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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(後) 聖都対決編
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7-104 野外実習4

前話に加筆しました。宜しかったらそちらもどうぞ。

朝の鐘(午前六時)が鳴り響く中、校庭に学長であるローランが姿を現した。ローランは拡声の魔道具を通して早速挨拶を始める。


「おはようございます、皆さん。天候の心配もありましたが、晴れて良かったですね。これも皆さんや私の日頃の行いが良かったからという事にしておきましょう」


所々で忍び笑いが漏れ、それが静まるのを待ってローランは話を続けた。


「今回の野外実習では皆さんに自分の力で、そして仲間と力を合わせて自活して貰います。薪を集め、火を起こし、得物を捕らえ、捌き、そして調理して食べる。寝床を作り、共に体を休め、そしてまたその日を精一杯生きる。それは人間が原初の頃から延々と行って来た生活の原風景です。そこで私は皆さんに知って貰いたい。自然の中では人間がいかに矮小な存在であるのかを。仲間という存在がどれほど貴重な物であるかを。一人の人間が出来る事などたかが知れています。ですが、決して人間は一人では無いという事を実感して貰えればそれに勝る経験はありません。どうか、この機会を無駄にしないように、しかし楽しんで頂きたい。あ、でも一応学校の行事なのでちゃんとやっているかは教師陣が採点してますからね? あまり羽目を外し過ぎないように。不純異性交遊は禁止なのでそのつもりでね? 私からは以上です。後は担任の先生方の指示に従う様に」


ローランが拍手と共に送られると、それぞれのクラスの担任が集合を掛けた。アルトのクラスはオランジェだ。


「では校庭の隅にあるテントや寝具を各自受け取って下さい。その後はここに戻って来る様に。体力面を考慮して、我々1年生が先頭です。遅れると2、3年生に迷惑が掛かりますので素早く行動する事!」


「「「はい!」」」


1年生が先頭なのは体格や体力から導き出されたものだ。普通に考えれば分かるが、思春期の子供の1年の差という物はかなり大きい。2、3年生を前にすれば、1年生は引き離されてしまうだろう。数千の数になる行列を間延びさえない為にこそ足の遅いと思われる1年生が先頭なのである。


こうして、前代未聞の野外実習は幕を開けたのだった。




「スゲェ行列だな。まるで軍隊だぜ」


「ミーノスからフェルゼンへの街道はこの国でも一番広いけど、流石にこの人数はね」


「端の方はすれ違う商人とか冒険者の為に空けとかないとならねぇしな。こいつは移動するだけでも結構大変だ」


荷車を引いて歩くアルト達の後ろには長い列が連なっていた。一番先頭を任されているので背後を置き去りにしない様に気を使いながらであるので、肉体的な疲労よりも精神的な疲労の方が強いのだ。


教師や護衛の冒険者達は街道の脇を歩いたり、馬に乗って周囲を警戒していた。魔物モンスターは大体討伐されているが、100%居なくなった訳ではないのだ。それに、単なる野生動物でも子供では危険な相手なのである。


「アルト、少し尋ねたい事があるのだが?」


「はい? 何でしょうか、シュルツ先生」


悠やハリハリが少し離れた所に居るのに対して、シュルツは先頭での警備を任されていた。というのも一番シュルツと親しいのがアルトだという理由が強いのかもしれない。他の者ではたとえ冒険者でもシュルツの重圧は中々に耐え難いのであった。


そんなシュルツでもこうしてアルトに話し掛けて来る事はあまりある事ではないので、アルトはシュルツの言葉を聞き逃さないように待った。


「ミーノスで小耳に挟んだのだが、どうも拙者の知らぬ強者が評判になっているのだ。その事でミーノスに居るアルトが何か知らぬかと思ってな」


「強い人の噂ですか? ……う~ん、誰だろう? 最近そんなに評判になっている人って居たかな? すいません、どんな噂かは分かりますか?」


心当たりの無いアルトがシュルツにそう問いかけてみると、シュルツは小さく頷いて言葉を続けた。


「うむ、何でもある下町の酒場に忽然と現れ、無体を働こうとした不埒者共を一刀の下に次々と斬り伏せたそうだ。拙者と同じく女の剣士で、確か二つ名を『剣舞ソードダンス妖精フェアリー』アルテナと……」


「ブフッ!?」


「く、ククク……」


「お、おい、笑うなよジェイ! ……クク……!」


「へー、『剣舞の妖精』かぁ~……さぞかしキレイなんだろ~な~! ねえアルト?」


「ど、どうかな? 噂は噂だから!!」


「ん? どうしたのアルト君? 汗が凄いけど、疲れた?」


「な、何でもないよ!! うん、全然全く何一つ問題なんて有りはしないよ!?」


「……男共の反応が怪しいわね……」


「ええ、何か隠してらっしゃいますね……」


周囲の反応に冷や汗を流しながら、アルトは質問に答えた。


「え、えぇと……『剣舞の妖精』の名前は聞いた事がありますけど、あれ以来一度も現れていないそうですし、腕前もあくまで一般的な物で、シュルツ先生がお手合わせ願うほどの強さではないですよ! そもそも強盗を撃退出来たのも魔法の支援があったからだと聞いてますし!! ホラ、噂って誇張されるじゃないですか!!」


「む、そうか……それは残念だな。しかし、師の様に噂の方が追いついていない様な方も居る事だし、やはり一度手合わせを……」


「ひ、必要無いですって! 絶対シュルツ先生の方が強いですから!! 断言してもいいです!!」


「……ヤケに『剣舞の妖精』を卑下するじゃない? 何か知ってるのアルト君?」


「な、なに、何も知らないよ!? ぼ、僕はただシュルツ先生の方が絶対強いって知って――あ、いや、知らなくて、かな? ね、ねぇジェイ、別に大した事ないよね!?」


嘘が苦手なアルトは堪りかねてジェイに話を振ったが、話を振られたジェイは悪い笑顔を浮かべていた。


(あっ、これダメな笑顔だ)


アルトは直感的に悟ったが、今更止める事も出来なかった。


「どうかな、人間同士に絶対なんて事は俺は無いと思うぜ? 同じく斬れば血も出る人間同士なんだしよ。……そう言えば、月末の週末辺りに出没するなんていう噂があった様な、無かった様な……」


「ジェイ!?」


「ぬぅ……今月末は師がお忙しいのでな、拙者だけミーノスに入り浸る訳にはいかんな……」


「案外近くに居たりしてな?」


「ぐ、ぐぐぐぐぐ……!」


嗜虐的な目を見るまでも無く、ジェイはアルトをからかって遊んでいるのだろう。あまつさえまた店を手伝えと言外に脅しているのかもしれないが、アルトには反論する術は無かった。


そのままシュルツの追及が続けばアルトでは隠し通す事は出来なかっただろうが、そこで甲高い女性の悲鳴の様な声が周囲に響き渡った。


「な、何?」


「この声は……」


周囲を見回すアルトと違い、シュルツは天を仰いでいた。その目が目標の物を見付けて細められている。


まがつ鳥……」


「え? シュルツ先生……?」


「……いや、何でもない。あれはガロガという名の鳥だ。魔物ではないが、あの様に人間の女性の悲鳴の様な鳴き声を出す為にあまり縁起の良いものではないとされている。だが肉はそれなりに美味いし、機会があれば狙ってみてもいいかもしれん。……アルト、少々外す、この場は任せたぞ」


「は、はい!」


早口に説明し、シュルツはその場から走り去っていった。その説明もシュルツにしては余分な情報が加えられているように感じられ、アルトは漠然とした不安を覚えた。


(どうしたんだろう、シュルツ先生……)


雲一つない青空のはずなのに、一瞬アルトの頭上の光が翳った。ガロガだ。ガロガが悲鳴の様な鳴き声をあげアルトの遥か頭上を旋回し、そして飛び去っていった。

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