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9-79 龍巣突入9

「……酷い有様だな」


「う~、ぺっぺっ……ユウってばやり過ぎだよぉ!」


ようやく収まった砂煙にウィスティリアは半ば呆然と防壁を解除した。背後に居て、尚且つ防壁を張っていてもその余波だけでウィスティリアはその場に留まるのが精一杯であった。もし射線上に居たら掠っただけで消滅していただろう。


「済まん。だが、あれでも多分殺せてはいないと思うぞ。次はもっと上手くやるつもりだが……」


「あれで死なないのか?」


《倒したと思い込んで油断するよりその方がマシでしょう?》


「それはそうだが……」


今の悠の攻撃で死なないのならウィスティリアは自分には殺せそうに無いなと頭を切り替えた。またちょっかいを出して来た時が心配だが、今は先にやるべき事が山とあり、それは悠も同様だった。ドラゴンズクレイドルは制圧したが、まだ戦いが終わった訳では無いのだ。


「ウィスティリア、俺は今からプラムドの――」


《ユウ、その心配は無いみたいよ》


助太刀に、と言おうとした悠の言葉を遮り、レイラが強化された感知能力で一群のドラゴンを感じ取った。その先頭を飛翔するドラゴンはプラムドだ。


外に通じているお陰で、悠とプラムドはすぐに再会を果たす事が叶ったのである。


「ご無事でしたかユウ殿、ウィスティリア様も!」


「ああ、少々禍根は残したが、龍王、ストロンフェス、ルドルベキアは排除した。残りは外に居る連中だが……俺がやるか?」


悠の「やるか?」は「殺るか?」であり、まだ50近くは居るであろうドラゴンに対して何の気負いも感じていない振る舞いにプラムドはごくりと唾を飲み下した。薄く陽炎の様に発せられる殺気からして、冗談でも何でもないと付き合いの短いプラムドでも確信出来たのだ。


「い、いえ、これ以上ユウ殿のお手を煩わせるのは不義理というもの。龍王無き今、数でも質でも勝る我々と戦うほど愚かではありますまい。ですから――」


と、プラムドは一緒に降り立ったはずのスピリオ達がやけに静かだと気付き背後を振り返ると、3体のドラゴンは顔色を無くして硬直していた。


「す、スピリオ、あなた龍王相手でもやり合うつもりだったんでしょ? だ、だったら話しかけてみなさいよ!」


「じ、冗談じゃねえ! たった一人でドラゴンズクレイドルをシメるような奴にどうしろってんだよクインクエット!?」


「本気で龍王より強そうですねぇ……俺もこれまでかな……」


悠の竜気と殺気にクインクエットはスピリオを押し、スピリオは激しく首を振って踏ん張った。その隣ではヘリオンが素の口調で生への諦観を呟いている。ヘリオンは龍王を裏切ったとはいえ悠と共闘している訳ではなく、その気分次第で死ぬかもしれないと考えたようだ。


「ヘリオン……お前、本当に裏切ったのだな?」


「ああ、ご機嫌麗しゅう、お嬢様。お嬢様もやはり事情をお知りだったのですね」


「プリムにユウの下に届いたメッセージを見せて貰ったからな。半信半疑どころか十中八九嘘だと思っていたが……」


ウィスティリアも暗号染みたメッセージから、ヘリオンの裏切りという結論に至っていた。だが、ヘリオンへの悪感情は根強く、霍乱の為の嘘だろうと切り捨てていたのだ。


「それは心外ですねぇ。ちゃんとプラムド達も助けましたし、私は私なりにドラゴンズクレイドルを止める算段をつけていたんですよ? ですからお許し願えませんか? せっかく助かったのならまだ死にたくはありませんし」


「フン……あれだけの無礼を働いて何の咎めも無しに許せとは虫のいい話ではないのか?」


「いやぁ……それはその、臨機応変と言いますか……」


(チッ、これだからクソ真面目な雌は好かねえんだ……丸く収まったんだからサラッと流せや!)


と、言いたいヘリオンだったが、流石に悠の前では軽口を叩く気にはなれずに歯切れ悪く愛想笑いに留めた。


そもそもヘリオン達がここまで恐縮しているのは、悠がまだ『竜気解放プラーナリバレートサード』によって強大な竜気を撒き散らしている事に起因している。そしてそこに殺気が加わり、駄目押しとして尋常では有り得ない破壊の爪痕を見せ付けられてはヘリオンほど図太いドラゴンであっても恐怖に抗い難いのだった。


だが、そこに当の悠が口を挟んだ。


「ウィスティリア、大事の前の小事だろう。そう絡むな」


《実際、戦力が目減りしたドラゴンズクレイドルでヘリオンの力は貴重だ。半減した戦力でここを守っていくにはお前達で力を合わせていかねば立ち行かんぞ?》


《というか、誰が次の龍王になるの?》


「「「え?」」」


ウィスティリア達はそこで初めて次の龍王が決まっていないという事に思い至った。例外はヘリオンだけだ。


「そりゃあ……お嬢様かプラムドでしょう? 実際にドラゴンズクレイドルを奪還する為に奔走したのはプラムドですし、お嬢様は龍王の嫡子で一番年上ですから」


「お前に負けたドラゴンが群れの頭になどなれるはずが無かろう」


「わ、私には荷が重過ぎます! ここはやはり現有戦力の中で最強のヘリオンが……」


「嫌ですよ。自由に暮らしたいから死ぬ気で色々画策したのに、更に不自由な立場になりたい訳無いじゃないですか」


「龍王は最強のドラゴンであらねばならん」


「じゃあこれやるから勝手に強くなればいいだろ!?」


そういってヘリオンが首から提げていた『龍角ドラゴンホーン』の紐を引き毟り、ウィスティリアに投げ付けようとした瞬間、『龍角』が不気味な赤光を放ち、幾本もの棘を伸ばしてヘリオンの腕を貫き食いついた。


「なっ!?」


「ヘリオン!? 早くそれを捨てろ!!!」


「か、体の、自由が……!」


もはやただの物品と放置していた『龍角』だったが、ミザリィは置き土産としてその内部に罠を仕込んでいた。体に埋め込んでいない者も一定期間を過ぎると勝手に体を侵食するという、寄生装置として。動力源はそれを身に着けているドラゴンの竜気である。


ヘリオンも必死にそれに抗うが、『龍角』の侵食は恐ろしく強靭でヘリオンの意識を奪いつつあった。この『龍角』の侵食はヘリオンの竜気を使用している為に非常に親和性が高く、腕を食い破りながら体に迫った。だというのに何故か全く痛みは感じないのがヘリオンには逆に恐ろしかった。


「動くな! 『マテリアル爪牙コラップス』!』


緊急事態に即座に動いた悠の手に『龍角』が放つ不気味な赤とは正反対の鮮やかな光が宿り、それが手刀として振り下ろされ、僅かな停滞も無くヘリオンの腕を肩口から切り落とした。


「ガアアアアアアアッ!!!」


脳に直接電流を流し込まれたかのような痛みにヘリオンが絶叫し侵食された腕が地面に落下する。未だ活動を止めず蠢く『龍角』だったが、悠が踏み潰すと粉々に砕け散って活動を停止した。


《相変わらず性悪ね!!!》


「体に埋め込めば効果が上昇すると甘言を吹き込み、警戒して身に着けるだけの者には隙を突いて寄生する、か……もしまだ残っているなら早急に破壊すべきだな」


「ぐぅ……も、もうちょっと、穏便な、方法は、な、無かったんですか?」


地面に倒れたまま息も絶え絶えにヘリオンが恨みがましい視線で悠を睨んだ。どうもわざと痛くしたと思っているらしいが、それはヘリオンの邪推である。


「『龍角』に肉体を取り込まれかけていたせいで痛むだけだ。痛むという事は『龍角』の支配からは脱したという事でもある。それとも、木偶人形になって一生奴隷として働きたかったか?」


「……」


自分の理想とは正反対の生き方にヘリオンは黙るしかなかった。意識も無く自由も無い生など死んだ方がマシだ。


「……ハァ、プラムドの言葉を借りるなら、こんな醜態を晒した私が龍王などというのはやはり無理です。もし相応しい者が居るとすれば……」


ヘリオンは無言で悠を見た。その視線の意味を察したプラムドとウィスティリアも共に視線を注ぐ。


最も強きドラゴンが龍王であるのなら、それは眼前に居る男と、その傍らに在り続ける竜に他ならない。人であって人でない、ドラゴンの力を振るう最強の龍王―-いや、竜王だ。


「……ユウ殿、レイラ様、スフィーロ殿。龍王を、そしてその側近を制したあなた方こそこのドラゴンズクレイドルを統べるに相応しいお方。我らが王として、我らを導いては頂けませぬか?」


プラムドが、ウィスティリアが、ヘリオンが、そして異変を察知して舞い戻ってきたドラゴン達が悠を見ていた。殆どが畏怖で占められる視線の中で悠が口を開く。


「……ドラゴンよ、最強の種族にして空を翔る一族よ」


悠の声がドラゴンズクレイドルに朗々と響き渡る。


「貴様らに王など要らん。ただ強きに従うなど奴隷と変わらぬ。龍王に盲従したか服従したかは俺は知らんが、生きとし生けるものは自らの心に内なる法を持ち、それに殉ずるべきだ。力が足りないのなら鍛え上げろ。知恵が足りないのなら貪欲に学べ。己に限界を作るな。貴様らには翼があり、力があり、知恵がある。どこへでも行けるし、どこまでも行けるのだからな。それが、ドラゴンの生き方だ」


悠が語る在り方をドラゴン達は静聴し、それぞれの心に刻み付けた。それは最強のドラゴンが語る金言であった。


「とはいえ、この混乱から立ち直る為には今しばらく時が掛かろう。敵対勢力も居る事だしな。プラムド、ヘリオン、ウィスティリア、スピリオ、クインクエット、お前達5体が主となってドラゴンズクレイドルを立て直せ。助力が必要なら手は貸そう。それでいいな?」


最後の確認はこの場の全てのドラゴンに向けた物だったが、真っ先に反応したのはプラムドであった。


「謹んでお受けいたします。……あなたにお仕え出来ないのは残念ですが」


「お前は気質が人間寄りだな。だが、その気質は得難いものだ。これから世界はもっと騒がしくなり、他種族と接する機会も増えよう。その時には力だけでは無く、対話の道も残しておいてくれると俺も肩の荷が下りる」


「相手にその気があるのなら努力致しましょう」


「それで十分だ」


グルリと見回し、誰からも異論が出ない事を確認した悠はウィスティリアの持つプリムに手を伸ばした。


「さて、もう一人功を労わねばならん者が残っているな。行くか」


「うん! ウィスティリア、プラムド、またね!!」


「ああ、世話になった。いつでも好きな時に遊びに来るといい」


「体は小さくてもプリムは立派な勇者だ、また会おう」


悠の手に着地したプリムが手を振り、悠の翼が大気を叩いた。が、そこでプラムドが忘れていた事があるのに気が付いた。


「あっ、ユウ殿、約束の報酬の件が!」


「今は無粋な話はよかろう。近い内にまた会う事になるだろうからな。それに、手付けは貰っておいた」


別れの挨拶もそこそこに、悠の体が飛翔する。慌てて場所を空けるドラゴン達の間を悠然と、鮮烈な印象を残して悠はドラゴンズクレイドルを後にしたのだった。

とりあえず、しばらくの間は五竜合議制に落ち着きました。

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