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1-2 龍殺しの竜

最初にソレが世界に現れたのは、今から20年前の事だった。


ソレは驚くべき速度で人間社会を侵略、あるいは蹂躙していった。


ソレは、速く、強く、堅く、賢く、恐ろしく、そして残虐だった。


ソレはこの世界の者達の誰もが知っている生き物であった。そして誰も見た事が無かった。


ソレの姿を見た万人の見解の一致をもって、ソレの呼称は決定された。


即ち、敵対する者『DORAGONドラゴン』と。


しかし、異世界からの侵略者と思われる『DORAGONドラゴン』と同種族であるにもかかわらず、人間の側に与する者もまた同時に現れた。


彼ら、或いは彼女らを指す言葉は、初めて現れた東方のある国で『DORAGONドラゴン』を指す語が用いられた。


共に戦う者『RYUリュウ』と。


そして『RYUリュウ』と心を通わせ、彼らを武器化して戦う者を『竜器使い(リュウキマスター)』、また、更なる力を発揮する為にその身に鎧状に彼ら、彼女らを纏い、その莫大な力で人々を護る存在を、人々は希望を込めて『竜騎士りゅうきし』と呼んだ。









「神崎竜将、Ⅸ(ナイン)クラスの殲滅、終了しました!!」


「そうか、ご苦労」


得体の知れない臓物やその内容物、四肢や骨、そして原型すら留めていない何か。それを支える荒廃した大地。いまだ黒煙は空を焦がし、苦鳴は止まない。ここは正しく戦場であった。


そんな戦場の最前線に二人の竜騎士があった。


「現状で生き残っているのはどの程度だ、千葉虎将」


「ハッ、少々お待ちを……現在生存中の竜騎士は、自分達を含めて5名。竜器使いは21名。一般兵士は後方待機の為損害軽微、以上であります」


元々竜騎士は12名、竜器使いは88名いたのだが、この最終決戦において既に全体の4分の3は逝ってしまっている。だがそのおかげで、敵の首魁たるⅩクラスの『ドラゴン』終末の大龍「個体名:アポカリプス」の喉元まで迫る事が出来たのだ。(ちなみに二つ名に龍の字を当てるのは敵対種『ドラゴン』に対してのみである)


多数の兵力というものが意味を成さなくなってしまった現代において、正にこの場には兵站の為の一般兵士を除けば、一騎当千の強者が集結していた。


勝てば生、敗れれば滅亡。


それゆえ、人類はこの決戦に全ての戦力を傾けた。


「では千葉虎将、これが東方連合国家軍戦闘竜将、神崎かんざき ゆう最後の命令である」


東方連合国家軍戦闘虎将、千葉ちば まことはその言葉に襟を正す。


もはや生きて帰る事など望んではいない。真の望みは最期まで悠と共に戦場を駆け、出来うるのならばほんの少しでもいいから悠の役に立って死にたかった。目の前のこの生きる事に不器用な上官より後に死ぬ事だけは、絶対に許せなかった。


だが―――


「貴官は残存兵力を率いて早急に戦場から離脱するべし。然る後、本国にて待機。我還らざる時は代わって指揮をとれ。以上だ」


「なっ!?」


「複唱せんか、千葉虎将」


愕然とする真に悠はあくまで平坦に告げる。


「で、でき、出来ません!! 自分も連れて行って下さい!! 神崎竜将!!」


「駄目だ。貴官の能力は解析、索敵方面だ。対アポカリプスの戦術案は作成済みであり、戦闘において貴官に出来る事は無い。しかし撤退……離脱に関しては貴官の能力は不可欠である。敵残党を警戒しつつ、全軍を統括し、一人でも多くの兵を国に帰す事が、貴官の出来る最善である。千葉虎将、復唱を」


「お願いします神崎先輩!! オレもアンタと最期まで戦いたいんだ!!」


真の言葉遣いが24歳相応の若者のそれに戻っていた。しかしそれだけにその言葉は一切の脚色を排除した真の心からの叫びだった。


「お前は何時まで経っても学生気分が抜けん奴だな」


そう言った悠の顔に、ほんの微かに――本当に微かに苦い笑みがあった。


真はその顔をみて呆然とした。あの「鉄仮面」「感情機能不全」「冷酷鬼」などを皮切りに、一切感情を露わにしない神崎 悠が……今確かに笑った?


「貴様、まさかとは思うが、俺が本当に死ぬとでも思っているのではなかろうな?」


錯覚かと思われるほどに、一瞬で元の無表情に戻った悠が気配だけで真に凄んでくる。


「は、いえ、その……」


急な感情の落差に上手く言葉を返せない真に、更に悠は言いつのる。


「この後の戦いでは周囲を気にして戦う余裕など無い。だから前もって貴様に人払いを任せただけの話だ。それに俺には……レイラがいる。むざむざ殺されたりはせん」


身に纏う赤い竜鎧の胸にある宝玉が点滅してその存在をアピールしている。同じく竜鎧を着装している真にもその声が聞こえた。


《マコト、これはユウが自分を犠牲にして、貴方達を逃がそうとして言っているのではないわ。最も勝率の高い戦術を、ユキヒトと相談して決めたのよ。だからお願い、早くここから撤退して》


その言葉に真の顔が歪む。参謀竜将 真田さなだ 雪人ゆきひと。この戦いに出る前から知ってたクセにあえて言わなかった性格の悪いもう一人の先輩に、真の反論は封じられてしまった。ましてや大恩人(大恩竜?)たるレイラにお願いされてはもう真には従うしかない。


「……分かりました、千葉虎将、残存兵力を率いて早急に戦場から離脱し、然る後、本国にて待機します!」


ビッと音が鳴るほどキレのある敬礼と共に、真は命令を復唱する。


「しかし、指揮は最高司令官たる竜将が執るのが東方軍の決まりであります。自分はあくまでもその座をお預かりするのみでありますので、一刻も早いご帰還をお待ち申しております!」


それと共に山吹色の竜鎧の胸の宝玉が点滅し、その意志たるガドラスがレイラと悠に声をかける。


《レイラ、生きて帰れよ。ワシはまだお前を諦めてはおらんのだからな。それとユウ、お前とは帰って来た後決着を付けてくれる。だから……死ぬなよ》


ぶっきらぼうなセリフだったが、その声音には真実の響きがあった。


《私はユウの物だって言ってるのに、貴方は聞かないのよねぇ……》


「ああ、自分は死なん。さぁ、行け、千葉虎将」


こちらもビッと敬礼を返し、戦場を振り返る。


「御武運を!」


背後の真が遠ざかっていく。アポカリプスの顕現までは後1時間といった所だろう。


「さてレイラ、とうとうここまで来たな」


《ええ、数多の修羅場をくぐり抜けて今私達はここにいるわ。それもこれで終わりになるかと思うと、少し寂しいわね》


「俺は多くの約束の果てにここにいる。父上、母上、香織……そしてレイラ、お前ともな」


《果ての地、ね。私は約束を破る男は嫌いよ、ユウ》


「ではせいぜい嫌われないように頑張らせてもらおうか」


















―――悠が国へと凱旋したのはその三日後の事であった。

ドラゴンはⅠ~Ⅹの10等級で表しております。

竜騎士は12名を星座、竜器使いは星の名前から対応させています。(竜器使いは未出ですが)

悠のレイラはヴァルゴ(乙女座)、真のガドラスはライブラ(天秤座)です。レイラが唯一の女性型なのでヴァルゴ(後ついでに悠が乙女座なのもありますが)、真は情報探査系なので(?)ライブラです。

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