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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(後) 聖都対決編
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7-94 新しい自分14

短めなので2話目ですが投稿。


きっとバローを見直す事必至。

その後、何とかマーヴィンとオリビアの紹介を済ませた悠はバローの屋敷を訪ねていた。


「どうしました? 兄上では無く私にご相談なんて珍しいですね?」


「バローに言ったら二つ返事で話が終わってしまうからな。それに、実際の領地運営はレフィーリアが主なのだから、話すならレフィーリアに話さなければ意味がない」


「なるほど、という事は今日のお話しはそちらの分野という事ですね。それで、どの様な?」


レフィーリアはバローほどではないが、あまり遠回しな交渉を好まない性格なので悠も早速用件を切り出した。


「一人雇って欲しい人間が居る。実務能力と熱意に問題はないと思うが、少々曰く付きでな。レフィーリアの意見を聞いておきたいのだ」


「……まさか、それってマーヴィン元ギルド長やオリビアさんですか?」


先ほど2人を連れて来た時にレフィーリアも正体を知っていたのでこの予測は難しくはなかった。


「そうだ。2人には助ける代わりに今後は真っ当に生きる事を約束させた。少なくとも俺の目の黒い内は約束を破らんし、破らせるつもりもない。オリビアはしばらく俺が預かって鍛え直すが、マーヴィンは仮にもギルド長としてギルドを運営していた経験がある。お荷物にはならんと思うのだが?」


「……能力は申し分ないでしょうね。でも、問題は悪評の方です。知っていますよ、2人がギルドを追い出された顛末は。そもそもそうなった原因はあなたですよね? 良心の呵責にでも苛まれましたか?」


政治を手掛ける時の冷静な仮面を被って悠を問い質すレフィーリアだったが、相手がどんな態度であろうと言う事を変える悠ではない。


「そんなものは持ち合わせておらんよ。2人がああなったのは普段の行いが悪かったからだ。それに対して俺が感じる責任など爪の先ほどもあるものか。自業自得としか思っておらん」


「では何故ですか? こうして自ら交渉役を買って出た理由をお聞かせ願いたいのですが?」


「良心の呵責は感じていないが、更正を願う気持ちはある。一度世間に悪の烙印を押されたからといって、正道に立ち返る機会を潰す事もあるまい。憎いはずの俺に飯を食うのも惜しんでなけなしの財産を差し出した心根は誠意であろう。それを無碍にするのは狭量というものだ」


悠の言いたい事を理解しつつも、レフィーリアもそう簡単には折れなかった。


「金銭で動いたのですか? そんな程度の人とは思いませんでしたが」


「金の多寡など問題ではない。支払われたのが銅貨一枚だとしても、そこに込められた思いは金貨の山よりも重い事もある」


「ご立派な意見だとは思いますが、それに当家が付き合わなければならない理由はありませんね。今、マーヴィン氏を雇えば、当家は世間の批判の矢面に立たされます。犯罪者を匿っているなどと噂されるのは面白くありません」


レフィーリアの意見も正論であり、悠に対して一歩も引かなかった。悠は情義に、レフィーリアは理屈による正論であるという違いがあるだけだ。


しかし、だからこそ悠は交渉相手にレフィーリアを選んだのだった。いくら親しい間柄だとは言え、なあなあで事を進めるのは悠の望む所ではなかったからだ。


「悪評を雪ぐには善行を積むしかあるまい。その場すら与えてやれんというのは、仮にもノースハイアの大貴族としては些か了見が狭いのではないか?」


「……それは――」




「おーい、一応領主は俺なんだから、俺の居ない場所で面白い話をしてんじゃねーよ」




言い返そうとしたレフィーリアの言葉は開かれたドアから発せられた声に遮られた。


「兄上?」


「ったく、後で話を聞かせろよって言ったじゃねぇか。サラッと無視してレフィーとくっちゃべってんじゃねぇっての! で、マーヴィンをウチで雇えってんだな? 了承すっから明日にでも連れて来いよ」


「兄上!! 勝手に決めないで下さい!! 今その事で交渉中――」


「なぁ、レフィー」


バローの判断に異を唱えようとしたレフィーリアを逆にバローが真面目な口調で遮った。


「……何ですか、兄上?」


「お前がこの家の評判を保とうと必死なのは分かってる。だけど、やり直したいマーヴィンを世間の評判だけで受け入れないのは俺にはちょっと辛いんだ。……マーヴィンは昔の俺と同じだよ。やり直したくてもどうやったらいいのか分からずに途方に暮れていた頃の俺なんだよ。俺は、本気でやり直したいと思っている奴には手を差し伸べてやりたいと思う。広い世界にそんな場所が一つくらいあってもいいと思う。いつも頑張ってるお前に不良兄貴が言える事なんざねぇんだが、何とか助けてやってくれねぇかな?」


レフィーリアはバローの言葉に呆然と聞き入っていた。ただ面倒臭そうに仕事をしていたバローが領地の目指すべき未来を語ったのはこれが初めてだったからだ。ならば、それを補佐するレフィーリアの返答は一つしかなかった。


「……分かりました、兄上がそう言うのなら、私もそれに沿って考えます。人がやり直せる場所、それが兄上の望みなのですね?」


「ああ。だけどユウ、しばらくはマーヴィンは表立っては仕事はさせねぇぜ? 本気かどうか見定めるまでキツい裏方の仕事に回って貰う。それでいいな?」


「何をさせるかまでは俺が口を出す領分ではない。存分に見定めてくれ」


悠もそれ以上は要求する事は無かった。バローの言い分は雇い主として当然の権利だからだ。


(ちょっと、しばらく仕事している内に、バローも変わったんじゃない? 正直、両方の意見をこれだけ上手く折衝出来るとは思っていなかったわ)


(立場と責任がバローを成長させたのだろう。俺も少々見くびっていたか。これなら最初からバローも一緒に話を聞いて貰うべきだったな)


最初に出会った頃からは想像も出来ないバローの働きに、レイラすら感じ入るものがあったようだ。これまでの経験は決して無駄では無かった。


「済まんな、レフィーリアにも無理を言った」


「いえ……私も少々意固地になっていたみたいです。それに、人手不足なのは本当ですし、だからこそこうして兄上にも仕事を…………そういえば兄上、仕事はどうされたのですか? 目を通して欲しい書類が山積していましたよね?」


「へ? あ、ああ、アレね!! え、えぇと…………き、休憩?」


穏やかになり掛けていた場の空気が冷たく冷え始め、バローは凍えそうな殺気を放ち始める2人から目を逸らした。


「兄上……」


《……ちょっと見直したかと思ったらこの男は……ユウ、拷問しましょう拷問。『豊穣ハーヴェスト』があるから少々痛めつけても死にはしないわ》


「いや、いっそ逃げ回れんように足首をもぎ取っておいたらいいかもしれん。後で『再生リジェネレーション』で治せば……」


「や、やめろ!! お前らが言うとシャレになんねーっての!!! うおおっ!?」


悠の蹴りを紙一重で交わしたバローがほうほうの体で部屋から逃げ出した。このくらい怖い思いをさせておけばしばらくは真面目に働くだろう。


「……お手数をお掛けします……」


「いや……これからも苦労するとは思うが、力になれる事は相談に乗らせて貰うぞ?」


「お願いします……はぁ、兄上のバカ……」


レフィーリアの苦労はこの先も絶えそうになかったのであった。

サーセン、嘘吐きました。バローはどこまで行っても安心のバロー規格です。

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