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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(後) 聖都対決編
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7-100 対談5

樹里亜が平静を取り戻すまでに要した時間は30分ほどであった。年齢やこれまでの心労を鑑みれば短いと言うべきであろう。


「……あーあ、悠先生には恥ずかしい所ばかり見せちゃうなぁ」


「俺は別に気にせんが?」


「悠先生だからこそ隠しておきたい事もあるんですよ。一応、私も乙女な年頃なので」


《あ、無理無理。ユウはその辺りは守備範囲外だから。そういう分野で相談したいならミリーにしておきなさい。それ以外、ここで相談出来る大人の同性は居ないわ》


「そこは同意します。フフッ」


シュルツやギルザードに相談しても返答に困らせるだけだろうし、オリビアは何故か声を掛けるとまず祈りを捧げてくるのでまともな返答は得られない。シャロンは実年齢は遥かに上だが、男女の機微にはまるで耐性が無く口ごもってしまう。サイサリスは見た目に反して割と乙女なのだが、種族が違い過ぎて齟齬を生じる事が多々あるのであった。レイラは人間と共に生きてきたお陰か相談相手として文句はないのだが、レイラに話すという事は悠に話す事と同義なので意味がないのだ。


「確かに俺では不適格だな。だが、樹里亜には同年代の仲間も居るのだから、たまには自分の気持ちを晒け出すのも悪くはないと思うぞ。例えば……今部屋の外に居る者など適格だと思うのだがな」


「えっ!?」


悠の言葉に驚く樹里亜をその場に置いて悠がドアをそっと開けると、側の壁に体育座りでもたれ掛かる神奈の姿があった。既に眠っているようで目は閉じられているが、頬の涙の痕はまだ乾いてはおらず、その口がもにょもにょと動いていた。


「んに……じゅりあぁ……ごめんよぅ…………」


「神奈……ずっと話を……。悠先生、神奈はいつからここに?」


悠が今気付いたという訳はないと分かっている樹里亜の質問にやはり悠は即答した。


「俺が入った後からだ。つまりは最初からだな」


「言って下さいよ~……」


「言ったら樹里亜が強がって本音で話してはくれなかっただろう? それに、樹里亜の気持ちを神奈にも聞かせたかったのだ。神奈は武器を持てば子供達の中では最強だが、反面防御が脆い。もっと細心な立ち回りが必要だが、熱くなるとそれを忘れがちになる。叱って言い聞かせるよりも自分がどれだけ仲間を心配させているかを自覚させた方が神奈には堪えると思ったのだよ。樹里亜も神奈には少し自重して欲しいと思っていただろう?」


「それは否定しませんけどね……」


別に神奈が悠の言葉を聞き流しているという訳ではないが、戦いになると相手を倒す事に熱中してしまうのが神奈という少女の性質である。それを直すには、特に親しい樹里亜の本音が一番効果があると悠は考えたのだった。


《少しデリカシーに欠けるとは思ったけど、やっぱりカンナに余計な怪我はさせたくないしね。それに、カンナが怪我をするとジュリアが気に病むでしょ?》


レイラにまでそう言われると樹里亜としてもこれ以上は反論し難いのだった。


「さて、いつまでもここに寝かせておく訳には行くまい」


悠は屈み込んで膝裏と後頭部に手を滑り込ませると、重さなど感じさせない手付きで神奈をひょいと持ち上げた。


「悠先生、私のベッドに下ろして頂けますか? この屋敷のベッドは広いですし、神奈の部屋に運ぶより近いですから」


「ならばそうしようか」


悠はもう一度樹里亜の部屋に戻ると、ベッドに神奈を横たえて頬の涙の痕を拭い取った。


「ではな。あまり気負い過ぎるなよ、樹里亜」


「はい、お休みなさい、悠先生」


今度こそ去っていく悠から神奈に目を移すと、姿勢が楽になったせいか緩んだ寝顔で眠りこける親友の姿が目に入った。


「ホントにもう……そんな顔見たら怒れないじゃないの」


神奈は良くも悪くも裏のない人間だ。笑いたい時には笑うし、泣きたい時には泣く。だから、さっきまで泣いていたのもきっと本心からであろう。そう思うと、樹里亜の胸はほんのりと温かくなった。


「頼りにしてるんだから怪我なんかしないでよね、親友」


そう言って神奈の頬をつつくと、樹里亜は自らもベッドに入ったのだった。




「悩める少年相談室は終わったのかな?」


「そんな大層な物ではないさ。少しだけ言いたい事を聞いてきただけだ」


「その少しに踏み込めなくてうちの教師達は四苦八苦しているんだけどね」


応接室で酒で喉を湿らせつつ今日の対談の情報を纏めるローランの手つきに狂いはない。頭と手を別々に動かせるようでないとミーノスの殺人的な仕事量はこなせないのだ。


「随分とラグエル王とは楽しそうにしていたよね、ローランは。一緒になって私をこき下ろしてさ」


地味にダメージが尾を引いているルーファウスにローランは笑って答えた。


「悪かったね、ちょっとサリエル殿下が落ち込んでいたから空気を変えようと思ったら、ラグエル王が乗ってくれたので調子に乗ってしまったんだよ。それにしても、あれだけ思考が噛み合う相手も中々お目に掛かれなかったな。ミーノスに生まれていたら友達になれたかもしれないよ」


「あんなに激しく言い合っていたのに?」


呆れた声でルーファウスが言ったが、ローランは首を振った。


「どこまで踏み込んだら洒落にならないのかが分かるからこそ言えたのさ。最初は距離を見誤ったけど、それで逆に踏み込める一線が分かったからね。ククク……次に会う日が楽しみだよ」


悪い笑顔でそう述べるローランは本当に楽しそうに笑っていた。


「……本当はローランはああいう人にこそ仕えるべきだったのかな……」


「いや、有り得ないな」


少し寂しげに呟いたルーファウスの台詞をローランはバッサリと切り捨てた。


「……何故そう言いきれるんだい?」


思わず聞き返したルーファウスに、ローランは書類から目を離さずに答えた。


「あれだけ優秀な王は滅多に居るものじゃないよ。ラグエル王に必要なのは情報を集め、それを過不足無く自分に伝えてくれる部下であって、判断する助けになる副官じゃないのさ。あの方は王と参謀の両方の能力を持っている。同じ能力を持った人間などラグエル王は必要となさらないよ。私が欲しいなどと言ったのも、この自分の能力に自信を持っているらしい若僧をからかってやろうっていう悪戯心だね。まともに受け取っていたらその程度の奴と見限られただろうと思うな」」


「流石にそれは考え過ぎじゃないのかい?」


「言っただろう、ラグエル王とは噛み合うって。何故かは伝え難いけど、ラグエル王も私がそう気付いたと分かっていたよ。だから事前にラグエル王が求めそうな事も察する事が出来たのさ」


そういう事もあるかなとしかルーファウスには分からなかったが、肝心な答えを聞いていなかった。


「ロー――」


「それと、今更何故君に仕えているかなんて基本的な質問は頼むからやめておくれ。私の進む道は初めて君と出会った時に決まったんだ。それ以上私の口から言わせようというのはあまりいい趣味だとは思えないな」


まさに質問しようとした言葉を先取りされ、ルーファウスは口をパクパクさせるしかなかった。


「王としてラグエルには欠ける所がないが、ノースハイアの王だという事だ」


不意に悠が口を挟んだ。


「何故幾つも国が必要だと思う? それは皆生まれた場所が違うからだ。文化が違うからだ。人種も言葉も違うからだ。ラグエルは良くも悪くもノースハイアの王でありミーノスの人間ではない。ノースハイアにはノースハイアの、ミーノスにはミーノスの王が必要なのだ。そしてローランもまたミーノスの人間だ。ミーノスの人間がミーノスを愛する王を支えようとする事の何がおかしい?」


悠の言葉にルーファウスは言うべき言葉が見つからなかった。幼い日の戯れの様な言葉をローランがそこまで大切にしてくれているとは思っていなかったのだ。


「……ユウ、君ってたまに……というか、結構恥ずかしい事を平気で言うよね? 逆に可愛げが無いよ?」


「大人ぶって言葉足らずなのが格好良いと思っているなら改めた方がいいぞ。ただでさえ少ない友人を失いたくないのならな」


ラグエルとローランとはまた一味違った遠慮のない会話にルーファウスの顔に苦笑が浮かんだ。


やはり自分は凡人だ。ローランの様な明敏さも、悠の様な剛胆さも持ち合わせてはいないのだから。ラグエルと自分を計りに掛ける事自体が烏滸がましいと言わねばならないだろう。


だが、自分にもラグエルが持っていない物があるのだ。この素晴らしい男達が自分の友人である事にルーファウスは大きな誇りを感じていた。


ラグエルは自分の倍も生きている王なのだ。今の時点で及ばないのは当然である。だが、ミーノスには優秀な人材が沢山居るのだし、今後学校から更に多くの人材が産み出されて行くのだから、一人で及ばないならば力を合わせればいいのだ。


穏やかな気持ちを取り戻したルーファウスはローランに礼を言おうと口を開き掛けたが、先に放たれたローランの口上に再び言葉を奪われた。


「痛い所を……あ、痛い所と言えばルーファウス、ラグエル王に言った事自体は本音だからね? そもそも、婚約すら妨害してくる貴族の横槍が無くなったのに、どうして君は書類仕事ばかりしているんだい? そんな事は私とヤールセン君に任せて君はもう少しご婦人方と社交したまえ。ラグエル王に言われた時に私は結構恥ずかしい思いをしたんだからね? 君が探さないのなら私が勝手に良縁を見つけて決めたっていいんだよ? 有力候補としてはソートン侯爵のご子女辺りかな。後3年もすれば結婚だって出来るし子供も産めるし。気心が知れていないと嫌だと言うならベルトルーゼだって候補に――」


怒涛の勢いで喋り続けるローランから逃れる為にルーファウスは別の方法で口を使う事にした。すなわち飲酒である。


ひたすら酒を詰め込んだルーファウスが夢の世界に旅立つまで、そう長い時間は必要としなかったのであった。

遂にタイトルに100の刻印が……いや、実質的にはもう7章はとっくに100話を超えているんですけどね。


ヤールセンの活躍は巻き気味に行きます。とりあえず次話からは学校が焦点になりますよー。

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