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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(後) 聖都対決編
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7-117 抗議2

「なるほど、不覚を取ったとはいえ、オリビアがあっさりと喉を潰されたのも頷ける。だが、ミロであれば仕留め損ねるとは思えんな。部下の仕業か」


「我々もその様に見ています。……これはまだ極秘情報なのですが、どうも『影刃シャドーエッジ』ミロは『影刃衆』と袂を分かったのでは無いかと思われるんです。我々が早期に尻尾を掴めたのも以前より手口が杜撰だった事が大きいですね」


これまでのミロ及び『影刃衆』はその痕跡すら残さない隠密性から逆説的にその存在が知られていたが、物証から関与が疑われるという事は殆ど無かったのだ。それが今回に限ってすぐに関与を疑われたのは襲撃班の中に『影刃衆』の末端が混じっており、その自白を得られたという事が大きかった。これはミロが居たのなら有り得ない事で、もし生粋の『影刃衆』であったなら、捕まった瞬間に自害しているはずである。


「別に褒める訳ではないが、ミロは自分の生き方に美学を持っていた。奴が統制していたとすれば、その様な不始末は有り得んな。となれば、今の『影刃衆』はミロを失い粗雑な暴力組織となっているのだろう。頭は右腕だったキリギス辺りか。ミロと違い、熱くなり易い性格をしていたしな」


「唯一『影刃衆』の経歴に傷を付けたユウさんの見解を聞きたくてお話ししましたが、やはり聞いておいて良かったです」


レイシェンがユウに極秘である情報を漏らしたのも、実際に『影刃衆』とやり合った人間としての意見を求めたからであろう。悠の他に当事者と言えるのはバローとアルトであるが、バローは冒険者としての立場であるし、未成年者で他国の貴族であるアルトをそう簡単に引っ張り出す事は出来ないのだ。


「奴らが拠点としている場所などの情報は無いのか?」


「この王都での拠点は既に捜索しましたが、そこは流石に『影刃衆』、既に引き払った後でした。しかし、活動拠点をミーノスからノースハイアに移しているとなれば、まだ国内のどこかに留まっていると見るべきでしょう。それを踏まえてユウさんに注意を喚起しておきたかったんです」


レイシェンは真剣な表情で自らの懸念を口にした。


「私もこの立場ですので、ユウさんがノースハイアを訪れた理由は知らされています。本日の布告のあと、ユウさんはミーノスのヤールセン外交官とサリエル様を伴ってフォロスゼータに赴くのですよね?」


「その通りだ。……なるほど、その道中を狙われるのでは無いかと言いたいのだな?」


悠の言葉にレイシェンは神妙に頷いた。


「もしお2人に何かあれば、せっかく緩和に向かっていた両国の関係は破綻してしまいます。そうなって喜ぶのはアライアットの関係者だけでしょう。ですので、ユウさんにはくれぐれも道中では慎重に行動して頂きたいのです。ユウさんお一人であればどんな相手でも不覚を取る事は無いでしょうが、守りながらの戦いでは手に余るのではないですか? 何なら、ギルドから腕利きを何人かお貸ししますが?」


「いや、申し出は有り難いが、俺もそれなりに人材は抱えている。忠告だけ有り難く受け取っておくさ」


「そうですか……では、そのお言葉を信じさせて頂きます。『戦塵』の皆様にもよろしくお伝え下さい」


悠の実力に不安があれば是が非でもレイシェンは他の随員を付けるつもりであったが、他ならぬ『戦塵』のリーダーが自分の仲間に掛けて安全を請け負ったのだからと納得して引き下がった。


そこでようやくレイシェンは表情を緩めた。


「そろそろ日も昇りましたし、一緒に執務室で朝食などは如何ですか? 出来れば他のギルド長のお話しやユウさんの冒険譚などを伺いたいと思うのですけれど……」


「いいのか? 前ギルド長を追い出す切っ掛けを作った男などと一緒に居ては良からぬ噂が立つかもしれんぞ?」


真面目くさった悠の懸念にレイシェンは思わず吹き出した。


「フフッ、それは実に光栄な事ですね。でも心配はご無用です。今回の人事は統括のオルネッタ様がお決めになった事ですし、一時的な物ですから。私個人の評判なんて大した事ではありませんよ。新しい人事が下ればすぐに忘れ去られます。……ああ、どうせならキャシーも一緒に誘いましょう。2人一緒なら噂も分散されますよね?」


「2人に関してはそうだろうが、俺の場合は悪評が倍になる理屈ではないのか?」


悠の穿った意見にレイシェンは悪戯っぽく笑った。


「それくらいは男の甲斐性の範疇だと思います。私達としては、ユウさんを恐れて軟弱な男性が近付かなくなるのは願ったりですね。受付嬢などやっていると随分露骨な誘いも受けますので、いい加減断る口実を考えるのも疲れるんですよ」


「……まぁいい、馳走してくれると言うならご相伴に預かろう。だが、軟弱な男どころかまともな男すら近付かなくなるかもしれんぞ?」


「構いませんよ。私は特に結婚願望はありませんから。その程度で諦める方は願い下げです」


「勇ましい事だ」


それ以上の言及を避けて悠は上半身の服を脱ぎ、鍛練場の隅に置かれている水瓶で顔を洗うと布を濡らして絞り汗を拭った。冒険者はお世辞にも行儀の良い職業では無いのでレイシェンもこれくらいでうるさい事は言わないが、悠ほど鍛え上げられた肉体美を持つ者もそうは居ないので、自然と視線が吸い寄せられた。


(凄い体……一体どんな人生を歩んで来た人なんだろう? 去年の冬の始めに現れる前からずっと戦い続けて来たのは間違い無いけど、それ以前にこんな人が居たら絶対に噂になっていたはずよ。まるでどこか別の世界から……っ!)


レイシェンの思考は期せずして正答に辿り着いていた。悠の様な人物が今まで人知れず存在していたと考えるよりも、その方がずっと説得力のある答えであった。


(違う世界、すなわち異世界。ならばユウさんは……)


異邦人マレビト』という単語に思い至ったレイシェンが口を開く前に、別の人物が画面に割り込んでいた。


「うわぁ、お腹ボコボコですねユウさん。ちょっと触ってもいいですか?」


「構わんが、男の体など触って楽しいか?」


「楽しいに決まってるじゃないですか!! ユウさんだって女の人の体を触ったら楽しいでしょ!?」


「いや、特に感慨は無いが? 手合わせする時にそういう事は考えんな」


「そういうのじゃないですよぅ! あっ、スッゴイ硬い!! わっわっ、スッゴイ癒されるっ!! あの、ちょっと叩いてみても――」




スパーンッ!!!




はしゃぐキャスリンの頭をレイシェンが叩いた。


「あいたっ!? な、何すんのレイシー!?」


「何すんの、じゃないわよ!! アンタには恥じらいってモンが無いの!?」


「何よぅ!! レイシーだって視線が釘付けだったじゃない!! 自分だけ楽しんでズルい!!」


「ち、違うわよ!!! いいからアンタは執務室に朝食を運んでおいて!! 3人分よ!!」


「ふんだ、レイシーの言う事なんて聞かないもんねーっ!」


べーっと舌を出すキャスリンを見て、レイシェンの目が細まった。


「……減給されたいの?」


「あ、ウソウソ、すぐ頼んでくるね!!」


伝家の宝刀である減給をチラつかせるとキャスリンは悠の腹筋から手を離し(まだ触っていた)、それ以上レイシェンが何かを言う前に姿を消した。それは野生動物さながらの逃げ足だった。


「全くキャシーは……!」


「そう邪険にしてやるな。君が心配で様子を見に来たのだろう。いざという時に側に居てくれる人間は大切にした方がいいぞ?」


「言われなくても分かってます! 素直に感謝させて欲しいこちらの気持ちも察して下さい!!」


八つ当たりで拳を握ったレイシェンが悠の腹を突いたが、まるで巨大な獣を叩いた様な手応えがしてレイシェンのパンチの威力を吸収した。


「流石ギルド長、中々いい突きだ。普通の男なら悶絶ものだな」


「っ! さっぱり堪えていないじゃないですか。もう、どうやって鍛えたらこんなに…………あっ……」


その硬さを確かめる様に撫でていたレイシェンは自分の行いがキャスリンと全く同じであると気付き、パッと手を放して踵を返した。


「と、とにかく!! 私は先に行ってますからね!!!」


そのまま振り返らず、耳まで赤くしたレイシェンは足早に立ち去ったのだった。

オリビア襲撃の裏側です。

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