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9-28 『六眼』捜索3

「うわ……俺の知らない間に街がデカくなってる……」


「ここって確かそんなに大きな街じゃありませんでしたよ、ね?」


アザリアに着いた一行の目に映ったのは、以前とは比べものにならないほど大きくなったアザリアの街の姿であった。それほど高くないとはいえ城壁が出来、その規模も記憶にある物とは大違いだ。


と言っても、あくまで地方の街としては大きいという話である。


「悠先生達がドラゴン退治をした時に魔物相手に結構傷んだって言ってたから、拡張したんじゃ無いかな」


「参りましょう。大きいなら人も多いはず、有益なお話が聞けるかもしれません」


「知らない場所に来るとワクワクするな!」


「雰囲気は悪く無さそうですね」


訪れた事の無い4人が抱いた感想はその程度の物だった。街が大きいからと言って不都合な事は何も無いのである。


「……ま、その通りだな。むしろ俺達にはありがたいか」


ビリーも同じように思い、早速門へと向かった。


「やぁ、こんにちは」


「こんにちは……なんだい、あんたらも観光でここに来たのかい?」


「観光?」


予想していなかった単語にビリーが首を捻った。若い人間ばかりで勘違いされたのだろうか?


「いや、俺達は冒険者ギルドの依頼で来たのさ。これが冒険者証だよ」


「へぇ、そうかい……おっ、その若さでⅦ(セブンス)とは、名のある御仁だな?」


「ハハ、俺はそんな大層な人間じゃ無いよ。アニキ分の人達が人間離れしててね、名前を汚さないように必死なのさ」


これはビリーの偽らざる本音である。ビリーくらいの歳でⅦにもなれば普通は増長してもおかしくはないのだが、上に居る者達が桁違い過ぎてビリーには威を借る気にもなれないのである。そんな事をして恥を掻くのは自分だし、悠達に恥を掻かせる様な真似など思いも寄らない事であった。


「へぇ……それならアザリアを見ておくのは縁起がいいと思うよ。なんせここは英雄に救われた街だからね、それにあやかろうと冒険者がよく訪れるのさ。街の中心に行ってみな、どういう謂われがあるのかが分かるよ」


聞くまでもなく良く知っていると言うのも憚られ、ビリーは一応愛想良く頷いた。


「ああ、行ってみるよ。それと町長さんに少し伺いたい事があるんだけど、クエイド町長のお宅はどこかな?」


クエイドの家の場所を聞き出したビリーは他のメンバーの照会も済ませ、街の中心へやってきた。


そこで見た物にある者は笑い、ある者は憤った。


「あっはっはっはっは!!」


「うわぁ……なんか凄い……」


「これを見たらアニキ達喜ぶかなぁ……?」


「凛々しいですわ、皆さん」


「観光資源になってるね……」


「納得いかない。真ん中には悠先生が居るべきなのに」


そこには大きな石板が数枚設置されており、石板には緻密なレリーフが彫り込まれていた。刻石された文章には物語が綴られており、それぞれに戦いと名場面に解説を加えている。


特に目を引く中央の一際大きい石板で活躍するのはバローであり、悠に襲い掛かるドラゴンの首を一閃する光景はまさしく『龍殺ドラゴンスレイヤーし』の証明である。


その隣にある石板には街を救った三英雄の立ち姿が彫られているのだが、中央には剣を高く掲げたバローが凛として存在し、その脇を悠とアイオーンが固めていて、明らかにバローが一行の主役である事は疑いない。


「大体、顔を美化し過ぎ。本物はもっとダルそうな顔をしてる」


それについては異論を挟む者はいなかった。レリーフのバローはどこの貴公子かと思うくらい凛々しい表情をしており、普段のバローとはどうにも繋がらないのである。神奈が爆笑するのも無理からぬ事だ。


しかし同じように見物している冒険者達の意見は異なるようだ。


「素敵よね、バロー様……」


「貴族の当主なのにご身分を隠して他国の民のために命懸けで戦ったんでしょ? 今度の戦争では祖国で総大将として全軍を指揮されたっていうし、生ける伝説よねぇ……」


「隣のユウ様は素手でドラゴンを叩き伏せたって言うけど、ちょっと話を盛り過ぎね。そんな事出来るはず無いもの」


「「「言えてる~」」」


黄色い声で笑う冒険者達がそう思うのも、やはりパーティーリーダーは剣士が務める事が多いからである。歴史上の英雄は剣士が圧倒的に有名で、それ以外で名を成そうとすれば並外れた功績が必要なのである。


だが、それを笑って流せない者がここに居た。


「……悠先生を馬鹿にするのは許せない……」


凍えるような殺気を滲ませる蒼凪にビリーが慌てて声を掛ける。


「ま、待てソーナ! ここ以外じゃユウのアニキの名声は揺るぎないんだ、つまらない事で怒るなよ!!」


「そ、そうだよ! 本当の事を私達は知ってるじゃない!!」


リーンもそれに加わって説得すると、蒼凪は殺気を緩めた。


「……別に暴れたりはしない。私は、頑張った人が正当に評価されないのが気に入らないだけ。だからってあの人達に『呪詛カース』を掛けたりはしない」


やけに具体的に手段を語る蒼凪にビリーとリーンは冷や汗を掻いたが、蒼凪はクルリと踵を返した。


「行こう、ここは不快」


そう言って先ほど門番に聞いたクエイドの家の方に歩き出す蒼凪に神奈が苦笑を漏らす。


「蒼凪は忠誠心が高過ぎるんだよな。シャレで楽しんでおけばいいのに」


「悠先生の事で蒼凪さんにシャレは通じませんよ。それでも手出ししないくらいの冷静さはちゃんと保っていますから」


「忠臣ですね、ソーナさんは」


『龍殺し』誕生の地として観光地化したアザリアの街を一行はクエイドの家に向けて進んでいった。どうやら旧市街地を中心に街を拡張したらしく、歩いている内に建物が真新しい物に唐突に切り替わっているのがいかにも急造である事を匂わせていた。


それほど大きな街では無いので目的の建物にはそれほど時間も掛からず到着する。


「ここかな。門番も居るし」


クエイドの家は周囲の家から比べると大きいが、別に贅を尽くしたという風には見えなかった。門番も殺気立っておらず、声を掛けたビリーに気さくに応じてくれた。


「申し訳無い、クエイド町長にお取次ぎ願えるかな? 俺は冒険者のビリーという者だ」


「いらっしゃい。町長は中で仕事中だが聞いて来よう。来訪目的は?」


「少々伺いたい事があるんだ。もし何だったらユウの使いだと伝えてくれてもいい」


「分かった、ちょっと待ってなよ」


冒険者証と目的を確認した門番は一人を残して中へと入って行った。悠の威を借るつもりは無いが、スムーズな話し合いの為に名を使う事を悠は怒りはしないだろう。


その甲斐あってか、ビリー達はすぐに中に通された。




「今をときめく『戦塵』の方々をお迎え出来る機会があるとは光栄だ。バロー様、ユウ様、アイオーン様の3人はこの街の救世主、是非ゆるりとお楽しみ頂きたいが……」


「いえ、我々がやった訳ではありません、お気遣いなく」


クエイドはビリー達を大いに歓迎してくれた。元々兵士だったという経歴からその体は引き締まっており、地方権力者に見られる怠惰な気配とは無縁そうな人柄にビリーは密かに胸を撫で下ろす。


社交辞令的な挨拶が済むと、ビリーは当たり障りのない話から広げていった。


「話に伺っていたよりも随分と大きい街で驚きましたよ。ミーノス豊かと言えど、地方都市でこれだけ活気のある街もそう無いでしょう」


「赤面の至りです。この街にはこれと言った特色がありませんでしたし、私は政治についてはまるで素人でした。今も必死で勉強している所ですが、まず第一にこの街をお救いされた3人の功績を遺そうと町民の承諾を得てレリーフを設置した所、噂が噂を呼んで人が集まるようになりましてな。バロー様やユウ様がご活躍なさる度にその数は膨れ上がって行きました。今では立派な観光名所としてこの街を潤してくれています。そういう意図で作った物ではありませんが……これもお三方の御利益かと手を合わせています」


クエイドは最初から町興しの為に悠達の活躍を利用しようとした訳では無かった。むしろ感謝の念から払えるだけの金銭を払って立派なレリーフをと設置したのだが、その出来栄えとその後の悠達の活躍が噂を呼んで観光資源となったのである。


「それで、ご当人方では無く『戦塵』の方々が来たのはどの様なご用件でしたでしょうか?」


「ええ、実はですね……」


本題に入り、ビリーはクエイドに事の詳細を語り始めた。

発展していたアザリアの街。観光地になったという以外の意図も裏にはあります。

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