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8-45 進軍32

ズンッ!!!!!


赤い光条が大聖堂の最上部に設置されている巨大な意匠に突き刺さり、その衝撃が大聖堂を揺るがした。その衝撃を机に掴まって堪えたガルファは、これでアライアットは終わったのだと悟った。


「……まさか、『生命結界』を大量殺戮兵器として利用するとは、な……」


頼みの『生命結界』を破壊されては抗う事は不可能だろう。『生命結界』が失われたという事は、兵士達も死に絶えたという事だ。残っているのは戦闘能力も無い烏合の衆である無能な聖職者と『天使アンヘル』、それに教主のシルヴェスタだけである。


だが、ガルファの目は光を失っていなかった。


「今の魔法は奴の魔法だ……カンザキ!!!」


目の前の机に拳を叩き付け、それを粉々に叩き潰すとガルファは顔を上げた。


「最早四の五の言っている場合では無い、他の『天使』を殺し、私は更なる高みに立つ!!!」


必殺の決意に身を固めるガルファの執務室のドアがノックされた。


「……誰だ?」


警戒心も露わにドアに問い掛けるガルファだったが、そこに現れたのは完全武装のバーナードであった。


「これはこれは、機嫌の悪い時に来てしまったようで申し訳ない」


「……何の用か?」


「なに、出陣の許可を頂けんかと思ってな」


「出陣?」


この期に及んでこの男は何を言っているのだろうと、ガルファは訝しんだが、バーナードは特に動揺した様子も無く語り出した。


「もうこれ以上戦っても仕方が無かろう。だが、私には王として国を滅ぼした責任がある。この上は敵陣に特攻して華々しく散ってやろうかと思ってな。最期くらいは王らしく死にたいと思いこうして参上したのだ」


「……そうか……そこまで決意しているのなら止めるのも野暮だろう。しかし、王妃はどうする?」


探る様なガルファの言葉にバーナードは瞑目して答えた。


「……どうせ、放っておけば勝手に死ぬ。あれも一国の王妃だ、自分の始末くらいは自分でつけよう。これにてアライアット王家の血は絶えるが、どうせ他の誰かが新しい国を作って先に進んで行くだろう。私のように時代に取り残された遺物は精々敵兵に毒づいて後の世の教訓とするべきだな」


淡々と自らの命を割り切るバーナードと共感などしないが、信仰に狂っていながらも明晰な頭脳を持ったバーナードをガルファはほんの少し惜しくも思った。


だが、死を受け入れている人間など片腕にはなり得ない。それに、ここでガルファが殺すのも無駄だ。バーナードを殺しても手に入る力は微々たるものでしか無いのだから。


「我々は最後の最後まで抵抗を止めぬ。まだ負けるつもりも無いが?」


「私は兵権を預かり、その兵を失った。その責任は重大で贖い難く、たとえ勝っても戦後の処刑は免れぬ。別に今更死を恐れてはいないが、一矢も報いずに死んでは先に待っている子供らに合わす顔も無い。斬れるだけ斬って、この命をもって聖神様への忠勤の証としたいのだ。……私の死後、ガルファ殿には「バーナードは役目を果たした」と言って欲しいものだな」


「……よろしい、ならば存分に戦われよ」


「では、失礼する」


正直言って、ガルファにはバーナードに構っている暇など無かった。死にたいと言うなら死なせてやればいい。


それよりも今は自分の未来の為に動くべき時なのだ。


「よもや、ここに至っても面会を拒むような事はせんだろう。……シルヴェスタ、聖神教は私が貰うぞ」


バーナードの事を頭から追い出し、ガルファは自分の野望を叶える為に動き出した。




『生命結界』崩壊寸前まで時間を遡り、悠に視点を移してみよう。


「そろそろ結界も限界のようですね。後は一般兵だけに任せても大丈夫でしょうが、このままでは街に踏み込んだ瞬間、悠先生達の生命力を使って『生命結界』が再構築されてしまいます。それを防ぐには……」


「結界の出力装置を破壊すればいいのだな」


樹里亜の言葉に悠は正答を返した。事前にハリハリによって『生命結界』は解析済みであり、それが大聖堂の意匠から発生している事は伝えられているのだ。


既に『生命結界』は限界に達し、ぶつけた卵の殻のようなヒビが全体を覆い始めていた。間断無く降り注ぐ射撃は尚もヒビを増大させ続けており、砕け散るのは時間の問題だろう。


悠の手が上がり、大聖堂の意匠をピタリと照準した。


「己らが築いた砂上の楼閣の崩れ去る音を聞け。『火竜クリムゾンスピア』」


悠の手の先に膨れ上がった赤光が長大な赤き槍となって『生命結界』を貫くと、それは数千数億の欠片となってフォロスゼータに降り注いだ。




パキャアアアァァァ………ン…………。




甲高い音が辺りに響き渡り、それに続いて鈍い音が戦場に轟いた。悠の放った『火竜ノ槍』が聖神教の意匠を吹き飛ばしたのだ。


「やりましたね!!」


「ああ。……ようやく、お前達の仲間の仇を討ってやれそうだ」


悠の言葉に樹里亜はハッとして悠の顔を見た。悠が単なる一戦闘の勝利だけでは無く、自分達の無念を忘れていないのだと気付いたのだ。


「……アライアットだけが悪いんじゃ無いとは分かっています。でも、言葉は通じているのに、あの人達は私達の言葉に耳を貸してはくれませんでした。……悠先生、後は、お願いします……」


散っていった者達の顔を思い出し、樹里亜はくしゃくしゃの泣き顔で悠の手を取った。その無念と祈りが込められた手を悠は強く握り返した。


「屋敷で成功を祈っていてくれ。それが俺の力になってくれる」


「はい……!」


樹里亜の手を優しく解き、悠は即席の櫓から身を躍らせると、そのまま最前線へと向かったのだった。




フォロスゼータの正門の前では突入メンバーが集結していた。


悠を筆頭に、『天使』にも引けを取らないと考えられるメンバーだ。バロー、ハリハリ、ベルトルーゼ、アグニエル、ギルザード、サイサリス、シュルツ、ヒストリアら総勢9名からなるこの集団は、悠を抜かしても一国の軍事力に比肩する、戦力の粋を極めた戦闘集団である。


「こんだけ居りゃあ魔族とでもやり合えそうじゃねぇか」


「ヤハハ、もしワタクシがあちら側に居たなら即座に白旗を振りますね」


「『天使』が何体残っているのか分からんのではあぶれる者も出そうだな。……当然、私の分は譲らんぞ!!」


「それは困る。ここで功を上げねば俺の将来設計が狂うのだ。せめて一体は譲って貰いたい」


「男がヤワな事を言うじゃないか。どうしても欲しければ自分の力で手に入れてこそ男子の本懐だろう?」


「そうだな。私も久々の戦闘だ、獲物を譲る気は無い」


「拙者もこの時を楽しみにして待機していたのだ。せめて一殺はさせて頂く」


「一番やる気の無いはりーは後ろで「あ、あれはまさか!?」とか言って解説役でもしていればいい。あと、ばろは油断してあっさり死ぬかもしれん」


「そんなの酷いですよぅ!!」


「死んでたまるかこのチビッ子が!! うおおおっ!?」


ヒストリアの膝を狙った関節蹴りを辛くもバローは避けた。まるで緊張を見せない突入メンバーを見て、居残りの者達も苦笑する。


「なんかあの人達を見てると戦争してる気がしないなぁ」


「俺達には訳が分からん内に役目が終わったからな」


「いいじゃねぇか。あの人達が勝てねぇなら、俺らなんかに出来る事はありゃしねぇよ。ここは信じて待ってようぜ」


兵士達にも既に戦争中の気負いは消え去り、和やかなムードが大勢を占めている。そのムードに乗って悠達に同行を求める者が続出したが(主に冒険者隊の者が多かった)、そこは悠がシャットアウトした。


「気持ちは有り難いが、ここに居る者達と拮抗出来る自信と実力が無ければ連れては行けん。生きていればこそ力を磨く機会もあろう。済まんが今回は遠慮してくれんか?」


悠にこう言われて駄々をこねる者は殆ど居なかったのである。


そして、誰が『天使』を倒すかという議論は未だに続いていた。


「つーか、もし遠慮するならユウじゃねぇか? いつもいつもユウが敵の親玉を倒してるんだからよ、たまには俺達に譲ってもいいと思うぜ?」


「それはワタクシも思いますね。たまにはワタクシ達も活躍したいです」


「それにユウはもう既に一体『天使』を倒しているんだから、ここは不慮の事態に備える予備戦力でいいじゃないか」


「畏れながら拙者も同感です。師が出られては、残りの『天使』を全てお一人で討ち取ってしまいかねません」


「対『天使』用の装備をあてがっておいて除け者にされるのは納得出来んぞ!」


「頼むから俺の恋路を遮らんで貰いたい」


「これまで言う通りに大人しくしていたのだ、今日くらい我々に譲れ!」


「ゆー、上に立つ人間は下の人間にも寛容であるべきだとひーも思うぞ?」


どうやら全員譲るつもりは無いらしく、その矛先は最終的に悠に向けられた。


《あなた達ねぇ……》


子供じみた意見にレイラが呆れた声を出したが、思い直して頷いた。


《……ま、いいわ。ユウ、もしかしたら敵にバーナードも知らない隠し玉があるかもしれないし、露払いは任せましょう。ガルファだけは倒したかったけど……》


「おっと、あのクソ野郎は俺がやらせて貰うぜ。微塵切りにして産まれてきた事を後悔させてやらねぇと気が済まねえ」


ガルファの件だけは茶化す気になれなかったバローが凄みのある表情で言うと、他の者も頷き返した。ガルファの一件には皆腹に据えかねていたが、当事者として対峙していた者が相応しい事に異論は無かったからだ。


「さて……役者も揃ったようだ。俺は先に一仕事済ませてくる」


フォロスゼータの中から正門に近付いてくる反応を察知した悠がその場を中座し、他の者達は視線を正門に移した。




「出迎え大儀であった、とでも言えばいいかな?」




流暢なアライアット語を操るその人物に、俄かに兵士達の間に緊張が走ったが、バローはそれを手で制し、その人物の前で礼をとった。


「お初にお目にかかります、陛下」


「いや……我が国の不始末を押し付ける結果になり誠にあい済まぬ事をしてしまった。卿が連合軍総大将ベロウ・ノワール侯爵に相違ないか?」


「はい。立ち話も何ですので、陛下には始末がつくまで安全な場所で控えて頂きたいと思いますが、宜しいですか?」


あくまで慇懃な態度のバローにバーナードは猶予を求めた。


「済まぬ、せめてパトリシアの無事だけでも確認させてくれまいか?」


「ただいま『戦塵』のユウが救出に向かいました。すぐに王妃も送り届けますのでこの場はご移動を願います。事情を知らぬ兵からすれば、陛下はまだ聖神教に屈した裏切り者と思われております。ミーノスのファーロード卿から兵に説明させますのでどうかご容赦下さい」


「我儘を言えた身の上でも無いか……分かった、敬意を払う卿をこれ以上困らせるのも不義理であろう。卿らの完勝を願っている」


虜囚として捕縛されてもおかしくない所を、礼節を忘れずに応対するバローにバーナードはすぐに自分から折れた。そのままマーヴィンとソリューシャから連れて来た親衛隊によってバーナードは悠の屋敷へと案内されて行ったのだった。

割と筆のノリが良く今日も2話目。

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