7-77 令嬢救出8
ソフィアローゼを背負い、窓から脱出を果たした悠は先にクリストファーを外に出し、今一度鍵に細工を施して最初から掛かったままだったかのように取り繕うと、自身も穴の中へと姿を消した。
「始、穴を塞げ。朱音はその後に雪で痕跡を隠してくれ」
「「はいっ」」
悠に促され始と朱音が早速作業に入る。始は窓に続く階段を崩して穴を埋める材料とし、朱音は水分を冷却して雪を生成して窓に張り付かせていく。完全に穴を塞ぐと、今度はその上にも不自然にならないように観察した雪からイメージを抽出し、同じ物を穴の上に降り積もらせた。
《うん、これ以上無いくらいの出来ね。余程鋭い人間でもこの場所に違和感を抱く事は無いはずよ》
レイラからお墨付きを貰った始は照れ笑いを、朱音は得意そうな笑顔をそれぞれその顔に浮かべた。
「引き続き始は穴を埋め戻す作業を続けてくれ。神楽は穴を埋める速度に合わせて気圧の調節を頼む」
テキパキとやるべき作業をこなし、螺旋に掘られた穴が元通りに埋め戻されていく。その間に悠にはやっておきたい事があった。
「レイラ、ソフィアローゼの体温は戻ったか?」
《どれどれ……現在35.1度。この体調なら平熱と言っていいわ》
「そうか。ならばしばしクリストファー殿に預けて良いだろうか?」
「勿論構いませんが、いかがなされたか?」
疲れたから代わって欲しいなどという軟弱な理由ではないだろうと思ったクリストファーが悠に尋ねると、悠は背後の壁を振り返った。
「城の地下に居る者が誰なのかを掴んでおこうかと思ってな。後々この街に救出に来た時、王夫妻ではないのなら無駄足になりかねん。特徴を掴んでくるので、クリストファー殿には確認を願いたい」
「可能なのですか?」
「シャロンとヒストリアの助けがあれば。シャロン、始が穴を埋め戻している間に地下の生命反応の真横に位置する場所に案内してくれ。ヒストリアはもし距離が遠過ぎるなら少し掘るのを手伝って欲しい」
「はい、ご案内致します」
「お安い御用だ。急ごう、ゆー」
穴を掘るよりも埋める方が早く、始が穴を埋め戻すまでに15分程であろう。作業を急ぐ必要がありそうだ。
シャロンに案内されて最適な場所に辿り着くと早速ヒストリアが穴を掘り始めた。先ほどまでのようにゆっくりと慎重にではなく、一気に距離を稼ぐ掘り方である。
掘り始めてから数分で感知可能な所まで掘ると、ヒストリアが悠に場所を譲った。
「レイラ、詳細な情報を頼む」
《任せて。…………年齢45歳前後、痩せ型の女性、身長162センチ、体重43キロ、足に持病あり。こんな所で分かるかしら?》
「クリストファー殿、この情報で類推出来る人物は居るか?」
悠が背後のクリストファーに尋ねると、クリストファーはしばし考え、悠に答えた。
「……恐らくですが、王妃殿下ではないかと……。姿格好、持病の有無まで私の知っている情報と符号します。王妃殿下は足がお悪いのですよ」
「ふむ……王本人では無かったか」
「陛下は傀儡とは言え、表に出る仕事も御座いましたので……。自由に動けはせずとも、余りに不便な場所に閉じ込められては居ないのではないでしょうか? 或いは、王妃殿下は人質にされているのかもしれません。王城地下にそのような設備があるなど、子爵風情の私には寡聞にして存じませんが……」
人目を憚るように城の地下にこのような場所が存在する事すら初めて知ったクリストファーには推理して答える事しか出来なかったが、その推論に悠も頷いた。
「見張りが居ないのも立ち居に不便があるからであろう。隔離して閉じ込めておくだけで逃げられる事もあるまい」
「ユウ殿、危険を伴いますが、一度接触を持っておいては如何でしょう?」
作業の指揮を樹里亜に任せて駆けつけたハリハリの提案に悠は一考する価値を認めて考え込んだ。
「ふむ……こちらの正体を伝えずにであれば何とかなるか。しかし、既に試したが『心通話』受信の心得は王妃殿下には無いぞ?」
「そこはワタクシにお任せ下さい。伝声の魔法は幾つか存在しますので。今は地中ですから、『土中伝播』で伝わるでしょう。向こうからの声を拾う事も出来ます」
『土中伝播』は地面に伝わる振動を介して隔てられた場所に居る相手と交信出来る魔法である。主に鉱山などで働いている者の為に開発されたが、この魔法はダンジョンの攻略などに幾つかのパーティーで挑む時に有用なので今ではそちらがメインの使われ方である。また、災害時に取り残された者との交信などにも用いられている。他に、類似の効果を持つ物として『空中伝播』や『闇影伝播』などが存在する。
「声だけでは不審に思われませんか?」
クリストファーが尋ねると、ハリハリは説明を付け加えた。
「構いませんよ、不審に思われても。むしろソフィアローゼ殿が失踪した事が知られれば、似た境遇にある王妃殿下にも接触が無かったかと探りを入れてくるかもしれません。正直に我々の正体を話してしまうと、拷問まがいの尋問でもされては王妃殿下に耐えられるかどうか分かりませんからね。全く知らない方がいいのです。どう反応するかによりますが、臨機応変に上手く辻褄を合わせますよ」
「一芝居打つという事か」
「察しのよい事で助かります。大体の話の筋は決めていますのでユウ殿もご協力下さい」
そう言ってハリハリは得意そうに片目を瞑ってみせ、『土中伝播』の魔法を構築し始めたのだった。
(やはり私は死ぬべきなのでしょうね……)
頼りない蝋燭の光だけが揺らめく王城の遥か下、特別牢獄で寝台に腰掛けるアライアット王国王妃、パトリシア・フィリッポス・アライアットは今日も生きる意味を考えていた。
聖神教によって国政の舵取りが行われるようになって幾ばくかの月日が流れ、アライアット王家はある要求を突きつけられた。それは真に聖神教への信仰を持つのであれば、王妃であるパトリシアの身柄を聖神教へと預けるようにという一方的な通告である。
これには今まで耐え忍んでいたバーナード王も激怒し、敗れるとしても一戦交える事を覚悟したが、それを止めたのは他ならぬパトリシアであった。
これは聖神教の二重の罠である、今反旗を翻せば確実な死が待っているが、従った場合人質にはされるがすぐに命までは取られる事も無く、いつか権威を取り戻す機会もあるはずだと。むしろ聖神教はそれを企図してこの通告を出したのだとバーナードを必死に説き伏せた。
握り締めた拳から血が噴き出すほどの忍耐の末、バーナードはその説得を受け入れた。今戦って誇りと共に死ぬ事は容易いが、そうなればもはや聖神教に逆らえる者は誰も居ないであろう。王が私情を優先して王家を滅ぼし、民を見捨てる事は許されない事であった。
聖神教はどこで突き止めたのかこの特別牢獄の事を知っており、パトリシアの身柄はすぐにこちらに移される事になった。
それからパトリシアにとっても長い牢獄生活が始まった。
最初はまだ王族としての矜持で孤独な生活に耐えたパトリシアであったが、牢獄の闇はパトリシアの精神を徐々に蝕んでいったのだ。また次々と届けられる自分の息子や娘が「変死」したという知らせもパトリシアを追い詰めていった。聖神教の王家への攻撃はパトリシアの予想を遥かに上回って偏執的で容赦が無かった。
数々の悲報と現実にパトリシアの心は既に折れかかっていた。もう王家を継ぐ者もおらず、自分は解放される事も無くこの牢獄で一生を終えるのだろう。10年? 20年? 考えただけでパトリシアの足元がガラガラと音を立てて崩れていくかのようであった。
やがてパトリシアは死ぬべきか、死なざるべきか、それだけを考えて生きるようになっていた。それが聖神教の狙いであるとしても、死という絶対的な逃避手段はパトリシアを深く魅了したのだ。
(子供達も既に皆あちらに行ってしまったわ……。追いかけていく私をあの子達は叱るかしら? ……いえ、それも仕方が無いわね。私があの提案を受けてしまったからこそあの子達は死んでしまったんですもの……。罵詈雑言を浴びせられるくらいの事は甘んじて受けるべきよ)
パトリシアの脳裏に自分の子供達の顔が浮かんでは消えていく。幾つもの笑顔が横切り、そして最後にまだ幼い2人の姿が今も鮮明にパトリシアに思い出された。
(……ビリーウェルズ、そしてミリーアン。あなた達はもっとずっと先にあちらで私を待ってくれているのかしら? ずっと寂しい思いをさせてごめんなさい。私ももうすぐそっちに行くから許してね……。今度こそいっぱい甘えさせてあげるから……)
聖神教の見張りはパトリシアに差し入れる物に全く注意を払う事は無かった。それがたとえ自殺に使えそうな品であってもだ。そもそも足の悪いパトリシアはここから逃げる事は出来ないし、死ぬのならそれはそれで構わないのだ。そうした意図が透けて見えるからこそ、パトリシアは自害の誘惑に耐えて来たのである。
だが限界だった。貴族の大半は聖神教に恭順し王家への忠誠は失われ、悪辣なる覇者を目指すノースハイアのラグエル王と和平交渉など夢のまた夢だ。パトリシアの目に見えるのは輝かしい未来などではなく、枕元のサイドテーブルに転がっている鈍く光るペーパーナイフであった。
もう自分は1年もの間、十分に堪え忍んだ。今こそ自由に……と、パトリシアの震える手がサイドテーブルに伸びかけた時、唐突にパトリシアの耳に聞き慣れない声が届いた。
《…………聞こえるか?》
突然気配もなく話し掛けられたパトリシアはビクッと体を強ばらせ、総毛立ちながら視線を辺りに巡らせたがやはりどこにも人影も気配も存在しなかった。
これが噂に聞く幻聴というものかと戦慄に包まれるパトリシアだったが、更にその耳に声は届けられ続けた。
《聴力は失っていないはずだか? 聞こえているのなら返答を》
もしやこれは聖神教徒が口喧しく喧伝する悪魔の声なのだろうか? 聖神教など小指の先ほども信じていないパトリシアだったが、悪魔の言葉に答えると魂を取られてしまうという愚にもつかない迷信を思い出し、息すら潜めて悪魔がこの場を去るのを待った。
《……だんまりを決め込まれてもこちらも困るのだがな。ならば……》
(ほ、本当に悪魔なの!? ぜ、絶対に答えてはいけないわ!!)
悪魔が何を言っても決して誘惑に乗って喋ったりはしないとパトリシアは誓った。悪魔に魂を盗られ、噂に聞く地獄とやらに落ちては子供達に会えなくなってしまう。自害も良くない気がしたが、少なくとも確実に地獄に落ちるよりマシだと気合いを入れたパトリシアの決意は次の言葉であっさりと崩れ去った。
《ビリーウェルズとミリーアンの事について聞きたくは無いか?》
「何故2人の事を!? ……あ……」
《やはり話せるのではないか。余計な時間を取らせるな》
汚い。流石悪魔やり方が汚い。ちょうど考えていた事を指摘されれば声の一つも出てしまうのは当然なのに。しかも王族に対して言葉遣いがなっていない。魂が欲しいのならせめて丁寧に接するべきなのに。どうせ魂が取られるのなら、パトリシアは聞きたい事があるらしいこの悪魔に屈しない道を選んだ。
「……それで、悪魔が私に何のご用ですか? 言っておきますが、魂を取られたって私はあなたに協力なんてしませんからね!!」
キッパリと言い切るパトリシア頭に血が上っていたせいで、呟くような台詞を聞き逃してしまった。
《魂? 悪魔? ……なるほど、この気の強さは確かに出会ったばかりのミリーそっくりだな……》
「何? 言いたい事があるのならはっきりおっしゃいなさい!」
《ならば回りくどい話は止めよう。王妃よ、そこから逃げたくはないか?》
まさに悪魔の誘惑であるが、馬鹿げた話でもある。逃げても魂を取られれば意味はないではないか。
しかし、最期にもう一度青い空の下に出られるのならその申し出を受けるのも……いやいや、自分の欲求でそんな事はと思い直すパトリシアに悪魔は更に言い募った。
《最近は悪魔の世界も世知辛くてな。魂などは要らんから、王共々無事に救い出せれば金貨で10万枚寄越せ》
「……悪魔にお金が必要なの?」
思わず疑問が口をついたパトリシアだったが、返答は別の声で届けられた。
《これだからニンゲンは低脳極まりない。降って湧いてくる訳でもない金はどこかから調達しなければならないに決まっているではありませんか。その金で金銭を望む者の望みを叶えてやるのですよ。はぁ……その程度はすぐに察して頂きたいものです》
「だ、誰っ!? 他にも仲間が居るの!?」
《そんな事よりも早く返答を頂きたいですねえ。我々があなたと交渉しているのはタダの気紛れに過ぎません。鬱陶しい神の使徒とやらをからかってあげたくてあなたに声を掛けただけなのです。あなたに交渉するつもりが無いのなら、我々は別の獲物を探しますよ?》
「待ちなさい!! 無辜の者達を誑かす事は許しません!!」
《ならば早々にお決めなさい。我々と契約を交わしたがっている者は他にもた~…………くさん! 居るのですからねえ?》
気障な口調の悪魔の言葉にパトリシアが歯噛みする。この悪魔達が自分に交渉してきた事が偶然だとするなら、もし自分が断れば他の聖神教に恨みを持つ者が魂を支払ってでもこの悪魔の誘惑に屈するかもしれない。王妃としてそれは断固として避けなければならない事だ。自分であれば金銭で済ますと言っているのだから、追い詰められたパトリシアにとってはこれが最後の天佑神助であった。……実際には天の佑けではなく悪の、であってもそれが聖神教にとっての悪であるならば構わないはずだ。
パトリシアはまさに悪魔に魂を売るつもりで答えを返した。
「……いいでしょう、金貨10万枚支払います。ですがそれは陛下と私を助けるなどという契約に対してではありません!!」
《我らの契約内容にケチをつけるか?》
殺気のこもった無礼な方の悪魔の声にパトリシアは竦み上がりそうになったが、元々死を覚悟した身である。恐ろしいからと言って交渉を頓挫させる事は絶対に出来なかった。
「わ、私達王族が守るべき国と民を捨てて逃げても王族の義務は果たせません!! 後で国に帰っても誰も私達を王族と見なさないでしょう!! そうなれば当然あなた方に支払う報酬も用意出来ませんよ!!」
《……ふむ、続けろ》
パトリシアの言葉に聞く価値を感じたのか、無礼な悪魔は話の先を促して来た。
「だから私が望む事は聖神教が瓦解する事です!! あの悪しき宗教が根本から否定され、この国から消えてなくなる事を望みます!!」
パトリシアが考えた答えはこの一点であった。聖神教さえ無くなればアライアットは本来の姿を取り戻す事が出来る。その後ノースハイアに滅ぼされるかもしれないが、土台もう挽回は不可能である。ならば王族の最後の務めとしてノースハイアに降伏し、民の安堵を願うしかない。ラグエルは冷酷だが計算高い王であり、自国の民となったならばそれ以上民に無体な真似はしないはずである。自分達の命は失われるだろうが、それは覚悟の上だ。
果たして悪魔達がどう出るか? パトリシアは固唾を呑んで返答を待った。
《あの似非宗教をねえ……ヤハハ、ヤーッハッハッハッハッハッ!!!》
「な、何がおかしいというの!?」
突然笑い出した気障な悪魔にパトリシアは困惑した。自分の言動に何か落ち度があったのかと顔を青褪めさせるパトリシアに気障な悪魔が語り掛けてくる。
《いえいえ、ご自分の身を省みず、国の今後を考えるとは実に模範的な王族だと思いましてね? いずれ内部からじわじわと腐らせてから潰してやろうかと思っていましたが、気が変わりました。あなたの願いを聞き入れて差し上げましょう。ついでに、あなた方も助けられれば助けてあげますよ。聖神教を滅ぼす時に運が良ければ、ですが》
「本当ね!? もし嘘を吐いたら銅貨一枚だって払わないわよ!?」
《我らは契約に関しては嘘を吐かん。むしろ貴様こそ悪魔を謀れるなどと思うなよ?》
《もし契約を反故にしようなどと考えたら、あなたの大切な民を捕まえて、一人一人あなたの前で首を刎ねてご覧に入れましょう。最後の一人に至るまでね》
悪魔達の辛辣な口調にパトリシアの頬に久方ぶりの赤みが差した。姿は見えないが、悪辣な内容と同じできっと醜い容姿をしているに違いないと決め付けた妄想上の悪魔をパトリシアは思う存分蹴り倒した。
そうだ、自分はこんな場所で何をしょぼくれていたのだろうか? 幾多の死と別れが本来勝気であったはずの自分をここまで脆くしてしまっていた事にパトリシアはようやく気が付いた。
「やれるものならやって御覧なさい!! その時は魂だけになったってあなた達に噛み付いてあげるから!!」
《やれやれ、アライアット王家も恐ろしい王妃を戴いたものです。さて王妃殿下、楽しい話は尽きませんが、この辺で契約と参りましょう。ワタクシはハリベル、同僚の者は……ラクシャスと申します。ワタクシ達の名の下に誓いなさい。ご自身の名も連ねてね》
「いいわ、誓ってあげる! ……私、パトリシアは悪魔ハリベル並びに悪魔ラクシャスと契約を交わします!! 契約内容は聖神教の根絶、報酬は金貨10万枚!! これでいい!?」
即答したパトリシアに苦笑の気配が届いたが、言葉だけは丁寧にハリベルが応えた。
《結構結構。これであなたの魂には契約の楔が打ち込まれました。目には見えないでしょうが。また近い内に話を伺いにやってきますので、牢でいじけてなどおらず、我らの為に有益な情報の一つでも手に入れておいて下さいよ?》
「悪魔の癖にそれぐらい自分で出来ないの!?」
《ご自分で仕入れた情報が聖神教を根絶する手助けになったという方があなたとしても達成感があるでしょう? これはむしろ我らの慈悲、そう、慈悲の心として受け取って頂きたいものです!! ヤーッハッハッハ!!》
気障な悪魔の姿が見えなくて良かったとパトリシアは思った。思うように動かない足だが、今なら姿が見えれば思い切り股を蹴り上げていたかもしれない。
《では一旦帰りましょう、ユ……ラクシャス。楽しい計画を練らないといけませんからね》
《ああ、程々にな。さらばだパトリシア》
「あ……そうだわ!! あなた、どうしてビリーウェルズとミリーアンの事を知っているの!? 2人に何かしたんじゃないでしょうね!?」
《その答えが欲しければ最後まで生き延びる事だ。事が済んで生きていたら教えてやろう。精々励め。それと、我らの事を聖神教に漏らすなよ?》
「待ちなさい!! ラクシャス!! ハリベル!! …………くっ、言いたい事だけを言って居なくなるなんて、やっぱり悪魔は碌でもないわ!!!」
いくら罵倒してもそれきり悪魔達からの返答は無かった。
(生きて励めですって? いいわ、精々励んであげようじゃないの!!)
憤るパトリシアは手始めに手を付けていなかった冷たい食事を腹に収める事にした。生きるべきか死ぬべきかなどという問いの答えなど一択で生きるべきに決まっているのに、何をうじうじと悩んでいたのか。生きて、そして国を取り戻さなければならないのだ。体を動かすにも頭を働かせるにも空腹ではどうしようもない。
(見てらっしゃい、絶対に有益な情報を手に入れて陰険悪魔達を見返してやるんだから!)
荒々しくパンを千切り、咀嚼するパトリシアはさっきまで死のうとしていた人物どころか、王妃と崇められる人物にすら見えなかったが、とにかく気力だけは完璧に取り戻したのだった。
ハリハリの悪魔的頭脳と弁舌が冴え渡る回でした。調子に乗り過ぎで危ない場面もありましたが、パトリシアもカッカ来てるので気付いたのは悠だけです。




