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1-56 出発前日4

真面目な恋愛回です。普段とは違う朱理をお楽しみ下されば幸いです。

(約一名寝ているが)旧知同士で最後の日を過ごし、心おきなく悠は旅立てる事を嬉しく思った。そんな宴もそろそろ終わりだ。


だが、ここに一人消化不良の人間が居た。それはまだ悠に想いを伝えていない志津香だ。


(ああ、もうすぐ悠様が帰ってしまいますわ!今日こそ、今日こそ言わなければしばらくは離ればなれになったまま・・・。いえ、それどころか、悠様があちらの世界で誰かと仲良くなってしまうかもしれません!だ、だから言わなくては、言わなくてはっ!!)


握っているグラスも砕けよとばかりに力を込める志津香だったが、残念ながら志津香には『心通話テレパシー』は使えない。射殺すほど視線に力を込めても想いは伝わらないのだ。


しかし、そんな志津香をいつも気にかけている人物が居た。秘書官の朱理だ。


朱理は志津香の様子と視線の先を見て全ての事情を察し、一つ溜息をついてから雪人に話しかけた。


「すみません、真田先輩。ちょっと手助けを頼みたいのですが?」


「ん・・・ああ、分かった。皆まで言うな。俺と防人教官で真を運ぶから、そっちはそっちで上手くやってくれ」


朱理の視線の先の志津香を見て、雪人も朱理の考えを即座に悟った。雪人は別に志津香で無くても悠が誰かしらの女に興味を持てればいいと思っている(千葉家の亜梨紗や滉でも構わないと思っていた)が、朱理は志津香に肩入れしているので、今はそれに協力しようと思ったのだ。


「間違い無く断られるが、志津香様は大丈夫か?」


聞き様によっては不敬どころの騒ぎでは無いセリフだが、それを受ける朱理も平然としていた。


「ショックは受けられると思いますが、その事は重々承知のはずです。私が何度も念を押しましたから。今の悠さんには決して受け入れられない理由もです」


練兵後の報告で、悠の相手に求める条件は判明した。それは現状では誰も該当しないという事実と共に、志津香もまた受け入れられないという事も暗示していた。


「分かっているのならばいい。それでも言うと言わぬとではまるで意味が違うからな。志津香様も悠の争奪戦に参戦されるのなら、今のうちに言っておかねば他の人間に後れを取るぞ?」


「ええ、今夜が最後の機会だという事も分かっておいででしょう。男に男の戦いがあるように、女にも女の戦いがあります。志津香様も勇気を振り絞って頂かなくてはなりません。でなければ・・・ここまでです」


何時に無く厳しい朱理の言葉であった。それは悠を好いている女性達を調べる内に、その並々ならぬ覚悟を感じ取った、女としての共感だった。


「特に千葉家の二人は現時点で志津香様の遥か遠くに居る事は間違いありません。未だスタートラインに立つ覚悟が無いのなら・・・志津香様には別の男性を紹介します」


いつまでも未練を感じている時間など皇帝である志津香には無かった。もしその程度の想いであるのなら、ここで諦めて貰うしか無い。


「秘書官殿は恐ろしいな。一生志津香様に恨まれるかもしれんぞ?」


「構いません、今日志津香様が踏み込めないのなら・・・志津香様の縁談が調った後、私は辞めさせて頂きますので」


「何?」


朱理の言葉にさすがに雪人も驚いた顔をした。


「そのような不甲斐無い主を持った覚えは私にはありません。その時は今まで甘やかしていた私が原因です。志津香様の後ろに侍る資格は無いでしょう。それに、これからは護衛は有名無実。私でなくても務まりますから」


「それでも西城と志津香様は友人でもあるのだろう?いいのか?」


「はい、それに・・・私は信じているのですよ、志津香様を」


そう言って志津香に注ぐ視線は友人の様でもあり、姉の様でもあった。


「お膳立てまでは手伝いましょう。しかし、私に出来るのはそこまでです」


「やれやれ、厳しいのやら、甘いのやら分からんな」


「おや?女心を解する色男と噂の真田先輩とは思えませんね、そのセリフは」


「俺が分からんのはお前だ、西城。俺は、お前が誰かに懸想している所を見た事が無い」


「あら、私今口説かれています?」


「戯言を。お前が俺に簡単に靡く程度の女であるなら特練の時代に手を出したさ」


「慧眼ですね。25点差し上げます」


「辛いが配点が分からん点数だな。・・・まぁいい」


話が横道に逸れたと見て、雪人は追及を諦めた。元々、簡単に自分の心境を語るような女でも無い。


「そちらの首尾は任せる。上手く二人だけになる様に取り計らえよ」


「お任せを。ご助力ありがとうございます」


「構わん。俺とて悠に人並みの幸せを掴ませたいのでな。後日、からかうネタにもなる」


後半に照れ隠しで毒を混ぜるのも雪人流といった所なのだろう。


「では、私は志津香様に促してきます。失礼しますね」


「ああ、ではな」


そう言って二人は別々の目的の為に別れたのだった。


朱理はほんの少し雪人を振り返り、今の問答を思った。


(皆、自分の心すら良く理解しては居ないものですよね、真田先輩。私も自分が誰に惹かれたかなど良くは分かっていないのですよ。真だったような気もしますし、神崎先輩だった気もします。それに、防人教官や・・・真田先輩だったかもしれません。ですから、4分の1で25点差し上げますよ)


そんな思いを一振りで消し去って、朱理は志津香に歩み寄って行った。

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