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9-23 暗中模索12

後半シモ注意。

海王に一撃を加えると、悠は『竜騎士』化を解いた。


《ジャスト10秒、戦闘終了》


《……流石に死んだのではないか?》


床に横たわり動かない海王をスフィーロが評したが、悠は胸部を押さえ治療しながら首を振った。


「殺すつもりなら原形を留めておらんよ。呼吸もしているだろう?」


そう言われてよくよく見れば、微かに海王の胸が上下しているのが見て取れた。


《だが、何故急に『竜騎士』になったのだ? 今ので察知されたりは……》


《短時間なら大丈夫だって分かったから使ったのよ。この場所は竜気プラーナを通さない結界が張られてるわ。その証拠に『心通話テレパシー』も通じないしね》


悠が壁を駆け上がった時にレイラはその結界の端に触れたのだ。それが海王の力を地上に隠蔽していると推測したレイラは悠に『心通話』で外部と連絡が取れるか確かめさせたのだった。


時間を区切ったのは海王を上回るであろう悠の力を長時間隠蔽するのは厳しいと踏んだからである。


「ユウー!」


部屋が静かになった所で海王の部屋に避難していたプリムが悠に向かって飛び付いた。


「良かった、死んじゃうかと思ったよ~!!」


悠の胸元で泣きじゃくるプリムに、悠は痛む左手を無理矢理持ち上げ、指先で頭を撫でた。


「手荒に扱って済まん。怪我は無かったか?」


「わたしは大丈夫……でも、海王様は?」


まだ目を覚まさない海王にプリムが心配そうな視線を向けていたので、悠は手早く自分の治療を済ませると、海王の側に屈んで腹の上に手を置いて『簡易治癒ライトヒール』を施した。


「……ん……」


治療が効果を発揮し、海王が目を覚ます。


「……なに気安く乙女のハラ触ってんねんボケコラァ……」


「乙女かどうかはさて置き、元気そうで何よりだ」


険しい目で悠を睨む海王だったが、意識を失っていた自分に更なる攻撃が加えられていない事や、腹部の痛みが薄れていく事から悠に敵意が無いのだとようやく悟ったようだった。海王が回復したと見て、悠は腹から手を離した。


「海王様! ユウは悪い人間じゃないよ!!」


「ハイハイ、もうわーったちゅーねん、あんまりキンキン言いなや。現身や無いとはいえ、ウチをボコるようなんを人間とは言わんけどな」


海王は抗議するプリムを上体を起こして頭の触手で押しのけ、悠に視線を戻した。


「自分、ホンマに一体何者や? 言っとくけど、普通の人間やなんてウチは信じんで。今まで生きて来てカルマが判別出来んヤツなんぞ初めて見たわ」


「業を知っているのか?」


悠の言葉に海王は鼻を鳴らして答える。


「フン、これでも管理者の端くれや、そのくらい知っとるわ。むしろ、普通の人間が業の事を知っとるハズ無いし……アンタ『界外アナザー』とちゃうんかい?」


管理者、『界外』と立て続けに知らない単語が並べられ、海王が深刻な勘違いをしていると悠は悟った。


「『界外』が何を指す言葉なのかは知らんが、俺は『異邦人マレビト』ではあるがれっきとした人間だ。少々込み入った事情はあるがな。詳しく話さねば理解出来んと思うが?」


「『異邦人』? ……ホンマかいな……。ま、ええわ、ウチに勝ったんや、話くらい聞いたるわ。でもその前に」


海王は顔の血を手で拭いつつ自分の腹を指差した。


「もうちょい今の気持ちいいやつ続けてや」


「……乙女の肌に気安く触るなと言っていたと思うが?」


「許可無く触るなっちゅーこっちゃ。ウチがいいって言ぅたらええねん、ホラ、早よ」


気が短いのか、悠の手を掴んだ海王は自分の腹にその手を当ててゴロリと転がった。豪胆なのか図太いのか、もう警戒はしていないようだ。


「あぁ……なんや、男の手って言ぅんは、こう、ゴツゴツして、心地ええなぁ……」


「……」


どことなく満足げな海王に悠は治療の必要があるのか疑問だったが、円滑な会話の為にその思いを飲み込んで治療に専念するのだった。




「へぇぇ……ユウやんは世直しの旅の途中なんかい。ご苦労なこっちゃのう」


気さくに話す海王は自室の椅子で盛んに相槌を打った。『竜騎士』の事やアーヴェルカインにやって来た経緯、これまで自分がやって来た様々な出来事を語るにはそれ相応の時間を必要としたので、海王の部屋に招かれたのだ。


「でもそれで合点がいったわ。どんなに強かろうとウチがただの人間に負けるはずあらへんしな。その強さのせいで余計に誤解を招いたんやけど……現身で戦ったらこの城も壊れてまうし、次はもっと広い場所でやろうや」


「敵でも無い相手との殺し合いは御免被る」


「つれないお人やなぁ」


愉快そうにカラカラと笑う海王に、今度は悠が質問した。


「しかし、まだ本気では無いとは、海王とは一体何者だ? 業も見えるし、管理者の意味も分からん。この世界の外の事も認識し、『界外』という……」


「ちょ、待ちぃな、そんなポンポンポンポン質問されて答えられるかい! ウチは触手は一杯あるけど口は一つなんやで? 順番に答えるさかい、質問は一個ずつ……や、ちょい待ち」


海王は言葉を途中で切り、何事かを思案して悠をジロジロと上から下まで舐めるように見ながら呟いた。


「…………うん、ええかな? 強いし、案外優しそうやし。それに異世界の勇者なんてこの先お目にかかれんかもしれへん……」


何かに納得し、悠に向き直った海王の目を見た瞬間、悠は強い既視感に襲われた。あれは誰の瞳だったかと思考を高速回転させると、すぐに数人ほど思い当たった。


例えば……そう、プライバシー保護の観点から仮に髭侯爵と呼ぼう。




それはミーノスに居た時の事である。


「ユウ、俺は今晩ちっと出掛けるからよ」


「何処へだ?」


「何処ってお前……野暮な事聞くなよへっへっへっ」


汚い笑みだった。


「(髭侯爵)先生、何処かで修行ですか?」


「おう、まぁ、修行っちゃ修行だな! 汗も掻くしよ! アルトも連れてってやろうか?」


「アルトにはまだ早い」


とりあえずその時は3階から髭侯爵を投げ捨てて事無きを得たのはまだ記憶に新しい。


別の事例もある。その時は長耳魔法狂(仮称)だった。


「ユウ殿! 新しい魔法を開発しましたよ!!」


「そうか、すぐに忘れてもう二度と使うなよ?」


「ひ、酷い!! せめてどんな魔法か見てから言ってくださいよ!!」


この長耳魔法狂は腕のいい魔法開発者なのだが、時折趣味に走った魔法を開発して周囲に迷惑を振り撒くのだ。特に、いい笑顔で報告してくる時は要注意である。


「分かった分かった、それで、どんな魔法だ?」


「そうですね、例えばそこに居るシュルツ殿に使ってみましょう! 唸れ! 私の透視まほ――」


長耳魔法狂の濁った目を突いて悶絶させ、シュルツに引き渡した事も記憶に新しかった。しかもやはり欠陥魔法で、使うと見えないはずの物が見えるという脳に優しくない魔法だったので二度と使わないように厳命した。結局最初の対処が正しかったのだ。




今の海王には彼らに共通した濁りを悠は感じたので、悠は海王が言葉にするのと同時に口にした。


「断る」「質問に答えるから――ってまだなんも言ってへんわボケェ!!!」


「だが断る」


「何の事かも分からんのに断んなや!!!」


断固拒否の悠に海王が怒ってテーブルを殴った。放射状に入った亀裂は理不尽ゆえかもしれない。もしかしたら本当に何か訴えたい事があったのかと思い直し、悠は譲歩する事にした。


「……分かった、質問に答えるから、何だ?」


「質問に答えるからウチとちょっと子作りしてくれへんかなぁ?」


「帰る。邪魔したな」


《無駄な時間だったわね》


やはり下心だったと知り、悠は席を立って帰り支度を始めた。


「ちょ、こんなイイ女が誘っとるんに即断かいな!? アレか? 人間以外は抱けへんっちゅーんか!?」


「そんな事は無いが、遊びで子供を作るつもりは無い。そういう無責任な真似は好かん」


「別にええんやって! ウチもそろそろ後継者が欲しいんや、ユウやんが元の世界に帰ってもウチ一人でちゃんと育てるさかいに!!」


「誰でもいいなら適当な男を見繕って種付けして貰えばいい、俺はやらん」


「誰でもいいワケちゃうわ!!! ウチを負かしたユウやんやから恥を忍んで頼んどるんやないか!!!」


「忍んでいる様には見えんが?」


あくまで冷めた悠の反応に、ブチ切れた海王が叫んだ。




「は、初めては自分より強い男に優しくして貰いたいんじゃ言わせんなアホンダラァ!!!」




……重い沈黙が部屋を支配した。

ちょっと海王はルビナンテと似てますね。乙女を自称するだけの事はあります。

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