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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(後) 聖都対決編
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7-84 新しい自分4

それから3日ほどは何事も無く過ぎ去った。と言っても悠が無為に日々を消化する事は無く、普段通りに動いていたという意味での事だ。特にアライアットから持ち帰った情報は直ちにミーノス、ノースハイア両王家に届けられた。今頃はその情報の解析に忙しい事であろう。


また、悠はその際にアライアット王妃のパトリシアと交渉の糸口を掴んでいる。まだまだ情報は集めるべきで、引き続きそちらからの情報収集も期待されており、その質問案の作成もそれぞれの国で進められていた。


ともあれ、3日経った後、ソフィアローゼは改めて全員の前にお披露目される事になったのだ。




「では自己紹介を」


「……ソフィアローゼ・ダーリングベルです。年はもうすぐ14です。ええと……ね、ねぇ、自己紹介って他に何を言えばいいの?」


「趣味でも信念でも意気込みでも好きに語ればよかろうが。貴族と言えば顔と名前を売るのも仕事だろうに。耳触りのいい事でなくても正直に言えばいい。たとえば、夕べは恵の作るメシが美味過ぎて夜中まで腹が苦しかったとか――」


「わーわーわ!!! な、何でそんな事を皆の前で言うの!? この悪魔!!!」


「口止めされた記憶は無いが?」


「言わないのが普通でしょう!! 私が卑しいと思われたらどうするの!?」


「笑えばいいのか?」


「ちっがーーーーーう!!!」


「と、いう訳でこの小喧しいのがソフィアローゼだ。貴族の令嬢らしいが、この家では誰もが平等であるゆえ敬称はいらん。気さくにソフィアローゼと呼ぶといい」


顔を赤くして喚き散らすソフィアローゼを見た一同は悠の言った事を思い出して苦笑し、拍手でソフィアローゼを迎え入れた。それを見たソフィアローゼも慣れない出来事に恥ずかしがりながら会釈を返す。


この3日の内に子供達の間で話し合いが持たれていた。お題はソフィアローゼへの対応についてである。


「まず悠先生がソフィアローゼさんに厳しく接するっていう事はもう皆聞いたわね。意味は悠先生が話してくれたから分かっているかしら?」


議長を務めるのは樹里亜であり、まずは基本事項を抑えていく。


「た、多分……」


「何となく分かります」


「勿論分かってます!」


「分かります~」


「はい!! 明はよく分かりません!!」


案の定、悠の意図が良く分からない者が2名ほど紛れ込んでいた。京介と明である。


「何で優しくしないのか。それはソフィアローゼさんがこれからも辛い思いをするから、悠先生は憎まれ役を買って出てくれたの。辛いリハビリを乗り越えられるようにね」


「それは優しくしてあげてたらダメなの?」


「そうそう、俺もそれがよく分かんねー」


「そうねぇ……私達が悠先生に鍛練をお願いした時、悠先生、最初は凄く怖くなったでしょ? あんな感じだと思えばいいわ。私達の場合は自分達がお願いした事だけど、ソフィアローゼさんはそんな覚悟をする暇も無くリハビリをしなければいけなくなったの。自分でやると決めた事なら頑張れるけど、そうじゃない事を頑張るのは難しい事なのよ。だから悠先生はソフィアローゼさんを焚きつけて、なにくそと怒らせてでもいいから頑張って貰おうとしているの」


「ふぅん……何となく分かったぜ」


「そんな事しなくても、明頑張れるよ?」


ようやく理解に及んだ京介と明に樹里亜が苦笑した。


「私達にはちゃんと目的があるからね。でも、ソフィアローゼさんはずっと病気で寝ていたから急に頑張れって言われてもよく分からないのよ。だって、今までベッドで寝ているだけの生活だったんだからね。それは分かってあげて? それと、この事は絶対にソフィアローゼさん本人に言っちゃダメよ。効果がなくなっちゃうから」


「「「はーい!」」」


「よろしい。それじゃもう行っていいわ」


年少組の子供達には悠の意図が掴みにくかろうと思って開催した話し合いであるが、やはりやっておいて良かったと樹里亜は思った。こういう感情の齟齬というのは放っておくと案外厄介なもので、ソフィアローゼを敬遠する要因にもなりかねないと学校という物を良く知る樹里亜は考えたのだ。


年少の子供達が外に遊びに行くのを見送る樹里亜に背後から声が掛けられた。


「……それで、本題は何?」


「え?」


自分も自主鍛練に行こうと腰を浮かせ掛けていた智樹だったが、その蒼凪の硬質な声に体を硬直させた。


「あの、悠先生の意図を皆でしっかり理解しておこうって集まりじゃないの?」


「それはあくまで目的の一つ。樹里亜がそれに気付いていないとは思えない」


蒼凪の言葉に場に緊張感が張り詰めた。残った者達の中で智樹と同じく理解出来ていないのは神奈だけのようで、深刻な気配を漂わせる恵や樹里亜を見て珍しくオロオロとしていた。


「……流石は蒼凪ね、いい読みをしてるわ。つまり同じ危惧を抱いているって事ね。それに、小雪ちゃんや恵も薄々理解しているのよね?」


「……何となくですけど……」


「うん、また増える気がするの……」


「増える?」


何が増えるのだろう? ソフィアローゼがここに住む事でメンバーが増えるという意味だろうか、それとも悠の負担が増えるという事だろうかと智樹も真剣な表情で話に聞き入った。


「今、ソフィアローゼさんは悠先生の事が嫌いだと仮定するわ。でも、もしソフィアローゼさんが悠先生の意図を知ってしまったらどうなるか……答えは一つしかないわ。つまり……」


真面目な顔で話す樹里亜とそれに頷く蒼凪、小雪、恵。ここに至り、神奈もどうなるかが分かって深刻そうにそれに同意した。分からないのは智樹だけだ。何だろう、女子のシンパシーは智樹には分からない。智樹はゴクリと唾を飲み下して解答を待った。


そして女性陣は一斉に答えた。


「惚れるわ」


「惚れる」


「惚れちゃうかなぁ」


「惚れると思う」


「大好きになっちゃうな!!」


(…………あれ? 何の話をしてたんだっけ? 割と深刻な話かと思ったけど、僕の気のせいだったみたいだ……)


と、言いそうになったが何とか智樹は死んだ魚の様な目で状況をスルーしてそっと席を外した。なんだろう、そのピタゴラスイッチのような反応は。女子にはどうやら共通認識らしいが、男子の自分には周波数が違い過ぎて理解出来ない事らしい。早くアルト君帰って来ないかなと、智樹は同年代の同性の仲間の存在を強く願った。


そして智樹が居なくなっても女子会は続き、絶対にソフィアローゼにはこの事を伝えないようにしようと固く誓い合ったのであった。




そんな事情もあり、何とか皆平静にソフィアローゼを受け入れる事が出来たが、ソフィアローゼが文句を垂れ流し続ける前に悠はソフィアローゼを小脇に抱えて席を立った。


「ひゃあ!? ちょ、ちょっと!! 淑女レディの扱い方も知らないの!?」


「……済まん、家の者以外には見あたらんのだが……」


「くきぃーーーーー!!! あ、あなたなんかちゃんと体さえ動けば……!」


「ならば無駄口を叩いていないで始めるぞ。ハリハリ、後は任せた」


「はい、そちらも頑張って下さいね~」


ヒラヒラと手を振るハリハリに後を任せ、悠はまだ碌に動けないソフィアローゼを小脇に抱えて部屋を出て行ったのだった。




自室として使っている部屋に戻ったソフィアローゼをベッドに戻すと悠はソフィアローゼに告げる。


「では今日から以前より話していたリハビリを開始する」


「確か運動するんでしょ? なのに部屋の中でいいの?」


「常識的に考えて、ベッドで体を起こす事すら出来ん者が外で運動出来ると思うのか? もう少し理路整然と物事を考えるべきだな」


「い、いちいちネチネチと意地が悪いわね!」


「それでその内容だが……」


憤るソフィアローゼに構わず、悠はリハビリ内容を語り始めた。


「まずは最初にベッドの上でお前の体を揉みほぐす。今のお前は自分で柔軟すら出来んからな」


「え!? も、も、も、揉む、の?」


思わず胸を押さえるソフィアローゼに悠の口調が低温化した。


「そんなあるかどうか分からん部分は揉まん。俺が言っているのは筋肉の事だ。何だ、厚い胸板でも欲しいのか?」


「そんな訳ないじゃない!! ち、ちゃんと言いなさいよ!!」


「早合点したのはお前だろうが。では開始する。痛いぞ」


「へ? ま、待っ………い、いたたたたたた!!! 痛い、痛いわ!!!」


手始めに足から揉み始めた悠の手から伝わる激痛にソフィアローゼが悶絶したが、悠がそれに斟酌して手を緩める事はない。


「痛くしているからな。痛みは一番脳に伝わりやすい刺激ゆえ、伝達能力の鈍った神経を鍛えるのには一番だ。痛みを堪えるのには全身の筋肉も使うから一石二鳥という事だな」


「あ゛ーーー!!! あ゛ーーーーー!!!」


掛け値なしに頭を漂白する痛みにソフィアローゼの口から絶叫が漏れ続ける。ソフィアローゼの体の神経は殆ど新品かつ強い刺激に慣れておらず、悠の手はまるで触っている場所を抉り取るかのように感じられたのだった。


泣いても喚いても慈悲を請うても悠の手が止まる事は無い。いつしかソフィアローゼは泣きじゃくり、全身からは多量の汗を流していた。


引き裂かれそうな痛みが終わるまでたっぷり20分はあっただろう。全てが終わった時、ソフィアローゼの体は痙攣して弱々しく蠢き、意識も途切れ途切れになっていた。


「あ……はぅ……ひっ……」


「呆けている暇は無いぞ。次の段階に移らねばならんのだからな。今なら少しは体を動かせるはずだ。体に動けるという事を覚えさせろ」


悠がそう言ってもソフィアローゼは身動ぎする事すら出来なかった。それを見た悠が吐き捨てるように漏らす。


「フン、口では勇ましい事を言っていても、所詮は箱入りの貴族の小娘だな、この根性なしが。姉の名誉を回復すると言ったのは口先だけか? あの世のロッテローゼもさぞ嘆いていような」


悠の痛罵にソフィアローゼの目に怒りが充填され、意志の光となって輝き始めた。


「黙っ……て……私、は……根性、なし……じゃ、ない!!!」


「ならば動け。今なら体を起こすくらいの事は出来るはずだ」


「っ!!……ん、ぐぐぐぐぐ!!!」


入れたそばから霧散してしまう力を汲み取り、留め、バランスを取って片肘をついたソフィアローゼが自分の体を起こそうともがく。何度もバランスを崩してベッドに倒れ込んだが、悠はそれを見つめるだけで一切手を貸す事は無かった。

リハビリ開始です。ソフィアローゼは頑張れるのでしょうか?

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