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閑話 遺品整理

この辺りで出しておくのが適当かと思い書かせて頂きました。

覚えているだろうか? バローが最初に悠とノワール家を訪れた時の事を。あの時バローが持ち出した召喚者の子供達の遺品の事を。


それらの物品は今悠の屋敷にあり、更にノースハイアの城に保管されていた分もこちらに移されていた。


アーヴェルカインでは機械製品はオーバーテクノロジーの塊であって再現不可能だが、幾つかの物品に関しては悠の屋敷の中でカリスの研究材料として扱われていた。


「……っだーーーーーッ!!! 分っかんねーーーーーッ!!!」


カリスの絶叫が部屋に響き、同席していた樹里亜が苦笑する。


「ボールペンやシャープペンは一見再現出来そうに見えて難しいと思いますよ。各部の機構は精密極まりますし、インクもそのままじゃ固まっちゃいますから。鉛筆みたいな物なら作れるかもしれませんね」


そういう樹里亜が積んでいるのは携帯電話、スマートフォン、またはそれに類する通信・記録機械類である。


古い物は少ないが、スマートフォンなどはそれなりの数が揃っていた。これは時代の変遷というものであろう。


過去、携帯電話が一般に出回り始めた時、それを子供に持たせようという発想はあまり無かった。通信料も高額で、子供が持つには分不相応だという考え方が主流だったからだ。


しかし近年、子供が巻き込まれる事件が増加・凶悪化し、防犯や捜索という観点から子供にこれらを持たせる親が増え、それが数として表れているのである。


樹里亜は別にこれらを使用する為に調べているのでは無い。個人情報を検索する事で誰の物なのかを特定し、弔うつもりで調べているのである。


多少形の違いはあれど、こういう機械製品はどの世界でも同じ様な形態を取るらしく操作自体に不安は無かったのだが、壊れたり電池が切れてしまっている物が多く、互換する物と入れ替えたりして調べている為に作業は中々進まなかった。


「や、こっちはこっちで分かんねーけどよ、そっちは何やってんのかすら分かんねーな」


いい加減煮詰まったカリスが樹里亜が操作している携帯電話を横から覗き込んだ。


「最近のは多機能ですからね。例えばこれは昔からある機能ですけど……」


樹里亜が携帯電話を操作してカリスを画面に収めると、カシャッという電子音が小さく鳴った。


「ん? 今何かしたか?」


「ふふ、これはですね……」


データフォルダを開き、最新のデータを画面に表示して樹里亜はカリスに見せた。


「あっ!? す、スッゲー!! アタシそっくりじゃねぇか!!」


樹里亜が使用したのはカメラ機能である。昔の機種の為に画素は荒いが、写し出されているのがカリスである事は誰が見ても判別可能な精密さであった。


「これはカメラって言うんですよ。この機械を使って残したい場面を切り取って保存出来るんです。これはこの世界でも実現可能かもしれませんね。『遠隔視聴リモートビューイング』なんてそれに近い発想ですし」


「へぇ~、他にどんな事が出来るんだ?」


いい気晴らしになると思ったのか、単に好奇心を刺激されたのか、カリスは樹里亜の顔に頬を寄せて他の機能を見せてくれる様にせがんだ。




だから、これは運命などという大仰なものでは無く、純然たる偶然の産物である。




「ちょっと待って下さいね」


樹里亜の指がデータフォルダを閉じる為に動く。その際、樹里亜の指がほんの少し狂い、画像データを一つ前に戻してしまった。


「あっ、と。…………え?」


そこに現れたのは恐らくは友人と一緒に映したであろう持ち主の画像であった。その画像が樹里亜の記憶を刺激し、照合していく。


(……私は、この子を見た事が、ある……いつ、どこで?)


「おーい、どうしたんだよジュリア?」


「ちょ、ちょっと待って下さい!!」


樹里亜はカリスに言い置き、次々と画像データをスクロールして己の記憶を掘り起こした。見た事はあるのにそれが誰だか分からないもどかしさが樹里亜を苛立させたが、樹里亜が画像データを閉じ、その持ち主の個人情報を呼び出した時に疑問は氷解した。


しかし、氷解はしても到底信じられる結論では無かった。


「まさか……あの人が……!」


樹里亜が椅子を蹴って立ち上がり、これを見せるべき人物――悠の下へと駆け出した。


「ジュリア!?」


「ごめんなさいカリスさん! ちょっと大切な用が出来ました!!」


「お、おい!! ……ちぇっ、一体何を見たってんだよ……」


残されたカリスが不貞腐れるように頭を掻いたが、やがて気を取り直して新たな物品を手に取り、考察に没入していった。




樹里亜は屋敷の中を走りながら悠の姿を探し求めた。悠ならばこの情報を決して見過ごさないだろうと思ったからだ。


「悠先生!!」


広間に飛び込んだ樹里亜を他の子供達が何事かと見返して来る。


「どうしたんだよ樹里亜? 何かあったのか?」


「ちょっとね。それより悠先生は?」


神奈の問いに手早く答え、樹里亜は悠の姿を求めた。


「悠先生は今応接室で蓬莱の人に報告してるよ。そろそろ終わるんじゃ……」


と、神奈が答えた時、丁度悠が蓬莱との通信を終えて姿を現した。


「悠先生!」


「どうした樹里亜、血相を変えて」


「これを見て下さい。……誰に見えますか?」


悠に見せる為に樹里亜が汗ばんだ手で携帯を操作し、データフォルダから画像データを呼び出していく。樹里亜は悠に先入観を持たせずに判断して貰う為に、あえて個人情報は後回しにしてそれを提示した。


樹里亜が提示した画像を悠や他の子供達も一緒に確認し、悠が一人の人物に行き当たる。


「……樹里亜、これは『異邦人マレビト』の遺品だったな?」


「……はい……」


答える樹里亜の声は硬いが、その間にも他の子供達もそれが誰だか思い当たったようだ。


「……あ~、私分かったよ~」


「ぼ、僕も分かった……」


神楽と始はそれが誰なのか理解したが、屈託無く笑う画像の中の人物とは結びつかず眉を寄せた。


「ん~~~……どっかで見た事あんだけどなぁ……」


「俺も……でも思い出せねぇや。なぁ始、これ誰だっけ?」


「名前が残ってるわ」


樹里亜が携帯の個人情報を呼び出し、カリスの所から持って来たボールペンでそこに名前を書き綴った。




野上のがみ 彩子あやこ




特に目を引く事も無い平凡な漢字にはそうルビが振られていたが、それでも神奈と京介にはピンと来ない。


「アヤコ? ……いや、知らねぇなぁ……」


「違う気がするんだけどな……アヤコアヤコアヤコ……」


「これはこのまま読むんじゃないのよ。こうすれば分かるんじゃないかしら?」


樹里亜は彩子あやこのルビに斜線を引き、その名を書いた。




彩子サイコ




「あっ!!!」


「思い出した!! あのギルドで悠せんせーと戦ったおっかない姉ちゃんだ!!!」


古い携帯に残されていた画像は、幼き日の『外道勇者』サイコの姿であった。

彼女に何があったのか。そもそも同一人物なのか。それは今後明らかにしていく予定です。

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