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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(後) 聖都対決編
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7-126 抗議11

食べるだけ食べたアルトは子供らしくすぐに睡魔に襲われ、抵抗する事もなく深い眠りについたのだった。


和む時間が終われば、今度は気を引き締めるべき時間である。


「皆、準備はいいか?」


「ええ、いつでも結構ですよ」


「抜かりはありません」


「はい、大丈夫です」


「行きましょう、悠先生」


ハリハリ、シュルツ、シャロン、樹里亜の4人が頷き、悠も頷き返した。


「昨日の夜の事で俺達を尾行する存在が居る事は明らかになった。シャロン、道中の警戒はよろしく頼む」


「不審な人の動きがあればすぐにお伝えします」


「樹里亜、襲撃者があれば俺の指示を待たずにシャロンの指示に従ってくれ」


「了解です」


「恵、蒼凪、智樹はアルトの対処を頼む。そう起きて来る事も無いだろうが、暴れる様なら俺に連絡を」


「「「はい」」」


「では行って来る」


そしてまた緊張に満ちた一日が始まるのであった。




この日も天候に恵まれ、馬車は街道を快調に突き進んでいた。馬に乗るヤールセンも連日の長時間の乗馬は厳しいかと思われたが、恵が拵えてくれたクッションがいい具合に仕事をしてくれており、昨日ほど疲労する事も無かった。


「ケイちゃんは凄いな、料理も裁縫もなんでもござれだ。気立ても働きもいいし、あの子はいいお嫁さんになるよ」


「父親を亡くして苦労して来たからな。恵が居なかったら俺もこんな小奇麗な服は着ておらんだろうよ」


この日の悠は昨日全損してしまった物とは別の正装を身に纏っていた。ノースハイアの貴族の服装を踏襲しながらも軍服のエッセンスを加えたデザインを施されており、白を基調として部分部分に悠のイメージカラーである赤をあしらっているのが見る者の目を惹きつけている。細かな刺繍すら手作業で縫い込んであり、プロの服飾家が見ても思わず唸る逸品であった。


しかし、恵が褒められると肩身が狭いのはシャルティエルである。これまで、ダメな姉を地で行っていたシャルティエルからすれば、一切の家事を切り盛りし、悠にすら全幅の信頼を寄せられる恵は非常に眩しい存在だったのだ。


「はぁ……ケイさんが羨ましいですわ……」


「お姉様だって努力されているではありませんか。……確かに、ケイさんのお料理はびっくりするぐらい美味しかったですけど、お姉様にはお姉様しか出来ない事があるはずです」


「そうかしら?」


「そうですよ! ですから、人の見ている場所では笑顔でいて下さい。お姉様が沈んだお顔をされていては、民が不安に思いますよ」


「……と、いうような事を以前サリエルに言った気がするな?」


「ゆ、ユウさん!! バラさないで下さい!!」


受け売りの発言を突っ込まれたサリエルが顔を真っ赤にして悠の腕を掴んだが、当然恐れ入ったりはしないのであった。


そんな2人のやり取りを見てシャルティエルも笑顔を取り戻した。


「うふふ……2人ともありがとう。お陰で元気が出ましたわ」


シャルティエルが気を取り直す一方、馬車の内部ではシャロンが今も周囲の警戒を行っていた。


「異常はありませんか、シャロン殿?」


「……今の所、周囲一キロ内で不審な動きをしている「集団」は、ありマせん。でスが、私達とすれ違っタあと、足早に消えてイく人がたまに居ます。こういう人ガ怪しいのでしたヨね?」


「ええ、その通りです。という事は順調に尾行は継続中という事ですか。やはり昼間は相当警戒しているんでしょうが、まさか吸血鬼バンパイアの能力で察知されているという事までは計算外でしょう。シャロン殿、休みながらで結構ですから、この後も警戒をお願いします」


「はい。……ふぅ……」


かなり使いこなせるようになってはいても、半覚醒状態になる事は危険を伴う難事である。今もかなり薄めの血を用い、能力を限定的に使用する事で暴走のリスクを下げるという、休みながらの索敵であった。しかし、素人のシャロンだけでは行きかう人々のどれに注目していいのか分からないので、こうしてハリハリに確認して貰っているのだ。


「やはり襲っては来ないと思いますか?」


「そうでしょうね。姫君方やヤールセン殿を狙うのならその限りでは無いですが、まだ自分達が狙っていると気付かれてないこの状況ではその可能性は低いと思って頂いて構わないですよ。いくら他の要人を害せても、ユウ殿を殺せないのでは意味がありません。一度襲撃に失敗すれば次からは余計に警戒させてしまいますし、これまでの『影刃衆』は襲った相手は全て最初の襲撃で事を成し遂げて来ました。標的を散漫にするのは二流のやる事です」


樹里亜の質問に、ハリハリはこれまで分析した『影刃衆』のパターンから返答した。サリエル達が悠よりも優先されるべき標的であるならば襲撃される可能性はあるが、あくまでそれは余禄でしかなく、本命が悠であろう事はこれまでに襲撃が無い事で明らかである。一般人である彼らを殺そうと思うなら、まず悠を除くのを優先するのは当然の事だ。


「まぁ、襲撃して来ないのなら、逆に言えば彼らが襲撃すると決断出来る状況を作り出してしまえばいいのです。罠というのは見える場所に張るのが本命ではありません。意識の陰に仕掛けてこそ罠は真価を発揮するものですから」


「では、今晩が山ですね」


「そういう事です。何と言ってもユウ殿に並ぶもう一人の標的も見つかる訳ですから。……ヤハハ、さぁて、どこまで我慢出来ますかねぇ……」


邪悪というには無邪気な笑みを浮かべるハリハリに、どうやら今は自分の出番は無さそうだと感じ取ったシュルツがフンと一息吐き、静かに目を閉じた。




夕暮れを迎える前にソリューシャに到着した悠達を待ち構えていたのは領主であるバロー、その妹レフィーリア、警備担当のパストール、それに多数の兵隊と街の人々の歓声であった。


「ようこそおいで下さいました。殿下並びに他国の要人をこの街にお迎え出来ました事を深く感謝致します」


「出迎えご苦労様です、ノワール侯」


馬車から降りずにサリエルがバローの言葉に対して対応した。誰が上位で誰が下位にあるのかという区別は分かり易くするべきであり、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのノワール家でも王家には絶対服従なのだと知らしめる一種のパフォーマンスである。


「王族や要人の方々をもてなすにはお恥ずかしい限りの粗末な邸宅で御座いますが、どうぞごゆっくりしていらして下さい」


深々と頭を下げるバローに続き、他の者達も一斉にサリエル達に礼を示した。こうして少し見るだけでも、兵士の動作は機敏で精悍である事が伺える。今やノワール家の私兵団は当主のバローによって鍛え込まれており、その練度は王家の軍を凌ぐレベルであった。


案内する為に先頭にあるバローが手を掲げると、兵士達は一度手にした槍の石突きで地面を叩き、一糸乱れぬ動きで斜め上に突き出した。


「ではご案内致します」


バローが踵を返すと、今度は城壁の上から楽団の演奏が流れ始める。それに沿って進むサリエル達を一目見ようと道の両脇には多数の民衆が押し寄せていた。その民衆達に向かってサリエルとシャルティエルは微笑みを浮かべたまま手を振り返し、滅多に王族などを見た事が無い民衆達はその愛らしさ、美しさに陶然となって更に熱狂の度合いを強めて行った。


普通、王族などが地方に行幸したとしても、その馬車を遠くから見る事が精々であるから、民衆達はサリエルとシャルティエルが自分達に顔を見せてくれる為にこうして外にわざわざ出て来てくれているのだと誤解していたのだった。


そして悠はと言えば、御者に専念して存在を消しつつも、こちらに注目する視線に害意が無いかどうかに神経を集中していた。


(……居るな。多数の視線に紛れているつもりらしいが、サリエルやシャルティエルでは無く俺とバローを見ている視線が幾つかある。既に街に入り込んでいるか)


(じゃあやっぱりここではやりたくないわねぇ。ハリハリの作戦に従いましょう)


『影刃衆』の存在を感じ取りつつも、悠は全く表情を崩さずに密かにレイラとそう決めたのだった。

バローもようやく再登場。ここからはご当主様のターンだ!!


……決してご当主様がターンと撃たれる音ではありません。

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