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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(後) 聖都対決編
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7-141 抗議26

「終わったか?」


悠が階下に戻った時、パトリオ達の姿はもう見当たらなかった。部屋に居るのはバロー、ハリハリ、シュルツ、クリストファーの4人だけだ。


「今日の所は休ませたぜ。それなりに話も聞けたしな」


バローはパトリオ達から何を聞き出し、何を話したかを悠に伝えた。その際の表情などはハリハリが補足しておく。


「その様子であれば、実際大した事は知らんのだろう。収穫と言えばそのナイフくらいか」


ハリハリが持っていたナイフを手に取り、悠はそれを観察した。


「……刃物としては大した事は無いが、妙な力を感じるな。ハリハリ、これにどんな力があるか分かるか?」


「詳しく調べないと分かりかねますね。ですが、ステファー殿の話から察するに相手の生命力を奪う力とそれを『天使アンヘル』に送る力があり、更にガルファの件から限定的な転移魔法を行使する魔法を有していますね。ザッと見た感じでは一方通行の術式に見えますが、ノワール領からフォロスゼータに戻れるほどの魔法は超絶技巧と言って差し支えないです。少なくとも、ワタクシには使えません」


「ハリハリでもか?」


バローの言葉にハリハリはヒョイと肩を竦めた。


「研究した事があるからこそ理論は理解出来ますが、ワタクシだと全力を振り絞っても5メートルの転移が精一杯です。歩いた方が早いですし魔力マナの無駄ですよ。そもそも空間を扱うのに一番適した属性は闇属性と光属性ですが、生憎それほど適性がありませんし」


ハリハリの魔法の技術でもそれが限界と言うのなら、単純な魔法の行使で長距離転移を行える者はこの世界に居ないという事に等しい。


「しかし、もっと詳しく解析すればワタクシの知識でももっと簡易な転移を行えるかもしれません。引き続き研究しますよ」


「そちらは任せた。それで明日からの行程だが……」


悠の言葉にバローが自分の考えを述べた。


「イレルファン領を通る訳だが、明日からはパトリオとステファーを使おうと思ってる。今日の話でパトリオはともかく、ステファーの方は腹を括ったと見たぜ。公爵家と聖神教の威光があればそう簡単には手出し出来ないはずだ。イレルファン家は伯爵家だからな」


「どうやらパトリオ殿とステファー殿は利害を超えてお互いに憎からず想い合っていると見えました。パトリオ殿にステファー殿が見捨てられないのであれば協力せざるを得ません。マイヤー殿は特に祖国に思い入れは無いようですし、バロー殿の領地にでも招けば懐柔は容易でしょう」


ハリハリもバローの考えを支持したので、悠も頷いた。


「分かった。ただ、パトリオとステファーを奪われる様な事があれば予定が崩れる。そうでなくても手っ取り早く暗殺でも決行してその罪だけを俺達に擦り付けてくるかもしれん。その点には注意を払ってくれ」


究極の所、パトリオやステファーは人質にはなり得ない。どちらも国にとって欠くべからざる人物でない以上、纏めて切り捨てるという選択を更なる上位者が下す可能性はあり得るのだ。そしてその罪は当然悠達の仕業であると大々的に喧伝するだろう。


パトリオとステファーは上手く使えば貴族と聖神教の支配体制に罅を入れる効果的な手札になり得るが、逆に相手の手に渡れば痛手を負いかねない諸刃の剣でもあるのだ。


皮肉な事に、使うと決めた以上、悠達こそが最もパトリオ達の安全に気を払わなければならないのであった。


「基本方針はそれでいいな。後は臨機応変に補佐するとしようぜ。……それとユウ、お前は今日こそ寝ろよ。俺はお前が大丈夫って言うなら何の心配もしちゃいねぇがよ、ガキ共は心配してるぜ。上が休まないと下の奴だって気兼ねするって事くらいはお偉い軍人をやってたんなら理解してるだろ?」


「おやおや、バロー殿、ご自分が心配しているのならそう言えばいいじゃないですか」


「俺は心配なんかしてねぇって言ってんだろうが!!」


ハリハリの頭を脇の下でヘッドロックしながらバローは声を荒げた。


「アオイとギルザードに不寝番を頼んである。どうせあいつらは寝ないんだから、こういう時くらいは頼れよな。何でも一人で抱え込んで済ませりゃいいってモンじゃねぇんだぞ」


「イタタ……でもユウ殿、バロー殿の言う通りですよ。ユウ殿の献身には頭が下がりますが、他の者に出来る事までユウ殿がしなくとも良いのです。子供達はともかく、我々はユウ殿に保護されている訳ではありません。頼るべきは頼って貰いたいですねぇ」


「畏れながら、拙者も同意見です。師は既に十分に重責を背負っておいでなのですから」


「ユウ殿、皆もこう言っていますから、今日くらいは気持ちを汲んで頂けませぬか?」


代わる代わる説得され、悠は小さく首を縦に振った。


「……分かった、今日はちゃんと眠る事にする。だからそう全員で責めんでくれ。俺としてはこれでも十分皆には頼っているつもりなんだ」


「ヤハハ、ユウ殿は自立心が強過ぎます。これを機に、少しは他の者に仕事を割り振って下さいね」


悪意に対してはどこまでも抵抗出来る悠であったが、善意で迫られるとそれを無碍にする訳にもいかず、結果として珍しくやり込められる事になったのであった。


「おーい、難しい話は終わったかい?」


そこにカリスがノックもせずにドアを開けて入って来た。


「どうしたカリス?」


「いやね、兄さんの小手ガントレットに新しい改造をやりたくてさ、ちょっと拝借しに来たんだよ」


「改造?」


「そ、改造。危ない場所に行く事の多い兄さんには結構役に立つと思うんだ。明日の朝まででいいから貸しておくれよ」


そう言って手を伸ばすカリスに悠は小手を外して差し出した。


「武器防具に関しては任せる。ところで最近カロンの姿が見えないが、無理はしていないか?」


「ああ、オヤジは最近鎧作りに凝っててさ。ほら、バローさん用の鎧を今作ってるだろ? それにギルザートさんの鎧の修理もあるし……サイサリスさんが居てくれて龍鉄には不自由しなくなったから、朝から晩までスゲー楽しそうに鎚を振るってるよ。アタシはアタシで子供らの武器防具を作ったり試作品を作ったりで忙しいんだ。まぁ、そのお陰でこの改造を思い付いたんだけど。……あ、そうそう、投げナイフも龍鉄製の新しいのに変えとくよ」


「助かる。いつも済まんな」


悠が労いの言葉を述べるとカリスはニヤリと笑った。


「最高の冒険者にアタシらの作った武器や防具を使って貰えるのは鍛冶師冥利に尽きるってなモンさ。しかも扱う素材も超一級品ときてる。ホントは寝てる時間すら惜しいくらいだよ」


「今は無理としても、アライアットの事が収まったらちょっとくらい外に出てもいいんだぜ? 若い娘が朝から晩まで工房暮らしってのも味気ないだろ?」


「それってアタシを誘ってんの、侯爵サマ?」


アルカイックな笑みを浮かべるカリスにバローは渋い顔で手を振った。


「下手にお前さんに手を出すとカロンが本気にすっから勘弁してくれ。未だにカロンの奴、俺かユウに嫁がせる気でいやがるんだぜ? それが嫌なら自分でいい男を探すんだな」


「お金を持ってて好きに鍛冶をやらせてくれるいい男なら考えなくも無いよ。ついでに鍛冶の知識もあるんなら言う事無いね。……つまり、現状がアタシの理想に一番近いんだよねぇ。気が向いたらバローさんの愛人の席でも空けといてよ。あんたは結構いい男じゃん?」


「俺は女らしいのがいいんだよ。バカ言ってねぇで戻った戻った」


あからさまに演技だと分かるしなを作るカリスをバローは手を振って追い払った。


「そりゃ残念。ま、アタシもオヤジに孫くらいは見せてやりたいしね。世界が平和になったら考えるよ。じゃあね」


悠の小手を胸に抱きかかえ、カリスは軽やかな足取りで部屋を出て行った。機嫌良く軽口に付き合ったのも新しいアイデアを試せるからであろう。


「カロンの奴ももうちょっと娘に気を使うべきだったと今頃後悔してるだろうな……」


「ヤハハ、最終的にはバロー殿が引き受ける事になるんじゃないですかね」


「ヤな事言うなよ。全く、どうして俺の周りには男みてぇな女しか居ねぇのか……」


チラリとシュルツに視線を送ると、シュルツは無言で剣の鯉口を切った。


「世間の男が軟弱過ぎるだけだ。女々しい事ばかり言っているくらいならその役立たずの逸物を斬り落としてやるが?」


「これだよ……世の中どっかおかしいとしか思えねぇ。平和な世界が待ち遠しいね」


さり気なくシュルツから距離を取り嘆息するバローであった。

表に出る機会が少ないですが、カロンとカリスも色々仕事をしてますよ。カロンは既成の装備担当、カリスは新機軸の道具や子供達の武器防具担当です。


カリス謹製の新装備は主に子供達から聞いた異世界の知識が参考になっています。

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