表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
841/1111

9-25 暗中模索14

《悪い娘じゃ無かったけど、ユウがあの娘を抱くっていうなら止めなきゃならなかったわ》


「生きるか死ぬかを秤に掛けるほど俺に性欲は無いさ。バローなら割と真剣に悩んだかもしれんがな」


《バローには理想の死に方かもね。腹上死》


どうやら死ぬ前提らしい。


《それはさて置き、色々と話が聞けたわ。管理者や『界外アナザー』、海王ネプチューン、それにファルキュラスが使っていた力……あれ、魔力マナじゃ無かったわよ》


「それに、遥か昔は種族間の交流があった事も分かったな」


《奴の母御は少なくとも一万年以上前からこの世界に居たのだろう? ドラゴンよりも前にここに居た種族だ、興味は尽きんな》


しかし、それらは後に置く話である。今悠がやるべきはドラゴンズクレイドルの攻略なのだ。


「ここを拠点にさせて貰えれば良かったが、ここに居ては連絡が通じんからな」


《この結界、ファルと同種の力で張られてるみたい。仮に……海気マリーンとでも言っておきましょうか。魔力マナより出力は高いけど、竜気プラーナほど荒々しくは無いわ。微妙に捉え辛い性質だから私の感知も十全とは言えないわね》


《我も同様だ。海王の部屋の前に来るまで上手く察知出来なかった。それよりも濃密な殺気の方に早く気付いたくらいだ》


レイラもスフィーロも探索に特化した竜では無い。それでも竜の目は簡単には謀れないし、レイラは真正のⅩ(テンス)の竜である。その感知能力が鈍るとなれば相当なものだ。


「おそらく水精族ニンフも同一の力だな。テントで寝ている時も魔力などでは無く、音や気配で俺も感付いた。……ん?」


と、悠が言った瞬間、悠は微かな気配を感じて振り返ると、そこにはふよふよとケーキの欠片を抱えて漂うプリムの姿があった。


「待ってよユウ~!」


《プリム? ……あなた今どこから来たの? というより今何かしてる?》


レイラの質問は、こうして視認しているはずのプリムから気配も海気も殆ど感じられなかったからだ。だが、プリムにそんな器用な真似が出来るのかと考えると首を捻らざるを得ないし、出来るなら悠を偵察しに来た時に使えばいい。


「うん? えっとね、海王様にお守りを貰ったの。これをつけていれば気配を拡散させられるんだって。海王様が持っていても力が大き過ぎて効果が無いけど、わたしみたいな元々気配の小さい種族が身に着けていれば隠れていれば誰にも見つからないって言ってたよ!」


プリムは砂粒ほどの蒼い石を首からぶら下げていた。


「『希薄レアファイ』が恒常的に掛かっているようなものか……しかし、そんな物を持ってどうした?」


「海王様がユウを手伝ってあげなさいって。他の子はみんな怖がって無理そうだったからわたしが来たのよ!」


空中でえへんと胸を張るプリムだったが、悠は首を振った。


「プリムの義侠心と海王の援助にはとても感謝しているが、しばらくは地上に出ない方がいい。事が収まるまでプリムも他の皆と……」


「……そしてユウはまた一人で危ない事をするんでしょ?」


急に俯き呟いたプリムの声は哀切に満ちていた。笑っていたはずの目にはいつの間にか涙が溜まり、雫になってケーキに吸い込まれていく。


「……」


危ない事をしないとは言えなかった。プリムはこう見えても100年を生きる生命体であり、その場しのぎの嘘は意味が無いのだ。


「ユウは強いよ……怪我をしても平気そうだし、傷だってもう治ってる。……だけど、痛いんだよ!! たった一人でユウがまたムチャしてると思うと、わたしの心が痛いんだよ!!!」


ボロボロと涙を零すプリムはケーキを落とし、締め付けるような幻痛を訴える胸をギュッと両手で押さえた。


プリムは小さいし子供っぽく、泣き虫で思慮深い性格でも無いが、その知能までが子供と同等な訳では無いのだ。明るく振る舞いながらも先ほどの戦闘で悠が自分を庇って傷付いた事に気付いており、ずっと気にしていたのである。だからプリムは悠に恩返しがしたかったのだろう。


泣き止まないプリムに悠はハンカチを取り出そうとしたが、普段持ち歩いている物は胸を撃ち抜かれた時に血で汚れてしまっていたので服の裾をプリムの顔に当てた。


「ぐしゅ……」


「もう泣かんでくれ。俺には胸を撃ち抜かれるよりその方が堪えるんだ」


自分の苦痛なら悠はどれだけ酷いものであっても耐えられる。それだけの修練を積んで来たし、龍相手に手足を失う事は日常茶飯事だ。斬られ溶かされ千切られ焼かれてもずっと戦い抜いて来たのである。


だが、誰かが自分の為に流してくれる涙は全く慣れる事など出来ない別種の痛みを悠にもたらすのだった。


「本当に危険だぞ、もしかしたらでは無く死ぬ事も有り得る」


「ぐす……分かってるよ、それでもお手伝いしたいの。邪魔かもしれないけど、一緒に連れて行って!」


潤んだままだったが、プリムの目はこれ以上無いくらいな真剣さを湛えていた。このままここに留まらせてもこっそり付いて来るくらいの事はやりかねない目だ。


《……はぁ……ユウ、私達の負けよ、連れて行きましょう。ダメって言っても絶対付いて来るっていう目をしてるわ。それならまだ分かってる方がマシよ。泣く子には勝てないわね》


「そうだよ!! ぜっーーー……ったい付いて行くんだから!!!」


レイラの言葉を肯定したプリムが絶対に放すもんかと裾を握り締めるのを見て、悠もようやく折れた。


「……勝手に俺の側から離れるなよ?」


「っ!! うんっ!!!」


プリムは喜びを満面に表して何度も何度も頷き、今更落としてしまったケーキに気付いて悲しそうな目を向けた。喜怒哀楽の表現が激しい娘である。


悠はまだあるかと鞄を漁ったが、海王に渡した鞄と違い、こちらは普通の食料品ばかりで甘味の類はあまり無く、見つけられたのはたった一枚のクッキーだった。それでもプリム一人なら十分な量かと、悠はクッキーを小さく割り、プリムに渡した。


新たな甘味にプリムの顔が輝き、両手に持って齧り付くと溶け崩れるような笑顔がその顔を彩る。


「おいしーーー!!!」


「それでいい。甘い物は笑って食うべきだ。塩味がしては台無しだからな」


「うん!!!」


《……子供には甘いというオチがついたという事か?》


《誰も上手い事言えって言ってないわよ、スフィーロ》


新たにプリムを供に加え、悠は海底神殿を後にしたのだった。




海底神殿から外に出ると、既に日は傾き始めていた。


「思った以上に時間を食ったな」


《外に出たら何百年も経ってましたっていう昔話よりマシよ。もっとも、それだけ放置したら世界は滅んでいたでしょうけど》


「そんな話あったっけ?」


《後で教えてあげるわよ》


レイラはもうプリムが付いて来る事を割り切ったようだ。仲良く喋る2人は共通の性別という事もあってかすぐに打ち解けたのである。


「しばらくの間はプラムドからの連絡を待ってこの場で待機だな」


《上手く説得出来ればいいが……》


悠に考える事は多い。メインであるドラゴンズクレイドル攻略、その他にもⅩの冒険者証の入手やイライザ、アルベルトの捜索など、山の様に仕事を抱えているのだ。これが終わればエルフィンシードにも行かなければならないし、そうなると自然と戦争相手であるドワーフとも交流を持たなければならないだろう。


だが、悠は少し肩が軽くなったような気分で思考を打ち切った。


自分には頼るべき仲間が居るのだ。きっと今も各地で奮戦している事だろう。


今頃彼らはどうしているだろうか……。

付いて来るのはあえてファルでは無くプリムです。


そして次から各地の状況に視点を変えてみます。……八章は時間経過は短そうですが、文章量的に長くなりそうなので、誰かの話は削って後日にしてしまうかもしれません。絶対見ておきたい人物の話は感想ででも表明しておいて貰えると助かります。



追記として現時点で決まっている組み分けを以下に記します。


・イライザ、アルベルト捜索


ビリー、シャロン、リーン、蒼凪、神奈、智樹


・近隣でのギルド依頼消化組


ミリー、小雪、年少4人


・留守番組


ハリハリ、シュルツ、ギルザード、ヒストリア、樹里亜、恵、明、アルト、ルーレイ(謹慎中)


・結婚ドタバタ組


バロー、レフィーリア、アグニエル他ノースハイアの人々


・その他


各国個別の登場人物。




多少重複する部分はあるかと思いますが、現在私の脳内ではこの様に分けられています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ