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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第二章 異世界出発編
93/1111

2-14 猛き戦場の風4

残酷描写有りです。二章に入って何度も言っている気がしますが・・・

「お、おとう、さん?」


「自分には君くらいの子はいない」


少女は突然の出来事に混乱しているらしく、悠をお父さんなどと呼んで来たが、悠が否定すると顔を赤くしてわたわたし始めた。ちょっと恵に似た匂いがする子だった。


「混乱しているようだな。後は自分に任せて少し休むといい」


そう言って悠は右手を少女の頭に乗せると、レイラに意識を落とすように頼んだ。


(レイラ、この子にはしばらく眠って貰う。この周辺にこの子以外の子供の姿が見えん。少々敵を蹴散らして安全を確保してからこの子に尋ねるとしよう)


(ええ、分かったわ。ここから先の光景は子供には目に毒だものね)


そしてレイラは少女に優しく語り掛けると、その意識を落とした。


《おやすみなさい》


その声が聞こえたかどうかというタイミングで、少女は意識を手放して崩れ落ちた。それを悠は右手だけで支え、左手の火球を前方に投げ返して周囲を見渡した。


そして近くに幌付きの馬車を見つけると、投げ返した火球が爆発し敵の部隊が混乱しているのが分かった悠は、レイラに先にこの場の安全の確保を頼む事にした。


「レイラ、この子をあの馬車の中に置いていく。物理防壁を頼めるか?」


《いいけど、このサイズで、しかもここから離れると、5分持てばいい所よ?》


「構わん、上空から敵陣営に向けて拡散竜砲を打ち込んでしばらく混乱させる。その混乱に乗じてこの子に他の子供達の居場所を聞いて捜索、その後に離脱する」


《時間との勝負ね》


レイラとその様な相談をしながら、悠は馬車の幌を開けると、そこにはボロボロになった少女が横たえられていた。


悠は一目で少女が殆ど手遅れである事を悟り、支えていた少女を素早く下ろすと、そのボロボロの少女に側に屈んでレイラによる診察を行った。


「レイラ、どうだ?」


《・・・・・・殆ど死んでるわ。体の損傷も酷いけど、もう精神体メンタルも崩壊寸前で、星幽体アストラルが遊離しかかってる。すぐ治療しても、助かる可能性の方が分が悪いわね。余命3分って所よ》


レイラの口調は苦かった。星幽体にまで影響が及んでいては、如何なレイラといえどそう簡単には治す事は出来ないのだ。


「体だけでも応急処置する。レイラ、『再生リジェネレーション』だ」


《了解》


時間が無いせいか、レイラの返答も短い。それだけ余談を許さない状況なのだ。


すぐに赤い靄が少女の全身を覆うと、晴れた時には一応それなりに少女の体は修復されていたが、相変わらず呼吸は細い。ここから先は運と、この少女の精神力に賭けるしか無い。


「そこに隠れている者へ告ぐ!!我らは既にこの馬車を包囲している!!大人しく投降しろ!!」


そこに外からアライアット軍と思しき者達からの投降を促す声が掛けられた。既に馬車は多数の兵士によって包囲され、いつでも弓や魔法を放てる様に兵士達が準備している。


「レイラ、俺が馬車から一歩離れたらそのまま防壁を展開。それと、『竜ノトゥルーサイト』も起動しておいてくれ」


《分かったわ。ユウ、なるべく早く済ませて》


「聞いているのか?そこに『異邦人マレビト』が居るのは分かっている!!出てこんなら火を放つぞ!!」


どうやらその声の主は気が長い方では無いようなので、悠はさっさと外に出る事にした。


悠が幌を開いて中から出てくると、周囲を包囲していた兵士達にどよめきが起こった。


悠の身に付けている赤い竜鎧が余りに見事な意匠だった為であり、また、その威風堂々とした姿に悠を知らないアライアットの兵士もこれは只者では無いと伝わったからだ。


兵士達が呑まれている間に、悠は馬車から一歩離れると物理防壁で馬車を覆った。


「一つ尋ねる」


悠は周りに居る兵士など何の障害でも無いと言わんばかりの静かな声音で一番前にいる男に尋ねた。


「な、なんだ!?」


その部隊長と思われる兵士も悠の気に呑まれていたせいで、咄嗟に対応が出来なかった。


「その『異邦人』とやらは他にも居たと思うが、その所在は知っているか?」


その言葉に呑まれていた部隊長は少し気を取り直し、ニヤつきながら悠に答えた。


「ああん?他の『異邦人』共がどうなったか知りたいのか?クックック、ホレ、あれを見てみろ」


そう言って後方を後手に刺す部隊長の言う通りに後ろを見た悠は、――少しだけ顔が険しくなっていた。


そこにはもう明らかに死んでいるのが分かる子供達の遺体が無造作に積んであった。中には既に死後数日経っていると思われる遺体もあり、傷口が腐り始めているものもある。


「昨日から『異邦人』が見つからなくてどうしたものかと思ったが、今日はツイてるな。だからさっさと投降しろ。後ろのガキ共の様になりたくなかったらなぁ?」


部隊長は周囲の兵士と共に汚い笑い声を上げた。兵士達も自分達の優位を思い出していたのだ。


「・・・・・・良心が咎めんのか?あの様な所業を」


悠の言葉に部隊長は笑いを堪えながら答えた。


「ああ?お前バカだろ?ここは戦場だ。戦場で敵を殺して何が悪い!それになぁ、『異邦人』は『人間』じゃねぇんだよ!こいつらは見せしめに国に持ち帰って広場でその腐ったツラを晒し首に・・・」


「それ以上口から糞を垂れ流すな。下種共が」


悠の抑えていた殺気が一気に膨れ上がり、周囲の兵士達に叩き付けられた。戦場に生きる兵士達だけあって、その殺気に反応した全員が悠を警戒して注目する。


「戦場で敵を倒す事について四の五の言うつもりは無い。俺とて軍人だ。だが・・・望まぬ戦いに巻き込まれた子供達を哀れに思う心すら持たずに死体すら嬲る貴様等は、俺の目にはもう人としては映らん」


「な、何を戯言を・・・」


「貴様等は単なる死では生温い。・・・俺の名は神崎。貴様等を壊す者だ」


悠は一つの決断をして、レイラに言った。


「レイラ、『豊穣ハーヴェスト』を切れ。そして『竜気解放・プラーナリバレート・サード』だ」


《・・・ええ》


悠のやろうとしている事を伝えられて尚、レイラは止めようとはしなかった。むしろ悠が殺さないつもりなら、自分で『豊穣』を切るつもりですらあった。


しばらくすると、その場に立つ悠の体から赤いオーラが立ち上り始め、それはどんどん放出量を増大させていった。


それを見た部隊長は流石に何かまずいと思い、咄嗟に周囲の兵士達へ攻撃命令を下した。


「こっ、殺せぇ!!!」


その言葉に金縛りを解かれた兵士達は弓を、火球を、風の刃を、石の槍を悠へと殺到させた。しかし、悠はオーラの残影だけを残し、それらをゆらりゆらりと回避していく。


「な、なんだコイツ!!ま、まるで風を相手にしているみたいだ・・・」


――この時、この言葉が後々まで悠を飾る二つ名として誕生した。




即ち、『猛き戦場の風』竜騎士カンザキとして。




悠が回避している間に、レイラは一つの技を組み上げた。もう使う事など無いと思っていたし、使われる事が無ければいいとも思っていたが、その技は再び日の目を見る事になった。そして悠の意思と共にそれは発動した。







「呪え、輪廻の彼方まで。『竜ノ怨嗟アブソリュートイロウション







悠の手から黒い光とでもいうべき塊がいくつも放出され、周囲の兵士達に襲い掛かった。余りに高速なそれを至近距離から回避出来た兵士はおらず、いくつもその黒球をその体に受けてしまう。


「ひぃ!!・・・・・・?」


「あれ、何とも無い・・・ぞ?」


「ああ、特に何も・・・無いよな?」


しかし、その黒球を受けた兵士達には何の異常も見られなかった。やたらと派手な攻撃だったが、どうやら不発だったようだ。その事に心に余裕が出て来た部隊長は、悠へと嘲りの言葉を掛けた。


「脅かしやがって!タダの手品とは、ご大層な鎧を着ている割に――」


そのセリフの途中で悠が左手を開いて部隊長に向け、右手は顔の前で人差し指を立てている。少し黙っていろ、という合図だったが、左手はそれだけのサインでは無かった。親指から一つずつ指が折られて行ったのだ。それは、兵士達へのカウントダウンだった。人として、まともな意識を残しておける砂時計の最後の数粒だったのだ。


5、4、3・・・


その動作の意味に気付いた部隊長はこれまでの人生で最大の焦りを持って悠へと飛び掛ろうとした。


2、1・・・


しかし、指が折られる速度は部隊長の足の速さを軽く凌駕した。そして無慈悲に最後の指が折れて無くなる。


・・・0。


その瞬間、黒球を受けた兵士全員に凄まじい悪寒が忍び寄った。それは体が感じた危機では無く、もっと人間としての根底の部分が恐れに竦んでいるかの様に感じられた。それはやがて本物の痛みとして兵士達に襲い掛かった。


「ぎっ!?い、痛てててってって!!!!!」


「な、ぐぎ、ぎぎぎぎぎぎぃぃぃいいい!!!」


「げぎゃげがぁぁぁぁぁあああ!!!!」


兵士達の体には何も異常は見られない。それなのに兵士達はまるで極限の拷問を受けているかの様にその場に転げ回ってのたうった。痛みは途切れる事無く兵士達をいつまでも蝕み続けた。


悠は痛みに悶絶する部隊長の側に屈むと、感情の篭らない声で説明した。


「これが精神体星幽体の融合奥義ユナイト、『竜ノ怨嗟』だ。この技は貴様等の精神体、星幽体に侵食性の毒と化した竜気プラーナを送り込み、それらを蝕み続ける。その苦しみは一生続くぞ、際限無くな」


その言葉にまだ意識が少しでもある内に自死を選ぼうとして腰の短剣を手に取ろうとした部隊長に、悠は更なる酷薄な事実を告げる。


「ああ、自殺しても無駄だ。この技は物質体マテリアルに効果を及ぼす技では無い。死んでも精神体は保護されているから意識だけで痛みは続く事になる。そして、いつかお前らは侵食されきって消滅する。最早人として輪廻に戻る事は無い。良かったな、人でなし共」


絶対零度の声音に兵士達は自分達が絶対に怒らせてはならない者の怒りに触れた事を、今更ながらに悟った。しかし、次の瞬間にはまた襲ってくる痛みにのた打ち回るのだ。彼らは今、正しく苦しむ為に生きていた。そして、これからも生きていく。


後に収容された兵士達の様子から、『猛き戦場の風』の異名と、そしてその極悪極まりない技の恐ろしさでアライアット軍の恐怖の対象となり、竜騎士カンザキは不可侵な存在としてアライアットで認識されるに至るのであった。

迂闊に殺すと魔界に行くので、魂ごと消滅させる手法を悠はいくつか持っています。ここではその中でもグロいのをチョイスしました。


苦痛の説明としては、小さい獣に本当に少しずつ全身を齧られ続ける様な痛みと言えば何となく伝わるでしょうか。

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