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閑話 残された者達

「真田竜将の言った事は本当なのですね・・・」


咲は今目の前で起こった出来事に半ば呆然としていた。雪人から事情の説明は受けたが、荒唐無稽なその話はそう簡単に受け入れる事が出来る物では無かった。だが、実際にナナという存在を目の当たりにし、その力の一端を見せられるに至って、今までされた話が真実であると実感したのだ。


「ああ、後は悠次第だろう。西城、咲殿を頼む。今後悠と連絡が取れるようになったら、咲殿に子供達の状況も伝えねばならんだろうからな」


「はい、了解しました」


雪人は朱理に咲を託すと、ナナの方へと向き直り、今後の事について話し出した。


「それで、ナナ殿、これからしばらくは悠とは連絡が取れん。ついては、ナナナ殿にこの国にしばらく滞在し、悠や天界との窓口になって貰いたいとこちらとしては思うのだが、如何か?」


その言葉にナナは首を縦に振った。


《分かりました。ナナナはしばらくこちらに置いて行きますので、何かありましたらこの子にお尋ね下さい。私は悠さんにあと一つ、渡す物がございましたので、今から渡しに行って来ます。駆け足で事を進めたので渡しそびれてしまいましたが、役に立つかもしれませんので》


「まだ何かあるのかな?」


《ええ・・・これを》


「!そ、それは・・・香織の・・・ヘアバンド、か?」


ナナが懐から取り出した品物に、雪人は見覚えがあった。それはあの日、香織が見につけていたはずのヘアバンドであった。一部が焼け焦げ、色褪せてはいるが、確かに雪人の記憶の中にある香織のヘアバンドだ。


《はい、もし生きていても、4歳程度で向こうに行ったのなら、記憶は曖昧かもしれません。ですので、これを持っていけば何らかの捜索の役に立つかもしれませんからね》


「そう、か。分かった。ではこれ以上お引止めするのも悪いな。後は何かあったらナナナ殿に聞くとしよう」


《ええ、それでは皆様、これにて失礼します》


以前着た時と同様に、ナナはその言葉を最後にフッと掻き消えた。


(悠、死ぬなよ。お前はまだ死んではならん。お前を待つ人間は、そちらの世界の者達だけでは無いのだからな・・・)


視線をナナから周囲に戻した雪人はそう思わずにはいられなかった。







「行ってしまいましたわね、兄上」


「ああ、だが悠さんの事だ、きっと事を成し遂げて帰ってくるに違いない。俺は俺の役目を果たすさ。だから亜梨紗、お前はお前の役目を果たせ。陛下には悪いが、亜梨紗か滉、どちらかが悠さんと一緒になってくれたら俺も嬉しいからな。俺はあの人を義兄あにと呼びたいよ」


「陛下もやはりそうなのですね・・・でも、私は誰にも負けるつもりはありません!陛下も滉も燕にも負けませんから!」


「頑張れよ、亜梨紗」


真は妹の決意を嬉しく思った。臣下としてはここは志津香に譲るべきなのだろうが、男と女の事に権力を用いても上手くは行くまいと考えていた。悠が権力に靡くのなら話は別だが、悠が靡くのは腕力の方であるので。


隣で涙ぐんで決意を顔に浮かばせる亜梨紗を見て、真はもう一度、心の中でエールを送った。







ナナナと匠、そして志津香は悠の消えた空間の前に集まっていた。特に志津香は、悠の消えた場所に手を伸ばし、その残滓を感じ取ろうとしている様に見えた。


「タクミ、ユウさんに譲渡した能力はマーカーにもなっているから、何かあったらすぐに伝えるから。聞きたい時はいつでも聞いてね?」


「俺は悠が連絡出来る様になってからでいい。その言葉は志津香様にこそ必要だろうな」


「うん・・・人が人を好きになるのって、とっても素敵な事だけど・・・悲しいね」


「志津香様は我らが支えていこう。ナナナ殿も、ご協力をよろしく頼む」


そう言う匠に、ナナナは笑顔で応えた。


「うん、これからもよろしく、タクミ」


ナナナは自らもこの世界の住人が好きになって来ているのを感じていた。だからこそ、ここに居る間は、出来る限りその助力になる様に頑張るつもりだった。


皆、決意を新たにし、残された者達は悠に思いを馳せるのであった。

次からは人物紹介、用語解説です。

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