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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第二章 異世界出発編
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2-4 見渡す限りに屑ばかり4

「よし、では脱出するか。・・・ところで地下に居て時間が分からんが、今は何時だ?」


「俺とクライスがあそこに居たのが、夜の9時の鐘がなった時間でしたから、今は10時頃かと・・・」


「夜か。好都合だな。通りで人が少ない訳だ」


それでもここに来るまでに誰にも会わなかったのは、ベロウが上手く回避したからと、部屋の見張りに付いていた男が恵に良からぬ事をしようとして持ち場を離れていたからだ。


「では今度は庭に案内して貰おうか。それと、貴様も一人背負え。そいつはここに置いて行っていい」


そう言ってクライスを見ると、その気配だけでクライスは体の震えを大きくしていた。最早まともな生活は送れないであろう。目は潰され、耳朶も無く、心も壊れかけている。普通の人間としての人生は終わっていた。


「わ、分かりました」


自身も右手が無く、その激痛に脂汗をかいていたが、悠はそんなベロウに容赦はしなかった。


「恵、君も一人背負えるか?無理にとは言わん」


「いえ、私も一人背負えます。やらせて下さい」


傷病者は3名居たので、悠が一人、ベロウが一人として、あと一人誰かに背負って貰う必要があったのだ。


「この子達には早急な治療が必要だ。くれぐれも丁重にな」


「はい、分かりました」


素直に恵は頷いて、うつ伏せになっている子を背負ったが、その軽さに思わずどきりとした。身長が150センチくらいはありそうなのに、まるで妹を背負った時の様に軽かったのだ。


それに全く身じろぎもしないので、一瞬死んでいるのかと青褪めたが、細い呼吸音は聞こえたので、思わずほっとして恵は改めて担ぎなおした。


ベロウは右手が手首から先が無いので、片方が欠けている子は背負うのが難しいと判断し、全身に包帯を巻いている子を担いだ。


「ぃ、いたぃ・・・いたいよ・・・うぅ・・・」


か細い声がベロウを責める様に囁かれた。それを見た悠がレイラに頼んでその子供の意識を精神に干渉して落とした。


奥義は扱えないが、子供の意識を落とすくらいは竜気解放プラーナリバレート無しでも可能である。


《しばらく我慢してね・・・》


レイラは続けて悠が背負おうとしている子供の意識も落とす。悠は荷物から紐を取り出して、背負った子供が落ちない様に、自分に縛り付けた。


「天城には感謝せんとな。早速役に立った」


荷物に入れておいた紐は、燕が何かと役に立つと言って悠に勧めて来た物だ。


「君らも準備はいいか?これからこの城を脱出するぞ」


子供達は悠の言葉を真剣に聞いて頷いた。もう諦めていた脱走が今現実になるのだ。その目には押さえきれない興奮が見て取れる。


「庭まで出れば、君らを安全な場所に匿う事が出来る。それまで自分に付いて来てくれ」


首を縦に振る子供達を確認した後、悠はベロウに声を掛けた。


「では案内して貰おう。ああ、それと途中で食料も確保したい。食材といえば地下に保管しているのではないか?」


「は、はい。庭までのルートの途中にありますので、ご、ご案内します」


どんどん国に対しての背信が嵩んで行く事に顔色を悪くするベロウだったが、だからと言って出来ないなどとはとてもではないが言えなかった。


そして悠は部屋を出ようとしたが、不意に思い当たり、クライスへと歩み寄って、その無くなった耳に囁いた。


「以後、この様な無体な真似をしてみろ。その時は例え違う世界からでも舞い戻って来て、貴様に今以上の生き地獄を味あわせてやる。何度でも、何度でも・・・俺は神崎だ。この名前を忘れるなよ」


クライスが完全に壊れたのはこの時だっただろう。後に兵士に発見された時、クライスの髪は真っ白になり、口からは涎を垂らしつつ、ただ同じうわ言だけをひたすらに繰り返していた。


「カンザキが来る・・・カンザキが来る・・・」


それを他の兵士達は薄気味悪そうに見るのだった。








「あれ、ベロウ様じゃないですか。こんな所にどうしました?」


食料庫には見張りの兵士が一人立っていた。貴重な食材もあるので警備しているのだ。


「ああ、ちょっと毛色の違う召喚者が来てな。色々尋問しようと思っているな」


「へへ、尋問じゃ無くて拷問でしょうに。俺も一度でいいからやりたいと思ってるんですけどね。ベロウ様から口利きして貰えませんかね?・・・多少ここの物資を横流ししてもいいですよ?」


後半のセリフをベロウに耳打ちする様に提案する兵士だったが、強張った笑いをするベロウを更に説得しようとした所で、不意に後頭部を掴まれたかと思うと、凄まじい勢いで顔面を石壁に叩き付けられた。


《・・・本当に屑しか居ないわね、ここ》


「同感だな」


「・・・」


レイラの痛罵に同意する悠と、何の反論も出来ないベロウ。


「よし、みんな来ていいぞ。持てるだけ食料を持て。当面は大丈夫な様にな」


その言葉に反応して子供達が隠れていた場所から出てきた。悠とベロウもそこに寝かせていた子供を背負い直すと、続いて食料庫に入っていく。


「ほう・・・中々の量だな。これなら当分は持つな」


軍を預かっていた悠にとって、兵站は無視出来ぬ物である。人は食わねば動けない。補給無くして戦い続ける事は出来ないからだ。


「肉ばかりで無く、パンや野菜もちゃんと持って行くんだぞ。万遍無く栄養は取らねばならん。あと、調味料も忘れずにな。恵、君も見てやってくれ。子供達だけでは分からん物もあるだろう」


「はい、分かりました。と言っても私も見た事の無い物も結構ありますね、ここ」


「ある程度分かる物だけで構わんよ。特に塩だな」


塩は人間の活動には欠かせない要素であるし、何より塩気の無い料理は子供には辛いだろう。


そうして10分ほどで当面の食材を拝借した一行は、庭に向かって再度行進を開始したのだった。


――余談だが、この時胡椒も5キロほど拝借していたのだが、胡椒はこの国では超高級品であり、5キロもあれば普通に家が買えるほどの高価な代物であった。それを根こそぎ奪われた王族は、しばらくの間、スパイシーな生活からは離れる事を余儀なくされ、賊に対して更なる恨みを持つのだった。

腹いせに、と言うか腹ごしらえの為に、城を荒らしてやりました。


いつの間にかベロウが使える子になってますね。

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