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9-75 龍巣突入5

「リューキシ、『竜騎士』ねぇ……」


プラムドの説明を聞きながら、スピリオはよく理解出来ていない風に呟いた。竜器すら知らないスピリオには、人間がドラゴンの力を宿すという事はピンとこないようだ。


「本当にそんなに強いの? あの龍王より強いなんて言われても信じられないんだけど」


クインクエットも悠の強さには懐疑的であった。誰よりも強い龍王を超える強さを持つ者など、冷静に考えても想像し難いのである。


「レイラ様と龍王のどちらが上かは卑小な私には正確には分からないが、スフィーロ殿がレイラ様とユウ殿を信じているのであれば私に否はない。そしてそれを扱うユウ殿の精神はドラゴンよりも遥かに強固だ、必ずや龍王を屈服せしめるであろう」


「見込んだものですねぇ」


一時の動揺から立ち直り、ドラゴンズクレイドルを目指す道すがらのヘリオンが気怠げに言葉を紡ぐ。


「しかし、龍王も『龍角ドラゴンホーン』の力で以前より強くなっています。楽観的に考えてユウが龍王より若干強いとしても、まだドラゴンズクレイドルには『龍角』持ちのドラゴンが20体ほど居るんですよ? その中には私より強いルドルベキアやストロンフェスも居ます。そう簡単に行くとはとても思えませんがねぇ」


ヘリオンは現実的に事態を分析した結果としてプラムドに語った。龍王と同格としても、手持ちの駒の差が敗北という結論を導いたのだ。せめて最初からプラムドとヘリオンが組んでいれば陽動や露払いを手伝えたかとも思ったが、そうなるとわざわざ始末する為に組み込んだ不穏分子の処理に手間取る事になり却下せざるを得ない。


「それでも私はお3方を信じている。ユウ殿は出来もしない大言壮語を吐く方では無いし、そもそも私には想像もつかないほどドラゴンとの戦闘経験は豊富らしい。レイラ様の力を持ってしても並々ならぬ相手ばかりだったそうだが、それらを全て下して勝ち残ったと仰っていた。もしかすると、あの方々は私が想像出来ないほどの高みに達していらっしゃるのかもしれん……」


「龍王並みの奴がゴロゴロ居るってのか?」


「信じられないわね……」


スピリオとクインクエットにとっては龍王すら強さの底が伺い知れない怪物である。その龍王クラスのドラゴンが何体も居ると言われても俄かには信じられないのだ。しかし、ヘリオンには何か思い当たる節があるらしく、多少納得の色を見せて呟いた。


「……真なるドラゴンの一族という訳ですか……」


「なんだそりゃ?」


聞き覚えのない単語にスピリオが食いつく。


「真なるドラゴンの一族、ですよ。我々の父祖の話を一度くらいは聞いた事はあるでしょう?」


「ん~?」


「……もういいです、馬鹿に聞いた私が馬鹿でした」


「ンだとコラッ!!」


蔑まれたスピリオが牙を剥いて怒鳴るが、クインクエットの尾が上からスピリオを叩き落し、割り込んだ。


「真なるドラゴン……確かに聞いた事があるわ。私達の親の世代や龍王はこの世界では無く他の世界からやって来たという話で、その最初の世代のドラゴン達を真なるドラゴンっていうのよね?」


「流石はクインクエット、どこかの馬鹿とは違いますねぇ。私も母親に今わの際に聞いただけですが……。それによると、龍王は父たる最強のドラゴン、アポカリプスを凌駕せんと欲し、賛同する僅かなドラゴンを連れて世界を飛び出したのだそうです。父親の手の届かない場所で新たな力を求めたのですね」


「しかし、これまで行動を起こさなかったという事は……」


プラムドの合いの手にヘリオンは頷いた。


「それだけの力を手に入れられなかったのでしょう。龍王より上、いや、遥かに上の力の持ち主なのでしょうね。龍皇とでも言うべきかもしれません。そもそも故郷にはこんな数とは比べ物にならないくらいの数のドラゴンが居るらしいのです。数万、数十万のドラゴンですよ? 龍王並みのドラゴンがゴロゴロ居ても、私は不思議には思いません。ですが……」


ヘリオンの目がプラムドに向けられる。


「プラムドの話だと、ユウはそのアポカリプスと万を超えるドラゴンと渡り合い、その存在を消滅せしめたと。非常に胡散臭いですが、もし本当だとしたら龍王でもそのユウに勝てないでしょう。ですが、龍王もまた最強たる父を超えたと判断したからこそ行動を起こしたのですよ? 私としては分の悪い賭けにしか思えませんが……」


「その程度は私も理解している。だが、所詮我々ではどうしようもない。ヘリオンの策に乗っていたとしても龍王は殺せまい?」


「遺憾ながら、ルドルベキアとストロンフェスまでで精一杯でしょうね」


「ならばより多くの同胞を救える道として私はユウ殿に賭ける。もし勝てないまでも、ドラゴンズクレイドルの戦力は疲弊していよう。であれば今の我らが助勢すれば討ち取れるはず。私もそれを要請した責任者として殉じなければ申し訳が立たん」


「死にたがりですねぇ、プラムドは」


「お前も似たようなものだろう、ヘリオンよ」


プラムドの指摘に、ヘリオンは心外そうに首を振った。


「私は義理なんかで死んだりしませんよ。このまま使い潰されるくらいなら死ぬ気で嫌がらせしてやろうと思っただけです」


「……十分変わり者だと思うぞ、お前も……」


「変わり者同士は気が合うらしいですからねぇ、スフィーロとも話が合うかもしれません。……お嬢様は口を聞いてくれないかもしれませんが……」


「それは自業自得だろう。ウィスティリア様は潔癖な方だ、ヘリオンの無礼な物言いは演技だったとしてもそう簡単に許すまい」


「ハハハ、そういう自分を嫌っている見目麗しい異性に蔑みの目で見られるのって少し興奮を催しますねぇ」


「変態……!」


ヘリオンから距離を取るクインクエットにヘリオンは粘着質な笑みを向けた。宣言通り悦に浸っているらしい。


「ま、それは覚悟の上ですから構いませんが、お嬢様は無事なんですかね?」


「逃げるだけならユウ殿が目を引き付けておいてくれる間に逃れられよう。今頃はきっと……」


プラムドは祈るような視線を遥か先のドラゴンズクレイドルに向けていた。




そのドラゴンズクレイドルでは……。


「龍王様!!」


《残る全ての魂を『龍角ドラゴンホーン』に注ぎ込んでる……あと数分であなた死ぬわよ?》


「ならばそれまでに貴様を殺すまでだ!!!」


「刹那の幻想の為に命を散らすか。それが貴様の選択であれば是非も無い」


この戦闘に全てを賭けたアポクリファと悠の間で衝突しあう竜気プラーナが激しく衝突し、広間の中を吹き荒れた。それは互角に見えたが、徐々にアポクリファの竜気が悠の竜気を押し戻し始める。


「死を前にしてレイラの力を超え始めたか!?」


広間の入り口に隠れていたウィスティリアがギリ、と歯を噛み締める。死の際に瀕し、遂にアポクリファが悠を超えたのだと知ると、強張る体とは反対に、血の気が引いていくようだった。


「えっ? えっ? ゆ、ユウ、負けちゃうの!?」


「……戦闘経験の差があるはずだ、そう簡単にユウが殺られるはずがない」


「そ、そうよね!? そうだよね!!」


一緒に居るプリムを安心させる為にそう言ったウィスティリアだったが、実際はただの気休めだ。そもそもこのレベルのドラゴン同士の戦いすら見た事も聞いた事も無いのである。ウィスティリアにも悠の技量に期待するしか縋る物は存在しなかった。


それに。


「《……》」


押され始めているというのに、当の悠は呆れるほどに静かだった。軽く腰を落とし一瞬たりともアポクリファから目を逸らさずその動向を観察している姿からは絶望の一片すら読み取る事は出来ない。まるで、こんな事は日常茶飯事とでも言いたげで――。


ヴン!


途端、睨み合っていたアポクリファの姿が掻き消えた。それは断じて超速による目くらましなどではあり得ない。


「ふっ!」


悠の足が地面を蹴り、『背後』から振られたアポクリファの爪を回避する。いつの間にか悠の背後に居たアポクリファの目には驚き。そのせいで追撃の機会を逃し、忌々しげに吐き捨てた。


「……貴様……!」


《もしかして不意を付けるとでも思ったの? 『転移テレポート』からの奇襲なんて大戦中にやりつくされた手段でしか無いわ。もうとっくに私だって兆候を嗅ぎ取れるようになっているって事》


「空間制御はアポカリプスの特技だからな。その子であるお前が類似の粗悪能力を持っていても別に驚かんよ」


「粗悪かどうかは己の体で確かめてみろ!!!」


激発したアポクリファの腕だけが霞み、突如悠の左右の空間から出現して別々の角度で襲い掛かった。一撃二撃と回避するが、攻撃を終えると腕はまた掻き消え、別の場所から現れては悠を切り刻まんと迫る。


それでも悠は淀みなくその攻撃を避け続けた。よく見れば、腕が現れる前に回避行動に移っている事が分かっただろう。


『転移』からの攻撃は奇襲には最適解に思えたが、それを防ぐ技術もまた進化させる事になった。ガドラスによって構築された『転移』兆候察知は今やレイラの技術としてその血肉となっている。子供達を鍛えた1年、レイラもまたぼんやりと過ごしていた訳ではないのだ。この世界にドラゴンが居るとバローに聞かされてから、ずっとその技術を物にせんと鍛錬を続けていたのである。


その技術が遂に日の目を見た。


次々に現れては消えるアポクリファの攻撃は普通のドラゴンならかわせないだろうが、兆候を感じ取れるようになったレイラにとってはむしろ普通に攻撃されるよりも回避しやすい死に技と化していた。当たればただでは済まないが、当たらなければただの殺陣と変わらない。


「グ……グオオオオオオオオオオッ!!!」


焦れたアポクリファの尾が掻き消え、空間を渡って悠への攻撃にプラスされる。間合いが意味を為さない空間蹂躙とも称すべき暴虐の嵐の中、翻弄される木の葉のように舞う悠の目が一瞬の勝機を掴んだ。


「勝ち急いだな」


悠の足を払う軌道を描くアポクリファの尾が振られる前に足を上げた悠が通り過ぎようとするアポクリファの尾を閃光の速度で踏み潰す。


「ぬぐっ!?」


急いで尾を回収にかかるアポクリファだったが、悠が渾身の力を込めて縫い止める足はビクともしなかった。


「力だけで押さえている訳では無いから抜けんぞ。貴様の物質体情報をここに固定しているからな。そして」


掲げられた悠の手に竜砲の光が灯る。


「動けんのなら終わりだ」


《発射!》


空間に縫い止められたアポクリファに竜砲が放たれた。

サラリと変態性をカミングアウトするヘリオン。命を投げ打つアポクリファ。そして……

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