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9-78 龍巣突入8

「そろそろドラゴンズクレイドルですよ。準備はいいですか?」


「うむ、覚悟は出来ている」


「相手にとって不足はねぇぜ!!」


「バカね、向こうの方がずっと強いわよ。でも、やるしかないでしょう?」


「そういう事です。どの程度戦力を削れているかは分かりませんが、まずは――」




ドゴオオオオオオオオッッッ!!!!!!!




ドラゴンズクレイドルを視界の彼方に納めたプラムド達は奇襲の手順を再確認したが、ヘリオンの言葉を遮る爆音と閃光が迸り、相当な距離があるにも関わらずその音と衝撃波はプラムド達にまで届いた。


「な、何が!?」


「龍王の攻撃か!?」


「あり得ません、いくら龍王、で、も……」


「な、何なの、アレ……」


ドラゴンズクレイドルは爆発音の後に膨大な砂煙に覆われていたが、砂煙が風に吹き散らされるとその姿を一変させていた。


山の西側が、無い。東側は山頂まで曲線を描いているが、何故か山頂には見覚えの無い透明な塊が鎮座し、そこから西はごっそりと抉り取られて消滅していた。


誰もそれ以上言葉を発する事が出来ない。あれほどの破壊はドラゴンであろうとも一撃では不可能だ。少なくともここに居るドラゴンで再現出来る者は存在しなかった。


「おそらく、ユウ殿だろう……それ以外は考えられん」


一番早く立ち直ったのはやはりプラムドであった。何も知らない者に比べて覚悟があった分そうなったのだが、それでも驚きは隠せない。


「……なるほど、慎重なプラムドが託す訳です。もう終わったかもしれませんが、それならそれで我々にも出来る事はあります、急ぎましょう」


頷き合い、プラムド達は混乱する仲間達を纏めてドラゴンズクレイドルへと突入していった。




魔族領のとある場所。


俄かに空間が歪み、ヴァイセはその場に片膝を付いてミザリィを出迎えた。同時に、数体のドラゴン達がその場に『転移テレポート』して現れたが、未だ心神喪失状態のまま大人しく鎮座する。


世界最強の種族であるドラゴンを隷属させる策は成った。予定よりも数が少ないのは予想外であったが、これだけでも一軍と当たれるだけの戦力であり、なにより竜器が手に入ったのだから……と、考えていたヴァイセの思考が現れるなり崩れ落ちたミザリィに中断を余儀なくされる。


「……ぐ、ああああああああああッ!!!」


「ミザリィ様!?」


腹を押さえてのた打ち回るミザリィは自分の存在自体が崩壊しかけている事を悟っていた。直撃はすまいと確信していた悠の放った一撃はあろう事か『転移』で空間を閉じようとした瞬間、それを『こじ開けて』純粋な破壊エネルギーだけをミザリィに届かせてたのだ。槍本体が空間を押し開き、不可視の破壊エネルギーを放つ空間超越攻撃がその正体なのだろう。『転移』は最高の奇襲手段であり逃亡手段であるが、使用する際に空間の境界が曖昧になるという性質を持っていた。それはつまり、元の安定状態を取り戻すまでは完全には閉じていないという事であり、悠は超絶破壊力と物質体干渉によって強引に突破してみせたのである。それでも幾分か破壊力を散らして直撃せずにこの威力なら、直撃していればミザリィはその場で消滅していただろう。


だが、生きているなら考えるよりも対処が先だ。


「ゲホッ!! ヴ、ヴァイセ、私の体を切り離しなさい!!」


「ハッ!」


狂気の命令から一瞬の停滞も無くヴァイセは腰の剣を抜き、ミザリィの上半身と体を蝕む下半身を切り離した。ミザリィが再び絶叫するが、上半身だけになってもその目には苛烈な光が宿っていた。


「ぐううううううううううッ!!! あ、侮ったわ、あの男……!」


ギリギリと歯軋りし、ミザリィは渾身の力を込めてルドルベキアを操り、力を行使させる。


「『再生リジェネレーション』」


くすんだ赤い靄がミザリィの下半身を覆い、しばらくの間蟠った後に晴れると、そこには傷一つ無い女性の体が復活していた。同時に力を使い果たしたルベルベキアがその場で低位活動モードに移行して崩れ落ちた。


「ご無事ですか?」


「はぁ、はぁ、はぁ…………何とか、ね……でも、当分の間は、動けそうに無いわ。体は治っても、存在のそのものを傷付けられては……」


治療したはずの傷一つ無い腹を押さえミザリィは吐き捨てた。ルドルベキアに使わせた『再生』は体を癒やす事は出来たが、精神と魂に目には見えない傷跡として刻み込まれたままだ。放っておけば■■■であるミザリィも死を免れない。


「ようやくラドクリフが終わって、仕上げのエルフの番だったのに……どうせ雑魚勇者を、送ってくるのが関の山と踏んでたし、天界の奴らもその内干渉してくるとは思ってたけど、最初からあんな鬼札を切ってくるとは思わなかったわ……」


「私もまさか『竜騎士』が出張ってくるとは思いませんでしたが……『竜騎士』として奴は類を見ないほどの実力を持っているようです。ですが、これでお分かり頂けましたか?」


「ええ、痛いほどにね」


腹を押さえたまま、ミザリィは渋い顔で頷いた。


当初、ミザリィはドラゴンを単なる戦力として運用するつもりであったが、このヴァイセの知識を得た事で計画に修正を加え竜器を作成したのである。


その目的は……。


「ヴァイセ、貴方なら勝てるのね?」


「ご安心を。『竜騎士』とて強大な力を持っていようと不滅の存在ではありません。しかし、2体とも死ぬ寸前でしたので、まずは竜気の回復を待たねばなりません。私の力はその時にお見せしましょう。ミザリィ様はしばし体をお休め下さい」


「そうね……ドラゴンズクレイドルがあの調子じゃ人間に対して行った仕込みも駄目になったと思った方がよさそうだわ。全く忌々しい! ……だけど」


苦痛を堪えたまま、ミザリィの口角が吊り上った。


「既に《大崩壊カタストロフィ》の予兆は始まったわ。後1年でこの世界は終わる!! 今は精々勝ち誇るといいけれど……私のあくいまだまだ世界に残っているわよ、ユウ。それまでに、まだ『第四の力』に目覚めていないあなたはこの世界を救えて?」


憎悪と歓喜を等分に込めた呟きはヴァイセ以外の何者にも届く事は無かった……。




完全に外が見える状態にまで破壊し尽くした広間で悠は投擲姿勢を解いた。


「……手応えはあったと思うが、今ので殺れたかどうかは確信が持てんな」


《こちら側でこれだけの破壊が起こった事から計算すると、5分5分っていう所ね。あとコンマ1秒ほど油断してくれていれば確実だったんだけど……》


《死んでいないと思った方が良かろう。それにしても、つくづく他の者が居る場所で使う技では無いな……我も聊か疲れた……》


「ご苦労だったスフィーロ。《仮契約インスタントコントラクト》解除」


心通話テレパシー』で会話する悠の手に投擲したスフィーロが戻り、重槍から竜器に姿を変えた。


「完全に決まればこちら側で破壊は起こらない予定だったが……」


《それでも何割かは通ったはずよ。アポクリファくらいなら滅ぼせる力があったはずだけど……スフィーロの言う通り死んでいないと思った方がいいわね》


「イレギュラーな遭遇とはいえ殺り損なうとは、俺も平和に慣れて鈍ったか」


敵を追い払った喜びなど皆無といった口調で悠は自嘲した。どうやら『龍角』持ちの強化されたドラゴンを持ち去るのがミザリィの計画だったらしいが、大半のドラゴンは倒したとはいえ本人とアポクリファ、ストロンフェス、ルドルベキアの3体と数体の『龍角』持ちのドラゴンを連れ去られてしまっては、甘く採点しても痛み分けというものだろう。そして悠は自分に甘い採点をする男では無かった。


《ガルファに逃げられた時から研究していた技だったけど、もっと錬磨が必要ね》


《だが、死にかけていたアポクリファやストロンフェスを封印して意味はあるのか? そもそも、竜器への封印など奴はどこで知ったのだ?》


スフィーロの疑問にはレイラが答えた。


《あるわよ。竜器になる事で状態は固定化されるから、ストロンフェスもアポクリファも死を回避出来るわ。意識の回復にはそれなりの時間を擁するでしょうけど。ついでに言えばそもそもあれは高位ドラゴンが瀕死の状態に陥った時に死を回避する為の形態なのよ。もっとも、一度あの状態になったら『顕現マニフィスティション』が出来るようにならなければ一生あのままね。知識として知っていそうなのはアポクリファくらいでしょう。でも、アポクリファがあのミザリィとかいう女にそれを漏らすとは思えないけれど……》


「考えねばならん事はまだある。奴らは一目で俺が『竜騎士』であると認識していた。誰からその情報を得たのかは定かではないが、こちらの世界で俺の事情を漏らす者が居るとも思えん」


《情報分析はハリハリやユキヒトに任せましょうか。とにかく今はここの後始末が先よ》


《怪我の功名というべきか、外のドラゴン達も相当数が今の攻撃に巻き込まれたようだ。もはや烏合の衆しか居らんドラゴンズクレイドルを制圧するのは容易かろう》


ドラゴンズクレイドルの西側を吹き飛ばした爆発はその外側に居たドラゴン達も巻き込んでいた。ファルキュラスが倒した分も含め、残りは50体にも満たない数しか残ってはいないし、残っている者にしても中位以下のドラゴンばかりである。これほどの力を見せ付けた悠に逆らう者は殆ど存在しないだろう。


多少の想定外はあったものの、ドラゴンズクレイドルの平定はここに達成されたのだった。

幾つかの謎を残しつつ、ドラゴンズクレイドル攻略です。

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