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9-77 龍巣突入7

突如響いたファルキュラスの声に悠は音の出所を探し、それがストロンフェスの作った血溜まりから聞こえるのを突き止めて覗き込んだ。


「どうしたファル? こっちは概ね終わったが……」


そこに映るのは悠の顔では無く、普段とは大分様子が異なるファルキュラスの顔だ。おそらく血を水に見立てて通信を送っているのだろう。見られたくないと言っていたファルキュラスがこうして通信を送っているからにはそれ相応の理由があるはずだった。


《まだや、まだ終わってへん! ウチも外で戦っとったんやけど、親玉と『龍角ドラゴンホーン』持ちのドラゴンが何体か突然様子がおかしゅうなってそっちに向かったんや! だから――》


《ユウ!! 何かがこの場に『転移テレポート』してくるわ!!》


ファルキュラスの言葉に被せ勧告するレイラの言葉に悠は臨戦態勢で備えた。


「ファル、お前は撤収してくれ。そろそろタイムリミットのはずだ」


《っ、確かに、実は今も結構意識トビそうなんや……スマンけどユウやん、陽動はこれまでにさして貰うわ》


「十分だ」


ファルキュラスからの通信が切れるのと、『転移』が終了するのはほぼ同時であった。




「……もう、突然死に掛けちゃ駄目じゃない。『龍角ドラゴンホーン』に生命感知の警報アラートを付けておいて良かったわ」




そこから現れたのは黒いフードを目深に下ろしたローブ姿の女性と思しき人物であった。口元しか見えないが一目で美女だと確信出来る妖艶さを滲ませ、しゃがみ込んで残骸に近いアポクリファを指先でつつく。


《ユウ、あいつ……!》


「ああ、特徴が一致する。あれが例の女、か?」


《こんな機会はそうそう無いぞ、ユウ、ここで捕らえるかそれとも……》


スフィーロが皆まで言わずとも悠も心得ている。登場の仕方といい、このローブの女こそ数々の権力者達を誑かした張本人にほぼ間違いないと思われたが、悠は念には念を入れる事にした。


「レイラ、『トゥルー慧眼アナライザー』を」


《了解……っ!?》


一瞬見えたドス黒いオーラにレイラが絶句した。アポクリファの鱗よりも更に深い黒はこれまでに見た誰よりも禍々しく、仮想カウンターの桁数は一気に9桁を突破する。


《……推定されるカルマ、-1,000,000,000オーバー。これ以上の数値化は現状では無理よ》


「普通の生命体ではあり得んな」


「ユウ!!」


そこに慌てた様子でウィスティリアがプリムを手に駆け込んで来た。即座に下がるように指示しようとした悠だったが、ウィスティリアの背後から迫る気配に状況を察した。


「外の奴らが帰って来たか?」


「ああ、だが様子がおかしくて……」


よくよく見れば様子がおかしいのはこの部屋に居る『龍角』を持つドラゴン達も同じであった。ローブの女が現れて以来、皆心ここにあらずといった忘我の表情で身動き一つしないのだ。遅れて広間に入ってきたドラゴン達もそれは同様だった。


「あーあ、たったこれだけしか居ないなんて。せっかくいい駒になると思ったのに。それに……」


そこで女は初めて悠に視線を送った。


「こんな化け物が居るなんて想定外もいい所ね。天界の奴らもとんでもないのを送ってくれるわ」


「どうやら貴様は色々と事情に詳しそうだな。大人しく全てを白状してこの世界から出て行くか、この場で拷問されて吐かされた挙句存在を滅せられるのがいいか選んで貰おうか」


悠の殺気が女に向かって研ぎ澄まされた刃の鋭さで向けられた。尋常ではないその重圧に女の口元から笑みが消える。


「……ふん、今はアンタみたいなのに構っている時間は無いのよ。龍王ちゃんが死んじゃったら勿体無いしね。ちょっとこの男を足止めしていなさい。あ、ルドルベキアと何体かはこっちよ」


女が人差し指を立てて不可視の力を込めると、それまで身動き一つしなかったドラゴン達が一斉に悠を睨み付けた。意識を消失したルドルベキアと3体ほどのドラゴンは女の下に集い、それ以外のドラゴン達の『龍角』が輝きを増す。


《ユウ、あいつは『龍角』を媒介にドラゴン達を操っているみたいよ!》


「体に埋め込ませたのはアンテナの役割を果たす為もあったか」


ならば発信元を倒せば止まるはずと悠の手に竜砲の輝きが宿るが、女はニヤリと笑うと、更に命令を下した。


「後ろの女を攻撃しなさい!」


「わっわっ、こ、こっち見てるぅ~!」


「ちぃっ!!」


命令を受けたドラゴン達は即座にウィスティリアに照準を変えると、それぞれが炎や氷、風の刃などを生み出して一斉に解き放つ。ウィスティリアは咄嗟に防壁を展開するが、悠は数で押し切られると判断、その射線に割り込んでウィスティリア達を守った。


「そうそう、正義の味方は仲間を見捨てられないものねぇ。……じゃ、こっちもサッサと済ませましょうか」


ルドルベキアの頭を下げさせた女はその頭に手を触れると、おもむろにその頭の中に白い手を突き込んだ。


「……結構力を使っちゃってるみたいだけど、足りない分は他のドラゴンから使いましょうか」


驚くべき事にルドルベキアの口から女の声でそう呟くと、女はその口であり得ない言葉を紡ぎ出した。




「あなたにはまだ利用価値があるわ、だから死なせてあげない。……『マテリアル爪牙コラップス強制転化コンパルションリバース』」




ルドルベキアを中心に3体のドラゴンからも力が放出され、それは9割9分死んでいたストロンフェスとアポクリファの体を包み込んだ。


《何っ!?》


《あいつ、どうやってドラゴンの力を!?》


まさかという思いで攻撃を防ぎ続けるレイラとスフィーロの口から驚愕が漏れる。悠ですら『強制転化』を扱うには『竜気解放・参』を必要とするというのに、竜気も持たない者が使う事など絶対に不可能なはずなのだ。


「単なる予想でしか無いが、ルドルベキアを母体にして他のドラゴン達の間にネットワークを形成し並列処理する事で能力を底上げしているのだろう。確かドラゴン同士の『連弾デュエット』は『調和ハーモニー』とか言ったはずだ」


悠の推測は的を射ていた。女は心神喪失状態のルドルベキアを操り、その他のドラゴンとの間で力を増幅して無理矢理『強制転化』を発動させているのだが、その代償は小さな物では無かった。


光が収斂しアポクリファとストロンフェスが竜器として封印されると同時にルドルベキア以外のドラゴンの目から光が消え、その場で崩れ落ちて行く。単なる低位落ちでは無く、足りない力量を魂で贖った代償として命を落としたのだ。


「潜在能力にも個体差があるみたいねぇ。使い捨ての燃料にしかならなかったけど、目当ての物が手に入ったから良しとしましょうか。……ヴァイセ」


「はっ」


女の声に反応してその隣の空間から新たな闖入者が姿を見せた。顔の上半分を覆う仮面の為、女と同じく口元しか見えないが、その肌の色は薄っすらと青く、人間のようであって人間では無い事を如実に伝えていた。


「魔族!?」


「長居は無用ね、ヴァイセ、これを持ち帰りなさい」


「心得ました、ミザリィ様」


女――ミザリィから竜器を手渡されたヴァイセはそれを恭しく受け取り、一瞬だけ悠と視線が交錯したが、特に何も言わずにそのまま宙に掻き消えた。


「じゃあ私もこれでさよならさせて貰――」


「させん。『竜気解放・参』並びに『仮契約インスタントコントラクト』!」


《《了解!》》


悠の体から迸る竜気が爆発的に膨れ上がり、ドラゴン達の攻撃を弾き飛ばした。だが、『転移』を使える相手に肉薄する時間すら惜しいと悠の手が胸元のスフィーロを掴む。


「竜器変換、『竜槍スフィーロ』!」


悠の意を受けたスフィーロがペンダントから形を変えて行く。瞬時に伸び、重厚な槍と化したスフィーロを手に悠は思い切り振り被った。


「ウィスティリア、防壁に力を注げ! 『屠龍槍翔覇マーシレススローター』!」


投げジャベリンとは違い投擲に適していない槍が悠の手から飛翔、即座に音速を超え爆発音。


「うおおおおっ!?」


「きゃああああっ!!!」


背後に居るウィスティリアやプリムですらその衝撃に目を閉じる中、ミザリィの目にはまだ余裕があった。なるほど、直撃すれば■■■たる自分でもただでは済まないだろう。だが、どれだけ速くても、どれだけ威力があろうとも『転移』の方が速いのだ。ならば恐る恐るるに足らずと、広間の使役したドラゴン達をも巻き込んで『転移』を発動させたミザリィは笑みを残して消え去り――着弾したスフィーロによってドラゴンズクレイドルの半分が吹き飛んだ。

ようやくミザリィの名前が出せましたね。


最近は話が佳境で込み入っている上時間が無く隔日更新になっています。その分クオリティを上げたい所ですが……。

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