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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(後) 聖都対決編
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7-96 対談1

「お待たせ致しました。ミーノスにて王権を預かっておりますルーファウス・タックスリー・ミーノスです。王と言えど未だ若輩者、以後よろしくお願い申し上げます」


「ルーファウス陛下の臣下にしてミーノスの宰相を務めますローラン・フェルゼニアスです。以後よしなに」


「余はラグエル・ミーニッツ・ノースハイアである。今日はこうしてまみえる事が出来て嬉しく思う」


「ノースハイア第二王女でおと……へ、陛下の秘書官を務めますサリエル・ミーニッツ・ノースハイアです。よ、宜しくお願いします!」


対談までの3日が経過し、悠の屋敷にてミーノス、ノースハイア両国の首脳陣が顔を合わせる事となった。その中でも一番若いサリエルは緊張でいつも通りの口上が出来ない有り様である。


「これは愛らしい姫君ですね。第一王女のシャルティエル様のお美しさは聞き及んでおりましたが、下の姫君もそれに勝るとも劣らないのではありませんか?」


「そっ、そんな、滅相も御座いません!」


ローランの軽くつついた程度の会話でもまともに顔が上げられない始末である。ローランこそ広いノースハイアを隈無く探しても見つからないと思われるほどの華麗な容姿をしているのだ。どう考えてもお世辞にしかサリエルには聞こえなかったのである。


「ローラン、若い子をからかってはいけないよ。申し訳ありません、殿下」


「サリエル、少しは落ち着かんか。これからは幾度となく顔を合わせる事になるのだぞ?」


「はい、申し訳ありません……」


「しかし、サリエルも若かろうが、ミーノスのお二方も世間一般から見れば十分にお若い。余の様な年寄りからすれば羨ましい限りだ」


友好的な会話をしている風に見えて、既に主導権争いは始まっているのだ。ラグエルは牽制とばかりにこの場での年長者は自分であり、序列では自分が上であると言外に伝えて来た。


それを聞いたローランの顔の笑みが深くなる。


「ええ、つまりは末永くお付き合いする事になりましょう。両国の未来は明るいですね?」


ローランは気づかぬ素振りでラグエルが居なくなった後の両国の関係を匂わせてやり返してくる。いつまでも青いままではないぞという反撃であった。


ローランとラグエルは共に肉食獣の笑みを交わし合った。若き金獅子と老練な銀狼が初めて相手を認め合った瞬間である。


「……良き臣をお持ちのようだ、ルーファウス王。ミーノスは今後益々栄えような」


「ローランは私には過ぎたる者です。しかし、将来が明るいと仰られるなら既に後継をお持ちのラグエル王を羨ましく思いますよ。未だ妻帯すらしていない身と致しましてはね」


「それはいかんな。跡継ぎを設けるのも王の務め。ローラン殿、些か手抜かりなのでは?」


「激務続きできさきを探す暇が御座いませんで……いっそ両国の友好の証しにどちらかの王姫殿下の輿入れを願いましょうか?」


「ハハハ、面白い事を申しますな……」


「いえいえ、話の流れというもので御座います」


自分を引き合いに出されてサリエルも流石に反論しようかと思ったが、ラグエルとローランの間に走る殺気に近い気配のやり取りに口を開く事が出来なかった。




「じゃれ合うのはその辺で良かろう。ローランも久し振りに舌戦を競える相手に出会ったからと言って楽しみ過ぎだ」




その空気を切り裂いたのは両者の間に立つ悠であった。


「フ……済まない、こういう研ぎ澄まされた裏の会話を解する人間は最近お目に掛かっていなくてね。興が乗ってしまった。無礼な真似をしてしまいました、お許し下さい」


「興が乗ったのはこちらも一緒だ。国内の軟弱貴族共では物足りんのでな。……しかし、娘を引き合いに出すのは今後は許さんぞ?」


サリエル達を引き合いに出されたのにはちょっと本気で苛ついたらしい。


「そのお気持ちは理解出来るつもりです。私も生まれたばかりとはいえ、娘を持つ父親でもありますので」


「ではそろそろ本題に入ろうか。他の交易や事業協力の話は明日、他の官吏を交えて行うとして、アライアットへの対応だけは我らだけで話し合っておかなくてはなるまい」


「その通りですね。事情を知らない者に任せられる案件ではありませんし。ユウ、パトリシア王妃から何か情報は?」


ローランから問われ、悠は頷いて語り出した。


「バーナード王と協力してかなり情報を掠め取ってきたぞ。どうやら今回の敗戦に懲りずにまた軍備を増強しているらしい。慎重に周辺から情報を集めた結果、何らかの決戦兵器を投入するとの事だ。名称は『天使アンヘル』」


「『天使』……『天使エンジェル』か。宗教家共が好んで付けそうな名前だな」


「具体的な能力、もしくは機能については?」


「名称しか分からんそうだ。だが俺が以前フォロスゼータに潜入した時、うちのシャロンが大聖堂の地下に7つ、異質な反応を捉えている。おそらくそれが『天使』ではないかと思われる為、最低7つ、もしくは7体は現存するはずだ」


もたらされた情報をローラン達は素早く吟味する。


「付け加えるなら、その『天使』とやらは例のあの女がもたらした可能性が高い。であれば、最低でもミーノスに現れた『殺戮人形キリングドール』程度の力は備えていよう。しかも、数が少ないという事は能力的には上回っている公算が大だ」


「……あれより強いのが7体、か……」


「ユウよ、その『殺戮人形』とやらを兵士で換算するなら何人分だ?」


事態を重く受け止めるローラン達に代わってラグエルが悠に問い掛けた。


「そうだな……非武装の状態で10人分、通常の装備で武装して20人分、『神鋼鉄オリハルコン』を装備していれば50人分と言った所か。ついでに言えばほぼ不死だぞ」


「馬鹿げた存在だな。通常の兵士を当てるのは得策ではあるまい」


「そんなのが軍とかち合えば、たちまち恐慌状態に陥るでしょう。『殺戮人形』の倍の兵士百人分と見積もっても、その半分も殺さぬ内に士気が崩壊しますよ」


「そちらは俺達が対応するしかないだろう。この屋敷に居る者以外で俺が知る人間でそれらに対応出来るのはアラン、コロッサス、アイオーンくらいであろうな。だが、国のいざこざに冒険者ギルドのギルド長を引っ張ってくるのは不可能だ」


「一応建前としては国と冒険者ギルドは相互不干渉だからね」


「しかし、貴様の屋敷にはそんな存在とやり合える戦力があるのか?」


ラグエルの問いに悠は自信を持って頷いた。


「ギルザード、ヒストリアならば不覚を取る事は無いだろう。他にバロー、シュルツ、ハリハリ、サイサリスならば同等以上に戦えるはずだ。残りは俺が相手をすればいい」


「ノワール侯は外して貰うぞ。今回の戦争では彼の人物に軍司令官を務めて貰うつもりだからな」


「構わんよ。ノワール領で鍛練しているアグニエルも連れて行くがいい。人間同士の戦であれば命を落とす事もあるまい」


バローがこの場に居たら断固として拒否したであろう人事であったが、ラグエルは最初からそのつもりだったのだ。アグニエルが抜けた今、近衛隊長のミルマイズを除けば、バローに比肩する能力を持った人間はノースハイアには居ないのだから。


「そちらの詳細は後ほど詰めるとして、まずはアライアットに正式な抗議の使者を送らねばなるまい。一方的な侵略戦争は既に余の望む所ではない」


「ならばミーノスとの連名という形にしては頂けませんでしょうか? 我が国の貴族を取り込み、国家転覆を企てた罪科がアライアット……というよりは聖神教にはあります。大義名分としては十分だと思うのですが?」


「アライアットを叩き潰すのが目的では無いのだから、要求としては聖神教の解体で良いか? どうせ受け入れるはずもないが、民衆への建前としては十分であろう。実際、聖神教は潰すのだからな」


「それぞれの国で民衆に聖神教の所業を知らしめておいた方がより宣伝効果は大きいでしょう。事実無根ではなく真実なのですから、それによって戦に反対する勢力を抑える事も出来ます」


目の前で交わされる政治の世界にサリエルは唾を飲み下した。主目的とは別に、そこに至る為の準備が周到に練り上げられていくのを今のサリエルはただ聞いている事しか出来なかった。


場違いで力不足な自分自身にサリエルは俯いたが、その肩に悠の手が乗せられた。


「サリエル、落ち込んでいる暇はないぞ。次の世代はお前達の世代だ。先達から学び取り、より良き世界を目指さなくてはならないのだからな。口を挟めなくても話をしっかり聞いておくんだ。いつかそれが役に立つ日がくる」


「ユウさん……はい!」


悠の言葉で気合を入れ直したサリエルはぐっと頭を上げ、真剣に話に耳を傾けたのだった。

ローランとラグエル、噛み合う2人です。どっちも気が強いですからね。


サリエルは話に踏み込めなくて落ち込んでしまっていますが。善悪と政治能力はまた別ですからね。

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