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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(後) 聖都対決編
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7-106 野外実習6

すいません、風邪を食らってしまいました。バッドステータス筆速低下です。

3時間ほど歩いた所で一行は順次休憩を取る事になった。


「ふぅ……これで10キロくらいか?」


「そうだね、後2時間くらいだと思うよ」


「片道5時間か。それにしちゃ余裕があんのはやっぱアルトと鍛えてるからかな」


ジェイやライハンも同じ年代の子供より体力はある方だが、これだけ余力を残しておけたのはアルトと鍛練していたお陰であろう。


「でもここからはペースを落とした方がいいね。後続がついてこれなくなっちゃうから」


「だらしないですわね」


澄ました顔で汗を拭うエルメリアもまだ余裕がありそうだ。とはいえ、他人に軽々しく弱みを見せるような性格はしていないが。


「アルト、少しいいか」


「はい、ユウ先生……ん?」


腰を落ち着けるアルトに悠の声が掛けられた。振り向いたアルトの目に飛び込んで来たのは悠と、そしてどうしても心を開いてくれなかったメルクーリオであった。


「メルクーリオ」


「は、はい…………フェルゼニアス……いや、アルト…………今まで、その、悪かった。……そ、それだけ言いたかったんだ、じゃあな!」


「あっ、メルクーリオ!!」


一言アルトに謝罪を述べると、メルクーリオは表情を隠して逃げるように立ち去っていった。


残されたアルト達は目を丸くしてそんなメルクーリオをただ呆然と見守る事しか出来なかった。


「そういう事なので、今後はメルクーリオとも仲良くしてやってくれ。ほんの少し感情を掛け違えていただけなのだからな」


「嘘だろ……あのメルクーリオが貴族に謝るなんて……」


「どうやってメルクーリオを説得したんスか!?」


ジェイやライハンが悠に尋ねたが、悠は小さく首を振った。


「誤解を解いただけだ。俺が仲良くしろと強制した訳ではない。……メルクーリオには話を聞いてくれる人間が必要で、それは貴族では駄目だったのだ。元来感受性が強く、情に篤い子なのだろう。今すぐ仲良くとは行かなくても、これから徐々に打ち解ける事は出来るはずだ。……ではな」


それだけ伝えると、悠も持ち場へと戻っていった。


「……いやぁ、流石だな。学校に居る間にメルクーリオが貴族に歩み寄る姿を見られるとは思わなかったぜ」


「ただ話を聞いただけであんなに急に変わらないよな?」


「まるで魔法ね。心でも読めるのかしら?」


口々にメルクーリオについて語り合う友人達とは一線を画し、アルトはただ歩み去っていく悠の背中を憧憬の眼差しで見送っていた。


(心を読んだんじゃない。きっと……本当に、真剣にメルクーリオの話を聞いたんだ。僕は……少なからず、何の面識も無いメルクーリオが敵意を持って接して来るのに反感を抱いていたからメルクーリオは心を開いてはくれなかったんだ。貴族では駄目だったとユウ先生は言ったけど、本当にそうなんだろうか? 僕がもっと一生懸命メルクーリオと距離を縮める努力をすれば、メルクーリオだって心を開いてくれたんじゃないのかな? ……こんな事で、僕はいつかあの人の隣に立てる日が来るんだろうか……)


戦闘能力などではない、もっと大きな人としての格の差を感じてアルトは誰にも言えずに途方に暮れていたのだった。




それからしばらく休憩して再び歩き出した一行が目的地に付いたのは昼を少し回った時間であった。昼食だけは予め用意していた物を取る事が出来たが、今日の夕食と明日の朝、昼食は自分達で用意しなければならないのだ。となればのんびりとしている訳には行かなかった。


「えーと、まずはテントを立てて、その後は全員で薪拾いと食材集めだね」


「どっちも森に入ってやるしかなさそうだな。川もあるしよ、魚でも釣ってみるか?」


「わ、それやってみたい!」


和気藹々とテントの準備をする生徒達を尻目に悠はシュルツ、ハリハリと共に安全管理について話し合っていた。


「俺は単独で森の奥まで潜ってみるつもりだが、ハリハリとシュルツは浅い部分で生徒らに危険が及ばない様に気を付けていてくれ。万一危険な魔物モンスターが出た時には大声を出す様に指導してあるからな」


「我々では機動力も探査能力もユウ殿に及びませんから妥当な線ですかね」


「拙者も何か違和感が無いか注視致します」


そういう役割分担で動こうとした悠達であったが、残念ながら予定通りに行動する事は出来なかった。


何故かと言えば、長い行程や森に慣れていない子供達が多かったせいで治療班の負担が多大になってしまい、悠やハリハリにまでその皺寄せが回って来たからである。


ある程度の怪我ならば高価な『治癒薬ポーション』よりも魔法で治療出来れば元手は掛からないのだから、回復魔法を使える魔法使いが重宝されるのは当然であった。


実際、森に入って怪我をする生徒はそれなりにいたが、危険極まりないと言えるような魔物に出くわす生徒はおらず、むしろ弱かろうと魔物を狩った生徒は皆に羨望の眼差しで見られるというくらいほのぼのとしたものであった。


特に問題も起こらぬまま、1日目の夜は更けていく。




「ふぅ、食った食った」


「良かったね、新鮮な魚が手に入って」


「んまかったにゃ~」


アルト達の班はいち早く班員全員での釣りによる食材確保に動いたお陰で満足のいく夕食にありつく事が出来ていた。川魚の泥を吐かせ、臭いを消す為の山菜や香草を探し集めたのはジェイとライハンである。恐らく、この様な一般知識を見込んで貴族と庶民を同じ班にしているのだろう。


明日の朝どころか昼も余裕で過ごせるほどの食材を手に入れていたアルト達だが、今は手元には殆ど残ってはいない。何も手に入れる事が出来なかった班に分けたからである。やはり自然は甘くなく、かなりの数の子供達が今も満腹とは言い難い状況であった。


「これで貴族のボンボン共もちったあ懲りただろ。座って待ってりゃメシが出て来るなんて生活してっから性根が腐るんだよ。道端に生えてる草が食えるかどうか真剣に悩んだ事が無いようじゃ街を離れたら生きて行けねぇぞ。なぁラナティ?」


「う、うん……冬はあんまり街の近くにも生えてないから困ったよ。ギルドで炊き出ししてくれるようになって凄く助かった」


「ん~……私も騎士団に入った後の為に夏休みは自活してみようかなぁ……」


満天の星空の下、焚き火を囲んでアルト達は将来というほどでもない未来に思いを馳せていた。それは何もアルト達だけではなく、多くの生徒達がこの特別な状況の中で心を開放しているようであった。


「……なぁアルト」


「なに?」


「お前、いつまで学校に居るんだ?」


その質問に少しだけ場の空気が硬くなった。


「……さぁ、僕には分からないよ」


「何とかよ、上手い事言ってこのまま学校に通う事ってのは出来ねぇのか?」


ただ、ジェイはいつもよりも一歩踏み込んだ質問をぶつけて来た。


「このまま学校に……かぁ……」


「主席のアルトにゃまるで物足りないかもしれねぇけどよ、自分でどう思っていようが、俺達はまだガキなんだ。ガキらしい事をしても別に誰かに怒られる様な謂れもねぇだろ? たまには馬鹿な事やって、んで皆で笑い合って……そんなふうに過ごしたっていいんじゃねぇのか? 金が必要ならまたウチで働いたりよ」


いつになく心情を露わにするジェイに他の者達は口を閉ざしてアルトの言葉を待った。皆、このグループがアルトを中心として集まったグループだと認識していたし、アルトが居なくなった後に不安を抱えていたのだ。


その空気を感じたからこそアルトは偽る事無く自分の思いを口に出した。


「……正直言って学校は楽しいよ。まだ仲良く出来ない子や溶け込めない子はいるけど、きっといつかはメルクーリオみたいに歩み寄れると思う。ジェイやライハンは僕の知らない事を一杯教えてくれたし、先生達の授業も今まで聞いた事の無い話があって面白いし。……もしも僕が2人居るなら、片方は迷わず学校に通うと思う。でも、僕は僕一人しか居ないんだ」


自分自身の心をなぞる様にアルトはハッキリと言葉を続けた。


「僕は、ユウ先生を追い掛けたい。その為には学校の内容だけじゃ足りないんだ。もっと世界の広さを知って、もっと強くなって……ずっと遠くにしか見えない背中に少しでも追いつきたいんだ。一生かかっても影すら踏めないかもしれない。でも、立ち止まってちゃ絶対追いつけないから……だから、僕はここを出て行く。…………ごめんね」




「謝るんじゃねえ!!!」




ジェイの怒声に周囲の班員達も目を向けて来たが、とりあえず暴力沙汰ではなさそうだと察すると目を逸らしていった。


「ジェイ……」


「……本当はここでアルトと決闘の一つもかまして「俺が勝ったら残れ」とでも言えば恰好は付くんだろうが、俺とアルトじゃ100回やっても敵わねえ。俺はそういう無駄な事が嫌いでね。ちゃんとどうしたいのかが分かってるんなら別にいいんだよ」


「……じゃあ、俺が……」


「やめとけライハン、俺より弱いお前じゃ1000回やっても敵わねえ。ボコボコにされたお前を担いで帰るのなんざ、考えただけで気が滅入るっての」


ジェイはアルトに視線を移して言い放った。


「アルト、誰にでも優しいのはお前の美徳だろうが、言いたい事は今みたいにちゃんと言えよ。そんな遠慮をするのはダチじゃねえ。そうだろ?」


「……うん、ジェイの言う通りだ。これからもちゃんと言うべき事は言う事にするよ。たとえ君をボコボコにしても、僕は僕の道を行く」


「おお怖。ボコボコにすんならライハンにしといてくれよ。きっとコイツならまだ鼻血を出して喜ぶだろうしよ」


「だからあれは誤解だって言ったじゃねぇか!! 一度決着つけっかジェイ!?」


「へっ、あのライハンが噛み付いてくれんじゃねぇの。やんのかコラァ!!」


「もうアルトとは関係ない話になってるぜよ~」


盛り上がる男子を尻目に女子はクールなものであった。


「殿方のこういう所は理解出来ませんわね」


「まぁね……でも、こういう単純な所って羨ましい時があるわ」


「ふふ、青春って感じかな?」


「……やー、そういうラナティはちょっとオバサン臭い時あるわねー」


「え、う、嘘!?」


「有りますわね。なんだか所帯染みていて中身と外身が釣り合っていない時が」


「え、エルメリアさんまで!? う~、も、もっと周りを見習わなきゃ……!」


近付く別れを意識して沈むよりも、こうしてたわいのないやり取りで盛り上がる方がずっと自分達らしいとアルトは感じ、その夜は大いに笑い合った。そのせいで先生にお小言を頂いたのもまた良い思い出になるはずだ。


そして、朝が明ける。

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