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9-105 三王会議7

それから一時間後、応急処置を施された『遠隔視聴リモートビューイング』に再びカザエル達の姿が映し出されると、民衆の混乱は沈静に向かった。


《皆の者、安心するがいい。この街を襲った賊共は全て除かれておる。火災に遭った家屋も有志の協力で鎮火したが、再建は国で保障しよう。この程度で三国の関係にヒビを入れようとは笑止千万。我らの新しき絆が揺らぐ事はあり得ぬ》


堂々としたカザエルの言葉と、その両脇で頷くルーファウスとバーナードに人々はようやく胸を撫で下ろした。タイミングからして各国の共同路線に反対する勢力の仕業であろうと思われたが、戦争の火種が再燃する事は無さそうだ。


そんな映像に釘付けになる民衆を余所に、悠や他のメンバーは密かに合流してノースハイアを脱し、屋敷へと戻ったのだった。




「ったく、突然片腕無しで戻って来やがった時は焦ったぜ。しかも探してたサイコと仲良く血塗れだしよ」


「レイラ殿もご機嫌斜めで怖かったですしね。一体どんなやり取りがあったのやら……」


「明日まで絶対安静という事でユウは休ませたが……当のサイコはどこだ?」


「まだお風呂に入ってると思いますよ。広いお風呂で喜んでましたから」


樹里亜が言うと、バローは真面目な顔で眉を顰めた。


「……誰か監視は?」


「いえ、つけてませんけど……」


「ちょっと平和ボケし過ぎじゃねぇのか? ……仕方ねえ、ガキに危ない真似はさせられねぇからな……」


真剣な表情で腰を上げるバローに、こちらも真剣な表情でハリハリが腰を浮かせる。


「ワタクシもお供しますよ。バロー殿にだけ危険な真似はさせられませんからね」


「……へっ、お前もバカな野郎だな」


「なぁに、我々は一心同体ですからね!」


まるで危険な前線に赴く戦友のようなやり取りだったが、要は覗きの相談であった。


「……シュルツさん、この2人去勢して下さい」


「承知」


空気に流されない半眼の樹里亜が告げるのと、シュルツの双剣が閃くのは同時であった。


「「ひょっ!?」」


こちらも同時に腰を引いたバローとハリハリの突き出た尻をギルザードが纏めて蹴り飛ばすと、2人は仲良く失神し大人しくなった。


「全く……こいつらは真面目に出来んのか?」


「それはどうでもいいとして、悠先生からも詳しい話を聞いていないんですが、サイコさんはこれからここに住むという事でいいんですかね?」


「いいぜー」


と、そこに風呂上りのサイコがやって来て樹里亜の言葉に答えた。服はこちらで用意した物だが、前のボタンを半端にしか留めていないせいで上気した肌と共に中々不道徳な格好となっていたが、それよりも痛々しく残る傷の方が目に付いた。


ついでに言うと今のサイコは全く変装をしていない素の状態である。黒の短髪に化粧っ気の無い顔は弛緩して年相応の女性らしさを感じさせたが、僅かに開いた瞳だけが鋭く周囲を窺っていた。悠以外にはまだ心を開いている訳ではないという事だろう。


「オレはこの世界が大嫌いだからな。仏頂面がここじゃねェどこか別の世界に連れてってくれるってんなら願ったり叶ったりだ。今すぐじゃねェにしても当てがあるんだろ?」


「ええ、今すぐは無理ですけど、悠先生ならきっとサイコさ、いえ、彩子さんの――」


と、樹里亜がサイコの本名を漏らした瞬間、サイコは樹里亜の眼前に拳を突きつけていた。


「先に言っとくが、オレを彩子と呼ぶな。それは何も出来ずに震えてたクソガキの名前だ。二度は忠告しねェぞ?」


「……ええ、理解しました。ただ、誤解しないで貰いたいんですが、私はサイコさんを尊敬しているんですよ? 同じ『異邦人マレビト』の生き残りの後輩として」


「ん? ……そうか、お前、『異邦人』かよ。お互いよく生き延びたモンだなァ!」


弛緩した表情から怒りに、そして再び弛緩した表情に戻るサイコは上機嫌で樹里亜の肩を抱いたが、樹里亜は内心で分裂症に近いサイコに溜息を吐いた。迂闊な事を口走れば命は取らないまでも骨くらいは簡単に折ってきそうだ。


しかし、どうやら『異邦人』には無体な事はしなさそうだという事は確認出来ただけでも良しとすべきだった。大人は各自切り抜けて貰うしかないが。


思えば今バローが静かなのは良い事だった。召喚に関わっていたバローが気軽に挨拶などしようものならサイコとの殺し合いが始まりかねない。


とにかく、ここは良好な関係を築くのを第一とすべきだと、樹里亜はサイコを誘った。


「他の子達も紹介したいので付いて来て貰えますか? 大人の人は追々紹介するという事で……」


「この世界の奴らなんぞどォでもいいから会わせてくれよ。どーせクソばっかだろ?」


サイコの言葉に広間の空気が重くなり、剣呑な気配が漂い始めた。


「……『外道勇者』にクソ呼ばわりされる筋合いは無いが?」


「あん? ……ああ、テメーシュルツじゃねェか。相変わらずクソ怪しいなァ。どうせならその口の中にも布突っ込んでずっと黙ってろや。なんならオレが突っ込んでやろうか?」


「下劣な妄言しか吐けぬなら拙者が縫い付けてやっても構わんが?」


「出来るモンならやってみろや。セッシャセッシャってバカみてェな一人称しやがってよォ。いい歳して恥ずかしくねェの~?」




ガキンッッ!!!




返答は両者の抜刀によって行われたが、それは中間点に伸ばされた大剣によって止められた。


「……馬鹿な真似は止せ、どちらもユウに拾われてこの場に居るのだろうが。恩人の顔に泥を塗るのが貴様等の生き方か?」


「……申し訳ありません、姉君」


「フン……本気でやり合うつもりはねェよ」


ギルザードに諭され、シュルツとサイコは剣を引いたが、友好的とは言い難い有り様にギルザードは溜息を吐いた。


その間にサイコはサッサと樹里亜を伴って出て行ってしまい、シュルツも一礼して広間を辞した。


「……ユウももう少し言い含めておけばいいものを」


「最初はしょうがねぇだろ。ガキ共と付き合ってる間に丸くなるのに期待しようぜ」


いつの間にか気絶から復帰していたバローが床に寝そべったまま言うと、ヒョイと体を起こし尻をさすった。


「起きていたなら止めんか。私にだけ慣れない仲裁役を押し付けるんじゃない」


「俺が止めても逆効果だろ。下手すりゃこの場でマジモンの殺し合いになるぜ」


ふざけているようで、バローの状況認識は正確であった。だからこそ先にサイコに話を付けにいこうとしたのだと察したのはハリハリだけだったのだと、今更ながらにギルザードは気が付いた。


「あのなお前ら……道化を演じる前に正直に話さんか!」


「何言ってんのか分かんねーな。俺は風呂入って寝るぜ。おーイテェ」


大げさに痛がりながら部屋を出て行くバローを睨み、ギルザードはハリハリに目を移した。


「ハリハリ、次はお前が止めろよ。私は知らんからな」


「……虚弱貧弱なエルフに近接戦闘は無理ですよ。ワタクシに出来るのは最悪に至る前にそれを口八丁で有耶無耶にするくらいのものです。いよいよになればギルザード殿かユウ殿以外止められないでしょう」


やはり気絶から復帰していたハリハリが尻を突き出したまま器用に肩を竦めた。


「バロー殿は召喚に関して負い目がありますからね。腕の一本くらいは差し出すつもりだったのかもしれませんが、厳しい事を言わせて貰えば自己満足の為にユウ殿に無駄な力を使わせたくはありません。そもそも、サイコ殿の召喚の際にバロー殿はまだ役目に就いていなかったのですからね。責任の拡大解釈をしていけばキリがありません」


「意外だな……お前がそういう事を言うのは」


冷たいとも取れるハリハリの言い草にギルザードが首を傾げたが、ハリハリは正直に答えた。


「ワタクシの予測が正しければ、この先バロー殿はもっと苦しい立場に立たされる事になるかもしれませんのでね。罪悪感で動揺して大切なものを失って貰っては困るのです。ところでギルザード殿……」


「何だ?」


ギルザードが意図の読めないハリハリの発言の真意を尋ねる前に、ハリハリがギルザードに呼び掛けた。


「ワタクシ、さっきの蹴りで腰が抜けたので起こしてくれません? 出来れば優しく抱っこしてお部屋に送って下さると嬉しいんですが……」


「……」


ギルザードがもう一度ハリハリの尻を蹴飛ばした事は言うまでもない。

改めて絡ませてみて分かったんですが、超相性悪いですね。サイコは基本的にアーヴェルカイン人が大嫌いなので……。


しかもまだここにミロが加わる事を誰も知らないという。嵐の予感がします。

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