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9-26 『六眼』捜索1

「じゃ、遠征組はビリー殿にお任せしますよ」


「分かりました。任せて下さい」


悠が発ち、残された者達の組み分けもハリハリによって決定した。


まずイライザとアルベルトの捜索にビリーをリーダーとし、シャロン、リーン、蒼凪、神奈、智樹をハリハリは選んだ。パーティーでリーダー経験があるビリー、人捜しでは比類無い力を発揮するシャロン、現地人で土地勘のあるリーン、連絡要員の蒼凪、戦闘要員の神奈と智樹。智樹は女ばかりになるパーティーにもう一人男手を加えたいという考えもある。


しかし、この組み分けには当然異議も出た。


「シャロン様をお一人にするのは私は反対だ。……誤解しないで貰いたいが、別に過保護で言っているのでは無いぞ? 現実として何かあったら止められるのは私かサイサリスしか居ないと思うが?」


「勿論ワタクシも危惧はありますよ。しかし、能力で見るならシャロン殿を外すという選択はありません。別にギルザード殿とシャロン殿を引き裂きたい訳ではありませんが、これもシャロン殿の成長のためです。暴走する時に必ずギルザード殿が居るとも限らないですし、だからこそ暴走しないように心を鍛えて来たのです。それに、どの道今のギルザード殿にシャロン殿は止められないでしょう?」


「む……」


ハリハリの指摘にギルザードは返す言葉が無かった。現在ギルザードの『真式魔法鎧エンハンスメントアーマー』は穴が空いてしまって修理中なのだ。今は予備の鎧を身に着けているが、メインで使っている鎧ほどの力は出ないのである。


「それに、サイサリス殿にはドラゴンズクレイドルの事を知る唯一の人物としてここに残って頂かなくてはなりません。他にシャロン殿に対抗出来る人物を挙げるならヒストリア殿ですが、今更シャロン殿を殺すのはユウ殿とシャロン殿の意志に反します。依頼を受けた以上、『戦塵』として力を尽くすならシャロン殿は外せませんよ。……大丈夫です、今のシャロン殿なら人間の領域での依頼くらいは十分にこなせます」


ハリハリの言葉にシャロンも強く頷いた。


「ギル、私、皆と対等な立場で頑張ってみたいの。ユウ様のご期待に添うためにも……。自分の居場所は自分で勝ち取らなくてはならないって、ここで教えて貰ったんですもの」


握り拳を作って力説するシャロンにギルザードは溜息を吐いた。


「……畏まりました。シャロン様が自分で立とうとなさっているのを従者たる私が遮る訳には参りません。ご随意になさいませ」


「ありがとうギル!!」


認め合う主従の隣ではハリハリが蒼凪を呼び寄せていた。


「それでも万一の保険は必要でしょう。ソーナ殿、これを身に着けて下さい」


「それって……『天使アンヘルセーメ』?」


ハリハリが取り出したのは指輪に加工した『天使の種』である。当然、蒼凪の属性に合わせた闇属性強化の『天使の種』だ。


「万一シャロン殿に何かあったとして、止められるとすればこれを持っているソーナ殿だけでしょう。これがあれば大抵の闇属性魔法は使えるようになります。皆さんを守ってあげて下さいね」


「任せて」


短く、だが強く頷いた蒼凪の手を取ってハリハリは微笑み、中指に指輪を嵌め……ようとして微妙にサイズが合わず、空気も微妙になったが、なに、隣の指ならジャストサイズだと軽く頭を振って思い直し、今度は薬指に……。




その瞬間、ハリハリの指に蒼凪の指が複雑に絡みつき、両手の指に指四の字をガッチリと極めた。




「ギャアアアアアアアアアアッ!!!」


メリメリと食い込む指の痛みにハリハリが絶叫するが、蒼凪は至ってクールに告げる。


「私のその指に指輪を嵌めていいのは全世界で悠先生だけ。他の男は触れる事すら許可しない」


「なにこの技地味にスッゴイイタイイタイイタイイタイイタイーーーーーッ!!!」


1ミリ動いただけで脳を漂白する痛みに襲われ悶絶するハリハリに無表情で技を掛け続ける蒼凪だったが、ハリハリが痙攣しだしたのを見て見かねたシャロンがやんわりと取り成した。


「ソ、ソーナさん、ハリハリ様も悪気があった訳では無い……と、思います、多分……。そろそろお許しになられては?」


「……シャロン、この技には一つだけ弱点がある」


「は、はい?」


真剣な気配に若干押されるシャロンに蒼凪は呟く様に答えた。


「両手で掛けたが最後、自分では外す事が出来ない。無理に指を引き抜くと相手の指が折れる」


「ひえええええええええええ!?」


事実上の圧し折り宣言にハリハリが切実な悲鳴を上げたが、溜息を吐いた樹里亜が一瞬の早業でハリハリの指から蒼凪の指を引き抜いた。


「ダメじゃない蒼凪、使う時は片手にしておきなさいって言ったでしょ?。……っていうかいつの間に両手で掛けられるくらい練習したのよ?」


「頭に血が上った。今は反省している。練習は智樹が手伝ってくれた」


関節技の概念はアーヴェルカインではあまり発達していない技術である。と言うのも、魔物モンスターには人間と関節の構造が異なる者が多く、あまり役に立たないのだ。また、技の性質上人間相手でも多数居る場合では使いにくいのだった。


練習相手になったという智樹は少し蒼い顔で視線を逸らしており、相当練習に付き合わされたのだろうと思われた。喜んで練習相手を務めたかどうかは……さて。


「でも、これは使えそうだから貰っておく。ありがとうハリハリ先生」


「……どお、いたし、まして……」


人差し指に指輪を嵌め礼を述べる蒼凪に、ハリハリは床で両手をピクピクと痙攣させながら答えたのだった。


「ト、トモキ……何かあったら止めてくれ、頼む……」


「……ビリー先生、最近の僕はそういう役回りばかりなんですけど……」


冷や汗を流すビリーに、智樹はルビナンテに会いたいなと心を逃避させるのだった。




遠征組のメンバーに合わせ、近隣でフェルゼン冒険者ギルドの依頼をこなすメンバーも一緒に発つ事になった。内訳はミリーをリーダーにして、小雪と年少組の明を除いた4人である。


「ミリー殿も今や立派なⅦ(セブンス)の冒険者です。この近辺の依頼くらいはこのメンバーで難なくこなせるでしょう。コユキ殿、サブリーダーとして防御面はお願いしますよ」


「はい、分かりました」


「が、頑張ります!!」


高位冒険者が出払って厳しいのはどこも同じであり、他の地方より春が早いミーノスでは既に魔物も活発に動き出しているのだ。ハリハリは年少組の4人にも各属性強化の『天使の種』を加工した指輪を持たせ、送り出す事に決めた。


そうやって屋敷を出る者を送り出すと、いつもよりも屋敷の中は閑散としているように感じられた。


「万一の防衛戦力としてシュルツ殿とギルザード殿、それにヒストリア殿に残って頂きました。同時に予備戦力でもありますから、何かあった時は対応をお願いしますね」


「防衛戦力というには過剰戦力だと思うがな」


「まぁいいだろう、この機に我々も剣技に磨きを掛けようではないか」


「ひーが居れば誰もここには近寄らせん」


主戦力の3人は互いに頷き合った。シュルツは引率には向かないので居残り組は決定していたし、先述の通りギルザードは鎧の修理中だ。ヒストリアは実際人間相手では過剰戦力なので留守番になったのだった。


「たまにはケイ殿も外に出してあげたかったんですが、メイ殿も残る関係上こういう風になりました。それに、万一ユウ殿から物資を用意して欲しいと要請があった時にはケイ殿に頼る可能性が高そうですので。次のエルフィンシードには付いて来て貰う予定ですので我慢して下さいね?」


「ええ、分かっています。いい子にお留守番出来るわよね、明?」


「うん!! アルトお兄ちゃんに色々教えて貰うの!!」


恵はエルフィンシード行きのメンバーに既に内定している。理由は当然アリーシアのお気に入りだからだ。似た理由でナターリアと友誼を交わした樹里亜もエルフィンシードに行く事が決定していた。


「アルト君、明が我儘を言ったら叱ってあげてね?」


「お、お任せ下さい、ケイさん」


アルトは普段より幾分か歯切れの悪い返答になってしまったのを内心で赤面した。どうも蒼凪に正面から指摘されて以来、恵を前にすると若干緊張してしまうのである。まだアルトには経験が足りず、自分の感情が単純な恋心なのか単なる憧れなのかは不分明なのだった。


「ジュリア殿はワタクシと共にユウ殿がもたらすであろう情報を精査し解析に努めて頂きます。ワタクシの抱えている仕事が多いので頼る事も多いかと思われますが、お願いしますね」


「はい。私もこの機にもっとレベルアップしておきたいですからね。……家事とかも」


それは乙女にとっての戦いのスキルなのである。


「後は……そろそろ馬鹿弟子の謹慎を解いてやりますか」


やれやれとハリハリが肩を竦め、それぞれの行動が始まった。

指四の字を教えたのは樹里亜。読書の守備範囲が広過ぎる(笑)


とりあえずこんな感じで各自で行動開始しました。

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