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9-47 また会う日まで

「……では、何日かギルドを空ける、と?」


「お、おぅ……」


サロメの眼力に怯みながらもコロッサスは何とか頷いた。コロッサスが1人でギルドを空ける事は稀だが、今回はどうしても外さなければならない理由があるのだ。


「剣をこのままにはしておけんし、打ち直すんならカロンに今の俺の力を見て貰った方がいい。それに、ハリハリの開発した回復魔法はかなり効果が高いって話だし……」


「別に駄目とは言っていません」


(言ってるようなモンじゃねぇか……)


アルベルト達の護衛を済ませ屋敷に帰るバロー達にコロッサスも同行する事にしたのだ。剣をこのままにはしておけないし、だからと言って悠の帰還がいつになるかは未定であり、破損したからといって他人任せにするのはカロンに対する礼を失しているとコロッサスには思えた。胸の傷も一応出血は止まっているが完治には遠く、バローも受けるという魔法治癒の恩恵に預かろうとしたのである。


「確かに、剣の無いコロッサス様は大して役に立ちません。ボロ雑巾のような体のままでは仕事にも差し支えますね……」


(ハッキリ言いやがるなこの女!! 大体、ボロ雑巾みたいに縫ったのはお前だろうが!!)


と、思っても口には出せないコロッサスである。調教が行き届いていると言えよう。


ハァと溜息を吐き、サロメは指を4本立ててコロッサスに突きつけた。


「……4日です、それ以上は許可出来ません。それまでに体を癒やし剣の注文を済ませて下さい。宜しいですね?」


「お、おう!! 助かるぜサロメ!!」


「良かったなコロッサス!!」


外出許可を得て、コロッサスはバローとその場で小躍りして喜び合った。……とても最強の座を争う剣士同士には見えないが、剣を持っていなければ気の合う友人なのだ。馴れ合いを好まないシュルツとはその点で異なるのである。


「ですが、帰ってきたらその分働いて貰いますよ。それと、治ったからと言ってまた大怪我をする様な真似は許可しません。シュルツさん辺りともう一戦やり合って滞在が延びるような事があれば……」


サロメの手が頭上に掲げられ、ピキピキと乾いた音を立てて氷の剣がその手を覆い、振り下ろされた氷剣によって机の角が斬り飛ばされた。


「私自ら出向いてユウさんが戻るまでの間、コロッサス様の両足を預からせて頂きます。……ギルド長の仕事は足が無くても務まりますからね……」


「「ひぇぇ……」」


冗談だと信じたいが、氷のような視線を向けてくるサロメからそんな愉快な成分を感じ取れなかったコロッサスとバローは互いに手を握り合わせて震え上がった。


「で、でもさぁ、サロメさんが居ればギルドの仕事に支障は無いんじゃないの? アイオーンさんとこのマリアンさんなんてよく代わりに留守番してるじゃん?」


死力を尽くして剣士の意地を貫いた2人の惨めな姿が哀れ過ぎて神奈が慣れないフォローの言葉を口にしたが、サロメが首肯する事は無かった。


「あれは感心しません。ギルド長補佐はあくまで補佐であり決裁はギルド長に任せるべきです。もし補佐たる人間が邪な野望を抱いていたら如何しますか? 職責とはそんな軽い物では無いのです。私の仕事はコロッサス様が判断し易い状況を整える事であってその代行を務める事ではありません。……まぁ、最近はアイオーンギルド長も心境の変化があったのか勝手に抜け出す事も殆ど無くなったようですが、そもそも――」


不機嫌なサロメに不用意に話し掛けた神奈は逆にギルドの理を懇々と諭される事になって顔を引きつらせたが、コロッサスとバローはサッと顔を伏せて見ない振りに徹するのだった。


話が長そうだと察した蒼凪は、いい歳をして子供じみた真似をする2人を半眼で見つめるアルベルトに話し掛けた。


「それで、アルベルトさん達はすぐに本部を目指すの?」


「ん? ああ、本当はゆっくりして行きたかったが、本部の方も急いでいるらしくてな。コロッサスも居なくなるのなら明日にでも発とうと思っている。子供達もはしゃぎ過ぎて眠ってしまったからな」


アライアットは新しく就任した正体不明の宰相が辣腕を振るっているらしく、全ての作業が急ピッチで進められているそうで、既に冒険者ギルドも着工したという連絡が入っていた。あとはアルベルトとイライザが居ればギルドの体裁は整うのだ。


「慌ただしいですね」


「仕方ないな、何年もサボっていた分は働かなれけばならんだろう。……だが、ここに来て良かった。コロッサスの現状も確認出来たし、何よりあの少女に出会えたのだからな」


アルベルトはすっかりラナティの才能に惚れ込んでしまったようで、今も目を閉じれば美しい射形が瞼の裏に映し出されるのだった。


「……浮気?」


「断じて違う!!!」


しかし、他人から見ると少々熱が入り過ぎていて、蒼凪の言うような危惧を抱くのも分からなくは無いのである。


「それでは皆さんとはここでお別れですね」


「そうなるわね。……なんだかあなた達とはずっと前から知り合いだった気がするわ。アライアットに来る事があったら是非寄って頂戴。あの子達も懐いていたしね」


「それに、まだまだ君達からは聞ける話がありそうだ。一度ユウに会いたいと伝えてくれ。何処で話を聞いても彼の影がチラついて気になってしょうがない」


「ある程度はオルネッタさんやアライアットの方々にも聞けると思いますが、ユウ先生もイライザさんに人探しを頼みたいので会いに行くと思います」


「任せて、あなた達の依頼なら最優先で引き受けるから」


元々はイライザに香織とサイコの捜索を頼みたかったから引き受けた依頼であったが、こうして良好な関係を築けたのは収穫だろう。アライアットも優秀な人材を得て益々発展するに違いない。


「おっし、そろそろ行こうぜ。俺とコロッサスは今の状態じゃ馬に乗るのも厳しいから馬車の一つも用意したいしな」


「おいおい、今から出ても途中で日が暮れるぞ?」


「野宿を苦にするような柔な奴は居ねぇよ。それに、俺もカロンに新しい剣を頼みたいからな」


バローが今持っているのは予備の神鋼鉄オリハルコンの剣であり、主武装の真龍鉄の剣はビリーに渡してしまっているのだが、コロッサスとの立ち合いで思う所があり、それを新しい剣に反映させたいと思っていたのだ。


「本当は恵のご飯が早く食べたいからじゃないの?」


「否定はしねえ」


みんな大好き恵のご飯である。


「じゃあ俺が馬車を手配してきますからアニキ達は準備してて下さい」


「おう、任せたぜ」


それから30分で準備を整え、アルベルト達はコロッサスを見送った。


「次に会う時はお互いギルド長同士だな。分からない事や困った事があったらいつでも連絡しろよ?」


「ああ、しばらくの間は頼る事も多そうだ。我々もコロッサスに負けぬように精進しよう」


「いつまで経っても私達のリーダーね、コロッサスは」


「今じゃオルネッタが頭さ。向こうで会ったら宜しく言っておいてくれ」


アルベルト、イライザと固く握手を交わし、最後にコロッサスはサロメに言付けた。


「サロメ、明日辺りから高位の冒険者達が帰ってくるだろうから信頼の置ける奴らに護衛させてやってくれ。金は俺が持つ」


「畏まりました。人選はこちらで考えます」


「いいのかコロッサス?」


「久しぶりに会ったんだ、このぐらいはさせてくれよ。それとサロメ、なるべく強面の奴は外してくれ。子供が怯えちゃ可哀想だ」


護衛は主に子供達の為なので当然の措置であり、サロメも織り込み済みとばかりに頷いた。


こうして依頼を達成したビリー達はバロー、コロッサスを一行に加え、アルベルト達と別れたのだった。

これで捜索組の話は終わり。次は居残り組とアライアット組です。こっちは本当に短めにいきます。

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