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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(後) 聖都対決編
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7-107 野外実習7

朝食を簡単に済ませたアルト達は昼に食べる物を求めて班員全員で森の中にやって来ていた。まだ浅い位置であるせいか、周りには他の班員達も食材を求め、容易には手に入れられない状況である。


「にしてもよ、毎食毎食を狩りで手に入れるってのも大変なもんだよな」


「普段は自分の食べる物なんて意識してなかったものね。パンだって食べられないし……農家の人や猟師の人には頭が下がるわ」


いくら金があろうとも、それを自然界に持ち込んで交換して貰う事は出来ないのだ。肉も野菜も流通に乗って初めて金銭が意味を持ってくる物で、実学として体験させる為に野外実習を執り行った教師陣からすればしてやったりといった所であろう。


「流石にこれだけの人間で狩りしてっと浅い場所には獲物がいねぇな。アルト、もう少し奥に行こうぜ」


「そうだね。でも、昨日は単体だけどゴブリン(小鬼)が出たっていう話だから、皆武器の用意は怠らないでね」


「大丈夫よアルト君、私達なら同じ数のゴブリンと出会ったって怪我せずに勝てるって! ね、ラナティ?」


「あ、あんまり油断しない方がいいよ? 私、魔物モンスターと戦った事なんてないから怖いな……」


「あなたが一番早く安全な場所から倒せるでしょうに。謙遜も過ぎれば嫌味でしてよ」


「いや、ラナティさんの言う通りだよ。僕も初めてユウ先生に監督して貰って戦った時は単なるゴブリンが相手だったのに上手く動けなくてさ、結構危ない目にも遭ったんだよ? 生徒同士だと命のやり取りにはならないけど、相手が弱くても本気でこっちを殺しに来てるのは……怖い事だよ」


楽観的な意見を述べるエクレアに釘を差すように、アルトは自らの体験から注意を促した。あの時は自分の実力の半分も発揮出来たかどうか今でも疑問である。それだけ、命が掛かった戦闘というのは恐ろしい物なのだ。それは『殺戮獣キリングビースト』といったドラゴンクラスの相手とやり合った今でも依然としてアルトの中に残っているのであった。


「……ま、気の回し過ぎだと思うがよ、班長殿がこう言ってんだ、俺達班員は従っておこうぜ」


「は~い」


ジェイが率先して武器を手に表情を引き締めると、自然と他の班員も表情が引き締まった。この辺りの思考誘導は実質的なサブリーダーであるジェイの得意とする所である。


森の奥に進むに従い、自然と他の生徒達の姿は少なくなっていった。アルト達もそれなりに狩れそうな獲物を見つける事もあったが、自分達の実力を加味して浅い部分の獲物はあえて後続の者達に残し、更に深部へと進んで行くと、同じように深部に潜っていた他の生徒と遭遇した。


相手もアルト達に気が付いたようで、そのリーダーを務めていると思われる人物が朗らかな笑顔でアルトに話し掛けて来た。


「おや、1年生にしては随分と奥に来ているけど……ああ、君は確か1年生主席のアルト・フェルゼニアス君……だよね?」


「はい、あの、先輩は……?」


「私かい? 私はエリオス。エリオス・クーラレインだよ。一応3年生の首席さ。といっても、私なんかじゃ君とは比べ物にならないけどね」


制服の色で学年を見分けたエリオスがアルトに手を差し出したので、アルトも精々先輩を立てて畏まり、その手を握って答えた。


「いえ、ご立派な肩書きだと思います、クーラレイン先輩」


「ハハハ、噂の貴公子に褒められるなんて、私も存外捨てた物ではないかもしれないね。でも君には名前で呼んで欲しいな、アルト君?」


「はい、エリオス先輩」


にこやかに笑っているはずなのに、どこか目の奥で冷たい光を放っているエリオスの視線から全てを見通せるほどアルトは対人経験を積んではいなかったので、単にエリオスを気さくな先輩として捉えていた。むしろ、そんなエリオスの態度に疑念を抱いたのは当然ながら世間ずれしているジェイである。


(……ライハン、アイツに気を許すなよ。苗字持ちって事は貴族だろうに、妙に物分かりがいい、っていうより良過ぎる。俺にはアルトくらいお人好しが居るとは思えねえ。我らがお人好し班長はいいとして、俺達は警戒しておこうぜ)


(ジェイがそう言うんなら、了解だ)


(む~、アルトにちょっかいを掛けるのは許さんでよ~!)


そんな意思疎通が成されている間にもアルトとエリオスの会話は弾み、一緒に行動する事になった。


「それにしても、流石3年生ですね。こんな奥まで狩りに来ているなんて」


「私達が浅い場所に居ては他の子達がご飯にありつけないかもしれないからね。貴族として、そういう浅ましい真似は良くないと思うんだ」


と、当たり障りのない答えを返したエリオスだが本心は別であった。


(ここいらで俺の優秀さをもう一度見せつけておけば、班の奴らから学校に噂が広まるだろうからな。出来れば魔物の1匹2匹を倒して駄目押ししておきたいと思って奥まで来たが、フェルゼニアスが居るなら尚の事好都合だ。コイツの性格からして俺が前に出れば獲物は譲るだろうし、そうすれば魔物討伐の栄誉は俺だけの物になる! 精々コイツには引き立て役になって貰う事にするか)


エリオスがわざわざ森の奥まで来たのは食料を得る為では無く、手っ取り早く学校での評判を上げる為であった。その為にもっともらしい理屈を並べて班員を説得し、こうして森の奥までやって来たのだ。


実際、剣も魔法も人並み以上に使えるからこその首席である。魔物の討伐もこれが初めてという訳ではないエリオスにとってゴブリンが5匹程度であれば一人で片付けられる範囲であった。


「ご立派な考えだと思います。流石は3年生の首席ですね」


「いやいや、周りの皆に支えられてこその首席だよ。でも、貴族として生まれ持った責務からは逃げないつもりさ」


「エリオスは控えめだなぁ。ここは一発後輩にガツンと言ってもいいんじゃねぇのか?」


「そうよ、エリオスみたいな人にこそ私は偉くなって貰いたいわ! 私達庶民と貴族を最初から分け隔てなく接してくれたのはエリオスくらいだったんですもの!」


「止してくれよ皆。アルト君に比べれば私なんてまだまださ」


ローランに看破されてから更に慎重に猫を被り直したエリオスはしっかりと班員の心も掌握しているらしく、やはり同年代の中では頭一つ抜きん出た存在であった。だからこそ、それ以上の存在を知らずに増長しているのかもしれないが、優秀さという点では疑う余地はない。


「僕の方こそとんでもありません。3年生の皆さん、若輩者ですが、これからもよろしくお願いします」


「お、おう、中々殊勝な態度じゃねぇか。まぁ、エリオスがいいってんなら、なぁ?」


「そ、そうね……下級生相手に大人げないのも何だし……」


素直に年上を敬う態度を見せたアルトに他の3年生も毒気を抜かれたのか、高圧的に接した事にばつの悪さを覚えたようだ。アルトの場合はただの天然だが、察しが良ければいいという訳では無い場面も人間関係の中ではあるのである。


「さ、とにかく奥に進もうよ。流石に帰りの15キロを空きっ腹で歩くのは辛いだろう?」


「ええ、そうですね」


そうして暫定的にエリオス班とアルト班は共に森の奥へと進む事になったのだった。

腹黒猫被りのエリオス君と同行する事になったアルト班。


さて、どうなる事でしょうか。

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