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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(後) 聖都対決編
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7-92 新しい自分12

恵の茶が出て来てもマーヴィンとオリビアがそれに手を付ける事はなく、ようやく目的地に辿り着けた安堵でぐったりと来客用のソファーに身を沈め、マーヴィンは語るべき事柄を吟味しているようだった。


「疲れているらしいが、そろそろ用件を聞かせて貰えんかな? 恨み骨髄のはずの俺をわざわざ訪ねるほどだ、よほど背に腹は代えられぬ事情があるのだろう?」


悠がそう切り出すと、マーヴィンは覚悟を決めたのか大きく息を吐いて顔を上げた。


「……お察しの通りですじゃ。あの後、儂はギルド本部より罷免され、オリビアは冒険者資格の無期限凍結に加え投獄されるはずでした。しかし、レイシェンやキャスリンが罪人として扱うのだけは勘弁してやってくれないかと申し出てくれ、我らはギルドからの追放で済みました。……これまで大して良くしてやった訳でも無いのに……。やはり儂には徹底的に人を見る目が欠けておりました。これだけの処置で済んで本来は感謝すべきでしょうな。じゃが……」


マーヴィンはそこで肩を落とし、隣で落魄したままといった様子のオリビアに沈痛な視線を向けた。


「儂とオリビアは我らが思うよりずっと深く、そして多くの者に恨まれておったのですじゃ……或いは投獄されておった方が良かったのかもしれません」


そう言ってマーヴィンはしばし躊躇い、意を決してオリビアのフードを取り払うと、そこには変わり果てたオリビアの姿があった。


顔の半分がケロイド状に焼け爛れ、上下が張り付いた左目はおそらく用を成さなくなっているだろう。殴打の跡と思われる生々しいアザが顔中に残り、まだ腫れが引かない頬が見る者に痛々しい印象を与えていた。どうやら碌な治療すら受けていないようだ。


「特に現役で名前の売れていたオリビアは格好の的じゃったんでしょう。後ろ盾を失った落ち目のオリビアは執拗に命を狙われるようになり、遂には家に火が放たれたのですじゃ……。連日連夜狙われ続けたオリビアは不覚を取り、焼け出された所を不意討ちされこの有り様……。何とか放火犯と襲撃犯は儂が捕まえましたが……放火は重罪ゆえ、死刑は免れんでしょう。しかし、オリビアの受けた傷は致命的でした。治療を渋る医者に何とか持ち出した財産を全て支払い一命は取り留めたものの、焼かれた目は治りませんし、それに……ううっ……」


自分の言葉に打ちのめされたマーヴィンが嗚咽を漏らし始めたが、悠は黙ってそれを聞くだけであった。


「……し、失礼……オリビアは魔法使いにとって命とも言える声を失ってしまいました……襲撃犯はまずオリビアの喉を潰したのですじゃ……。オリビアはもう魔法の詠唱はおろか、まともに話す事も出来ません……。魔法はこの子の拠り所でした。それが永遠に失われた時『殲滅魔女』オリビアは死に、何の力もないただのオリビアが残されたのですじゃ……」


肩書きや後ろ盾を失ったマーヴィンやオリビアを助けようと申し出る人間はおらず、追放された今これ以上ギルドを頼る事も出来ないマーヴィンは必死に周囲の者に助けを求めたが、皆冷淡に無視するだけであった。それも今までの行いを省みれば当然の事で、マーヴィンもオリビアも誰かが困っていても助けた事など無く、ただ冷淡に切り捨てて来たのだ。自分が困った時だけ助けて貰おうと考えるのは余りにも虫が良過ぎたのである。


孫であるオリビアの有り様と周囲の反応に、ここに至りマーヴィンは自分達の生き方が間違っていたと悟らざるを得なかった。もっと周りに気を配り優しく接していれば、もう少し慈しみを持って人と関わっていれば今のような事態は避けられたはずだ。


オリビアを治療してくれる医師を探してマーヴィンは医者という医者を駆けずり回って探したが、大抵の医者は瀕死のオリビアを見ても門前払いであった。やっと見つけた医者には法外な金銭を要求され、しかも最低限の治療しかして貰えなかった。


家を焼かれ、財産も名誉も失ったマーヴィンは失意のまま王都を後にした。


「行く当てなどありませんでしたが、遠からず死ぬ儂はいいとしても、せめてまだ先のあるオリビアだけは何とか生きる道を見つけてやりたいと思っておりました。そんな時、最後に会話を交わしたコロッサス殿の言葉を思い出したのですじゃ。「万一の時はユウを訪ねてみろよ。ノワール家の当主に尋ねれば力になってくれるかもしれんぞ」という言葉を……」


涙ながらに語るマーヴィンの隣でオリビアはただ虚ろに座っているだけであった。それはとうに自分の人生を諦めてしまった者の目だ。


マーヴィンはソファーから立ち上がると、床に這い蹲って懐から取り出した小袋を置き、悠に懇願した。


「正真正銘、儂の残った全財産ですじゃ!! ま、まるで足りぬのは承知しておりますが、どうか老い先短い年寄りの最後の願いを聞き届けて下さらんか!? オリビアに人並みの幸せを取り戻してやってはくれまいか!? 儂が気に食わんならどうされても構わん!!」


床に頭を擦り付けるマーヴィンを無表情に見つめ、悠は床の小袋を拾い上げた。そこに入っているのは薄汚れた数枚の銀貨と銅貨、それだけだ。今の悠にとっては端金でしかない。


オリビアもマーヴィンを感情もなく見つめていたが、一つしか開いていないその目からやがてポロリ、ポロリと涙が滴り落ち、ノロノロと立ち上がったかと思うとマーヴィンの横で同じ様に床に這い蹲り、ボソボソと何事かを呟き始めた。


「…………」


それはただの不協和音の連なりでしか無かった。耳障りで、意味不明で、動物的なただの唸り声にしか聞こえなかった。


だが何故かそれが助力を乞う声であると悠とマーヴィンには伝わっていた。みっともなく不格好であっても、その音には人の心に届く不思議な必死さがあった。


傷付いた喉で無理矢理発声を続けるオリビアは咳き込み、喀血しながらも懇願する事を止めなかった。それは自分の為の懇願では無かったからだ。マーヴィンが自分よりもオリビアの保護を訴えたように、オリビアもまた自分よりもマーヴィンの保護を訴えていたのだ。自分への助力が受け入れられないのなら諦めもつくが、誰かの為に行う懇願を諦める訳には行かなかったのだ。


マーヴィンも再び沙汰を待つ罪人のように、それ以上言葉を発する事無くただ必死に床に頭を擦り付けた。


「……銀貨数枚程度でする依頼では無いと理解はしているようだな。しかもその内容が幸せを取り戻してくれとは、漠然とし過ぎていて意味不明だ。嫁にでもやるつもりか?」


「……ユウ様がお望みであれば……。ただ、出来れば優しくしてやって下さい。オリビアはまだ男を知りません……」


悠の言葉に苦しげに反応するマーヴィンは、この際愛人でも悠が保護してくれるのなら構わなかった。むしろそれで気に入ってくれたならちゃんとした治療を受けさせてくれるかもしれないと考えたからだ。


オリビアは震えていたが、自分の体で悠を繋ぎ止める事が出来るならと否定しなかった。傷だらけでアザだらけではあるが、治ればそれなりに見れる体にはなるだろうと、自らの境遇を受け入れていた。


沈黙の時間が過ぎ、悠は面白くなさそうに呟いた。


「この依頼は罠だな。それも周到な罠だ」


その言葉にマーヴィンが即座に反応した。


「と、とんでもありません!!! 命に掛けて今申した事に嘘偽りは御座いません!!!」


「だからこそ罠なのだよ。少し考えてみればこの依頼の悪辣さが理解出来よう」


感情を交えぬ悠の言葉にマーヴィンは戸惑いを隠せなかった。自分は誠心誠意話したつもりだが、だからこそ罠だと言う悠の言葉が理解出来なかったからだ。


「分からんか? ならば言うが、マーヴィンはオリビアの幸せを願い、オリビアはマーヴィンの幸せを願っている。マーヴィンの依頼を受けたなら、オリビアが幸せでいる為にはマーヴィンの存在が必須だ。逆もまた然りであろうが。結局、どちらかの依頼を受けたなら、どちらも保護するしかあるまいに」


「そっ……!」


マーヴィンは悠の指摘する事実を否定しようとして果たせなかった。隣で這い蹲るオリビアの目がその通りだとマーヴィンに訴えていたからだ。


「先に言っておくが、俺がお涙頂戴の情に絆されるなどとは思わない事だ。この広い世界でお前達よりも悲惨な境遇の者は吐いて捨てるほど居る事くらいは髪が白くなるまで生きていれば理解していよう。そして、そんな者達に対してお前達は救いの手を差し伸べた事があるのか?」


当然有りはしない。しないからこそこの境遇なのだ。


「ゆえに、この依頼は受けられん……このままではな」


一瞬、断られた事に目の前が真っ暗になったマーヴィンであったが、悠の言葉には続きがあった。


「まず報酬が足りん。だから、こちらで勝手に上乗せさせて貰うぞ。ただ安穏と幸せを貪るような生き方は許さん。マーヴィン、貴様はノワール家で働け。ギルド長をやっていたなら、それなりに政治にも精通していよう。今のノワール家は政務を手助け出来る存在が必要だ。死ぬ覚悟があるのなら、これまで不幸にして来た人間以上に幸せな人間を生み出すのだ。いいな?」


「は、ははぁっ!!」


マーヴィンはもし悠にオリビアを託せたなら自らはどこか人目に付かない場所で自害するつもりであった。そして悠はその死の匂いを嗅ぎつけていたのだった。そうでなければ全財産を差し出す事は出来ないはずだ。しかし、オリビアが幸せでいる為にはマーヴィンを死なせる訳にはいかないのだ。


「オリビアもだ。今後、今までのような傍若無人な振る舞いは許さん。冒険者としてでもそうで無くてもいい。誰かを助ける為に生きてみろ。それに必要な力を得る手助けはしてやる。この様にな」


悠は不思議そうに自分を見つめるオリビアの前に人差し指を立てると、詠唱せずに『光源ライト』の魔法を発動した。強く輝く光球に、マーヴィンもオリビアも視線が釘付けになる。


「なっ!? は、速過ぎる!! それに、無詠唱なのに威力の減衰も無いとは……!」


「悪いが魔法の最先端技術は日進月歩でな、ミーノスでは既に国家が主導して無詠唱魔法の導入が行われている。お前達が誇り、秘匿していた高速魔法展開術などは数年もすれば誰も見向きもしなくなるだろう。そうなれば、遅かれ早かれ今日の事態は引き起こされていただろうな。自惚れて調子に乗っていると痛い目に遭うと分かっただろう?」


悠の言葉にマーヴィンは返す言葉が無かった。世界最高峰の魔法技術だと思っていた自分達の技は、ただの時代遅れになっていたのだ。


「これが出来るようになれば声など無くても魔法は使える。だから今はオリビアの喉は治さんぞ。必死に学ぶがいい」


悠は懐から『高位治癒薬ハイポーション』を取り出してオリビアの前に置き、マーヴィンの財布から銅貨を一枚取り出すとマーヴィンに投げ渡した。


「薬代と宿代は貰っておく。長旅の後だ、マーヴィンも今日は泊まっていけ。腹が減ると人間、碌な事を考えんからな。オリビア、明日から鍛練を始める。喉は治らんが、怪我くらいは治るはずだ」


悠の施しにマーヴィンは半ば呆然としたまま呟いた。


「何故……何故ここまでして下さる? 我らはあなたのお命を狙った身の上じゃというのに……」


「ただの下種ならばたとえ命乞いしようとも助けるつもりは無かった。自分が困った時だけ人を当てにするなど虫のいい話だからな。だが、お前達のお互いに向ける愛情だけは本物であったし、その尊さは身を持って知ったであろう。野垂れ死にさせるには惜しいと思っただけだ」


そう言って、悠は踵を返した。


「立て。客をいつまでも床に這わせたままにはしておけん。準備が出来たら広間に来いよ。皆に紹介せねばならんからな」


マーヴィンが声を掛ける暇もなく、悠は広間へと立ち去って行った。


「……いつか、コロッサス殿に感謝を伝えねばならんな。全てを失った我らを受け入れて下さる方がいらっしゃるとは……。オリビア、ここでお世話になっている間は必死に学び、誠心誠意ユウ様にお仕えするんじゃ。儂も持てる力の全てでノワール家にお仕えする。よいな?」


涙を流しながらそう諭すマーヴィンに、オリビアも幼子のように顔を歪めてただただ首を振り続けた。その手には悠の渡した『治癒薬』が包み込まれるように捧げ持たれている。


優しさが身に染みた。世界は祖父以外全て自分達を疎んでいるのだと諦めていた。だが、最後の最後で救いの手は差し伸べられた。


この気持ちを一生忘れないでいよう、そして生まれ変わろうとオリビアは固く心に誓いを立てたのだった。

タイトルはオリビア達にも掛かっていたのでした。


とりあえず、次回から綺麗なオリビアになります。映画版のジャイ〇ンのばりに。

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