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1-59 そして、出発2

「詳しく事情を話せ、雪人」


まだ息も絶え絶えな咲には整理して話す事は無理だと判断した悠は、緊急を告げた雪人に事情を問い質した。


「こちらの咲殿と姉妹は今日は外に出かけていたらしい。公園で親子三人で休んでいると、突然子供達の足元が光りだしたかと思ったら、次の瞬間には消えてしまったそうだ。これまでドラゴンでその様な攻撃方法を取る者は居なかった。だから俺は確証は持てんがこれこそが転移(強制召喚)ではないかと思ったのだ」


雪人の予測は恐らく当たりであろうと事情を知る者達は思った。そして子供二人を急に失った咲を痛ましく見やった。


咲は息が落ち着いて来てもまだ呆然としていた。目は血走り、口はうわごとの様に「けい・・・めい・・・」と繰り返すばかりだ。


咲は最初、居なくなった子供達を必死で探したが、これが尋常な事では無いと思い、つい最近知り合った軍人(悠)に「何かあったら軍を頼る様に」と言われていた事を思い出し、半狂乱のまま軍本部に駆け込んだのだった。


咲の幸運は偶々受付近くを雪人が歩いている時に咲の口から「神崎竜将の紹介なんです!!お願いします!!」との咲の叫びを聞き止めたからだった。


事情を聞いた雪人はこれは悠の耳に入れるべきだと判断し、そのまま咲と共に国立ドームまで全力で駆けて来たのだ。


そして、場面は広場に戻る。


「なるほど、事情は分かった。・・・ナナナ殿、転移かどうか分かるか?」


悠はこの場で最も転移に詳しいであろうナナナに事を問い質してみた。


「ちょっと待って・・・・・・・・・」


随分長い間、ナナナは目を閉じて集中していたが、不意に何かに気付いた様に目を見開いた。


「!あった!確かに転移痕があるよ!まさか、私が居る時にこの世界で起こるなんて・・・」


確率としては1億や2億分の1どころでは無い。全世界からの無作為抽出だとしても1000億、2000億。あるいはもっとずっと小さい確率かもしれない。しかし、現実に起こってしまった事の確率を計る事など何の意味も無い。結局は0か1か、それだけでしか無いのだ。


「行き先はやはり例の世界か?」


「間違い無いと思うよ。転移痕が綺麗過ぎるもん。これは自然に出来たものじゃないわ」


「また一つ、行く理由が増えたな・・・」


何としても小鳥遊姉妹を救い出さねばならない。悠の異世界に行ってまずやる事が決まった。


そして悠はまだ呆然としている咲と目を合わせて問いかけた。


「咲殿、咲殿、しっかりしろ!!貴女は母親だろうが!!」


「はは・・・おや・・・!恵、明!・・・はっ、神崎さん、神崎さぁん!!恵が、明が!!」


「事情は聞いた。あの子達は自分が助ける。だから咲殿は気をしっかり持つのだ」


「私も、私も行きます!!!どこへだって行きます!!!何でもしますから!!!お願いします!!!」


その必死の訴えに、悠は静かに首を横に振った。


「これから自分が行こうとしているのはこの世界のどこかでは無いのだ。だから咲殿は連れては行けぬ」


「どういう事ですか!!!分かりません、分かりませんよっ!!!」


悠の拒絶に咲が食い下がるが、これは悠が許可するとかそんな問題では無いのだ。それでも咲には事情を知る権利があると思った悠は雪人に咲を任せる事にした。


「・・・雪人、咲殿に事情を話してやってくれないか・・・」


「構わんが・・・いいのか?」


「子を奪われた母にはその理由を聞く権利があると俺は思う。そして俺もそうして欲しいと思っている。だから、頼む」


「分かった、咲殿、事情を説明する。こちらへ来てくれ」


そう言って悠に縋り付く咲を引き取ると、雪人は掻い摘んで事情を咲に打ち明けたのだった。







「ナナナ殿、ナナ殿に連絡は取れるか?」


「今呼んでるよ。・・・来た!」


《次元振動を確認した、来るぞ》


ナナナとガドラスがほぼ同時に空間の一点を見上げると、そこに小さな光が現れ始め、やがて目も眩む様な光量となって、最大限に達した瞬間、不意に弾けた。


光が治まった後には、バルキリー77、即ちナナがこの場に光臨していた。


《事情は伺いました。どうやら緊急事態の様ですね》


「ああ、一刻も早く自分はあちらに行かねばならない。頼めるか?」


《はい、いくつかお渡しする物がありますので、それが済み次第あちらにお送りします》


「分かった、手短に頼む」


それは以前ナナナが言っていた、拠点に係わる物である事は察する事が出来た。それを今くれるのだろう。


しかし、ナナの贈り物は悠の想像以上の物だったのだ。

少し短めですが、次と繋げるとゴチャゴチャするので分けました。

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