表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
768/1111

8-61 『天使(アンヘル)』14

特に速く動ける訳では無い『偽天使イミテーション』に連合軍の矢と魔法は次々と突き刺さった。


「ゲギャ!!」


耳障りな鳴き声を上げてあっさり迎撃される『偽天使』達だったが、第一波が殲滅されるのを見て、第二波は本能で対応してきた。


「ケキャキャ!!」


密集形態から隊列を散らし、腕を盾に硬質化させて第二波が突撃を敢行する。それは一定の効果を発揮し、角度の合わなかった矢が表面を弾かれていった。


「チッ、防御力を上げて的も散らせて来やがった」


「何匹か抜けてきますよ!」


「案ずるな、ひーに任せておけ」


弓で牽制しつつハリハリが『ファイヤーアロー』を併用して『偽天使』を撃ち落とすが、その様な器用な真似が他の者に出来るはずも無い。だが、ヒストリアにとって相手の防御力は関係の無い項目である。


最も前線に居るヒストリアに『偽天使』達が殺到するのに合わせ、ヒストリアも新たな力を解き放った。


「ひーに近付くなよ。『奈落千本殺サウザントアビス』!」


ヒストリアを囲むように湧き上がった闇がヒストリアの操作に従って一気に伸長し、全方位に鋭く刺突として繰り出されると『偽天使』は盾の有無に関わらず防御不能の針に刺し貫かれて絶命していった。


「……ふぅ、慣れない技は疲れる。だがこれで粗方は……おや?」


ボトボトと墜落する『偽天使』達を満足げに見やり、振り向いたヒストリアはようやく周囲の状況に気が付いた。


「ふ、ふぬうぅぅ~っ!!」


「し、死ぬかと思った……」


「……普通の人間なら死んでいるのだが……」


そこにはブリッジで針を回避するハリハリと『剣聖イノセントブレイド』の先読みまで使って針と針の間で身を捩るアグニエル、そして思い切り鎧ごと貫かれているギルザードの姿があった。特にギルザードは龍鉄製の鎧が完璧に貫通しており、ヒストリアは注目を引く前に慌てて『奈落千本』を引き戻していく。


「す、済まん済まん。でも、ひーに近付くなよと言っただろう?」


「主語を抜かさないで下さい!! 敵に言ったのかと思ってましたよ!! 今ワタクシ本気で死にかけましたからね!?」


「後一本針が多かったら俺も回避出来なかった……話には聞いていたが、『自在奈落ムービングアビス』とは恐ろしい才能ギフトだな……」


「大切な鎧に穴が空いてしまった……カロンに直して貰わなければ……」


「あなたの不死身具合も大概ですね、ギルザード殿……」


幸か不幸か、今のギルザードの有り様は他の兵士の目には映らなかった。皆ヒストリアの常識外れな技に目を奪われていたのだ。


「とにかくヒストリア殿、近くに味方が居る時はその技は禁止です!」


「ちぇっ、せっかく練習したのに……はりーはケチだな」


「気前よく命をあげられるワケ無いでしょ!?」


「おい、いつまでも体張った漫才してんじゃねぇよ!! 次が来てんぞ!!」


遠くで怒鳴るバローの言う通り、これまでで最大の数で『偽天使』の第三波が連合軍に向けて近付いていた。おそらく500前後は居るだろう。


「牽制を切らすなよ!! マーヴィン、指揮は任せるぜ!!」


「畏まりました、くれぐれもご注意下さい」


「心配すんな、数は多いが精々あいつらのランクはⅢ(サード)ってとこだ。連れて来た冒険者でも引けは取らねぇよ。でなけりゃユウが通すはずがねえ」


「ふむ、ならばユウ様のご期待には応えなければなりますまい。私は死傷者を出さない事に専念しますので、精兵と共に殲滅して下さい」


マーヴィンは素早く指示を飛ばし、重装兵を全面に押し上げた。牽制の矢と魔法を越えて来た『偽天使』はヒストリアの『奈落崩腕アビスアームズ』でごっそりと削られ、アグニエルも剣閃を飛ばしてそれを援護した。近付いて来た個体はギルザード、バロー、サイサリス、シュルツが接近戦で斬り捨て、ハリハリは遊撃手として迂回して来た個体を魔法で撃ち落としていく。それでも500の飛行可能な敵を押し留めるのは難しく、先ほどより多くの『偽天使』が包囲網を抜けた。


「やはり全ては無理ですか! ベルトルーゼ殿、ジェラルド殿、撃ち漏らしを宜しく!!」


「任せろ!!!」


「盾構え!!!」


重装兵に混じったベルトルーゼが範を示すように盾を掲げ、他の兵もそれに倣う。防御を固める重装兵の群れに硬質化した『偽天使』が滑空して突っ込んだ。


生身で受ければそれなりの怪我は避けられなかっただろうが、しっかりと構えた防御を崩すのに『偽天使』の体重は軽過ぎ、また速度が足りなかった。僅かに体格や筋力に劣る重装兵をよろめかせる事はあったが、大半の重装兵は受け止められた衝撃で地面に転がった『偽天使』に槍や剣で貫き、切断していった。


「何で街から魔物モンスターが湧いて来るんだ?」


「聖神教の奴らが飼ってたみたいだぜ。やっぱりとんでもない奴らだな」


「見ろよこの醜悪なツラ。気持ち悪ぃな!」


受け止めた兵士達も嫌悪感を持って『偽天使』を駆逐していった。こうやって話す余裕があるのは高い戦闘能力を持った集団が前方で勢いを殺しているからであるが、兵士達に多少の怪我はあっても死者が生まれる事は無かった。加えてやはり6万という数の暴力はそれほどの強さを持たない『偽天使』には有効であり、ただ死ぬだけという状況に『偽天使』達の本能はいつしか逃亡を選択していた。


「キャキャキャ!!」


「キキャ、キキャ!!」


恨みの篭った鳴き声を残して『偽天使』が逃げて行く。十数体にまで減らされた『偽天使』は最も警戒が薄い東に向かって飛び去って行った。……この『偽天使』達が引き起こす事態をこの時点で予測出来る者はまだ居なかった。




(悠先生、聞こえますか?)


「ああ、聞こえる。『偽天使』は抑えたか?」


大天使アルカンジェロ』と戦いつつ、更に連合軍が相手にした『偽天使』と同じ数を一人で相手取る悠が『偽天使』を蹴散らしながら蒼凪から連絡を受け取った。


(はい、大体は殲滅完了しました。怪我をした人は居ても死者は居ません。悠先生が半分引き受けて下さったお陰です)


「いや、連合軍とバロー達のお陰だ。そろそろこちらも終わらせる、引き続き警戒を頼む」


(了解しました)


蒼凪との『心通話テレパシー』を切ると、悠はレイラに尋ねた。


「レイラ、そろそろだな?」


《ええ、手順は決まったわ。ただしこんな事は初めてだし、成功率は100%とは言えないわよ?》


「分かっている、しかしやってみる価値はあるはずだ。スフィーロも頼むぞ」


《う、む。努力しよう》


些か緊張気味のスフィーロだったが、悠は状況の進展に向けて動き出した。


「レイラ、竜気解放プラーナリバレートサード!」


《了解、竜気解放・参!》


バローの竜気装纏プラーナバーストとは比べ物にならないスムーズさと規模で悠の体を竜気の奔流が駆け巡った。圧倒的強者の気配に、『偽天使』はおろか『大天使』にすら怯えの気配がその表情に現れる。


「スフィーロ、『仮契約インスタントコントラクト』!」


《おう!》


更に悠がスフィーロの力を引き出す為にスフィーロと契約を結ぶ。悠とレイラは『契約コントラクト』によってその魂を共有しているが、そこに一時的にスフィーロを割り込ませたのだ。これが出来るようになったのも、スフィーロのレベルがそれなりの値に達したからだ。


ただし同時に2体の竜と『契約』するのは悠にとっても多大な負担となる為、一時的な契約に過ぎないのであるが、今はそれで十分なのだ。


赤い竜気と緑色の竜気が悠の周囲で補色として鮮やかな競演を見せ、空に立ち上って行く。


「マッディ、聞こえたら『大天使』との競り合いを止めて精神体メンタルを離せ!」


「……わ、分かりました!」


『大天使』の口でマッディが答え、『大天使』がその体を完璧に掌握する。マッディの気配は押しやられ、後は消滅を待つばかりだ。


だが、悠には『大天使』を構成する物質体マテリアル、精神体、星幽体アストラルの全てが見えていた。後は時間との勝負である。


「行くぞ!」


悠が最終局面に向けて『大天使』に解き放たれた矢のように突撃した。途中、射線上に居た『偽天使』は悠の突撃を受けた瞬間、バラバラに吹き飛んで壁の役目すら果たせず道を明け渡した。


「ゴアアアアアアアアアッ!!!」


マッディから体を取り返した『大天使』が吼え、巨大な両手を組み合わせて悠を叩き落さんと振り下ろしたが、その巨体ゆえに動作が大き過ぎ、悠を捉える事は叶わなかった。


大地を揺るがす鉄槌として地面を陥没させた『大天使』の手の下に当然悠は居らず、的を見失った『大天使』が首を巡らせた刹那、その頬に悠の蹴りがめり込んでいた。


「ブオオオオオッ!?」


一体どれほどの力が込められているのか、10メートルを超えている『大天使』の体がフワリと宙に浮き、大聖堂に叩き付けられた。


豪奢な大聖堂が『大天使』の巨体で崩壊して行く。それは、倒れた『大天使』に与えられた悠の追撃で拡大の一途を辿って行った。


倒れて尻餅を付く『大天使』に悠は執拗な連撃を加えて行く。その度に大聖堂の壁には亀裂が走り、フォロスゼータを掌握していた一大宗教の最期に相応しくこの世から消え去ろうとしていた。


『大天使』もただやられていた訳では無い。不死身の『大天使』は悠の尋常ならざる打撃力に翻弄されつつも触手を伸ばし、各属性の奔流を放って悠を遠ざけようと抗った。


しかし、伸ばした触手は引き千切られ、魔法は悠を捉えても吹き散らされて行く。触手では打撃力が足りず、魔法では出力が足りていなかったのだ。


「貴様がもっと成熟し、複合魔法でも覚えれば厄介な存在になったかもしれんが、単一属性しか使えん現状で俺の守りは突破出来ん。……終焉だ、貴様も、聖神教もな」


悠の拳が『大天使』の額を貫通した。脳に拳が触れ、『大天使』の目がグルリと白目を剥く。


だが、それでも『大天使』は死なないだろう。かつて悠が『殺戮獣キリングビースト』の体の大半を吹き飛ばした事があったが、かの魔物はそこから簡単に再生を果たしたのだ。『大天使』を殺すならば、その根源を砕かねばならない。そもそも、悠がこうして『大天使』に触れたのは殺す為では無かった。


「スフィーロ!」


《こうして直接触れていれば我にも分かるぞ! 『精神体封印メンタルシール』!!!》


スフィーロが竜気を振り絞って行使するのは精神体に対する封印術だ。しかし、それは言葉通りの封印の為では無く、『大天使』の精神体を隔離する為のものであった。


「ふんっ」


悠の空いている方の手も『大天使』の額に突き込まれる。『大天使』の体が痙攣し、両目から血涙を流しながら仰け反った。


《行くわよ、『顕現マニフィステイション』!!!》


レイラが『大天使』の体内で再構成を実行する。『大天使』の肉と魂を材料に、一つの形を作り上げていく。


そこに人格の要として吹き込むのはスフィーロによって隔離された『大天使』の精神体……では無く、か細く、今まさに消え去ろうとしているもう一つの精神体であった。


肉と、魂と、魄。全てが揃っているのならば理論上、可能なはずだ。




「今一度この世のに生まれ出よ…………マッディ!!!」




悠の両手が『大天使』の額を割り砕いて引き抜かれる。『大天使』の脳を子宮とし、生まれ出たのは秀麗な容貌を持った少年であった。

マッディの新生。その可否は……。


昨夜は接続障害で難儀しました。追記が発表されていますが、接続障害の原因は示されず……不明っていう事ですかね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ