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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第二章 異世界出発編
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2-6 見渡す限りに屑ばかり6

流石に王に命令されて動かなければ不敬罪で処罰されかねないとあって、鈍い動きながらも、兵士達は悠への包囲網を縮めてきた。


しかし兵士達は城門破壊に気を取られ過ぎて忘れてしまっている。悠が飛べるという事を。


悠は偉そうな人物が出て来た事でこれを好機と捉えその場から飛び上がると高速で宙を舞い、カザエルの元へと降り立った。


余りにさり気無く、そして一瞬で目の前に現れた悠にカザエルは驚愕しかけたが、すぐ隣に侍る親衛隊に気を強くしたのか、嘲りを隠そうともせずに悠を罵倒した。


「頭が高いぞ、下郎が!余の前に立つ事はまかりならん!!さっさと地に膝を着かんか!!」


「屑に下げる頭も地に着ける膝も無い。そんな事より、貴様に聞きたい事がある」


「なっ!?く、クズだと?貴様だと!?こ、こ、この愚か者が・・・余程の僻地から召喚されたと見える」


「王よ、この様な無頼の輩は我らにお任せ下さい。王の御前に跪かせてご覧にいれます」


悠の返答に激昂したカザエルであったが、親衛隊長のグリースの進言に一先ず心を落ち着けた。


「良かろう。この蛮人を少々痛めつけてやれ。自分が誰に唾を吐いたのかを思い知らせるのだ!」


そう言って王は年の割りに素早く後ろに下がると、代わりに10名ほどの親衛隊た悠を取り囲んだ。その目には多数で弱い者を甚振れる、強い者の被虐性がちらちらと瞬いている。


「大方、召喚された時に不意を付いて部屋の中の者達を蹴散らした事で気が大きくなっているのだろうが・・・クックックッ、貴様の強さなど意味が無いのだよ、ここではな!!」


親衛隊長のグリースは悠がどの様にして召喚の間を制圧したのか知らなかった。それが親衛隊の不幸を呼び込む事になるとは露ほども思わずに。


「グリースが奉る!召喚の楔よ、契約によりその棘を突き刺せ!」


そう、支配術式で悠を縛れると思っていたのだ。悠は情報を漏らさない為に、あの部屋に居たベロウとクライス以外の人間を『壊した』。その為、誰も悠に支配術式が効かない事を伝えられなかった。


「クックッ、これで貴様も――」


絶対的な優位に顔に下卑た笑顔を浮かべるグリースの顔を悠は正面から拳で打ち抜いた。


「ぼひゅっ!!」


その拳の速度と威力が余りに高い為に、グリースはその場で3回転ほどして、地面に叩き付けられた。


「・・・凄いな、レイラ、頭が残ってるぞ」


《ええ、多分攻撃が10%ほど通った所で『豊穣ハーヴェスト』の致死認定ラインを超えたんじゃないかしら?でも多分、もう壊れたわよ?》


前に言った通り、『豊穣』は致死ダメージを精神ダメージに変換する。普通の人間の頭なら吹き飛ぶ様な攻撃をそのまま精神体メンタルに食らえば、常人なら心が破壊されて、もう普通の生活には戻れないだろう。


その言葉を証明する様に、グリースは痙攣するだけでもう動かない。もしかしたら、二度と。


「・・・・・・」


周囲には痛いほどの静寂が満ちている。親衛隊長としてその腕前は皆に信頼されているグリースを歯牙にも掛けなかった事。そして支配術式の及ばない存在。それはつまり、脅威だ。


「うわぁぁぁぁぁああああ!!!!」


「に、逃げろぉぉぉおおお!!!」


「ひぃぃぃいいいい!!!」


そして緊張が最大限に高まった瞬間、兵士も親衛隊も逃げ出した。残ったのはカザエルだけである。カザエルにしても逃げ出そうとはしたのだ。しかし、逃げる兵士の誰かが、悠がカザエルに執心であると見て、こっそり足を引っ掛けてその場に転がして行ったのだった。屑の面目躍如と言える。


「あ・・・ああ・・・だ、誰か、誰か居らぬか!!!よ、余を、余を助けよ!!誰かぁ!!!」


「黙れ」


這い蹲ったまま右往左往するカザエルに悠は処刑執行人の如く、冷徹に告げた。


「な、あ、う・・・き、貴様、ごと、如きが、余に、余に!!」


「ここは屑の上に馬鹿しか居らんな・・・」


そう言って悠はカザエルの地面に付いた手にそっと足を乗せてその動きを封じた。


「おい、そこの兵士。こいつは余などと言う大それた物言いからして、この国の王か?」


もがくカザエルを一顧だにせず、悠はずっと後ろで所在なさげに突っ立っていたベロウに声を掛けた。


「は、はい!そのお方こそ、ノースハイア王国の王、カザエル様です!!」


「こんな奴が王か・・・」


悠の目に見えるカザエルは立ち上るオーラが赤過ぎて顔の判別もままならない程だ。さながら、焼身自殺を図っている人間の様にも見える。


「き、貴様はノワール伯爵ではないか!!おのれ、この国を裏切ったな!!!」


「いや、これには、その、深いワケが・・・」


王を拘束する賊に加担しておいて訳も糞もあった物では無い。もし無事に悠から解放されても、ノワール伯爵家の取り潰しと一族郎党の処刑は絶対に避けられないだろう。


「貴様の一族郎党、悉く殺しつくしてくれる!!!」


「嗚呼・・・なんだってこんな事に・・・」


あの状況で俺以上に上手くやれる奴なんて居るものかと嘆くベロウだったが、そんな事はカザエルには伝わらなかった。そして、ご丁寧に懸念通り全員処刑のお墨付きまで頂いてしまった。ありがたくて泣けてくる。


「では尋問を始める」


悠は悠で今までの会話の流れをさっぱりと無視し、自分の聞きたい事を聞く事にした。


「まず、召喚などという術をどうやって可能にしたのだ?」


「余が答えると――」


カザエルが嘲りを込めてそう返そうとした瞬間、悠は踏みつける手に片方にだけ力を込めて、カザエルの右手の小指を踏み潰した。


「はぎぃぃぃいいいい!!!!!」


カザエルの口から獣の様な叫び声が上がる。悠の足の下からは潰れた指からの出血が流れ始めていた。


「答えろ。指はまだ19本もある」


その言葉にカザエルは血の気が引いた。この男は王たる自分の両手両足の全てを壊すつもりだと悟ったのだ。


「ま、まて、またぬかぁ!!」


「返答が違う。そして遅い」


悠は更に薬指と中指を踏み潰した。その余りの痛みにカザエルは失神しかけたが、更に踏み込まれてまた無理やり覚醒させられた。


「こ、こた、こたえる、こたえるからやめてくれぇぇぇええ!!!」


「時間を取らせるな。では、どうやって召喚した?」


ここに至って、ようやくカザエルは素直に答える気になった。・・・それ以外の選択肢を取れるほどの根性が無かったのだが。


「そ、それは・・・しょ、召喚器という魔道具でです・・・」


「やはりか・・・これだな?」


「そ、それは!?い、いつの間に・・・」


荷物からその召喚器を取り出した悠にカザエルは驚愕した。実は悠はベロウに目を瞑らせている間に、この召喚器の奪取と部屋の者達の精神破壊を行っていたのだ。


「どうなんだ?」


悠の足に力が入る気配を感じ取って、カザエルは素直に白状した。


「そ、そうです!!それに魔力を一定量注ぎ込むと自動的に召喚をしてくれるのです!!」


「これはこの世界ではいくつもあるのか?」


「余・・・い、いえ、私には分かりません。しかし、それを持ち込んだ女に見せられるまで、そんな物があるとは知りませんでしたから、そんなに数がある品にも思えません」


「女?どこの誰だか分かるか?」


「ざ、残念ながら。それを我らに寄越して行って、すぐにこの国から消えてしまいました」


これは重要な情報だと思われた。どうやら召喚はこの世界の技術では無い様だ。そしてそれは誰とも知れぬ一人の女によってもたらされたのだ。


「今までに何人召喚した?」


「せ、正確な数は、わ、分かりかねますが・・・い、一万は下らぬかと・・・」


「・・・何年前から召喚は行っている?」


「お、およそですが、20年ほど前からです・・・一日一人~三人くらい召喚されて来ますので・・・」


「では何人生きている?」


「・・・・・・」


カザエルの返答が止まった。後ろで見ていたベロウは何故答えないのかを知っていたので、思わずカザエルから視線を逸らした。その返答は間違い無く目の前に居る男を怒らせるだろうと思って。


「何故答えん?人差し指がいらなくなったか?」


そう言って悠はカザエルの人差し指を踏み抜こうとした時、カザエルから慌てて返答があった。


「い、今城の地下に居る者と戦に行っている5名、監督している3名で全部ですっ!!!」


それはつまり、地下の子供達が大部屋に5名、傷病者の部屋に4名、それに戦に行っている者が8名で計17名という事である。一万以上もの人間を攫って来て酷使し続け、生き残りがたった17名であるという事実は、悠ですら咀嚼するのに数秒の時間を要した。


「そうか・・・で、残りの召喚者は今どこで戦っているのだ?」


それでも悠は気を取り直してカザエルに尋ねた。目の前の老害を殺したい気持ちは質問の度に膨れ上がっていたが、個人的な怒りより、今助けられる命を優先するべきだと思い定めていたのだ。


「り、隣国のアライアットとの国境付近です。召喚した者は簡単な魔術を覚えさせて、そこで移動砲台として使われています・・・」


悠の次の目的地が決まった。アライアット国境に赴き、召喚者を救い出すのだ。


そしてそう決めると、悠は目の前のカザエルに視線を戻した。もう、生かしておく理由が見当たらなかったので。


悠がレイラに『豊穣』を切る様に言おうとした刹那、城の入り口から声が掛かった。








「お、お父様からお離れなさいっ!!!」








その声に悠が視線を投げると、そこには12歳くらいの、幼いが美しい容姿をした黒髪の女の子がこちらを睨み付けて怒鳴っていた。


「こ、こっちに来てはいかん!!サリエル!!!」


それを見たカザエルの表情が焦燥に染まった。


彼女の名はサリエル。サリエル・ミーニッツ・ノースハイア。この国の王女である。

王様でも差別無く拷問します。むしろ普段痛み慣れしてないせいで楽ですね。


サリエルはどうでしょうか・・・

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