表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(後) 聖都対決編
676/1111

7-148 抗議33

ズウウゥン……。


正門前に打ち上げられた花火? はアライアットの人間の言語中枢から言葉と抵抗という概念を奪い去った。


「「「…………」」」


泣き笑いで祈っていた者、固唾を呑んで見守っていた者、余裕を持ってバルバドスの活躍を見物していた者全ての、である。


そんな中、戦場を堂々と闊歩する者が一人だけ存在する。上空から羽が舞い落ちる中、ゆっくりと正門に向けて赤い鎧の騎士が歩を進めて行く。


遮る者はおらず、誰何の声もかからない。まるで止まった時の中を歩くかの如く、フォロスゼータの正門に悠は遂に到達した。


「ギリギリで死んではおらんようだが、もう意識も無いか」


《邪魔だからどかしましょ》


「そうだな」


正門には叩き付けられ、放射状に血を撒き散らし、背中の羽も吹き飛ばされたバルバドスは白目を剥いていた。法衣は引き千切れ、殆ど裸に近い満身創痍のバルバドスの頭を掴むと、悠は軽く横に放り投げる。


ベチャっと肉が地面を打つ音に構わず、悠は正門に手を触れた。




ヴォバババババババババババババッ!!!




耳障りな音と共に正門が放電し、激しいスパークを発して悠を拒む。


「……ふむ、これが資格無き者が触れた結果か。普通の人間なら一瞬で感電死しているだろう」


《それ以外にも物質の硬度を上げる術式なんかも掛かっているみたいね。どうする?》


「そうだな、触れずに壊せば……」


「おっと、それならここは俺の出番――」


「師よ、その門の破壊は拙者にお任せ願えませんか?」


正門の突破方法を吟味していた悠に追いついて来たバローが名乗りを上げようとしたが、更に後ろから現れたシュルツがそこに強引に割り込んだ。


「特訓の成果というやつか? よし、やってみせろ」


「あ、ズリィぞ!?」


「まぁまぁ、ここはシュルツ殿に任せましょう、バロー殿。まだ活躍する機会はありますって」


「有り難きお言葉。では……」


アライアットの者達を置き去りにして悠はシュルツに場所を譲るとシュルツは双剣を高らかに抜き放ち、練習を重ねていた竜気変換を行い、剣を顔の前で左手の剣を真横に、右手の剣を縦にして十字に構えた。


「『斬壊十字双波』!!」


左手の剣で押さえていた右手の剣を強引に振り切る様にして剣と剣を振り抜いたシュルツの双剣から十字の斬光が放たれ、正門に吸い込まれると、轟音と共に正門に十字の刀痕が刻まれ、それは縦横の端まで到達して門をただの残骸へと変えてしまった。


「……くっ、やはり今の拙者ではまだ技が荒いようです。実戦には耐えません」


「そうだな、破壊力はバローの『無明絶影』より上のようだが、少々溜めに隙が大き過ぎる。消耗も破壊力の分大きそうだ。今後も精進しろよ」


「ほほう、この門は直接内部に魔法陣が刻み込まれていたのですね。少々構成が荒いですが、まぁ及第点は差し上げましょう。もっと小型化出来れば褒めてあげてもいいのですがね」


「おーい、結界解いてこっちに来いよ。聖神教の本部の前まで行くぞー」


「……この非常識な人達と同一視されるのか、俺は……後世で何て言われるんだろうな……」


「ハリハリ先生、御者席に戻ってくれないと困ります。馬車が動かせませんよ」


「あっと、そうでした。ヤハハ、ついつい魔法の物品を見ると好奇心が勝ってしまって」


「我らも参りましょう、パトリオ殿、ステファー殿。呆けていても何も始まりませんぞ?」


「……あ、ああ……うん、分かった……」


「……やはり聖神教では駄目なのですね……。信仰を変えて正解でした……」


フォロスゼータの者達が呆然自失する中、制止する者の居ないまま、悠達はフォロスゼータの街に入ったのだった。




馬から降りて先頭を歩く悠の後ろにはバロー、クリストファー、パトリオ、ステファーが続き、その後ろにノースハイア王家の馬車でハリハリ、シャルティエル、サリエル、更に後ろの護衛用の馬車には樹里亜、神奈、蒼凪が、最後尾はシュルツが付いてフォロスゼータの大通りを真っすぐに進んで行った。


「何と言うか、左右が別々の街みたいですね、この街」


「実際別々の街ですよ。下級市民はこの大通りを横切る事すら許されておりません。もし違えれば、たとえ子供であろうとも斬首に処されます。……多くの子供らがそうして殺されました。自分が何の罪を犯したのかも分からぬままに……」


「腐ってやがる……」


クリストファーの説明に胸糞の悪さを隠しきれなかったバローが苛立たしげに吐き捨てた。子供への虐待はバローの古傷を抉る事柄である。それが今もまかり通っている事がバローに怒りを覚えさせていたのだった。


先頭を行く悠は無言だったが、その体から発せられる尋常では無い殺気が全てを物語っているようだ。街に存在する兵士が未だに近付けないのは主にそれが理由である。


誰にも遮られる事の無いまま、悠達一行は街の中心にある聖神教の大聖堂に到着した。


「ここに至っても誰も出て来ねぇか」


「全部バルバドスに任せていたんじゃ無いですか? 中の人達も『天使』が負けるとは思って無かったんでしょうし」


「それはあちらの予定であって、こちらが考える事では無いな。出てくれば順に潰すだけだ。こちらはこちらの予定通りに動くぞ」


大聖堂の前は閑散と……というより誰も居らず、正面入り口を閉め切って誰も入れないように沈黙を守っていた。かなり広いスペースが大聖堂前に用意されているのは、場合によってはここでスピーチなどを行うからであろう。また、所々に用意されている褐色の石壇は別の用途があるに違いない。……ここで『異邦人マレビト』の首を晒すという、別の用途が。


「ヤールセン、サリエル、シャルティエル、一緒に来てくれ。他の者は護衛を頼む」


遠くからこちらを窺う視線を意識しつつ、悠は馬車から降りたサリエルとシャルティエル、ヤールセンを大聖堂の正面入り口前にエスコートし、3人の前で膝をつく。


ハリハリが拡声の魔道具の調整をする中で、悠はサリエルが取り出した通告文書を臣下の如く恭しい手つきで受け取り、大聖堂に向き直った。


そして通告が始まる。


「……聖神教なるよこしまな組織に告ぐ! 過日のノワール領侵攻の際、薬物を用いて国内貴族を篭絡せんとした事実、またミーノス王国では国内の混乱に乗じて貴族と王家の不和を助長した事実を踏まえ、ここに厳重な抗議とともに、断固とした対応を取る事を宣言する! ミーノス、ノースハイアは聖神教の解体を要求すると共に、現執行部の出頭を要請する! 教主以下、主だった幹部は1週間以内に聖神教を解体し、ノワール領に出頭すべし! もしこれが果たされない場合、ミーノス、ノースハイア両国は共に手を携え、再びフォロスゼータに至り強制的に大聖堂を接収し承諾無しに解体に移る! その後、ミーノス、ノースハイア両国は健全なる国家として立ち返ったアライアット王国と国交を望むものである! 我々の敵はアライアットに非ず、聖神教なり!! 繰り返す、我々の敵はアライアットに非ず、聖神教なり!!」


フォロスゼータの街に悠の通告が朗々と響き渡る。敵国での宣戦布告といい、その内容といい、全てが前代未聞の代物であった。敵国の首都でその国敵に非ずを謳い、悠は通告文書を丸め、バローに渡して下がった。


「この書面の内容は今日この時より効力を発する事をノースハイア王国侯爵ベロウ・ノワール連合軍司令官の名において宣言する!! 真に民を安んじ、国を守らんと欲するのであればこの場において申し開きされたし!!!」


通告文書を手に吼えるバローの威厳に満ちた一喝にも聖神教は固く門戸を閉ざしたまま沈黙を守っていた。いや、あけすけに言ってしまえば対応から逃げたのだ。


ここで理路整然と言い返せるのであれば聖神教もまだ幾許かの信仰を勝ち得たかもしれないが、教主シルヴェスタはおろか、当事者の一人であるガルファもとてもでは無いが外で釈明など出来る空気では無かった。もし出て行けばその場で殺される公算が高く、『天使』が一蹴された今、とにかく穴倉に篭って外の嵐が収まるのを待つしか無かったのだ。


聖神教からのリアクションが無いまま、シャルティエルとサリエル、ヤールセンが前に進み出た。


「……以上の通告をノースハイア王国第一王女、シャルティエル・ミーニッツ・ノースハイアの名において追認致しますわ」


「同じくノースハイア王国第二王女サリエル・ミーニッツ・ノースハイアもノースハイア王国国王ラグエル・ミーニッツ・ノースハイア陛下の名代として追認致します」


「ミーノス王国宰相補佐官ヤールセン・リオレーズもルーファウス・タックスリー・ミーノス陛下の名代として追認致します」


悠より放たれ、バローによって引き継がれた通告文書は王族とその名代の名において実効性を持つに至った。それは聖神教というこれまでこの世の春を謳歌して来た宗教の命日が7日後と定められた瞬間でもあった。


ここに至ればもう撤回など不可能である。後は聖神教が折れるか、またはミーノス・ノースハイア同盟が折れるかのどちらかしか決着は有り得なかった。


未曾有の大戦の予感に見物人が深い絶望感に包まれる中、不意に大聖堂の扉がゆっくりと、しかし確実に開き始めた……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ