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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(後) 聖都対決編
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7-123 抗議8

アルトが熟睡したのを見計らい、見守っていた恵が毛布を持って来てくれたので、悠はアルトをくるんで窓の割れた部屋とは別の部屋に運び込んだ。ちなみに、男性陣も見守っていたのだが、アルトと悠の服が破れた時点で全員退場を命じられていた。同じ半裸であっても、常識は相変わらず男性に対してつれないのである。


しばらくは目を覚まさないと思われるアルトを部屋に安置し、悠は着替えを済ませて広間に全員を集めた。


「やれやれ、次から次へと問題には事欠かないですねぇ。せっかく客人をお迎えしたというのに……。まぁ、ここは気を取り直して自己紹介など願えませんでしょうか?」


大仰な仕草で肩を竦めるハリハリの言葉で少しだけ重くなり掛けていた空気が軽くなった。その為にハリハリはこうして口火を切ったのだろう。


「は、はい! 私はサリエル・ミーニッツ・ノースハイアと申します!」


「シャルティエル・ミーニッツ・ノースハイアですわ……」


「ヤールセン・リオレーズだよ。気楽にヤールセンさんとでも呼んでくれ」


意気込むサリエルに妙に気落ちしたシャルティエル、砕けた態度のヤールセンと自己紹介を終え、悠が言葉を引き継いだ。


「知っての通り、俺はこの3人を連れてフォロスゼータを目指す訳だが、どうやらノースハイアに『影刃衆』が来ているらしくてな。そちらにも警戒を割かねばならんのだ。だが、あの状態のアルトを放っておく訳にもいかん」


「それはまた懐かしい名前が出て来ましたね。しかし、どこからの情報ですか?」


「ノースハイアの冒険者ギルドからだ。まず信頼の置ける相手と思っていい。それによると、オリビア襲撃犯の中に『影刃衆』が混じっていたらしくてな。オリビアの喉を潰したのもその連中の仕業という事だ」


「……」


悠の話を聞いてオリビアが青い顔をして自分の首を押さえた。大分立ち直ったとはいえ、やはり殺される寸前まで行った恐怖は拭い難いものがあるようだ。


「はて、噂に聞く『影刃シャドーエッジ』ミロはそんな甘い相手では無いと思うのですが?」


「もうミロは『影刃衆』と袂を分かったらしいぞ。今『影刃衆』を率いているのは右腕だったキリギスという男だ。当時はバローとほぼ互角の腕前を持っていたな」


「当時は、という事は、今のバロー殿なら負けるはずの無い相手という事ですね」


悠の発言の内容を正確に察したハリハリの言葉に悠も頷きを返した。今のバローは当時とは比較にならないほど強くなっており、もしキリギスに襲われても、今ならば一太刀で葬り去る事だろう。


「だが、普通の人間にとっては今でも脅威だ。だからこの際叩き潰してしまおうと思ってな。わざわざ街道を進んで来た理由はそこにある。ノースハイアに根を張っているなら、俺達の動向は察していよう」


「なるほど。では、ここはシャロン殿の出番では無いでしょうか?」


「私の、ですか?」


端の方の席に座るシャロンが自分を指差して小首を傾げたが、フォロスゼータ潜入の手際を覚えていた者達はハリハリの意図を察する事が出来た。


「つまり、シャロンさんの能力で馬車で移動する間の警戒をして貰おうという事ですね、ハリハリ先生」


「流石はジュリア殿、その通りです。シャロン殿の感知範囲は我々の中で最大ですし、警戒要員としてはこれ以上ない人選だと思うのですよ」


つまり、と前置きし、ハリハリは手順を纏めて説明を始めた。


「まず、ヤールセン殿は馬での移動でしたのでそのままで良いですが、サリエル殿とシャルティエル殿まで律儀に馬車に乗る必要はありません。馬車の中には索敵要員のシャロン殿と防衛要員としてジュリア殿、戦闘要員としてワタクシとシュルツ殿が乗れば万一にも取りこぼしはありません。そして、アルト殿の監視はソーナ殿とトモキ殿にお願いします。ソーナ殿は『心通話テレパシー』が使えますから、何かあればユウ殿に連絡すればいいですし、闇属性魔法は束縛系魔法もあり適任かと思います。現状では最も臨機応変に対処出来る布陣だと思いますよ?」


「「「異議あり!!!」」」


これ以上無いくらい理路整然としたハリハリの人員配置であったが、思いの外異議を申し立てる者達は多かった。


「……えーと、ソーナ殿にカンナ殿、ギルザード殿に……シャルティエル殿まで、そんなにワタクシの案が不服でしたか?」


「不服。樹里亜が行くなら私も行きたい」


「大いに不服!! 戦闘要員ならあたしでもいいじゃん!!」


「激しく不服だ。以前より戦闘に入る危険性が高い場所にシャロン様だけ行かせるのはな」


「とめどなく不服ですわ! せっかくユウ様と一緒に居られるのに離れ離れになるなんて!!」


「……ワタクシ、頭が痛くなって来ました……」


およそ感情論だけの反論を受けてハリハリはテーブルに突っ伏した。理屈で説得出来ない相手は始末に悪く、特にそれが女性となれば尚更であったが、それでもハリハリは何とか説得の言葉を捻り出した。


「人間相手の殺し合いを子供にやらせるつもりは有りません。ジュリア殿にしてもあくまで防衛要員ですし、シャロン殿も索敵だけです。シャルティエル殿は…………えー、とにかく我慢して下さい」


シャルティエルへの説得の言葉が浮かんでこなくてグダグダになった理論では誰も納得はしなかった。


という訳でシャロンと悠が説得に参加する事になった。


「ギル、私は戦闘に参加しないのですから聞き分けて。それに、あなたが付いて来たら馬車の中に皆が入れないんですから。人間相手にユウ様が不覚を取るはずが無いでしょう?」


「それは、そうですが……」


「蒼凪と神奈もだ。樹里亜にしても防衛要員だと言っただろう。樹里亜と蒼凪に関してはフォロスゼータにも付いて来て貰うつもりだ。それで我慢しろ」


ギルザードと蒼凪はそれぞれ説得の言葉に何とか納得したが、治まらないのは神奈である。


「悠先生、あたしは!?」


「直接戦闘が主の神奈を連れて行ける訳が無かろう。俺は人殺しに慣れた娘をお前の親に返すつもりは無いぞ?」


「……あたしだって、ずっと、ずっと悠先生に付いて行くつもりです!! 親父だって説得して、一緒に先生の世界に行きます!!」


神奈は遂に自分の考えを悠に明かした。前々から年長の者達には明言していた神奈であったが、こうして悠に宣言するのは初めての事であった。


「……本気で言っているのか? お前の性格なら元の世界に友人も多かろう。それだけではなく愛着もあるはずだ。その全てに背を向けても構わんと言うのか?」


悠の言葉は鋭く厳しかった。蒼凪に許可を出したのは、その全てに即答でイエスと言えるからである。それはそれで危うさは残るが、大人になればまた柔軟な思考を持てるかもしれないと割り切っていた。


それに対し、神奈は自分の心に嘘は吐かなかった。


「全然未練が無いなんて言えません。だけど、あたしはそれでも悠先生に付いて行きたいと思ってます!! 友達も大事だけど、悠先生みたいな人にはもう一生会えないです。あたしがこうしてここに生きていられるのも悠先生のお陰ですし、このご恩をお返しするまでは悠先生から離れません!!!」


「俺は自分の勝手でお前達を助けただけで恩や義理を求めてでは無いと言っているだろうが。恩を感じるのは神奈の勝手だが、それによって自らの人生を決めてしまうのは短慮では無いのか?」


「どの道かを選ぶ時、もう片方に何の未練も無い人間は居ないと思います。あたしは、自分がより良いと思える生き方がしたいだけなんです!!」


「より良い生き方をしたいというのなら、先達の意見にも耳を貸すべきだ。親しい者と別れて生きるのは辛い事だぞ? その辛さには嫌と言うほど身に覚えがあるのでは無いか? 辛い日々に耐えられたのは、樹里亜という友人がお前の側に居てくれたからでは無いのか?」


義理人情、それに友情を重んずる神奈に畳み掛ける様な悠の問いが非常に重く圧し掛かった。決して友人を蔑ろにする気は無いが、結局どちらかを選ぶとはどちらかを捨てる事なのでは無いかという想いに自縄自縛され、口達者では無い神奈は唇を噛んで黙り込んでしまった。


口先だけの答えを言う事は出来る。だが、神奈はこの人生を決める大切な問いに関して不純物を混ぜる事を良しとしなかった。何とか心の内を言葉にしようともがくが、出て来るのは悔し涙であった。


「う…………ぐすっ……」


だが、そこに助け船を出す者が居た。


「……悠先生、よろしいですか?」


「何だ、樹里亜?」


俯く神奈の隣で成り行きを見守っていた樹里亜が席から立ち上がり、悠を見据えて口を開く。


「神奈は義理堅い性格なのでその問いには答えられません。ですが、私の名前も出ましたので、私が答えさせて頂きます」


「そうか。では聞こうか」


悠の鋭い視線にも怯まず、樹里亜はしっかりと言葉を紡いだ。


「はい。まず前提として、私は元の世界に帰ります。お母さんを独りぼっちにはさせられないし、やり残して来た事もありますから。つまり、悠先生の用事が全て円満に解決すれば、どのみち私と神奈は、いえ、大多数の子とはお別れする事になるでしょう。それは間違い無く友人との別れです。今から考えてもとても辛い事です……。でも、一生皆の事は忘れません……っ」


ふと、樹里亜が言葉に詰まった。しかしそれは言葉に出来ないからでは無い。言葉にしたい想いが大き過ぎたからこそ言葉に詰まったのだ。樹里亜は震えそうになる声を必死に整えて吐露し続けた。


「わ、私の、親友は、きっと遠くで元気にやっているんだって、信じます!! 決して捨てたんじゃ無いです!! 信じているから離れていても大丈夫なんです!!!」


しんとした室内で、悠が視線を隣の神奈に移して尋ねた。


「……だそうだが、お前も樹里亜を信じているか、神奈?」


「信じてます!!!」


声の震えを吹き飛ばす勢いで神奈は叫んだ。


「樹里亜は凄い奴なんです!! あたしはバカだから、頭がいい樹里亜が居なかったらとっくに死んでました!!! だから、樹里亜はどこに行っても絶対大丈夫なんです!!! 離れてても、会えなくても、死ぬまでずーっと友達です!!!」


そのまま神奈は立ち上がり、隣の樹里亜に抱き付いた。


「ありがとう、樹里亜……あたしの為に反論してくれてありがとう……」


「ば、馬鹿ね……まだお別れじゃ無いんだから雰囲気出さないでよ……」


そう言いながらも、樹里亜は神奈の背中に手を回し、ギュッと抱き締めた。


そんな2人にパチパチパチと気の抜けた拍手が送られた。その発生源はハリハリである。


「麗しき友情に祝福を。ユウ殿、厳しいお小言はそのくらいでいいのでは無いですか? カンナ殿の気持ちは本物です。これ以上は本人の行動によって確かめるべきですよ」


少し真剣な表情を作って話すハリハリに、悠も頷いた。


「ならば、神奈も蒼凪と同じ条件をこなせば付いて来る事を認めよう。フォロスゼータへは戦いに行く訳では無いから同行を許可するが、主目的が戦闘である場合に付いて来たいのならバロー、ハリハリ、シュルツ、ギルザードのいずれかに一撃加えてみせろ。それが出来るまでは決して連れて行かんぞ」


「ほ、本当ですか!? バロー先生っ……は居ないし、じゃあハリハリ先生一手お願いします!!」


「ちょ!? せっかく助け船を出してあげたワタクシを標的にするなんてヒドイですよ!!!」


今にも跳び掛かりそうな神奈にハリハリは結界を発動寸前まで引き上げた。


「まだ話の途中だ、大人しく座っていろ」


「はぁい……」


「ホッ……」


渋々神奈が席に着いたのを見届けて、ハリハリも浮かせていた腰を下ろした。


「で、最後の一人だが……」


皆の視線がシャルティエルに集中するが、鈍いのか度胸があるのか、シャルティエルはまるで怯む様子を見せなかった。


「言っておくがシャルティ、自分の欲求を満たしたいだけならば却下するぞ。それでも俺を説得するに足る理由があるなら言ってみろ」


先ほど神奈と相対した時よりも剣呑な気配を滲ませる悠にサリエルは姉の頭を押さえつけて発言を撤回させようとしたが、それよりも早くシャルティエルは自信満々に語り出した。


「確かに、ユウ様と一緒に居たいという欲求を満たしたい気持ちは御座いますわ! いえ、半分はそうです。それは偽るつもりはありませんもの」


「お姉様!?」


「おお、この姫様スゲェ……」


堂々と言ってのけるシャルティエルはいっそ天晴であり、正面に座る神奈は思わず感心して呟いた。


ですが、とシャルティエルは指を立てて言葉を続けた。


「もう半分はちゃんとした理屈も御座いましてよ。何故なら、今日の道中で『影刃衆』が私達の事を見ていたとすれば、次の日にどちらも全く姿を現さないというのは違和感を感じさせてしまうかもしれません。ならば、重責のある妹の代わりにオマケで付いて来た姉である私が囮になるというのは当然の事ですわ。私が明日も御者席でユウ様と歓談していましたら、きっと相手も油断するはずです。違いまして?」


思いの外、正論が返って来て他の者達は呆気に取られた。シャルティエルは別に馬鹿では無いし、特に恋愛が絡めばその頭脳の回転速度は飛躍的に高まるのである。


「ははぁ……ユウ殿、確かにシャルティエル殿の言う通りですよ。欲望に忠実過ぎるのは如何かと思いますが、違和感を持たせない為には今日と同じ様に振る舞うのは非常に効果的です。ワタクシ前言撤回しましょう。是非そうして欲しいですね」


ハリハリまでがその論を後押しするのであれば、悠も表面上はしっかりとした理屈を持って話すシャルティエルを撥ね退ける事は出来なかった。


「……分かった。だが、怖い目に遭う事は覚悟して貰うぞ?」


「愛しい殿方の為でしたら、たとえ火の中水の中、ドラゴンの口の中でもシャルティはご一緒致します!」


シャルティエルは胸を張って答え、悠も下心があると分かっていてもそれを受け入れざるを得なかった。せめて本音を隠してくれればまだ了承しやすかったのだが、恋愛に関しては偽らないのがシャルティエルの流儀であるらしい。


「あ……ぅ……」


ちゃっかり悠の隣の席を勝ち取った姉にサリエルも声を出そうとしたが、生来の善良さが祟り、結局我儘を言い出せずに俯いてしまった。


だが、神はそんなサリエルを見捨てなかったらしい。


「サリエル、悪いが君も明日はまた御者席に一緒に座ってくれるか? 違和感を抱かせぬ為と言うなら徹底して今日と同じ様にしておいた方がいいだろう。どうしても嫌だと言うなら別に――」


「座ります座ります!! …………あっ……えと、お、お姉様だけを危険な目に遭わせられませんから!!! た、他意はありません!!!」


「そうか?」


他意がありますと宣言している様なものであったが、皆優しいので指摘はしなかった。


「では詳細は夕食の後にするとしよう。俺は食事が始まるまでアルトの側に付いている。出来上がったら教えてくれ」


悠がそう締め括り、一旦話し合いはお開きになったのだった。

シャルティが自己紹介で意気消沈していたのは、アルトが自分より綺麗だと認めてしまったからです。相当自分の容姿に自信を持っていたのでそのショックも大きかったのでした。


それでも悠相手にでも臆さず切り込めるハートの強さ。欲望を露わに出来る勇気!!

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