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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第七章(後) 聖都対決編
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7-69 事後12

貴族であるレフィーリアと自身も料理にこだわりのあるクリストファーすら唸らせる出来の食事を済ませ、詳しい情報交換の為に悠達は応接室に場所を移した。なお、子供達の中から樹里亜だけは召喚者の一番の古株として情報交換に参加している。


「ではカロンとクリストファー殿に尋ねるが、フォロスゼータの街の構造を聞かせてくれ。樹里亜、図の作成を頼む」


「はい、分かりました」


2人の承諾を得て悠は早速フォロスゼータの構造を語って貰う事にした。戦闘指揮で三次元的な空間把握能力に長けた樹里亜が2人の話す内容を製図していき、10分ほどでおおよその街の地図が出来上がった。


「……と、この様にフォロスゼータは聖神教の大聖堂を中心とした六角形の城壁に囲まれた街となっております。もっとも、この大聖堂と城壁が築かれたのはほんの一年ほど前の事ですが。街の北には王城がありますが、今では政治の実権は聖神教に移っておりますので重要な施設とは言えないでしょう。殆ど登城する者もおりません」


「入り口はこの三ヶ所だけですか?」


ハリハリが城とは反対側の六角形の下側の3辺に描かれた門をそれぞれ指差しながら尋ねた。


「はい、左側は一般市民専用、右側は特級市民専用、真ん中の正門は貴族と聖職者専用です。フォロスゼータは外の人間を受け入れておりませんので、それ以外の者が出入りする門は存在しません。商人などは門の外で取引を行います。また、出陣の際は聖務という名目で兵は神兵と呼ばれ、一時的に聖職者扱いで正門を使う事を許されています。当然、門からの出入りには専用の身分証が必要になっております」


「ふむ……変装して潜り込むのは厳しそうですね……。行くとすれば『透明化インビジブル』で潜入するか、夜陰に紛れて空から忍び込むしかないですかね?」


「空からは厳しいかと思います。大聖堂を中心とした結界が城壁の上を覆っておりますので、出入り出来るのは門からだけだと聖神教の司教が話していたのを耳に挟んだ事があります。もっとも、確認した訳ではありませんから真偽のほどは不明ですが……」


「ああ、妙な形の城壁だと思ったら六芒星で結界術の強化に使っているのですね」


魔法に詳しいハリハリは合点がいったとばかりにしきりに自分の言葉に頷いてみせた。魔法陣を刻み、周囲の魔力マナを取り込んで魔法の効果を上げる技術はエルフであるハリハリには既知の事実である。


「いざとなれば無理矢理押し入ってもいいが、最優先目標はソフィアローゼだ。出来ればビリーとミリーの両親も助け出したい所だが……」


「申し訳ない、陛下と王妃様が何処におわすのかは私の様な下級の貴族には伝えられていないのです。その所在を知る者は一握りでしょう」


「ユウのアニキ、お心遣いは嬉しいですが、まずはソフィアローゼさんを優先して下さい。いくら実権を奪われたからといって今になって急に王を殺したりはしないでしょう」


「ええ、それにロッテローゼさんとの先約ですから。私もソフィアローゼさんを助けて欲しいと思います」


2人が遠慮しているのではなく真摯にそう願っていると感じた悠は頷いてみせた。ビリーやミリーにとって顔も知らない両親という実感の湧かない存在よりもロッテローゼの遺言であるソフィアローゼを優先してやりたいのだろう。立場上、どちらとも言う事が出来ないクリストファーは黙って2人に頭を下げた。


「それで、ソフィアローゼさんはどこに?」


「王宮近辺が貴族街になっておりまして、ダーリングベル家の屋敷は最も城壁近くのこの辺りです」


そう言ってクリストファーは指を城から左に引いて辺のギリギリでピタリと止める。


「ソフィアローゼ様はお体が強くありませんので普段からこのお屋敷を離れる事はありません。……しかし、ロッテローゼ様が戦死なさり、もう面倒をみる者も居なくなった今はどうなっているか……ユウ殿、一刻も早い救助をお願い致します」


「ああ。その為には遺漏なく計画を立てねばならん。ハリハリ、『透明化』で門から入るのは?」


空からの侵入を潰された悠はもう一方の方法をハリハリに尋ねたが、その反応はかんばしくなかった。


「お勧め出来ませんね。結界を強化している事から門にも何らかの備えがあると推測出来ます。恐らく魔法を感知、もしくは看破する魔法か魔道具で監視されていますよ。ワタクシの『拒視の指輪』ならば大体の魔法看破は誤魔化せますが、『透明化』まで誤魔化せるかはちょっと自信がありません。変装しても肉眼で見破られればそれまでです。それに、『透明化』を使えるのはケイ殿とワタクシだけですし、行くならば単身忍び込む事になりますが、ソフィアローゼ殿を担いだまま万一戦闘にでもなれば身の安全は保証出来ません。それくらいならばユウ殿が上空から大聖堂に『火竜クリムゾンスピア』でも連射して強襲した方がいいですよ」


「その結界の強度が不明だからな。高出力の『竜砲』で抜けんほどとは思えんが、あまり大威力で撃ち込むと大聖堂以外にも被害が出てしまう。似非宗教家などどうでもいいが、無辜の市民まで巻き添えには出来ん」


強行案が却下された所でバローが城壁を指して提案した。


「じゃあ結界じゃなく城壁を撃ち抜けばいいんじゃねぇか?」


「同じ事だ。そもそも城壁近辺にも民家はあるぞ。城壁を撃ち抜く威力で放てば家屋に被害が出る事は確実だ」


「城の方にも少ないながら勤めている者もおります。出来れば大規模な破壊は控えて頂けると……」


クリストファーにもやんわりと釘を差されては、破壊を伴う計画は破棄せざるを得なかった。360度どこから見ても人の居る建物があるのでこれは仕方が無い事だ。


「ならば堂々と門を破りますか?」


「…………その場合、門を破られた門番は極刑に処されます。門番の責務は連座制ですので兵が100人ほど処刑されますが……」


正直に答えるかどうかで多少迷ったクリストファーだったが、良心の呵責に堪えかねて苦しげに語った。黙っていればソフィアローゼを救助する事は出来るかもしれないが、その代わりに100人の人間が死んでも構わないと割り切れるほどにクリストファーは悪辣でも突き抜けてもいなかったのだ。


《随分と余裕があるのだな。本当に果たしたい目的があるのなら他の者に遠慮している場合ではないと思うが?》


「……」


事実、スフィーロの皮肉にクリストファーは返す言葉がなかった。


「大量の命を奪うかもしれない可能性に躊躇するのは真っ当な感情ですよ、スフィーロ殿。まぁ、今回は救助が目的なのです。なるべく人が死なない策を考えましょう。無理矢理押し入って万一ソフィアローゼ殿が居なかったら、門番の方々は無駄死にですし。……でもクリストファー殿、いざという時の覚悟だけはしておいて下さい。ユウ殿はロッテローゼ殿との約束で動いておりますので……」


ハリハリの言葉は言外に兵士を見捨てる可能性を示唆していた。どうしても必要であれば、悠は兵士を薙払ってでもソフィアローゼの下へと向かうだろう。悠は以前見たアライアット兵の暴虐を忘れたつもりは全くなく、あれから改善したようにも見えない兵士にそこまで心を砕くつもりはないのだった。


「……分かりました、どうしてもという場合はソフィアローゼ様を優先して下さい。それで死んだ兵の責任は……戦後、私が取ります」


「必要無い。誰かに尻拭いを任せて行動するなどという恥知らずな真似は誰の為にもならん。俺の行動は俺の責任だ。クリストファー殿はソリューシャのアライアット兵のみ責任を負って頂ければそれで十分ゆえ、余計な配慮はご遠慮願おう」


悠の冷たく響く言葉に空気が一瞬張り詰めたが、その言葉を聞いてもクリストファーとレフィーリア以外は苦笑するだけであった。


「悪いなクリス、ユウはこういう物言いしか出来ねぇんだよ。つまり、「何かあっても俺の行動は俺の責任だから余計な気苦労を背負い込むな」って事だ。そもそもソフィアローゼを助けるのはロッテローゼとの約束だって言っただろ? お前さんは善意の協力者であって、責任を押し付ける為の生贄じゃねぇんだよ。お前さんみたいな真面目な人間は戦後にこそ居て貰わないと困るんだ。そうだよな、ハリハリ?」


「ええ、全くもってバロー殿の言う通りですよ。ワタクシだって策を練るに当たって責任を回避するつもりはありません。クリストファー殿はもう十分に重荷を背負っておいでです。この上他人の荷物まで持とうというのは少々欲張り過ぎですね。そんな事よりも今はどうやって潜入するか考えましょう」


「皆様……ありがとう御座います……」


久方ぶりの赤の他人からの厚意にクリストファーの声が揺れた。それはいつからかアライアットでは見られなくなってしまったものであった。これもクリストファーが取り戻したいと願い、諦めて来たものの一つだったかもしれない。


「さて、前後左右に加えて上も駄目となると……カロン殿、クリストファー殿、このフォロスゼータ周辺の地理も教えて頂けますか? こうなったらあらゆる可能性を模索する事に致しましょう」


そう言って微笑むハリハリだったが、目だけはキラリとした怜悧な光を宿していた。

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