しかし、悠が方針を定めればサイコは口では不平を漏らしつつもそれに従うのだ。そっぽを向いたまま舌を出しつつもサイコが異論を挟む事は無く、結論は先送りにしつつも一応の方針は定められたのだった。

そりゃあ温厚なハリハリも怒りますよ……。

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