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9-6 東奔西走6

「そういやユウ、お前さんサイコを探してるんだって? またアイツが何か悪さでもしたのか?」


「本部から聞いたのか……。ここでなら言っても構わんだろう、サイコはおそらく『異邦人マレビト』だ。もし間違いが無ければ奴も帰してやらねばなるまいよ」


「「サイコが『異邦人』!?」


青天の霹靂と言うべき情報にコロッサスとサロメが色めき立つ。今まで誰一人サイコが『異邦人』であると疑っていた人間が居なかったというのがその表情から伝わってきた。


「……それは確かな情報か?」


「9割方間違い無かろう。どうやって軍を抜け、一人で生き抜いて来たかは分からんが……今にして思えば、サイコの持っていた剣は神鋼鉄オリハルコンだったな」


「っ! そうか、あの飛ぶ斬撃の秘密はそれか!!」


サイコの持つ聖剣と呼ばれる剣の能力を思い出し、コロッサスは納得したように唸った。あれは自分の愛剣とそっくりな能力である。


「サイコが名を上げるはずだぜ。神鋼鉄の剣なんか持ってりゃ同格の剣士じゃ敵わねえ。どこで手に入れたのかは知らんが……」


「多分身体能力強化系の才能ギフト能力スキルを持っているんだろうが、あの戦い方を見る限り、相当な修羅場を潜って来たのだろう。攻撃的な性格も過去の経験から来ているのだとすれば説明はつく」


しばらく悠の言葉を吟味し、コロッサスはサロメに問い掛けた。


「サロメ、最近サイコの目撃情報はあるか?」


「……私が把握している限りではありません。もっとも、サイコは変装の達人ですから本気で紛れていれば見つける事は難しいでしょうが」


サロメが把握していないという事は、目に見える範囲で活動はしていないという事だ。そのくらいにはコロッサスはサロメの事務能力を信頼していた。


「ああ……ユウさんがイライザ様を探していらっしゃるのはサイコの行方を知りたいという事でもあるのですね?」


「ご明察だ。近くに居ればレイラなら個人の特定は可能だからな」


悠がイライザ捜索を引き受けた理由をサロメは明敏に察した。忙しい悠が単にギルド長候補捜索という理由だけで引き受けるとは思えなかったのだ。


「確かにサイコはランクの維持にも熱心ではありませんから、ギルドを訪れるのを待っていてはいつ会えるか分かりませんね」


「大胆不敵に見えて細心な相手だ、容易に説得出来るとも思えんが、せめて帰る場所があるのだという事くらいは伝えたいと思う」


「サイコがなぁ……アイツも苦労してたんだな……」


サイコと言えば勝つ為なら手段を選ばないその生き方から『外道勇者』の二つ名で呼ばれて久しい冒険者である。だが、サイコが外道と言われながらもその下に『勇者』と呼ばれているのは何も聖剣を持っているからだけの理由では無い。


「そういやアイツ、大人は騙すし殺すし容赦ないが、子供を殺したって話は聞かないな。むしろ、サイコに助けて貰ったって噂を幾つか聞いた事があるぞ。大人は皮肉を込めて「まるで勇者だな」って笑い飛ばしてたが、案外本当の話なのかもな」


「サイコ自身が悪評ばかりにならないように流した嘘だという説が有力ですが」


「あの性格では信じては貰えまい。もし自然発生的な噂なら真実かもしれんな。誰も詳しくサイコの事など知らんのだろう?」


「違いない」


先入観で噂を嘘と断じていた事を認め、コロッサスは苦笑した。


「分かった、ミーノスでもサイコが見つかったら教えてやるよ」


「ああ、頼む」


悠は会話の終了を感じソファーから立ち上がろうとしたが、コロッサスがそれに待ったを掛ける。


「おっと、ユウ、俺達にもう一つ見せるモンがあるだろう?」


「見せる物? ……もしかして、これか?」


ギルド本部で借りた古びた箱を悠は鞄から取り出し、テーブルの上に置いた。


「おお、こいつが冒険者の憧れの……俺は遂に見る事は叶わなかったなぁ……」


Ⅹ(テンス)の冒険者証が納められているという箱をコロッサスは感慨深そうに見つめた。Ⅸ(ナインス)にまで駆け上がったコロッサスだったが、Ⅹなどは一度として打診された事は無かったのだ。その条件を聞いて初めて自分達には縁が無かったのだと納得したものだが……。


「ふむ……この箱自体が神鋼鉄だとすれば、価値は計り知れませんね。大きさからして鎧は無理でも武器の一つくらいは作れそうですが……この機構は興味深いものがあります。もしかして人間が作った物では無いのでは?」


「ありえる話だな。俺もこれまで色々な宝箱を見て来たが、国宝を納める箱だって装飾はしてあっても無理矢理なら開ける事くらいは出来るモンだ。そもそも爪の先ほどでも目玉が飛び出る値段がする神鋼鉄を箱にするって発想は人間の発想とは思えん。鍵もおそらく神鋼鉄製だろうな」


「人間で無ければ……エルフかドワーフか?」


悠の質問にコロッサスは頷いた。


「ドワーフの線が濃いな。こういう物を作らせたらドワーフの右に出るヤツは居ないと思う。その内行くつもりならこれは無理矢理開けない方がいいかもしれないぞ」


「そうか、ならばなるべく壊さん事にしよう」


アドバイスを貰った悠は箱を鞄に仕舞い、席を立った。


「それでは俺は行かせて貰う。また後日な」


「今度はもっとゆっくりしていけよ」


「お疲れ様でした」


そう言ってごく自然に悠と一緒に執務室から出ようとしたコロッサスの腰に金属の冷気が突きつけられた。


「……懲りない人ですね……そんなに私に人殺しをさせたいのですか……?」


「ご、誤解だ!! お、俺はちょっと悠を送ろうと思っただけで逃げようなんて思ってないぞ!?」


「では何故腰に剣を?」


両手を上げるコロッサスの腰にはしっかりと剣が下げられていたが、コロッサスは慌ててその誤解を否定する。


「剣士の癖ってやつだよ! 別に逃げる為に持ってきたんじゃない!!」


「……」


「……」


「……」


「……」


重い沈黙の中でペン先が少し突き込まれ、そして引き抜かれた。


「イッ!?」


「……仕方ありませんね、お人好しの私は信じてあげましょう」


「い、いや……お前今ちょっと刺したよな? 信じたのに刺したの? え? 意味分からんぞ?」


「いいから仕事を始めて下さい。このままでは今日の夜は自由時間は無しですよ?」


「……はい……」


平和になったら仕事が減るかなぁと、コロッサスは刺された場所を擦りながら思ったのだった。

サイコと箱の説明がメインの回でしたね。少しいつもより短いです。


そしてドSなサロメさん。

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