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9-57 臥竜覚醒5

「何よアイツ、ヤなヤツね!! ベーっ!!」


ヘリオンの去った方角に盛大に舌を出し、プリムはプラムドに向き直った。


「でも一泡吹かせるチャンスだわ! わたしは今聞いた事をユウに知らせてくるから、また明日の夜ここに来たら新しい情報を頂戴!!」


「う、うむ、だが一人でここまで来れるか?」


「よゆーよ! あ、何処でもいいから外に通じてる穴とか空いてる?」


「ああ、幾つか外に通じる穴はあるが、意表を突くという意味ならうってつけの場所がある。ここからもそう遠くは無いぞ」


そう言ってプラムドがプリムに教えたのは、ウィスティリアが捕らえられている牢である。そこには小さいが外に通じる空気穴が作られていて、ドラゴンが出入り出来る広さは無いが、プリムほど小さければ問題無く通路として利用出来るだろう。


「入り口に見張りが居るかもしれんが、何故か知らぬがプリム殿には感知が上手く働かんから隠れながら行けば見つかるまい。途中までは私の陰に隠れて行くといい」


「うん、じゃあ行きましょ!」


プリムはスイっと飛び上がり、プラムドの頭の後ろに張り付いた。頭部から張り出した角の陰に身を潜めれば、まず誰もプリムを発見出来ないだろう。


プラムドは平静を装って自分のねぐらから出ると、他の者達が集まる広間に行くという体で牢の入り口の前を通り過ぎた。


おそらくはヘリオンの部下なのだろうと思われるドラゴンが暇そうに見張りを勤めていたが、プラムドを一瞥して素知らぬ顔を決め込んでいた。プラムドがどういう立場のドラゴンなのかは既に周知されており、大抵は無視か嘲りかのどちらかを向けてくるのが常なのだ。この見張りは前者であるらしい。


だが、それは逆にプラムドを意識している事の裏返しでもある。


見張りがプラムドに意識を集中している間に、プリムはこっそりとプラムドから離れ、そのドラゴンの頭上を飛び越えて牢の中へと入っていった。


牢の中ではウィスティリアがうずくまり徒然に思考に耽っていたが、その鼻先にちょんとプリムは降り立った。


「…………な、何だお前は?」


「ねぇ、あなたがウィスティリアでしょ? プラムドから聞いたモン。わたしは水精族ニンフのプリムよ」


「如何にも私はウィスティリアだが……水精族のプリム?」


「ユウのお使いで来てるのよ」


度胸が座っていると言えばいいのか怖いもの知らずと言えばいいのかウィスティリアには判断が付かなかったが、プリムが悠の使いであると分かると納得の色が広がった。


「あいつは色々な伝手を持っているな……しかし、使いを寄越すとは、何か会うのに不都合があったのか?」


「プラムドは監視されてるみたいでさ、わたしが詳しい話を聞きに来たの」


「っ……クソ、やはりヘリオンの奴……」


ヘリオンがプラムドを怪しんでいるとは感じていたが、どうやらプラムドやウィスティリアが思う以上にヘリオンはプラムドを怪しんでいるらしい。出し抜いたつもりだったが、ここから先の行動には一層注意を払わなければならないだろう。


「ねぇ、空気穴って何処にあるの? そこから出たいんだけど」


「ああ、それなら私の後ろだ。狭い穴だが、プリムなら楽に通れるだろうな」


「ウィスティリアはここから動けないの?」


プリムの言葉にウィスティリアは首を振った。


「出ようと思えば出られるが、無理矢理牢を破ればまたヘリオンの奴に動けなくされてしまうだろう。今そうなってはいざという時に足手まといになってしまうからな……その時の為にも、目を付けられたくはない」


周囲は魔銀ミスリルの鉱脈に囲まれている為、外部と連絡を取る事は出来ないが、ウィスティリアの能力自体が封印された訳では無いので牢を破る事は容易である。ドラゴンを閉じ込めたいのなら、低位活動モードに落とすか、高位ドラゴンの鱗を使った真龍鉄でもなければ不可能だ。


「そうなんだ……でも、もうちょっとの辛抱だと思うよ? 明日の昼にプラムドが龍王達に呼ばれるって言ってたし。ヘリオンっていう嫌な奴が言うには、プラムド達は一番危ないミーノスっていう国に行かされるだろうって」


「本当か? ……ありがとうプリム、牢に居ては情報に触れる事もままならんのでな。また出入りする時はここを使うといい。帰るついでに私にも内容を教えてくれると助かるし、ユウから指示があればそれも教えてくれるか?」


「いいわよ、わたしに任せなさい!!」


ドンと胸を叩くプリムにウィスティリアの顔が笑みを映した。体のサイズは桁違いだが、なんとも頼もしいではないか。正面から戦うばかりが能では無いなと、自分の境遇を省みてウィスティリアは笑った。


「ハハ、色々話をしたくはあるが、今はそんな場合でも無いか。気を付けて帰るといい」


「うん、ばいばい!」


ウィスティリアに手を振り、プリムは直径50センチほどの穴に吸い込まれて行った。


(ドラゴン達よ、自らを強者と驕る者達よ、既にお前達の足元は崩れ始めているぞ。龍王という絶対強者が居る限り、自分達が滅びるなどと露にも考えておらんのだろうが、力はそれを上回る力を前にしてはただの弱者でしか無いと知るがいい。あわよくば、より多くの同胞が馬鹿な選択をしない事を願うばかりだ……)


決して驕らぬ赤き鎧の騎士を瞼の裏に思い浮かべながら、ウィスティリアは来るべき時の為に体を休めるのだった。




水精族たるプリムは小さい。つまり、質量自体少ないという事だ。それは潜入という観点から見れば非常に優れた特性であるが、別の観点から見れば弱点でもあった。


「んんっ!」


時折空気穴を通り抜ける風がプリムの小さな体を翻弄する。ドラゴンにとっては微風であっても、小さなプリムにとっては体を固定しなければ飛ばされてしまいそうな突風である。


そもそも、質量の小さい水精族は風が強ければ飛ぶ事が出来ない。水の中であればかなり潮流が激しくても海気マリーンで干渉し流されたりする事は無いのだが、水の無い場所では能力が限定されるのだ。


また、転がってくる小石なども大変危険だ。人間ならば目にでも入らない限り特に注意を払う必要がない1センチ程度の小石でも、10分の1以下のプリムの目で見れば10センチの石と体感では変わらないのだ。そんなサイズの石が転がって来て体に当たれば人間だって怪我をするだろう。


小さき者達に自然は甘く無く、だからこそ彼ら妖精族フェアリーは自分達の住処以外では発見されないのである。


神鋼鉄オリハルコンの針を杖兼用の杭として用い、風が止んだタイミングでは飛行能力を用いて距離を稼ぐプリムが出口に辿り着く頃には体の至る所に擦り傷や打ち身が出来ていた。


「うぅ……痛いよぅ……」


プラムドやウィスティリアの前では見せなかった弱々しい口調でプリムは溢れ出てきた涙を拭い、鼻を啜った。口では威勢のいい事を言っていてもプリムとて生まれて初めてあの島を離れたのだ。勇気と度胸があっても不安にならないはずが無いのである。


それでもプリムは涙を堪え、鞄の中から『高位治癒薬ハイポーション』を取り出すとそれを一息に飲み干した。


悠の役に立つ為に住処を離れ、こうしてはるばるやって来たのだ、泣くのは後ですればいい。


このくらいでへこたれていてはあまりにも情けないというものだ。悠など、自分の体に穴を空けてまでプリムを守ってくれたのだから。


「ぐすっ…………ふんだ、よゆーだもん!」


大きく深呼吸をし、胸一杯に空気と勇気を詰め込んで、プリムは悠の待つ住処の小島を目指し飛び立ったのだった。

小さい種族の利点と弱点。健気に頑張りますよプリムは。

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