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閑話 飛べ、ハリハリ!

「ヤアヤア、遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ!! 伝説の魔法使いハリハリの新魔法の御披露目ですよーーーっ!!」


「さ、みんな離れて離れて。恵、明ちゃんを何処か遠くに連れて行って頂戴。情操教育に悪いわ」


「ギルザード、ここはもう駄目だ、裏庭に行くぞ」


「やれやれ、面倒な事だな」


「キィィィイッ!! 世紀の大魔法なのにっ!! 見なきゃ絶対後悔するのにっ!!」


「ちょ、ししょーってば信用無さ過ぎぃ~」


五体投地して手足をバタつかせるハリハリはどう見てもただの駄目な大人にしか見えなかったが、心優しき若者が救いの手を差し伸べた。……差し伸べてしまった。


「ま、まぁまぁ、ハリハリ先生の魔法の凄さは皆知っているじゃありませんか。きっと見る価値のある魔法ですよ」


「アルト殿ォォォォォオオオオーーーッ!!! ワタクシの理解者はアルト殿だけです!!! 一生付いて行きますよぉぉぉおおおお!!!」


「あ、ちょ、は、放して下さい!」


(お人好し……)


(いつか悪い人に騙されそう、アルト君……)


樹里亜と恵の最もな感想をよそに、ゴロゴロと地面を転がってアルトの足にしがみ付いたハリハリは気を取り直して立ち上がった。


「ヤハハ、では早速参りましょう」


自信満々に『擬態の指輪』を外しエルフの姿となったハリハリは見せつける様に魔法陣を構築し始める。


「中々厄介な魔法ゆえ、ワタクシにも即時発動は叶いませんが……なにせ『三重陣トリプル』ですのでね。まだ魔法陣自体も完全とは言い難いですけど、理論上問題はありません。はあっ!!」


アルト以外の者達は少し離れて武器を持つ手に力を込め、魔法の暴走に備えたが、ハリハリが魔法を発動させた瞬間、アルトの隣に居たはずのハリハリの姿は忽然と消え去った。


「……え? 何? 散々勿体ぶっておいて『透明化インビジブル』?」


呆れた声音で眉を寄せる樹里亜だったが、ふと手を伸ばしたアルトの表情が驚きに凍り付いた。


「……あれ? は、ハリハリ先生が、居ません!?」




「ヤーッハッハッハッハッハッ!!」




突然全員の背後から響く高笑いに振り返ってみれば、そこには腕を組んで得意満面のハリハリが鎮座していた。


「あっ!? まさか今のって……」


「『転移テレポート』?」


「ご名答です、ジュリア殿。まぁ、正確には最大でも10メートル程度しか飛べないので『跳躍ショートリープ』と名付けましたけどね。いかがです、中々凄い魔法だと思いませんか?」


ドヤ顔のハリハリ相手に認めるのは癪だが、確かにこれは凄い魔法だった。途中に人間を挟んでいたのに使えるという事は遮蔽物を透過する性質があるという事だ。これが使えればもし捕らえられたとしても、魔力や魔法自体を封じられない限り簡単に逃げる事が出来るし、逆に忍び込むのも容易だろう。


「認めます、これは凄い魔法ですね」


「でっしょ~? ンもう、ジュリア殿ったら警戒し過ぎなんですよ。この前の事は本当に事故だったってこれで分かって頂けましたか?」


「……いえ、そこまでの信頼は持てませんね。とりあえずその魔法、お風呂の近くでは使わないで下さいよ。「おっと魔法の制御をミスったぁグヘヘ」とか言っても許しませんから」


「うぎぎぎぎ……あなたも中々ガンコ者ですねジュリア殿!!! いいでしょう、この魔法のもっと凄い所を教えて差し上げましょう!!」


ツカツカと樹里亜に歩み寄ってその手を取ろうとしたハリハリだったが、ぐるりと首の角度を変えて違う人物を照準した。


「栄えある第一号はやはりワタクシを信じてくれたアルト殿が相応しいでしょう!! ささ、アルト殿、お手を拝借」


「は、はあ?」


言われるままに手を差し出したアルトの手を握り、ハリハリは再び魔法の構築に入った。


「この魔法の凄い所は、本人だけでは無く、触れている他の者も一緒に『跳躍』出来る点なのです! アルト殿、おそらく魔法としてこれを体験するのは人間ではあなたが初めてのはずです。その暁にはワタクシの寿命が続く限り歌い継いであげますからね!!」


「そ、それは光栄、です……」


「……アルトとハリハリ先生が混ざって変な生き物になったりして……」


「ちょっと、怖い事言わないでよ樹里亜!」


「その時は何とかアルトだけでも抽出するにゃ~」


「煩いですよバカ弟子!! 見よ、ワタクシの魔法に不可能は無い!!」


安全機構には十分に気を払っている上でのハリハリ謹製の『跳躍』なので樹里亜の言う様な危険は無いが、それでもアルトは身を固くしてその時を待った。


ハリハリの魔法が発動し、アルトの視界が一瞬だけ闇に染まったが、次の瞬間には最初にハリハリがやった時と同じように全員の背後へと『跳躍』を果たしていた。


「うわっ! す、凄い……!」


「ヤハハ、どうですかアルト殿? この万能感と開放感は病みつきになるでしょう!? ……ん?」


開放感? と、どことなく軽くなった体を不思議に思いながらもハリハリがアルトの方を向くと、そこには……。


「……アルト殿、服、どうしました?」


「はい? …………はいいいっ!?」


自分の体を見下ろしたアルトはそこに一糸纏わぬ自分の肉体を見て混乱の海に叩き落された。いや、隣を見れば自分だけで無く、ハリハリも何一つ身に纏っておらず、最初に立っていた場所にはパサリと自分達の衣服が地面に落ちた所であった。


「わ……わあああああああああああああっ!!!」


絶叫するアルトに気付いて全員が振り返ると、樹里亜と恵が異口同音に悲鳴を上げた。


「「キャアアアアアアアアッ!!!」」


危うい所でアルトが局部を隠し屋敷に全力で逃げ込み、ハリハリは全裸のまま体と首を捻って考え込んだ。別に恰好をつけている訳では無く、年若い婦女子達の目から自分の局部を隠す為だ。……いや、尻は丸見えなのだが。


「むむ、これは予想外の結果ですね。どうやら装備品以外の肉体だけの移動になってしまったようです。アルト殿だけの現象なのか、他の者でも同じ結果になるのか実験してみる必要がありますね……」


「……言いたい事はそれだけですが、ハリハリ先生?」


「ほえ?」


腰に手を当てて仁王立ちしていたハリハリが更に背後に首を捻ると、惚れ惚れするような右ストレートがその頬を捉えた。


「ほげぇ!!!」


裸のまま地面を滑る。痛い、とても痛い。まるでおろし金で体を削られているかのようだ。


「ハリハリ先生は最初私を実験台にしようとしてましたね? 結局またいつものエロ魔法ですか、この変態!!!」


「ごごご誤解ですよジュリア殿!! ワタクシはそんな邪な事はちーっとも……」


「起きないで下さい!!!」


体を起こし掛けたハリハリの局部が見えそうになり、樹里亜は左手に持っていた棍をハリハリに振り下ろす。


「きゃぷ!?」


「いくら先生と言えどデリカシーが無さ過ぎます!! 皆、お仕置きよ!! 恵は明ちゃんを屋敷に連れて行って!!」


「う、うん」


「え~、明も一緒に遊びたい~」


「ほら、見ちゃダメよ」


「手は足りてるみたいだから俺ちゃんはアルトを探そっと」


変質者を見る我が子の視線を遮るようにして恵は明を連れて屋敷へと引き返し、ルーレイもあっさりと見切りを付け、庭には樹里亜とシュルツ、ギルザード、そして全裸で呻くハリハリが残された。


「……さて、今日はちょっと厳しく行きますよ」


「たまにお前は髭並に始末が悪いな。一度折檻してくれよう」


「ここには小さい子も居るのだと体に刻んでおいた方が良さそうだ」


樹里亜が棍を握り直し、シュルツが双剣を抜き放ち、ギルザードの小手と小手が矯正のゴングを鳴らす。


「ひぇぇぇぇ……あっ、こ、こういう時こそ『跳躍』をべっ!?」


逃げようとしたハリハリが『跳躍』出来たのは意識だけであった。

ハリハリの新魔法が気になるんじゃないかなと思って唐突に書きました。内容は……。

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