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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(後) 聖都対決編
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7-158 抗議43

「ナナナ様、『天使アンヘル』とは本来天界の御使いでは無いのですか?」


「んー……『天使』ねぇ……」


食後のお茶を嗜んでいた志津香は先ほどから出ていた『天使』という存在の事をナナナに尋ねてみたが、ナナナは困った顔で唸った。


「……例えばシヅカにとって『天使』の姿ってどういうイメージ?」


「え? ……そうですね……純白の衣と羽を持った神々しい雰囲気の女性でしょうか?」


「こんなの?」


頭上に掲げた手が光り、それが収まるとそこには志津香のイメージ通りの姿となったナナナが佇んでいた。


「わ、凄いですわ! 私の想像通り!」


「何の捻りもありませんね。せめてもっと露出すべきかと」


「それ堕天使じゃん……。ともかく、こういう感じの力のある存在が居たら、普通の人は『天使』だって思うんだよね?」


朱理の感想に突っ込みを返しながら尋ねるナナナに志津香は頷き返した。


「でもさ、それって単なる外見だよ? ある程度力のある存在なら容姿や服装くらい簡単にいじれるし意味ないよ。本当の『天使』は格好も人それぞれだし、羽だって普段から出てたら邪魔でしょ? だから向こうの世界に現れたのが本物の『天使』だとは思えないなぁ。ユウさんにもっと詳しく話を聞きたいけど、ちょっと今は他の事で忙しそうだしね。それに、もし『天使』と同等の能力を備えているとしても、一般人ならともかく、ユウさんの敵になるほどだとは思えないし」


外見を戻してお茶を啜るナナナも神の眷族らしいが、確かに普通の少女にしか見えないのだからそういう物かと志津香は納得した。


「実際、表立った宗教という形態をとっているならば、そういった象徴シンボルは信徒を騙すのには最適です。大方、以前の『殺戮人形キリングドール』と大差の無い存在だと思いますよ。志津香様が『天使』の格好をすればさぞ男性信者が増えるかと。『天使』なのに魔性の女とは、何とも罪作りですね? 作りましょうか?」


「要りません!」


「それは残念です。気が向いたらいつでもお申し付け下さい。必ずや神崎先輩が理性を失う様な逸品に仕立てて見せます」


「絶対に要りません!!」


胸元を隠して完全拒否を訴える志津香に朱理はやれやれと肩を竦めた。


「作る前から私の自信作『天使の囁き』を拒否なさるとは……騙されたと思って一度試してみても損はしないというのに」


「だ、騙されませんわ!! 朱理が何も仕込んでいないはずがありません!!」


「それはさておき、ナナナ様、今回の事態が収拾すればそれなりに情報は集まったと言っていいと思うのですが、天界は動かないのですか?」


「き、急に話題を変えるね……」


憤る志津香からナナナに標的を変えたのは虚を突いて本心を探り出そうという意図かもしれないが、単に志津香を流しただけかもしれない。何とも掴み所が無いのが西城 朱理という人間である。


そうは言ってもナナナにも偽りを述べるつもりは無かった。


「ユウさんからの間接的な情報だから断定は出来ないの。限りなく黒に近い推論でも、一つの世界の命運が掛かっているとなると軽々に判断するべきじゃないし……。せめてあの召喚器の実物が手に入るか、相手の黒幕が見れたら場合によっては増援を送る事は有り得るかもしれないけど、それもあくまで世界の外に対してであって直接ユウさんの下に送れる訳じゃ無いわ」


「こちらからは送れないのに神崎先輩からは送る手段があるのですか?」


「あるよ。『時空転移オーバーテレポーテーション』の前段階の『時空転送オーバーフォーワード』が出来る様になれば生きている物は無理だけど、手で持てるサイズの品物ならこっちに送れるようになるから。でもまだ時間が掛かりそうかな」


『時空転移』も『隔界心通話ハイテレパシー』同様に段階を踏む必要があるのだった。


「ユウさんが一生懸命にやってくれている事は分かっているし、手助けも勿論したいんだけど、あまり崩壊の近い世界を刺激する訳にも行かないの。……なんだか言い訳ばっかりだね……ユキヒトも私の事、あんまり快く思って無いでしょ?」


「そ、そんな事は――」


「そうですね。厄介事を持ち込んでくれたなと思っているでしょう」


「朱理!?」


志津香のフォローを朱理が硬い言葉で否定した。


「志津香様、相手を思いやる志津香様の優しさは美徳ですが、信頼関係に偽りを混ぜるのは良くありません。それと誤解の無い様に付け足しますが、真田先輩はナナナ様やナナ様個人に隔意があるのではありません。あくまでこの世界に厄介事を持ち込んだ天界と、アーヴェルカインに暗躍する存在に対してのものです。真田先輩は神崎先輩の目標達成に文字通り命を掛けて邁進して来ました。それがようやく達成されたと思えばまた別の面倒事に駆り出されているという現状が不愉快なのです。ですので、ナナナ様が気にする事はありません。真田先輩は気に入らなければ相手が誰であろうとも罵詈雑言を浴びせる人です。たとえその相手が神であっても。死んだら魔界行きかもしれませんね」


淡々と述べる朱理はただ事実を事実として述べているのであって何の気負いも感じられなかった。


「かくいう私も志津香様に害が及ぶ様ならたとえ相手が神であろうと戦います。『竜騎士』も『竜器使い』もそのくらいの覚悟でもぎ取った平和なのです。その立役者たる神崎先輩の現状を歯痒く思っているのは志津香様も同じでは無いのですか?」


「……!」


反論が無い時点で志津香の沈黙は肯定であった。


「ナナナ様から見れば、たかが人の子が何をと思われるかもしれませんが、だからこそ現世に居る間は自由に生きたいと願っているのです。ですので、くれぐれもこれ以上神崎先輩の時間を奪う様な事をなさらぬ様お願いします。……しかし、矛盾するのかもしれませんが、私個人はナナナ様には好感を覚えております。ナナナ様は誠実なお人柄ですので、板挟みで苦しむ事もお有りでしょう。その際はどうか胸の内を吐露して頂きたく存じます。僭越ながら、私はナナナ様を友人に値する方と思っておりますので」


「シュリ……」


ポカンとした顔で呟くナナナを置いて、朱理は席を立った。


「どうも喋り過ぎましたね。真田先輩からは余計な事を言うなと言われていたのですが、困っている友人を放っておくというのは私の流儀ではありませんので。……困っている志津香様を愛でるのは私の流儀なので構わないのですが……」


「そんな流儀は今すぐ捨てて!!」


「嫌で御座います。長話でお茶が無くなってしまいましたので淹れ直して来ます」


ニコリと笑って志津香の言葉を拒否し、朱理は一礼して部屋を出て行った。


「もう、朱理ったら……。ナナナ様、気を悪くなさらないで下さいまし。朱理があんな事を言うのは本当に珍しい事なんですの。……でも、私も同じ気持ちです。臆病な私の代わりに朱理が言ってくれましたが、悠様に平穏無事に暮らして頂きたい気持ちも、ナナナ様を好ましく思う気持ちも偽りはありません。ですから、ナナナ様はナナナ様のお役目を頑張って下さいまし」


「シヅカ……ありがとう……人の子に友達って言われたのは初めてだよ。でも、凄く嬉しい」


「そう言って頂けて何よりです。気分を害されたらどうしようかと思っておりましたので……」


「私もだよ……シュリの言う通りだもん。本当は皆、私の事を嫌いなんじゃないかと思ってた。だから友達だなんて言ったら迷惑だろうなって……」


俯いて肩を震わせるナナナは神の眷族とは思えないほど弱々しく見えた。雪人辺りが見ればそのか弱さも交渉を上手く運ぶ武器だろうなと冷めた視線で見ただろうが、それは雪人の中では何が優先されるのかがずっと昔から決まっているからであり、相手が誰であっても変わらない一線である。


だが志津香はそうでは無かった。そうでないからこそ、雪人とは違う種類の信頼を悠から勝ち得ているのだ。


席を立ち、ナナナの肩に手を置いて志津香は優しく微笑んだ。


「いつか、全てが終わったら、皆で笑い合えるといいですわね、ナナナ様?」


「……うん……」


志津香の体に頭を預け、ナナナはこの優しい時間に身を委ねたのだった。




「ナナナ様のあの変身能力は使えますね。もしかして他人にも応用出来るのでしょうか? ならば今の内に『堕天使の誘惑』……もとい、『天使の囁き』のデザイン画を起こしておいて、私が気を引いている間にナナナ様が瞬間生着替えを行って私が撮影というツープラトンアタックを……」


《……汝はどうして感動に水を差すのだ……》


その様子を部屋の外から窺っていた朱理の手の中では淫猥としかいいようが無い代物が出来上がりつつあるのであった。

ナナナは中間管理職なので苦労しますね。朱理の影響で業が減らないといいのですが。

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