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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(後) 聖都対決編
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7-89 新しい自分9

ソフィアローゼは自分に可能な限りの速度で駆けた。すぐに足が重くなり、肺が酸素を求めて痛みを発するが、今のソフィアローゼにとっては肉体的な物よりも精神的な胸の痛みが遥かに上回っていた。


その痛みのせいか、別の要因からか流れるのは汗では無く涙である。恥ずかしさと居た堪れなさ、そして大きな罪悪感が次々と溢れ出して止まらなかった。


今の自分を一言で表せば「恩知らず」だ。ただ一度戦場でまみえただけの姉の遺言を守り、危険を冒してまで敵国の首都にまで助けに来てくれ、莫大な金銭を使って治療し、生きていける様に憎まれてもいいからと厳しく接してくれた相手に、あろう事か自分は隔意を抱いていたのだ。思い出せる範囲の記憶だけでソフィアローゼは恐ろしさの余り足が震えてしまった。


(あの人、ううん、ユウ様の言う通りだ! 私は恩知らずの小娘だったんだ!! 謝らなきゃ、謝らなきゃ!! 何て言っらたいいのか分からないけど、とにかくちゃんと謝ってお礼を言わなきゃ!!!)


ソフィアローゼは片っ端から部屋のドアを開けては悠の姿を捜し求めた。その様子は鬼気迫るもので、普段のソフィアローゼを知っている者が見れば乱心したのかと思っただろう。いや、事実ソフィアローゼは乱心していたのだから間違ってはいないのだが。


大部屋に小部屋、悠の部屋、広間と外れを引き続けたソフィアローゼは遂に応接室で悠の姿を発見した。


「居た!!!」


「何だ小娘、騒々しいぞ。まだ昼には早いが俺の言った事はやったのか? それにまだ走るなと言っただろうが。怪我をするぞ」


蟠りを解いてよくよく内容を聞いてみれば、その言葉はやはりソフィアローゼの体を気遣う言葉であった。それを認識した瞬間、ソフィアローゼの体が前のめりにゆっくりと倒れていった。


「ソフィアローゼさっ!?」


クリストファーが驚きの声を上げた時、部屋に一陣の風が吹き抜けた。その風はソフィアローゼが床に衝突する直前でその体をしっかりと保持していた。


「酸欠で意識が飛んだか?」


《ご名答。一体どうしたのかしらね、ここ2、3日はユウの言葉にも多少素直に従ってたのに》


「とにかく部屋で寝かせるか。クリス、悪いが今日の話し合いはここまでにしてくれ。ソフィアローゼを休ませねばならん」


「分かりました、今日はお暇致します。……しかし、ソフィアローゼ様に何があったのでしょう?」


クリストファーの質問に悠は首を振った。


「さて、何か俺に用があったらしいが内容は分からんな。後で聞いておく」


そう言って悠は覚醒している時とは違い、ソフィアローゼを丁寧に抱きかかえ、そのまま開いたドアからソフィアローゼの部屋へと移動した。


ベッドにそっと横たえるとドラゴンの血の効力か、ソフィアローゼは目を覚ました。


「あ……」


「起きたか小娘。元気が有り余っているらしいが、俺はまだ走るなと言ったはずだ。挙句に気を失うとは不注意にもほどがあるぞ。次に同じ事をやったら一食メシを抜くからな。しばらくはそうして寝ていろ。水を持ってくる」


言い捨ててソフィアローゼから離れようとする悠の袖をソフィアローゼはすんでの所で掴み取った。


「ま、待って……」


「どうした? 何か文句でもあるのか?」


「違います……あの……」


感情が先走り過ぎて言葉が出ないソフィアローゼだったが、悠はそこに大きな決意を感じ、それ以上何も言わずにソフィアローゼの言葉が形になるのをじっと待った。ソフィアローゼもその雰囲気を察し、少しずつ心を静めてベッドに座り直し、悠を正面から見つめながら言葉を紡いだ。


「……全部、聞きました。私を助ける為に一杯お金を使った事も、私が頑張れるようにする為にワザと私に厳しい事を言っていた事も、その上皆がもっと厳しい鍛練をしていて、私がやってた事なんて全然優しかった事も!! ご、御免なさい……私、世間知らずで、根性なしで、言われた事を真に受けて、『悪魔ディアブロ』呼ばわりして、それで、それで……!」


また感情が溢れ出して支離滅裂になり掛けたソフィアローゼの背中に大きな手が添えられた。


「落ち着け、ソフィアローゼ」


ポンポンと一定のリズムで背中を優しく叩かれて、ソフィアローゼの乱れた思考が徐々に纏まっていった。目の前にある悠の胸に頭を預けると、何とも言えない安心感がソフィアローゼの心を包んでいく。おそらくそれは兄や父といった存在に感じる安心感に似ていた。それはどちらもソフィアローゼの記憶の中には存在しないものである。


落ち着いてくると今更気付いた事があった。


「名前……」


「ん?」


「初めてちゃんと呼んでくれましたね、ソフィアローゼって……」


「そうか? 呼んだ事ぐらいはある気がするが……」


「いーえ、初めてです。……少なくとも、そんな風に優しく呼んでくれたのは初めてです……」


完璧に意図が漏れていると悟った悠はもう憎まれ口を叩く事は無かった。


「……悪いな、俺はそんなに器用な人間では無いんだ。厳しくする時は統一しなければ綻びが出るゆえ、ソフィアローゼにはキツく接するしかなかった。許さなくていいぞ」


「許す許さないなんて話じゃありません。私の為にそうしてくれたんですもの。ごめんなさい、私が子供でした」


「実際、まだ14手前だろう? 子供が子供だからといって謝らなければならない道理は無い。むしろ気を使わせてしまったな……」


「いえ、ちゃんと知る事が出来て、私は嬉しいです」


嬉しそうなソフィアローゼはいいとして、悠には解せない事実があった。


「しかし、どこから聞きつけたのだ? 他の者には口止めをしてあったはずだが?」


「そうなんですか? 私は先ほどバローさんに伺いましたけど……」


《あのバカ髭……!》


レイラの口調には割と強い殺気が混じっていた。


「そう言えばあいつはあの場に居なかったな。俺とした事が、一番口止めするべき人間を見落とすとは」


「あ、でも怒らないで下さい! 私、さっきも言いましたけど本当の事を教えて貰えて嬉しかったんです!! 知らずにいつかお別れする事になったら、ずっとユウ様の事を誤解したまま生きていく所だったんですし。私、そんな嫌な子になりたくないです……」


「今更敬称など止めてくれ。俺と言い争う時の君はもっと生き生きしていたぞ?」


「い、言わないで下さい!! というより今日から前の私の言動は全部忘れて下さい!!!」


「いや、中々どうして退屈しない時間だったが?」


「や、やっぱり意地悪ですね!!」


「そうだな。だが、やはり君もそのくらいで丁度いい。貴族として生きていれば難しいだろうが、少なくともこの家では君をどうこう言う者はおらんよ。もっと素直に、ありのままのソフィアローゼでいてくれればそれでいい」


「ユウさん……」


ソフィアローゼを見つめる悠の顔はやはり無表情だったが、ソフィアローゼにはどこか優しげに見えた。それも心境が変化したからだろうか? その凛々しい顔を見ていると、ソフィアローゼは頭が段々ぼんやりとしてくる気がした。


悠の手はソフィアローゼの背中に添えられ、顔を上げたソフィアローゼの手は悠の胸に当てられている。言葉を交わしていないのに、何故かソフィアローゼにはこうして触れ合って見つめている今の方がより多く悠と繋がっているように思えた。悠の手からソフィアローゼへの真心が伝わり、ソフィアローゼの手から悠への感謝が流れ込む。交わされた目と目はお互いのより深い部分を見詰め合っているようだった。




「水の配達です!!!」




ドゴンという音と共に開かれたドアの音にソフィアローゼは文字通りと飛び上がって叫んだ。


「きゃあああああああああああああ!!!」


「……ドアの開け閉めはもう少し静かにやれ、蒼凪。それに、ノックと同時に開けては意味が無いぞ」


「すいません、とても急いでいたもので。今は反省しています」


そんな蒼凪の嘘丸出しの弁明もソフィアローゼには届いていなかった。何故なら、先ほど飛び上がった瞬間、ソフィアローゼの頭上には悠の頭があり、すれ違う際にその頬に唇が……


真っ赤になって思考停止しているソフィアローゼに構わず、蒼凪はサイドテーブルに些かこぼれてしまった水差しを置いて言った。


「……不本意ですが、しばらく悠先生はソフィアローゼさんと一緒に居てあげて下さい。もう偽る必要も無いのなら、しっかりお話しておくべきだと思います。それと、ソフィアローゼさん」


「は、はいっ!?」


蒼凪はベッドに片膝を付き、身を乗り出してソフィアローゼの耳元で呟いた。


「少しだけ悠先生を貸してあげますが、絶対勘違いして変な事をしないように。具体的にはキス、必要以上の接触、脱衣、本番行為は一切許可しません。もし破ったら、私が全身全霊を掛けた『呪詛カース』の魔法をその体に味わわせてあげます。……私はやると言ったら本当にやる女ですから、適当に聞き流すと一生後悔しますよ……」


「ひぃ! は、はい!!」


地獄の獄卒の如き蒼凪の声音に本能が最大限の警報を鳴らし、ソフィアローゼは涙目で頷いた。やはりこの蒼凪という人は苦手だと思ったが、決して口には出さない。


「……では、私は失礼します。あ、それと悠先生、さっきバロー先生を懲らしめる為に気絶させたんですが、一本になりますか?」


「一人でやったか?」


「いえ、遺憾ながら始君が拘束したのを叩きのめしました」


「ならば不可だ。どんな策を用いても構わんが、独力でなくてはならんぞ。お前を戦場に連れて行くかどうかという話なのだからな」


「やっぱりそうですよね、頑張ります」


どちらも叩きのめされたバローの心配をしていないのが似た者同士と言えなくも無い。


そうして蒼凪が退室すると(最後にソフィアローゼにガンを飛ばして行ったが)、再び室内は悠とソフィアローゼだけの静けさを取り戻したのだった。

デレスイッチ、ぽちっとな。


ちょいちょい蒼凪がインターセプトして行く予定です。


まぁ、誤解は解けた方がすっきりしますしね。もうちょっと甘い時間を過ごして貰いましょう。こちらの世界なら27歳と13歳がベッドで語らっていたら事案ですが。

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