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8-49 『天使(アンヘル)』2

アグニエルファン必見。……そんな奇特な人居たかな……。

相当に大掛かりな仕掛け通り、かなり長い間床の下降は続いた。


「深いな……」


「そうですね。底に着いたら魔物モンスターがウジャウジャ居るとかじゃ無い事を願いますよ」


「そういう反応は今の所感じんぞ。もっとも、そんな事があれば全員で『天使アンヘル』を殲滅して先に進むだけだが」


「そんな事よりひーの出番が無いのが問題だぞ。ゆーとはりーが抜けても『天使』が6人しか居らんではないか」


クジ引きで決まったヒストリアの順番は7番であり、順に記すとアグニエル、ベルトルーゼ、ギルザード、シュルツ、サイサリス、バロー、ヒストリアである。このままでは戦えない事にヒストリアは大いに不満を覚えていた。


「ヤハハ、ヒストリア殿もこちら側ですね!」


同じく出番が無いハリハリは嬉しそうだ。ヒストリアに解説役呼ばわりされたのを根に持っていたのかもしれない。


「……『天使』の代わりにはりーと戦ってやろうか……」


「……ごめんなさい……」


割と弱気ではある。


「まぁまぁ、あのクソ野郎の言う事が本当なら、まだ他に2体『天使』が残ってるんだろ? そいつらがバンザイしなけりゃヒストリアとハリハリにも出番があるかもしれねぇぜ?」


「そ、そうですよヒストリア殿! しかもとっておきの2体なら他の『天使』よりも強いに違いありません! 前座は他の方々に任せて我々は英気を養おうではありまっ!?」


追従するハリハリだったが、その細首に左右から金属の腕が巻き付き、更に背後から女性の腕がハリハリの前に垂れ下がった。


「ほう……我々を前座扱いとは随分じゃないか?」


「細い首だな……うっかり手折ってしまいそうだ」


「いやいや、これだけの大言壮語を吐いておいて、まさかそんな甲斐性無しではあるまい。なぁハリハリ?」


「アワワワワワワ……!」


ギルザード、ベルトルーゼ、サイサリスという物理×3の圧力にハリハリの細身は悲鳴を上げていたが助ける者は居なかった。見ようによっては美女3人に囲まれて羨ましがられたかもしれない。……実際は絞首刑に近いが。


「緊張感ねぇなぁ……あっちはあっちで異様な雰囲気だけどよ」


そう評するバローの視線の先には一言も喋らず底に着くのを待つ『天使』達の姿があった。表情も乏しく、以前戦った『殺戮人形キリングドール』を彷彿させたが、ガルファを見る限りでは自己意識を喪失しているとも思えない。


「ガルファ以外は似たり寄ったりと見た。バルバドスの強さから判断して連れて来たメンバーだ、そう簡単には負けんよ」


「やっぱりあの野郎が一番強いのか。斬り甲斐があるぜ」


獰猛に笑うバローに怖じ気付いた様子はまるで無く、それだけガルファに対する怒りが深い事を感じさせた。加えて、悠の観察眼には重きを置いており、悠が勝てると言うのなら勝てるはずだという信頼感もあった。


そうこうしている内に移動は終了し、震動と共に床は底に到着した。穴の底はエントランスホールがすっぽりと収まるほど広く、激しい戦闘にも耐えそうだ。


「ここなら思う存分飛んだり跳ねたり出来そうだな」


頭上の天井が閉まり、周囲を見回しながら、バローはこの部屋の大きさを50メートル四方、高さ5メートルと見積もった。三方の壁に扉が存在し、このどれかから上に戻る事が出来るのだろう。


「では早速始めようか。外で寒風の中待たせている兵士に悪いからな」


「良かろう。……『第二天使ドゥーエ』」


「了解」


アグニエルが剣を抜き一歩進み出ると、ガルファに促されて『第二天使』とよばれた男性が短く答えて前に出た。それぞれの相手が決まった所で他の者達は壁際に移動し、部屋の中央にアグニエルと『第二天使』だけが残される。


「審判など要らんだろう。どちらかが戦闘不能になった時点で終了だ」


「戦闘不能ね……ま、いいや。アグニエル、なるべく殺すなよ。殺すのは今の所ガルファだけでいい」


「努力しよう」


アグニエルと対峙する『第二天使』が腰に吊り下げていた剣を抜き放った。どうやら『第二天使』は剣士であるらしい。


「俺の名はアグニエル。ゆえあって今姓は無い。そちらは?」


剣士としての礼儀として名乗りを上げたアグニエルだったが、相手の返答は素っ気なかった。


「我は『第二天使』。それ以外の名に意味は無い。ドゥーエと呼ぶがいい」


「……良かろう、剣士として、いざ尋常に勝負!!」


正眼に剣を構え、アグニエルが気合を発する。対するドゥーエはダラリと剣を下げたままだ。


「開始の合図だけ俺がやってやろう。……始め!」


一歩進み出た悠が両者を視界に収め手を叩くと、アグニエルとドゥーエは行動を開始した。




一気に距離を詰めようとしたアグニエルだったが、ドゥーエの初手にアグニエルは虚を突かれた。


「何っ!?」


羽ばたき、宙に舞い上がったドゥーエが剣を振ると、そこから真空の刃が放たれたのだ。前方に飛び出していたアグニエルは完全には回避出来ず、二の腕を真空の刃が掠めて血を噴き出させた。


神鋼鉄オリハルコン!? ……いや、そんな力は感じなかったぜ。魔法か?」


「風属性魔法の『風刃ウィンドカッター』に似ていますが、バルバドスと同じで魔法では無いように感じます。あの『天使』の固有能力ですかね」


「何にせよ厄介な事だぞ。アグニエルは攻撃力はあるが防御が薄い。当たれば首くらいは刎ね飛ばせそうだ」


その間にもドゥーエの真空の刃は次々とアグニエルに殺到したが、アグニエルにはまだ切るべき手札がいくつも残されていた。


「初手で殺せなかったのならもう俺にそんな攻撃は当たらん!!」


アグニエルが一声吼え、その場でステップを踏んで殺到する真空の刃を完璧に回避し続けて見せた。まるでその動きは事前に攻撃される場所が分かっているかのようだが、実際にアグニエルにはドゥーエの攻撃がどこに飛んで来るのかが分かっていたのだ。


「『剣聖イノセントブレイド』の力か? やっぱり便利な力だよなぁ……」


「なるほど、先読みか。俺とやった時のレベルでは完全に回避は出来なかっただろうが、鍛練の成果が出ている様だ」


「同等以下の相手ならアグニエル殿は負けませんよ。さしずめ格下殺しですね」


「それは不名誉な言われようだな……」


『剣聖』は確認されている中でも最上級のスペックを誇る才能ギフトであり、多数の特殊能力を備えたチートに近い。人間相手と限定するならば、アグニエルに勝てる者などそうそう居ないのである。


「もうその攻撃は見切った。次は俺が反撃する番だな」


そんなアグニエルに死角があるとすれば、それは遠距離攻撃が出来ないという事であった。遠くからチクチクと攻められては、たとえ回避は万全でも勝利を掴む事は出来ないのだ。


だが、その弱点も既に解消されている。


アグニエルが愛剣に魔力マナを通すと、剣が俄かに光を帯びる。そう、この剣こそはバローが免許皆伝の証にと送った神鋼鉄の剣なのだ。


「っ! ドゥーエ、本気で攻撃しろ!!」


背後で見ていたガルファがアグニエルの攻撃を警戒してドゥーエに鋭く警告し、ドゥーエもその判断を是として真空の刃乱打を止め、剣を大上段に構えた。


果たして、先に剣を振ったのはドゥーエであった。


これまでよりも3倍以上大きい真空の刃がアグニエルに高速で迫るが、アグニエルはそれを回避しようとはせず、逆に前に飛び込んで叫ぶ。




「ここだ!! 『剣聖絶刀断イノセントディバイド』!!!」




『剣聖』には防御無視攻撃が存在する。それこそが『剣聖イノセント一撃ストライク』であり、その攻撃は厳鋼鉄アダマンタイトすら断ち切る威力を誇るのだ。そこにアグニエルは奥義『絶影』と神鋼鉄の剣閃を掛け合わせた奥義を作り出した。それこそが世界でただ一人、アグニエルだけが使える『剣聖絶刀断』であり、凄まじい速度で放たれた剣閃はドゥーエの放った極大の真空の刃すら切り裂き、一瞬でドゥーエの片腕と片翼を斬り飛ばしていた。


勢い余って天井にめり込んだ剣閃が深々と食い込み、片翼を失ったドゥーエは地面に墜落する。


「……ハァ、ハァ、ハァ……思った以上に、消耗が激しいが……」


肩で息をするアグニエルだったが、手にした剣を地面のドゥーエに向けて言い放った。


「俺の、勝ちだ!!」


凛々しくも雄々しいその姿は、まさに『剣聖』と呼ばれるに相応しい威厳を纏っていたのだった。

散々揶揄されましたが、アグニエル快勝です。

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